今際の夢;杏夜4
「どうしてあんな事をしたんだい?」
尋ねる金治。
「…。」
黙秘する悠也。
「…。」
気まずいお見舞い。
「彼女はいまだに目が覚めていないみたいだよ。」
「そうですか。」
生返事で返す。
「あそこで何があったんだい?」
取り繕っているが金治としては尋問のつもりだろう。
「…痴情のもつれ 、とでも言えば満足ですか?」
「へぇ〜」
一同が思わず感嘆を漏らずほどの意外な返答。
「元々知り合いだったの?」
「そうみたいです。
自分はすっかり忘れていたんですけどね。」
悪びれる様子もない。
「昔からの因縁、みたいな?」
「そこから先は彼女のプライベートも含まれるのでお答え出来ません。」
機械的に返す。
お手上げのジェスチャーをする金治。
どうも今日の悠也は様子がおかしい。
上機嫌というには冷めているし、
はぐらかす答えもあるがに律儀に答えは返す。
元々こういう奴だったのか?
「ごめんね、質問ばっかりで。」
「いえ…」
「こればっかりはね。
もう、屋上の使用は禁止だって。」
「ごめんなさい。」
「…事情はあると分かったから、もうこんな危ない事はしないでね。
無事でよかったけど、いつか死んじゃうよ。」
「そうですね。
でも、同じ状況になったら同じ事をしますよ。」
「止めても無駄って事?」
「僕が馬鹿って事です。」
「止めれるなら僕は止めるよ。」
「俺もだ。
命を粗末にするな。」
「それは僕が決める価値だから。」
「そんなものに姉さんを巻き込むのはやめろ。」
割って入って来た弟くん、薫。
「姉さんの目が覚めた。」
「そっか、良かったね。」
金治を押し退け前に出る。
「もしも、姉さんが死んでいたら、お前を殺していた。」
「良かった良かった。」
繰り返される光景。
お互い相容れないんだろう。
これまでも、これからも。
「それじゃあ今日はこの辺りで帰るわ。」
「田淵、頼みがある。」
「今日じゃなきゃダメか?」
「うん。」
「悪い、みんな先に帰ってて。」
「俺も残るよ。」
「すみません、頼めるのが田淵だけなんですよ。」
「…そっか、俺にも手伝える事があったらいつでも言ってね。」
「すみません、ありがとうございます。」
「……。」
「何か違和感はあったか?」
「ああ、気持ち悪いくらいに。」
「思い出したか?」
「嫌でもな。」
「それで?」
「やっぱり分からない。」
「ふむ。」
「お前から答え合わせするなんてな。」
「焦ってはいない、けど、
いい加減に焦れてきたからな。
あまりにもお前に馬鹿だから。」
「それは…悪いけど、馬鹿だしな。
もっとまともなヒントは無いのかよ。」
「無いね、これ以上は。
俺の願いじゃないんだ。」
「今回のもか?」
「ああ、俺は倣っただけだ。」
「修也なら飛び降りるのか?」
「そういう事だな。」
「そんな事でお前は飛べるんだな。」
「ああ、お前が分かるまで何度でもな。」
「怖くないのか?」
「ああ_なんならお前も飛ぶか?」
「冗談じゃない。
…いや、飛んだ、のか?」
「飛んでるな。」
「クソ、余計な事思い出した。」
「漏らすなよ。」
「それで、この後はどうするんだ?」
「あんまり時間は残ってないんだろ?」
「お前が時間をかけすぎたからな。」
「違和感は時々感じていたけど、確信が無かった。」
「らしくないじゃないか。」
「確かに。それほどにズレてると思うよ。
感覚が狂うというか、鈍るというか。
まるで自分が自分じゃないような、そんなノイズだ。」
「それなりに状況は把握出来てるみたいだな。
否が応でも。
今までが無駄じゃなかった証拠じゃないか。」
「そうじゃないと困るよ。
ああ、ダメだ、震えてきた。
まだ未だに分からないんだ。
分かってやれてないんだ。」
「答え合わせまでまだ先だ。
時間はある。嫌というほどに。」




