今際の夢;杏夜 2
「おーい。元気ー?」
部屋の外から金治が呼びかけてくる。
「…」
「風邪、大丈夫?」
「…。」
「開けるよ?」
許可無しに入ってくる金治。
「元気そうだね。」
「…風邪じゃないから。」
「珍しいね、ズル休みなんて。」
「…」
「で、何があったの。」
いつも定位置に座る金治。
「話してよ、杏ちゃん。」
「…分からないんだよ、どうしたらいいか。」
「何かに行き詰まったの?」
「そんな感じ…かな。」
「で?」
「金ちゃんは、『願い』ってある?」
「う〜ん、いきなり聞かれてもね〜。」
「…あるよ。いろいろ。杏ちゃんは?」
「同じだよ。でも、そうじゃないんだ。」
「どう言う事?」
「…。…。
なんて言えばいいかな、…
もし願いが叶うなら
命すらも惜しくない、
そんな願いは
ある?」
「ないよ。
そこまでの願いは、
今は、
ね。」
「それはどうしても叶えないとダメなの?」
「うん。」
「叶えられるの?」
「分からない。」
「叶えたい?」
「…うん。」
「そっか…、、
叶うといいね。」
「うん」
それからやっと気を持ち直して
翌日,学校へ向かった。
「風邪、治ったのか?」
廊下で悠也に声をかけられた。
「なんとかな。」
「そっか、
じゃあ、また部活でな。」
去り際を引き留める。
「待った、
確認したい。」
「何を?」
「お前はどこまで答えてくれるんだ?鈴本悠也。」
「さあな。
例えば、世間話。
今日の昼食くらいなら。
例えば、今後の出来事。
変わる事は言わない。
変えるのはお前だ。
どこまで思い出したかは知らないけど、
”答えあわせは一度きりだ。
忘れるなよ“
」
「分かった。
___あー、
せめてヒントだけでも、って、
ダメ?」
「……。
これ以上はダメだ。
後はお前次第だからな。」
笑う悠也は、やはり修也の笑顔には見えなかった。
退屈な授業が終わり、
部活動の始まり。
今日は全員出席。
それにかこつけてみんなの力を借りる事にした。
題材『死ぬ間際の願い』。
適当にドキュメンタリーを見たと嘯いた。
真面目でも不真面目でもいい。
けど、何処かに答えに繋がるものがあるかもしれない。
何より張本人がいる。
恥も外聞も裏も表もない。
「死に際を飾りたがるのは人の性。
じゃあ死に際の願いって具体的になんだ?」
「急にしては難しい話題だね。」
「そう、だからサンプルが欲しい。
今思ってる事でいい。
後で変わってもいい。」
「何かあったんですか?」
「いんや、何も。
でも、こうして話をしていても、明日急に話せなくなるかもしれない。
そうだな、一種の心の準備、みたいな?」
「…。…」
「なら言い出しっぺは?」
「俺は…そうだな、
何かを残したいかな。
『生きた証』ってほどじゃないけど、
せめて自分の死は無駄じゃないんだって。」
「へー、」
感心する金治。
「ゲームのやり過ぎかもだけど。」
照れ臭くて修正する。
「同じですかね。
何か遺って、
そして、それが何かの役に立ってくれたなら、
死ぬのも悪くないんじゃないかって。」
「なるほどね。」
「そういう金ちゃんは?」
「僕は多分、最後まで足掻くかなぁ?
最期の最後まで、
生き汚く、もがくんじゃないかな。」
「意外だね。」
「そう?
2人が言うこともわかるけど、
でも、死んだら終わりなんだよ。
その後の事なんて分からないんだから。
その後の事まで分かりようがないんだから。
だから、僕は死にたくない!
って思うかな。
最期の最後まで。」
「…」
「僕は、
綺麗に死にたいかな。せめて。」
「どうして?」
「死んだ後に迷惑をかけたくない。
死んだ後も迷惑をかけたくない。
そう思っちゃうんだと思う。」
「確かに死んだ後の事は分からない。
だから、死ぬまでになるべく悔いの無いように生きて、なるべく何も残らないように…
僕の事は忘れて欲しい
。
」
「僕の今際の夢は
__
『忘れて欲しい』
 ̄ ̄
それだけなんだ。
」




