その希望
「答えられないか?」
「いえ、あの、たまたま拾ったんです。」
誤魔化すもクソもないけど、とりあえず沈黙はマズイと思った。
「こんなところでか?」
「はい…」
「こんな教室から遠いところでか?」
「はい…」
なんで俺は責められてるんだ?
状況悪化してないか?
「何か隠してないか?」
「いえ、何も。」
「本当か?」
「はい。」
「じゃあ見せてみろ。」
「えっ…」
「どうした、ほら。」
何故だか渡してはいけない気がした。
が、これで俺の罪が晴れるのなら…
「ん?お前のじゃないのか。」
「はい。」
「じゃあなんで隠したんだよ。」
「いえ、あ の…」
言葉が見つからない。
「ん?」
「えっと…」
「やましい事でもあるのか?」
「いえ、」
「じゃあ、見せてみろよ。」
沖の声が段々高圧的になる。
埒があかないので渡す。
「どれどれ、田淵のか。
本当に拾っただけか?」
「はい。」
「ふーん。」
人を見下す目。
「まあ、いいけど。後で返しとけよ。」
自分のではないテスト用紙を返された。
まあこれも拾ってしまった運命かと、この場を後にしたかった。
「今回はたまたま点数が良かったかもしれないけどな、お前はまだまだ危ないんだからな。
ちゃんと勉強続けろよ。」
「はい。」
言われなくたって。
少し腹が立った。
「ただ、カンニングはバレたらお終いだからな。気をつけろよ。」
「は?」
「今更お前が勉強を頑張っても過去の怠惰が足を引く。」
「何が言いたいんですか?」
「今まで勉強しなかった奴が急に点数取れるほど世の中は甘くないんだよ。社会に出たらもっとだ。」
「だから、なんですか?」
意地があった。
ここで引いたらダメだ。
「次は絶対にカンニングを見つけてやる。」
「してないのにどうやって見つけるんですか?」
「お前みたいな奴が、急に点数上がるわけないだろ!」
胸倉を掴まれた。
残念ながらここは人通りが少ない。
「やったんだろ?」
「あんたと一緒にしないで下さい。」
「この!」
「他人に絶望を押し付けるな!!」
沖が振りかぶった時、老人の声が聞こえた。
「そんな事をしても過去は変わらない。自分も。
だから、他人に自分の絶望を押し付けなさんな、先生。」
用務員のおじいさんが胸倉を掴む沖の手を剥がす。
「彼は努力していた。
朝早く、1番に学校に来て勉強をしていた。
君はした事があるか、1度でも?」
「ぐっ。」
「なら、分からない彼の努力が。
そんな彼には君の絶望は分かり得ないよ。」
「ぅ…」
沖は叱られている子供のように目を逸らしながら大人しく話を聞いている。
「それでも、努力をした君を否定しないでやってくれ。先生は生徒に希望を与える。
今からでも遅くはないんじゃないか?」
「…はい。」
大人が泣くところなんて初めて見た。
おじいさんは沖の肩に叩いた。
「希望があるから絶望出来る。だから、希望はある。君にはやれる事がある。私には出来ない。」
「はい…」
沖は隠しもせずに泣いていた。
「悪かった。」
「え、あ、はい…?」
沖は少し頭を下げて何処かへ行った。
とりあえず助けてくれた用務員のおじいさんにお礼を言う。
「構わないさ。ただ、あそこで殴ってしまっていたら、彼はきっともう戻れなくなっていただろう。
それに人が殴られるのを黙って見ていられないさ。」
「そうなんですか。」
「ああ、だから君は自信を持っていい。誇っていい。その調子で勉強を頑張るんだよ。」
「はい。」
優しく俺の肩を叩いて用務員のおじいさんも何処かへ行ってしまった。
とりあえず俺も帰って、明日、このテスト用紙を持ち主に返さなければ。
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