過去と忘却
「あの時姉さんが言ってた、『ユウヤ』って、まさか」
「よく覚えてるね。」
「忘れる訳ない。
俺が、姉さんとの記憶を。」
「シスコンかよ。」
「ああ!!」
「誇らしくしないで、私は普通に恥ずかしいから。」
「それで、救われたって?」
「彼が居てくれるだけで、私にとってはこれ以上ない救いなの。」
「は?」
「彼が覚えている限り私は覚えている。
私が覚えている限り彼は覚えていてくれる。
今日、それが分かった。
もう私は何も要らない。」
「物騒なこと言わないでよ、姉さん。」
「……。」
「本当に、もう何も」
それはまるで電池が切れた人形の様な。
香はそのまま眠ってしまった。
満たされた顔のまま、三度、もう二度と目覚めないかの様に眠り込んだ。
「俺、馬鹿だからさ、
姉さんが言ってた事、分からないんだ。」
「お前より馬鹿な俺だ。
なおわかる訳ないだろ、バカ。」
「そうだよな。
期待してなかった。」
「悩むよりも、本人が起きた時に直接聞けばいいんじゃない?
お前は弟だろ?」
「…あぁ。」
「案外、悠也がくればすぐに目を覚ますさ。」
…「かもな。」
香を起こさない様に、俺と薫は病室を後にした。
今更やっと覚悟が決まった。
過去を受け入れて罰を受ける。
逃げていたわけではない。
避けていたわけではない。
見ない様にしていた。
見えない様に丁寧に慎重に臆病に。
それでも今日、再びの夢を見た。
忘れてしまえれば、忘れてくれていたならば…
悠也はユウヤで、香は私だった。
何も変わらない。
なら
ならば
短い人生のたかだか一瞬、ほんの数フレームの忘却。
その為だけの人生は満たされた。
きっとまた思い出は紡がれる。
彼の願いを叶える為に。
私の願いはとるに足らない。
彼は私の願いを叶えてくれたのだから。
目を覚ますには惜しい。
それでも朝は来る。
夢は覚める。
一面の光はやがて濃い闇に。
深く重く暗く。
まるで灯がない夜。
「おはようございます、春原さん。」
「おはようございます、先生。」
「昨日はお見舞いの後からずっと眠っていましたが、
気分はどうですか?」
「今までで一番最悪です。」
「どこか優れませんか?」
「いいえ、万全です。
だから、気持ち悪いです。
自分が自分でない様な。」
「…。」
「でも、先生。
私、やっと願いが叶ったので、。
嬉しいんです。」
「弟さんの言う通りだね。
難しくて私には分かりませんが、
何か吹っ切れたのですか?」
「はい。」
「あんな男のことは忘れてやる事にしました。」
あけましておめでとうございます。
間があいてすみません。
若干スランプ入ってました。
徐々に復帰出来ればと。
今年もよろしくお願いします。




