罰 1
目が覚めた。
足先に鋭い痛み。
小指が痛いんだと認知して、ここが病院だと理解した。
光に慣れて周りを見渡す。
静かで、ギリギリ見えない廊下からは忙しなく足音が聞こえる。
小声で話す声。
何かを運ぶ音。
今は何時だろう?
「おはよう。」
する事もないし何も分からないのでただ天井を眺めていたら声をかけられた。
「お…ざ…。…」
白衣を着ているのでおそらく医者だろうか?
今は朝方なのか?
「自分の名前、分かる?」
「は、ぃ…」
唇が乾燥して気持ち悪い。
思考もふわふわしてまとまらず、返事出来るのに上手く出来ない。
「また後で来るよ。大丈夫、今は休んで。」
安心して瞼を閉じた。
不思議と、眠くないのに眠った。
「望月さん。望月さん。」
女性に呼ばれて目が覚めた。
「お昼ご飯です。
起きて食べれそうですか?」
「あ…」
言葉が出ない。
腹も空いてはないが何かをしたかった。
「ぁ、ぃ、…」
なんとか頷いて食べる意思を伝えた。
「時間になったら下げに来るので、
残しても大丈夫ですからね。」
噂に聞く通り食欲の沸かないメニュー。
これと言って苦手なものやアレルギーもないが、
元々ないのあいまって、ここまでそそられないのは初めてだった。
お茶は火傷しそうなくらい熱かったので、少しヌルい汁物で唇を潤した。
それでも変わらず唇が乾燥して気持ち悪い。
やっとの事で半分食べ終わった頃に先程の医者がやって来た。
「すごいね、もう食べれるんだ。」
返事が煩わしいので大袈裟に頷いた。
「そうかそうか。
じゃあさっきの返事も聞けるかな。
改めて、あなたの自分の名前を教えて下さい。」
「…」
掠れた声で必死に答えた。
自分では叫んだつもりでもかなり小声だった。
「大丈夫、覚えてるかどうかの確認だから。
聞き取れなくても分かったよ、君が望くんだっていう事が。」
伝わった嬉しさのあまり何度も何度も頷いた。
「うん、そのまま。食べながら聞いてて。
あ、無理そうだったら残しても良いからね?」
頷いて返事をする。
「望くんは、何故ここに居るか覚えてますか?」
「いいえ」
「覚えてない?」
「はい。」
「“忘れた”?」
「はい。」
「なるほど。
じゃあ彼の事は覚えてますか?」
背後のカーテンを開けた。
そこには修也が居た。
死んだように眠っていた。
「!!」
否が応でも体が反応する。
心臓がはねた。
食事をする手は止まり、動悸が激しくなり、目が泳ぎ出す。
そんな俺を間近で観察しているこの人にこれ以上嘘はつけないだろう。
「はい。」
「何を覚えていますか?」
「彼は鈴本 修也、クラスメイトです。」
「それ以外は?」
「…ばあちゃんが、倒れた。日に、
同じ。日に、
包丁を。突き立てて、胸を、
胸に。それ、で、それで、そ」
目が回る。
演技をしようとして次第に気持ちが昂る。
抑えられない倦怠感と堪えられない嫌悪感と、
押し寄せる感情の波に吐き気が込み上げる。
嗚咽を漏らしながら蒸せ返る。
「あ、あ。ぅ…う、…」
吐き出さないように口を塞いで上を見上げる。
溢れて止まらない涙よりも、嘘を突き通さなければならない。
この状況からでも守らなきゃいけない約束。
きっと今際の夢で交わした約束。
瞬時に理解するより先に納得した。
これが罰なんだと。
願いを叶えた代償。
けれどまだそれは
罰というにはまだ生温かった。
未だ効力を図り切れてはいなかった。




