逆家庭訪問
夏だから何か特別なものでもと思って勢いで書いたやつです。
そこまで長く続けるわけではないのですが、そんなことを言ってると長くなりそうです。
「お邪魔しまーす。」
「おう、入れ入れ。」
「はい、失礼します。」
「さ、遠慮すんな。そこに座って待ってろ、茶沸かすから。」
ちゃぶ台が置いてある居間を指差した。
「あ、はい。」
「ふんふーん、ふんふふふーん♪」
今、俺は先生に呼ばれて、特に断る理由もなく"ながら"で長話を聞いていたらいつの間にか家にお邪魔することになった。
今の先生は珍しく上機嫌だった。
昼までの不機嫌が嘘かのように。
普段が不機嫌でも無愛想なわけでもないのだが、いつにもまして上機嫌だった。
まるで、娘の話をしている時のような、それ以上に。
いつも、授業中でもたまに話すのだが、それは親子というよりはお爺ちゃんと孫の様な雰囲気があった。
ふと、語り始めると止めるまで止まらない、それくらいの勢いだ。
だから、みんなは止めず、先生が気がつくまでコソコソと自分達で話すか、先生(の娘)を褒め、話続きを煽って長引かせるかしている。
無論、俺は寝ている。
話が終わった後、喋っていた連中を静かにさせるが、寝ているのは起こさず、何事もなかったように授業を続けるからだ。
そして今。
それを繰り返していたらいつの間にか期末テスト前。
ノートは純白とまでは行かずとも、所々鉛のシミが付いているくらいだ。
それに紛れて何匹かのミミズらしきものも居たりするが。
他の多くの生徒もこんな感じなのでほとんど宛にならない。
クラスの頭のいい奴に頼ったが、工夫されているノートは俺には中々合わずに返済期限が来てしまった。
頭がいいのだ、当然自分でも勉強するから長くはノートを貸してくれなかった。
仕方がなく、後にお世話になるより先に、何より俺の冬休みのために先生に頼ることにした。
1学期がギリギリで、2学期中間が赤点だったので、学校のシステム上これ以上は落とせない。
ここを落とすと冬休みどころか進級、それはいいとして、春休みにも影響が及ぶらしい。
何としても死守せねばと泣きついたのだ。
「あ、先生、今お暇ですか?」
「テスト前で忙しい。」
「授業で分からない所があったので教えて欲しいのですが。」
「聞こえてた?」
「あ、範囲は今回の所全部です。分からない所はそんなに多くないんですが(大嘘)、前回落としてるんで今回は念入りに行きたいんです。」
「…まあいいや、わかった。ちょっと待ってろ。」)
のに、何故俺はこんなところでお茶をしているんだ。
確か昨日はちゃんと学校でやってくれたのに。
ちなみに泣きついた(笑)のは昨日だ。
そしてテストは来週(爆)だ。
範囲はたったの100p(発)程だ。
何故か前回最悪だった中間の一部も引き継いでいるようで割と笑えない状況だ。
課題はもちろん100p。
と言いたいが、どうやら血か涙かは有ったようで100p分を凝縮(抜粋)したA4プリントが8枚ほど。
でも、血か涙が無いので両面仕様になっている。
これを貰った時、クラス中は絶叫の渦に飲み込まれた。
まるで先生の代わりかのように本当に涙を流す者もいた。
さすがに血は出なかったが、貧血でフラついていたのが何人か。
その光景を見ても尚、嬉々として娘の自慢を続ける鬼が居た。
その鬼は阿鼻叫喚の教室を
「あんまり文句言うと増やすぞ。」
の一言で黙らせてしまった。
どうやらクラス内がうるさくて自分の娘の話を聞いて貰えて無いことに気づいて不機嫌だった。
放課後、そんな不機嫌な先生に呼ばれた俺は『ひょっとして腹いせに課題でも増やされるのか!?』と思いつつ重い足取りで向かったが、いつもとあまり変わらぬ個人授業だった。
何故わざわざ呼んだのか、授業が始まってすぐにわかった。
授業と言えど中身は課題の分からない部分のヒントだったり解説だったりなのだが、今日はプリントに要点とヒントがまとめてあるのを渡され、自習のように自分1人で進めていたのだが、その間横で先生ずーーっと娘の話をしていた。
このためにわざわざこんなプリントを作ってまでこのおっさんは…
昨日は忙しいって言ってたはずだよな…
と、聞き流しつつ内心で毒ついたりしていた。
そのせいで、適当に相槌ばかりうち続けていたらこうなってしまった。
テスト週間だから授業は早く終わるが、そのせいでながーく先生の話を聞かされるハメになった上に、逃げ道すら塞がれた現状。
脱却は先生の気が済むまで不可能。
一応家には補習で遅れると事前に伝え済みな上に、先生の家に向かう途中で今日は特に遅れそうだという旨を送っていたので大丈夫だろう。
晩飯は少し心配だが、財布にそれなりに入っているからたぶん大丈夫であろう。
最悪ごちそうになろうか、などと頭を過ったが、さすがに図々しい上に上機嫌だからってそんな遅くまで生徒を拘束しないだろう。
今18:30回ったところだが。
自分の帰りの事を考えてる間にピー!と、ヤカンからお湯の沸いた時の騒々しい音が鳴った。
その音はすぐに止み、しばらくしてトレイに茶碗とお菓子を乗せて先生が出てきた。
「待たせたな。ま、飲んでくれや。田舎の両親が送ってくれた茶葉が余っててな。味は悪くないと思うぞ。」
あれ?先生から娘以外の話題が出て来るなんて。
「高校生にお茶の味が分かる奴なんて少ないですよ。いちおう、いただきますが。」
ズズッ…
ズズッ…
「ふぅー…あぁ〜。」
俺に続いて先生も茶を啜り、上機嫌だった中年がただの中年になっていた。
「どうだ?」
「お茶の違いなんてあんまり分からないんですけど、やっぱりほうじ茶って最高ですね。」
「それ麦茶だけど。」
「はい。」
「ただの嫌味かよ。」
「あくまでほうじ茶の方が美味しいと感じた。と言う素直な感想を述べただけですよ。苦いのとかあまり好きじゃないので、味が薄ければ何でも。なんで、麦茶も嫌いじゃないですよ。ほうじ茶には劣りますが。」
「君がほうじ茶が好きってのは分かったから。で、極論この麦茶の味はどうだった。美味いか不味いかで。」
「ほうじ茶未満烏龍茶以上って感じですね。ほうじ茶が売ってなかったら泣く泣く買うくらいの味です。まあ、美味しいっちゃ美味しいですね。」
「そうか、ありがとう。菓子も好きに食ってくれていいぞ。」
「わーい。」
「!?」
いつのまにか隣に制服姿の少女が!?
お初の方は始めまして。
この話は一応不定期更新で行きたいと思います。
秋までに終われればいい方ですが、そう上手くわ…
そんなわけで次回までごきげんよう
(先生の担当教科はそれぞれお好きな科目で脳内補完お願いします。私的には数学ですが、世界史辺りも悪くないですね。)
すみません、ちゃんと贈り物の方も更新します。
がんばります。