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幽霊少女と少年

作者: れきさに

「ねえ、幽霊って信じます?」


初めてそう語りかけてきたのはいつだっただろうか。確か、数ヶ月前のとある日だった気がする。

何の変哲もない日、目の前の彼女は突然現れた。


「おーい、無視ですかー。せっかく話してるって言うのに、冷たいですねぇ」


「はいはい。いつもそっちが勝手に話してるだけだろうが」


俺の隣で浮いている自称幽霊を適当にあしらいながら、この数ヶ月間のことを思い出してみた。

学校からの帰り道、彼女がふわふわと飛んでいた。初めは見間違いかと思って何度か目をこすったが、結果は変わらず。そんな事をしていると、それに気づいた彼女があっちから話しかけてきたのだ。

幽霊を信じるか、と。

昔からサブカルチャーに入り浸っていたとはいえ、現実と空想が混ざるなんてことはなく、自分がおかしくなった、または夢でも見ているのではないか、なんてことをまず思った。それから数分間、現実逃避をしてみても状況は全く変わらず。そのうちに、もういいやという気分になって、彼女の問いに答えていた。俺も大概適当である。

今さっきな。目の前にこんなのがいたら、否定はできないと思うが?

それから、彼女との付き合いは始まった。

付き合いとはいっても、これといったことはしていないが。いつも、彼女が消えるまで話に付き合ってるだけだ。それと、この数ヶ月で分かったことをまとめてみると、彼女は一週間という周期で出現する。んで、俺以外には見えないらしい。あとは、彼女も自分の存在がなんだかよく分かっていないらしいってことか。


「私としてはですね。やっぱり、この土地の自縛霊なんかが有力なのではないかと思うんですよ」


「自縛霊っていうんだったら、お前この世界に未練みたいなのがあるんじゃないのか?」


「いえ、まったく。というより私この姿でいるときの記憶しかないんですよね」


だいたい週一くらいの周期で彼女は現れて、一日経ったら消えていく。つまり、週一日しか記憶がないということになるのか。どんな感覚なんだろうな、記憶が飛び飛びっていうのは。


「その姿になる前の記憶とかは?なんか覚えてる言葉とか無いのか?」


「それも全然。なんなんでしょうね、まったく」


ふぅ、とため息をつきながら、俺の周りをくるくると回っている。俺が見つける前から彼女は居たらしいが、誰にも気づいてもらえなかったという。それからというもの、出現しているときはいつも俺のそばにいるそうだ。ほんと、俺にとってはいい迷惑だが。


「えー、せっかく美少女が話しかけてあげてるって言うのに、それはないと思うんですけど」


「知るか。あと、自分で自分のこと美少女とかいう奴には碌なのいないしな」


「じゃあ、周りに聞いてみてくださいよ。あなたの方がおかしいことを証明して見せましょう」


「お前、俺以外に見えないだろうが」


「うぐ・・・・」


確かに彼女は美少女と呼んでいい容姿はしている。まあ、俺の主観だから、周りからしてみれば違うのかもしれないが。ただ、それをこの性格が台無しにしている。いわゆる、黙っていればかわいいって呼ばれる部類なのだろう。


「うー、何か失礼なこと考えてますね?」


「気のせいだ。で、進展はあったのか?」


おい、黙って目をそらすな。

彼女に付き合っているせいで、今までに何度か周りに奇異な目で見られた。傍から見れば何もないところで一人で話しているようなもんなので、確かに怪しいのだが。俺としても彼女をどうにかするため、色々と手伝ってやっているが、今のところ進展はない。


「午前中、俺が学校行ってる時間あったよな?なんでそれで何も進んでないんだよ」


「・・・だって、せっかく動けてるんですし、いろいろ見て回りたいじゃないですか」


「まったく・・・ん?」


今、彼女は動けると言ったか?


「どうかしました?」


「いや、無意識だろうがお前今動けるって言ったよな。となると、それ以外の時は眠っているとか、どっかに閉じ込められているとか・・・つまり、動けない場所にいるってことだな」


「おー、流石ですね。ふむふむ、動けないところ、ですか」


また一つ、ほんの些細なことではあるが、彼女のことが分かった。

こうして、彼女の言動から推測はいろいろ建ててはいるんだが・・・未だ確証には至れてない。


「まあ、別に私はこの状況も気に入ってますしねぇ」


そして、彼女自身があまり今の状況をどうこうしようとしてないのも、進まない原因の一つであることは確かだ。だが、彼女が状況の打開を望んでいないのであれば、俺が無理やり解決しようとするのは間違っているのかもしれない。彼女が一生このままの方がいいと思っているのなら、そのままにしとくのも一つの道だろう。


「ただ、私の為にあなたがいろいろ頑張ってくれてるのは知ってますし、それを私はいやだとは思いませんよ」


「そっか」


思考のループに嵌りかけていると、そんな言葉をかけられる。心配そうな顔をしているのを見て、考えていたことを打ち切ることにする。


「悪い。また思考に嵌りかけた」


「いえいえ、私のことなんて、今日の夕ご飯なにかな、程度の軽さで考えてくれていいですから」


「ん、了解。じゃあ、そうさせてもらうわ」


「うわ、真に受けた!酷いです、あんまりですよ!」


「お前から言ったんだろうが」


「ジョークですよ、そんなことも分かんないんですか!」


ひとしきり騒いで、深く考えることを放棄する。それが俺と彼女の距離を保つための手段だった。いつの間にか決まっていた暗黙の手段。

これ以上離れないように、そしてこれ以上近づかないように。


「今時、こうやって心配してくれる彼女もレアですよ。どうです、惚れました?」


「はいはい、そうだね。実体あったら惚れてたでしょうね」


他愛無く繰り返されるとりとめもない会話。この時間が本当に心地よく、苦にならない。彼女の会話に付き合い、それを繰り返す。その内容にこれといった意味はなく、誰かと会話するという行為そのものを彼女は望んでいるようだった。

この距離感がいつまでも続けばいい、なんてことを思った。





「やっほー、来ましたよー」


「・・・ああ。二週間ぶりだな」


彼女の出現周期にぶれが生じてきた。気付いた時は一日、二日程度だった。その頃は特に何も思っていなかったが、それから徐々にぶれは大きくなり、流石に無視できる事柄ではなくなってきていた。最近は、数日後に現れることもあれば、今日のように一週間を大きく越えて出てくることも多くなった。


「いや、久しぶりですね、なんか。直前の記憶はこの前出てきてた時の記憶なんですけど、感覚的にといいますか。もう二週間も経ってたんですか」


「それに、お前だんだん体消えかけてきてるし。大丈夫か?」


「あはは、やっぱり気づきますよね。特に今のところ不具合は感じてないですし、問題ないと思います」


その頃から、彼女の体がおかしくなり始めた。体の各部分が薄くなっていき、今では足が消え失せ、もう片方の腕も薄くなってきている。


「これぞ、幽霊!ですよね。足無かったり、ところどころ消えかけてたり」


「まあ、今言われれば、納得できるな」


いつかは彼女は消えてしまうのだろう。それが何を意味するかは分からない。ただ、このままいけば、この関係は崩れる。お互いにそれに気づいていながら、あえて話題には出さないように心掛けてきた。


「さて、今日は何するんです?この前みたいに世界を救いに・・・」


「記憶を捏造するな。別に、今日も用事はないし、どこか行く予定もない」


「ですよねー。友達少ないですしねー、あなた」


「余計なお世話だ」


「いいんだよ、どうせ話し相手ならお前がいるし」


「っ!?・・・・わ、私しかいないじゃないですか」


もう昔みたいな関係は崩れ始めているのかもしれない。打てば響くように続いていた会話は、もう過去の物になってしまった。彼女も意味もなく動き回らなくなり、今では俺の隣にずっとそのままの体勢でいることが多くなった。


「それでですね!・・・もしあなたが暇なら、また外を回ってみたいな、なんて・・・」


「はいはい、どこまで案内しましょうか?」


「ですよね、流石に何度も連れ回したらめいわ・・・・って、いいんですか!?」


「別にかまわんさ。どうせ暇だしな」


残り少ない時間に焦っているかのように、外の世界を観たがるようになった。それも、毎回俺を連れて。まるで自分がいたという思い出を作っているように・・・。


「やっぱり迷惑でしたか?」


「何でもない。暗くなる前に、さっさと行くか」


「はい!」


彼女が行きたいと言った場所に足を運び、一通り見たらすぐに次の場所に向かう。そうして、色々な場所を見回りながら、最後は外の景色を見ながら消えていく。

それは、彼女の周期がずれるたびに顕著なっていった。あれは何だ、これは何だ、と俺に聞きながらも、彼女は少しでも多くの景色を記憶に残そうと、常に視線を動かしていた。


「あ・・・今日もここまでみたいですね」


そうして、いつものように徐々に彼女の体が透け始めた。こうなると、今まで慌ただしかったのが、途端に大人しくなる。その目に浮かぶのは、諦めと・・・消えることへの恐怖。

初めのころとは正反対の、次はいつ会えるのかという感情が浮かんでいた。


「え、えとですね。次会う時はあなたが行きたいところに連れてってほしいな、と」


「・・・分かった。お前が喜びそうなところ考えておく」


彼女の言葉を聞きながら、俺は、別なことを考えていた。

今を逃したら、二度と言う機会はない。何の確証もないけれど、それを言わなければ絶対に後悔すると、そんな直感が脳裏に響いている。


「だから・・・」


「はい?」


初めて気付いたのはいつ頃だっただろうか。確か、彼女が消えかかり始めてからだった気がする。会えなくなるかもしれないと考えた時に、理解した。俺は、彼女に・・・


「だから、これからも俺の隣にずっと居てくれ!!」


恋をしていたのだと。

いつの間に感情が育っていたのかは分からないが、それでも一度すとんとピースがはまると、すんなり受け入れられた。それに何の疑問を挟むこともなく、ああ、そうなんだなと思えた。

そして、一瞬呆けていた彼女は、うれしそうに、恥ずかしそうにこちらを見て、


「はい、これからもずっと、あなたの傍に居たいです!」


そう告げて、消えた。




あれから数ヵ月、彼女が俺の前に現れることは無かった。

会う前の元の生活に戻ったわけだが、気がつくと目で彼女を探してしまっている。もう彼女はいないというのに。それでも、探さないと、彼女がいたということを忘れてしまいそうで。それだけは、絶対にしたくなくて。


「写真かなんか撮っとけばよかったかな」


彼女が写るのかどうかは疑問だが。それでも、なにか形になるものを作っておけばよかったな、と今更ながら思う。

いなくなってから、彼女としておきたかったことはたくさん見つかった。

でも、多分それは叶わないだろうから。きっとこれでよかったのだ。


「一応、初恋だったんだけどなぁ・・・」


まあ、想いは伝えられた。そして最後の瞬間、彼女も応えてくれた。それで満足している自分もいる。

初恋が叶ったと同時に彼女は消えてしまった。ということは、多分俺が忘れない限り、彼女との関係はずっと続いていくはずで。

さて、今日も見つからなかった事だし、帰るか。なんて、思っていると


「ねえ、幽霊って信じます?」


記憶の残っている声と全く同じ声音と共に、肩を叩かれた。

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