7話
前回から人物紹介シリーズ、みたいな感じになっております。
このシリーズが終わったらきっと多分東京夏の陣……うん、まあそれになるかと。
「ん~……。流石にコレは美味しくないかなぁ」
「そうですか? 俺はコレでも十分食べれる物だと思うんですが…」
ケモノミミレストラン“もんすたぁ”の厨房。
俺は新たなメニューを作る、と言うセリカさん――昼勤のチーフキッチンスタッフである――の提案を受け、その試食に付き合っている訳だが。
……背中に刺さる、「あたしのセリカから離れなさい」的な視線が痛い痛い。
少しばかり視線を移してみると、某サッキュバスさんが視線でヒトを殺せたら! と云った感で睨みつけております。
ライアさん、俺は試食に来ただけなのに、何でそこまで目の敵にされなきゃならんですか?
別に口説いてる訳でも無いのだが。
逆に、セリカさんの方はというと、ライアさんの視線に気付いていないようで。
ここまで物質化しそうな殺気に気付かないのかが本気で不思議なのだが、どうだろう?
ひょっとしたら俺限定にこの殺視線は投げ掛けられてるのかも知れないが、それでも気付けんものなのか?
もしかしなくても、貴女も亜摩さんと同じで天然ですかそうですか。
そんな逸れた思考を他所に、セリカさんは不満げな顔で言葉を紡ぎ。
「ダメだよー。コレだったら単なる一般の味。お店に出せる程の味じゃないし」
俺も精神衛生上の観点から、ライアさんの視線をスルーする事に決めて、話を続けることにする。
「……俺はこういう家庭的な料理って好きですよ?」
こっちとしては、一般常識的な家庭料理を食えるのは本気で嬉しい。
……ウチの家庭料理と言えば、父さんや姉さんが作る、所謂ゲテモノ料理なんだよなぁ。
手ずからワニやらカンガルーやらダチョウやらヘビやらを調理して振舞ってくる。
先日食卓に出てきたカエルの唐揚げにはちと引いた。
……まあ、全部喰ったんだがな。意外と旨いし。
まあ、そう云う家庭だった所為か、普通の一般家庭の家庭料理に憧れがあったのは確かだ。
因みに母さんは食材を“斬る”事に特化し過ぎていて、他は全く出来ないというキワモ――いや、人だ。
流石に完全に死んでいる魚とかを戻し斬りしてしまった時には絶句した。
ある意味合いでは、父さんと似合いの夫婦なのかもしれな……いやいや、そんな事を考えても意味は無いか。
まあ閑話休題。
俺の台詞に、セリカさんはキレイな表情をしかめつらせ、言葉を紡ぎ。
「ん~……。大衆食堂みたいなのだったら良いと思うんだけど。う~ん……」
……そんな彼女の可愛らしい悩み姿に苦笑しつつ、ふと頭を過ぎった疑問をぶつけてみる。
「そう言えば以前紹介された時から気にはなってたんですが、セリカさんは一角獣、ですよね?
何故、そこまで人間に則した料理研究に一生懸命になってるんですか?」
「あー……。確かに疑問になる、かな?」
その問い掛けに、多少考える仕草をした後、苦笑で言葉を返してくるセリカさんである。
ユニコーンといえば、中々の幻想種。人間の食嗜好とは普通に違うはず。
――いや、馬と同じような嗜好だろうし人間食って合うのか? なんて思ってないぞ? 本当だぞ?
……誰に言い訳してるんだ俺は。
思考が再度逸れたが、彼女の言葉で我に返る俺で。
「わたしが人間界に来た理由、言ってたよね?」
「あ、はい。人間を……いや、人間社会を知って、
より良く自分達ユニコーンを護る術を見つける――ですね?」
神話レベルでも有名な、万病の特効薬となるユニコーンの角。
もしも己の正体がバレてしまったら、ただただ金が欲しい業深い人間や、
全てを投げ打ってでも自分の肉親知人を助けたい善人が襲い掛かってくる話となり得る。
つくづく業の深い話である……が、理解も出来てしまうのはやっぱり俺がその強欲な人間だからなんだろうか。
俺の台詞にこくりと首を縦に振ると、更に言葉を続けるライアさん。
「そう。だから、一番最初は隠れ里で趣味嗜好を色々と調べてたんだけど、書物だけじゃ全部を理解できなかったから、
現地でありのままを調べようと思って人間界に降りる事にしたんだよ。
でも、ヨーロッパ内だったらバレた時に危険だろうって里の皆の意見が一致して一角獣に危険が少なそうな場所が良いって事になって……
それで地元以外で安全な国とかって考えたら……噂を総合して日本かなぁ、ってまたもや皆の意見が一致して、こっちに来たんだよ」
「ふむ」
なんと云うか、幻獣界にも日本安全神話が浸透している件。
「で、色々調べて回ってる内に、日本食の美味しさや見た目の綺麗さ、料理技術に惚れ込んじゃった、って所かな?」
一番最初に食べたカイセキ料理、って最高だったよ、とテレながらも良い笑顔である。
つーかそのテレた様な表情は九割九部男を堕とせますって。
本人は完全無欠に分かっちゃいないでしょうが。
……俺はある程度耐性あるから何とか堕ちては無い―――と思うが。
後、ライアさん。更に殺意の視線が強くなってる気がするのは気のせいですか?
濃厚な粘度の高い重々しい視線は普通に視線だけで殺そうとしてませんかそうですか。
振り向いたら多分襲い掛かられそうなので、後ろを振り向けないのですけども。
本気で檻の中に猛獣と共に入れられてる様な気分である。
「? どうしたの?」
「っ、い、いぇ。何でもありません。では、次の試作料理、お願いしますね?」
「……?? まあ、良いけど。それじゃ、次はね――」
こんな状況でもまだ分かっていないライアさんに戦慄しつつ、
変な空気のままに、そんな感じで試食会は続くのである。
……余談だが、彼女の作った試作はオーナー権限でほぼ全てメニューに加える事にした。
それからおふくろの味的なモノで人気が出たのか、ヲタな連中以外の人もこのレストランに足を運んでくれるようになったのは良い事だったと思う。
その代わり、阿呆みたいに忙しくなったが、な。
……もうちょっと事業拡張しないといけないかも知れんなぁ。
まあ、追々と考えていけば良いか。