5話
後編っぽい感じです。
確実に神話に喧嘩を売ってます。
それでも読んでくれる方はありがとうございます。
それでは、どうぞ
俺は目的地である海の家らしい建物を見つけ、その中に入り込むと……
何故か、居るはずの無い人物が湧いていた。
「湧いていたとは酷いなまいさん」
「と言うか心を読むなまいふぁーざー」
真面目に何をしている貴様、と言いたくなるが、
ウチの親父殿――崔真は、何かの肉の串焼きを頬張っている所で。
「つうか何でここに居るんだ父さん」
「うん、噂に違わぬ美味」
「有難う御座います」
「人の話聞いてくれ頼むから」
俺の問い掛けを無視して父さんは、経営者らしいアロハシャツとサングラスと言う怪し過ぎる風体のおじさんと会話中。
……殴って良いか?
「まあ落ち着け、まいさん。パパはここの噂を聞いて味をききに来たんだよ」
「……噂?」
「うん。とても美味しい肉の串焼きと魚の干物があるって、ね」
父さんの言葉に、俺は軽く海の家の中を見回す。
……と、ここに居る殆どの皆が、串焼きか焼き魚(らしきもの)を食しているようで。
「へぇ。凄いな」
「あぁ、店長さん。この子にもそれ、一つずつくれないかい?」
「えぇ、良いですよ」
「お代は――はい、二つで200円」
「はい、受け取りました」
「安いなっ!?」
思わず叫んでしまう。
そんな俺の突っ込みに全く堪えた風も無く、お金と売り物のやり取りを行う二人。
「それでは、レヴィヤタン焼きとベヘモットの串焼き一丁」
「・・・」
……何と言うか、とても不穏な名称を聞いた気がするのだが。
「をや、どうしましたか?」
「どうしたんだい、まいさん」
俺の纏う空気が変わったのが分かったらしい二人は怪訝な表情を浮かべ。
そんな二人のオッサンどもの問い掛けなぞ完全無欠にスルーし、更に己の思考に没頭してみて。
レヴィアタンと……ベヘモット。それから導き出される答えは――
「――おじさん。すいませんが、ちょっと付き合って下さいませんか?」
「……分かりました。――すいません、席を外します。後の事は任せました」
「分かりました。お任せくださいませ」
俺の視線と言葉に何か気付いたのか、おじさんは一つ頷くと、
店員であろう金髪碧眼の女の子に一声掛けると、俺と一緒に海の家を出てくれた。
さっきの女の子も俺の第六感に引っ掛るような気もしたが、
嫌な予感しかしないので、完全に無視する事にする。
人気が無さそうな海の家の裏手。
そこまで来ると俺は振り返り、単刀直入に問い掛けた。
「……貴方、ウリエル達の言う“主”、ですか?」
「っ! い、イッタイナンノコトデショウカネ?」
余りに分かりやすい反応である。
そんなおじさんへ畳み掛けるように言葉を重ねる。
「俺も『ああ』いった職場になって、色々と神話やら宗教を勉強したんですよ。
レヴィヤタンとベヘモット……。二つは、ユダヤ・キリスト教での『神の供物』であり、最強の海と陸の魔獣。
それなら、あの安さでも納得出来ます。……だって、原価タダですし」
「――迂闊でした。無神教に近しいこの国であれば、そこまで神話その他諸々を知らないと思っていたのですが……」
俺の言葉に折れたか、おじさん――所謂、ユダヤ・キリスト教で、主神と呼ばれるモノ――は、苦笑を漏らしながらお手上げ、と言った風におどけてみせる。
「……そりゃ、ある意味有名どころですからねぇ。
俺達的に分かりやすく言えば、リヴァ○アサンとベ○ーモスorバ○ムート、と言う風になりますから」
「あぁ、RPGだね」
「っ?!」
唐突に聞こえた知ってる声に、驚き慄き、思わずその声のした方へと振り返ってしまう俺で。
――父さん、何時の間に…。
「私も目の前に居たのにそんな付き合うだなんて変な事を言うから気になってだね」
「そういう意味じゃないクソ親父」
とりあえず阿呆な事をほざいてきた親父殿に、思いっきり拳を顔面に叩き込む。
……因みに、意外と父さんはディープなゲーマーであるので、そういう知識も多い。
―― 一番好きなゲームが『龍が○く』だと言うのだから色んな意味で笑えないが。
それで良いのかこのマフィアのドン。
まあ閑話休題。
とりあえずジト目で彼のヒトに突っ込みを入れてみる俺。
「しかしあれって、食べて良いんですか? 一応貴方の供物でしょうに」
「あぁ、レヴィヤタンとベヘモットは全ての海洋生物、陸上生物の塊なのです。
ある程度なら自分の体内で修復……いや、生産、と言うべきですかね? ま、そういう事が出来ますので」
「便利ですねその食物!?」
「はは、気にしちゃ駄目ですよ?」
いや気にしますってば。
そんな俺の内心を知らず、神はにこやかに問い掛けて来る。
「しかし、私を察す事が出来るとは。――流石、ウリエルとハニ……いえ、“今は”アリエルですか。
まあ、その二人と一緒に仕事をしているだけありますねー」
ウリエルと、ハニ……? アリエルさんの本名か……?
いや、詮索はすまい。よっぽどの事になれば彼女から相談があるだろうし、な。
「ま、私の正体に気付いた正解賞です。先の食べ物、100人前ぐらい譲りますよ」
そんな事を考えていると、唐突にそんな事を言い放つ主神様。
――ちょっとまてい。
「ひゃ、100人前ですか?」
「あの四半鬼のお嬢さんの食欲を満たす為には、それぐらい食べさせないと拙いのでしょう?」
「……何故知ってるのですか?」
「貴方はあのウリエルが気に入った、と言う子ですから…。
偶に、貴方の職場とかを“覗いて”いるのですよ」
つまり俺達のプライバシーは無い、と。
――また胃がキリキリと痛くなってきたぞ。
「……神様、で良いのかな?」
俺が頭痛と腹痛を併発して起こしているその時、父さんが真面目な顔で神様へと視線を向け、言葉を掛ける。
「流石に神様、と言うのは拙いので、神、とでも呼んで頂ければ」
「では、シン。率直に言いましょう。ウチに来ませんか?」
……何を言っているこの親父。
俺はそんな事を内心思いつつ、父さんを睨みつける。
――が、父さんの方は全く持って動じず、言葉を続け。
「レヴィヤタンとベヘモット……ですか。アレが噂に違わぬ味であるのであれば、
私はそれを卸している貴方をスカウトする気で此処に来たんですよ」
「おぉ。それは有難い。流石に此処には夏の間しか居られなかったので、
夏以降の働き口はどうしよう、と思っていた所なのですよ」
「まていあんた等」
何雇用契約しようとしてる。
仮にも神様に向かって言うべき台詞じゃないだろう。
「何か問題でも?」
「大有りだ。父さんが幾ら傲岸不遜な人間だとしても、神の位の存在をあっさり雇おうとするな」
「……中々酷いね。まあ良いけど」
「良いのか!?」
そんな馬鹿馬鹿しいやり取りをする俺達に、神様……いや、シンさんがぽん、と手を打ち聞いて来た。
「あ、そうでした。私のほかにもあと一人、雇って頂きたいのですが……」
「別に良いですよ? 一人が二人になったとしても、それ以上の利が此方には入ってきますし」
シンさんの頼み事に父さんはあっさりと承諾。
……というか、何も考えずにそのまま頷くのはどうかと俺は思う訳なのだが。
「それで、もう一人というのは?」
「私が席を外す時に声を掛けた娘が居たでしょう。あの娘ですよ」
父さんとシンさんとのやり取りを俺は横で黙って聞いている。
が、とりあえず突っ込みどころが満載過ぎて突っ込みきれんッ!!
「あぁ、あの娘ですか。…高位の天使の匂いがしましたね、彼女」
「一寸待てい」
このクソ親父、一体何者なんだ本気で。
「何だい、まいさん?」
「普通、匂いだけで種族判断できる人間なぞ居ない」
「はっはっは。パパを侮らないで欲しいね」
「いや侮るとかそういった次元の話じゃないと思うんだが」
つくづく謎過ぎるこの親父殿である。
更に酷くなる頭痛と腹痛を推して疑問に思った事を口にしてみる俺で。
「……ま、それは兎も角。貴方は勝手に天界を出奔したんですよね?」
「ウリエルから聞いたのかい? まあ確かにその通りなんだけど」
「………それで何で天使が付き従ってるんですか?」
取り合えずジト目でそう突っ込んでみる。
そんな俺の言葉に、爽やかな笑顔でシンさんは言葉を返してきた。
「いやー。昔思いつきで、あの子に服従の呪いを仕掛けたんだけどぐぶしゅっ!?」
あ、拙い。あまりにあんまりな言葉なので、思わず親父殿と同じ対応をしてしまった。
シンさんの顔面に拳を突き刺した後、そんな事を思ってしまった俺である。
「な、何を……」
「――自分の子供に強制服従を強いる呪い掛けるなんて何考えてるんですか貴方は」
俺は拳を握ったり開いたりをシンさんの目に付く辺りで見せつけながら、そう返した。
存在消滅食らわされても文句言えない事をやるなんて……何しているんだろうな、俺。
……まあ、このまま無理やり押し切った方が安全かも知れないが。
「子供とは言っても――「何か?」い、いえ、なんでもありません」
どうやらシンさんはウチの親父殿比べて精神的にも肉体的にも打たれ弱いようだ。
――これならどうにかなるか。
「とりあえず、その娘のギアス、解いて貰いましょうか」
「ぇ……っ?! い、嫌ですよ! 私もまだ死にたく……っ!?」
「じゃあ今死にますか?」
出来る限り爽やかな笑顔を作り、拳を握り締めてみる。
……案の定、シンさんは狼狽していた。
つうか、殺されるって自覚があるぐらい酷使してたんかい、貴様。
「っ!! し、しかし……っ!」
「しかしも案山子もないと思うのですが」
「で、ですがあの娘に撲殺されたく……っ!」
「往生際が悪いですね? 俺が本気で撲殺してあげましょうか?」
……トコトンまでに悪役のやり方だな、コレは。
だが、そんな俺の説得(?)に苦い顔ながらも承諾してくれたシンさんは、
諦め切った表情で、何事かを小さく呟く。
……それから数秒。
純金の疾風が俺と父さんの間を駆け抜け、シンさんを吹き飛ばした!
――い、一体何が?
「……さて、我が主。言い残す事はありますか?」
「え、えとその。き、綺麗な顔が台無しだよ、ガブ」
アレだけ派手に吹き飛ばされた割に、大したダメージを受けてないように見受けられるシンさんに
ガブ、と呼ばれた恐ろしく美麗な少女が、かの人の前で仁王立ちをしている。
……金髪縦ロールの天使と言うのは流石に有り得ない気がするのは気のせいか?
ま、また、天使のイメージが崩れていく……。
「あ、ご心配なく。わたくし、他の天使の皆さんほど綺麗ではないので」
「……いや流石にキミがそれを言うのは他の皆に酷いと思うんだけど?」
「問答無用」
本気で美しい笑みを浮かべているようだが、コメカミに特大の血管が浮かんでいる辺り、
彼女の心情を良く表しているのだろう。
「い、いや問答無用って「良いから黙れ」………はい」
……少女の微妙に支離滅裂な物言いに、自業自得とは言え、シンさんが憐れに思えて来た。
あくまで憐れに思うだけで、何もする気はないが。
―――だって庇ったりした時点で何されるか分からないんですもの。
「うんうん、この子もかなり良いね。スカウト確定」
「い、いやそんな今の状況では別次元な話を言わんでくれ親父殿」
「こういう感じでストレスを溜め込みすぎて巨大な暴発をするヒトも居るから、
確りと気を付けるようにね?」
「そ、その答えも微妙に違う気がするんだが……」
肝には命じておきますが。
……そんな現実逃避に近しい俺達のやり取りを尻目に、
シンさん達の睨み合い(と言うか蛇に睨まれた蛙状態?)は更に熱を帯びていくのである。
…………もう知らんぞ俺は。
「うがうがうがうがうがうがうがうがうがうがうがうがうがっ!」
「う、麗ちゃん。た、食べ過ぎは……」
「い、いや。言っても無駄だと思うわよ?」
勢い良く某焼き魚の串焼きっぽいのと某肉の串焼きをかっこんでいる――というよりは飲み込んでいる? 麗さんである。
――因みに簾さんが麗さんに見繕った水着は、少々フリルがついている空色のワンピースのようで。
ちぐはぐな印象を受けるが、似合うと言えば似合う。こういう所、美形は得だな、とか思う。
ガブ――矢張りと言うか何と言うか、彼女の名はガブリエルであったらしい――が、
シンさんを一方的に殲滅した後、200人前分の焼き魚と串焼きを譲ってくれ、こんな状況になっているのである。
――どうやら自分がトコトンまでにブチ切れた件への口止め料も込み込みっぽいが。
「しかし、旨いですね、コレ」
「……まあ、神様の供物だしなあ」
何時の間にか砂の中から脱出していたウリエルと一緒に余り物を頬張っている俺。
……うん、美味。
「ウリエルは食べたこと無かったのか?」
「そりゃ、そうですよ。幾ら性格がアレなお方であろうと、あのお方が唯一食す事が出来る神の食物ですよ?」
「確かにその通りか。馬鹿な事を聞いた」
そんなやり取りをしながらも、俺達の視線は麗さんの食いっぷりに釘付けで。
……もう何人前食べてるか分からんぞ、あれ。
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「あ、終わったみたいですね?」
「みたいだなぁ」
「――あ、あの。それはそれとして、ですね?」
麗さんの飽きれた食欲がやっと満たされたらしい事を遠目で見ながら呟く俺達に、
か細い声で懇願するような言葉が被る。
「……見事、ですね」
「あぁ。多分100人前より多く喰ってるよな、あれは」
「いや、その、えっと……あの?」
そんな声を鮮やかにスルーし、俺達は会話を続けた。
因みにその声がするのは、先ほどまでウリエルが埋まってた辺りであるが。
「しかし、後丸々50人前ぐらいは残ってるんだが……」
「あぁ、それは私が頂きますよ。ウチの幹部連中に食べさせて、商品化の算段でもさせます」
「……父さん、本気でアレと契約する気満々だったんだな」
「私の事、単なる嘘吐きとでも思ってましたか?」
「思ってた」
「酷いですねぇ」
「話聞いてます~……?」
更にスルー。
や、貴方の後方に居る、異様なプレッシャーを撒き散らしている
金髪の美少女然としているお方が怖い訳じゃないんですよ?
ホントウダヨ?
「お願いで「嗚呼、手が滑りました」ぷぎゅっ」
まだ何かを言っているのを、その金髪少女が思いっきり踏ん付けた。
……それは手が滑るとは言わない。突っ込むと怖そうなのでする気は更々ないが。
「痛い痛い痛い痛い」
「うーん? 何か聞こえる気がしますが、気のせいですね、はい」
……よっぽど鬱憤が溜まってたんだな、あの娘。
ごりごり、と言った擬音が俺の後ろ側から聞こえているが、やっぱり無視。
「た、助け……ぎゃぷるっ?!」
聞こえなーい聞こえなーい。
そんな状況下、金髪少女さんは俺の隣に居たウリエルへと声を掛けて来て。
「――さてと。ウリエル、手伝って下さい」
「………何故僕がそんな事を?」
「貴方が配属されたばかりの女性天使を口説き回ってる事、皆に洗いざらい暴露しますが」
「ハッハッハ、僕ガがぶりえるノオ願イヲ聞カナイ訳ガナイジャナイカ」
手伝う事を渋っていたウリエルに、冷え切った声音でそんな言葉を返すガブリエルさん。
しかし、ウリエル。お前、仮にも熾天使なのかヲイ。
そんな事を内心思いつつ、シンさんの冥福を祈る事にしよう。
“神様”に冥福を祈る、と言うあんまりといえばあんまりな話だが、気にするな。
俺も気にしないから。
その後、『第一回 チ○チキ! スイカを割るか! ドタマを割るか!? 一撃必殺選手権』と言うゲームを開催し、
白熱していた、という事を胃薬片手に観戦する羽目になった俺である。
本気で勘弁してくれ……
後、蛇足でしかない話だが……。
海から帰って来てほんの数日。父さんが持ち帰ったレヴィヤタンとベヘモットは、
『レヴィヤたん』と『ベヘモッ㌧』と言う名称で萌え擬人化され、
その萌え擬人化されたデフォルメキャラをラベルに印刷し、
お○ん缶やラー○ン缶等と同じく自販機にて売り出され大ヒットした。
……つくづく萌えと言うのは奥が深いと云うか業が深いとか思ってしまった夏である。
この改定中、ふとテキストの情報を見たら、2009年に初めて保存した、とかって情報が。
もうそんなに経つんだなぁ……とか感慨に耽っております。
文章レベルは全然上昇してないのは本気で悲しいですが(吐血