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12話


 「………」


 どうもこんばんは、瑠伊耶です。

……とりあえず、今俺は狭っ苦しい部屋に居る訳だが。


 ――夜間業務中。そろそろまた客が増える時間帯で。

仕事が始まるまで仮眠を取ると言っていた椎馬さんを起こしに来た。


 瀬禅 椎馬さん。何時も何時も何かしら忙しそうにしているヒトなのだが、

この所、更に疲れが滲み出ていて気が気でない。


 なので、就業1時間半前に来た彼女の願いを承諾すると、

更衣室を兼任している形ばかりの休憩所(基本、従業員はほぼ俺が居る事務所で休憩する。なんでだ)に引っ込んだ。

そろそろ時間なので、まだ寝入ってそうな椎馬さんを確認しに来た訳で。


 そう、来たのだが………


 「………これは何だ?」


 椎馬さんが寝ていた……と思われる所にあったのは、ムクムクのモコモコな物体。

俺は首をかしげながらも、その物体を持ち上げてまじまじと見つめる。


 ―――ぬいぐるみ?


 多分そうなんだろう。

良い様にデフォルメされたワニと言うか、ヤモリというか……ひょっとして米○版のゴ○ラ……もとい、ゴ○ィラか?

確か映画としては外しまくったと言う話を聞いた記憶もあるが現物を見ていないので真実かどうか分からんが。


 まあそんな脱線話は兎も角として、とりあえず良くは分からんが、コレは爬虫類のぬいぐるみらしい。

つぶらな瞳がなんとも可愛らしい……と言うべきなのだろうが、何か睨みつけているようにも見えるので居心地が甚だしく悪い。


 「……しかし、何でこんなものが仮眠室ここにあるんだろうか? と言うか、椎馬さんは一体ど……こ……っ?!」


 いや、ちょっと待て。ふと頭に閃いた事に俺は嫌な予感が増大している事に気付く。

流石にその予想は突飛も無いような気もするのだが、それではないと椎馬さんがこの場に居ない説明が付かん。


 ……や、トイレとかその辺り、と言った予想は多分無いと思うから明後日の方向へ投げ捨てるが。


 「――し、しい、ま……さん?」


 恐る恐る、と言った感で呟いてしまう俺の言葉に、ナマモノ(見た目が微妙に謎すぎるのでもうそう呼ぶことに決めた)のぬいぐるみが…


 ――モゾリ、と身動ぎをした。


 「……にぇ? あ、あれ、おはよー瑠伊耶く……っ!?」


 つぶらな瞳(?)に少々弱い意思の光が宿り、首(らしき部分)を俺へと向けつつ言葉を返すは、やはり聞きなれた椎馬さんの声であり。

そして、今の彼女が置かれている状況が分かったのか、台詞を最後まで言い切る事無く硬直した。


 「……目、覚めましたか?」


 とりあえず、俺は硬直した椎馬さんを再起動するべくそんな言葉を掛ける。

更にゆっくりと寝ていた場所に下ろすことも同時に行った。

多分彼女が暴発するであろうからの退避である。


 ――俺は何でここまで危険察知と言うかこうしょうもない方向の性能が上がっているのだろうか?


 「………な、何でっ!? 封印の結界張ってた筈なのにっ?!」

 「俺は知りませんよ?」

 「う、嘘っ!!」


 ばっ、といった風に無理にその頭を振り動かし、この仮眠室の入り口に当たる扉に目を向けた(?)、椎馬さんで。


 「…………ぁ。張ってたの、対“物の怪”用封印結界だった。瑠伊耶君、人間なのに……っ! 私、一生の不覚―――っ!!!」

 「いやそこまで慄かんでも」


 まあでも、基本“人外”と“物の怪”ばかりのこのレストランに俺だけ人間、と言う形だからこういう風なミスも不思議ではないが。

そんな突っ込みは心の中だけに止めておき、見事にあたふたしている椎馬さんに溜飲が下がる思いである。

…………や、毎日のように弄られてる事に恨みを持っているわけじゃないぞ? 本当だぞ? ……少々思ってしまったのも間違いではないが。

 

 昼間は昼間で、アリエルさんが同じように俺を弄って来るから、昼も夜もあまり心の平穏はないのは此処だけの秘密と言う事にしておいてくれ。

頼むから、マジで。



 ――それから、暫し。ようやく落ち着いたのか、椎馬さんは大きく溜息を吐いた後…

俺に視線を持って来ると、一語一語強調するように言葉を切り取り紡ぐ。


 「……瑠伊耶君。絶対に、誰にも、言っちゃ、ダメ、なんだからね?」

 「そこまで力まんでも良いですから」


 よっぽどその元の姿が嫌いなんですね椎馬さん。

まあそんな言葉を口にすれば、確実に嫌がらせな報復があるので噤む訳だが。


 「別に気にしないで良いと思うんです「だ・めっ!」――ですか」

 「誰かにバラしたらある事ない事言いふらすからね?」

 「了解」


 ……貴女なら本気でやりかねん事は今までの件からして分かり切っているので言うつもりは毛頭ないですって。

本気で俺って言う人間そのものをあっさりと社会的に抹殺しかねんし。


 「――しかし、先の姿を見てふと疑問に思ったんですが、椎馬さん、九十九神なのに何故こんな所でバイトを?

言っちゃなんですが、衣食は化生のお陰でほぼ必要ないですし、住は……誰かと暮らしているんでしょう?」


 ふと頭をよぎった疑問をとりあえず俺はそう問い掛けてみると、

まーそーなんだけどねー、と気だるげに返してくる椎馬さんで。


 それから暫しの沈黙。――と、観念したのか、重苦しくなってきた空気を払拭するように椎馬さんは口を開き。


 「――私の主様の手助けしたくてねー」


 苦笑しながらそんな台詞を吐き出すと、全部ぶちまけたかったのだろうか。

もう後は全部話し切るまで椎馬さんの説明は終わらない。




 ――色々と雑務、仕事等をこなしつつ数時間。

要約すると彼女の主(とは言うが、あちらは主従の感情等は持ってないらしく、どちらかと言うと姉妹のそれに近いらしい)は、

生来物の怪に好かれやすい体質の上、魂が抜けやすいらしく、悪霊等に身体を狙われて続けている、と言う事らしい。


 それを予防するための特殊なお札を手に入れる為に頑張っている。

しかもそれは中々に値段は高い上、一ヶ月も持たないと言う事なので、此処以外でも何箇所かでバイトをしているそうだ。


 「……大変だったんですね」


 そんな言葉だけしか言えない自分に内心悪態を吐きたくなるのだが椎馬さんは清々しい笑顔を浮かべており。


 「ま、でもコレも慣れよ慣れ。あ~、なんと言うか色々ぶちまけれてすっきりしたー。

よし、残りの時間、頑張ろう頑張ろうっ! 愚痴ってゴメンね、瑠伊耶君。これはお詫び」


 そう言った彼女の言葉と同時、俺の鼻腔を擽るかのような甘い香りと頬に柔らかい感触が一瞬。

――えっと、い、今……のはなんだったんだ? 何をやられたのかは分かる。分かるのだが、思考回路が追いつかん。


 そんな俺を他所に、足取り軽やかに仕事に戻っていく静馬さんを呆然と見やりながら、数分間、フリーズし続けてしまったのである。


 ――後で麗さんに拳で解凍して貰ったのだが妙に生暖かい視線をスタッフ一同から向けられる事となったのは、まあ余談だ。

恐ろしいほどに恥ずかしく、そして居たたまれない気分に陥った事も追記しておく。




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