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番外編:机の引き出しに変なの入ってた。

ぷに!

お久しぶりです。

一応その後のお話です。全部で三話続きます。


「ただいまー」


 玄関を開け、声を掛けたけれど返事はない。

 靴はなかったからどうやら出かけてるみたいだ。買い物にでも行ってるのかもしれない。


『安い物あらば、ママチャリ一つでいざ戦場へと赴く。戦場のお母さんはね、主婦という名の武士もののふになるのよ』


 と、母はよく言っている。

 きっと今ごろ、戦場へと赴いているのだろう。そして母の事だ。見事勝ちどきを上げ、戦利品を勝ち取ってくるに違いない。


 下手すりゃ三つ隣の町までママチャリ一つて走ってっちゃう、私のお母さんマジすげー。


 密かに母を誇りに思いながら階段を上り、二階の自室へと向かう。

 ランドセルを置いて、ふと窓の外を眺めると、お隣の家の窓が見える。

 つい一週間前、小さい頃から仲良くしてくれたお隣のお姉さんが遠くへ引っ越してしまった。

 お姉さんは別れ際、「私はぷにに生きる」と訳の分からない事を言っていたっけ。

 急な事で何も餞別に贈れなかったけれど、一応別れの挨拶は言えたのでよしとする。

 泣きはしなかったけど、やっぱり寂しいと思うくらいにはお隣のお姉さんに懐いていたんだな、と思った。

 何処に引っ越すのか聞いてみたら、何かプルプルだとか言ってごまかされてしまった。

 そんなお姉さんは、きっと何処ででもやっていけるだろうと確信している。


 だってお姉さん、黙ってれば美少女だし、何故か遣る事成す事いい方向に勘違いされるんだもん。

 他の人からは儚げ美人と言われていた事には吃驚しちゃったな。本人も全然気付いてないし。

 中身結構ぶっ飛んだ人なのに不思議……。


 そんな事を思いながら勉強机に向かう。

 絵でも描こうかな、と自由帳を取り出そうと机の棚に手を伸ばした。そしてふと、机の引き出しが少し開いているのに気づく。

 母が片付けでもしたのかなと思った。

 別に気にするほど大した物は入っていなかった筈である。

 ふと、ドラ○もんの初登場って机の引き出しだったよな、と考えた事がいけなかったのだろうか。

 取っ手に手を掛け引き出しを開けた。


「娘よ。我を今すぐ此処から出せ」

「………」


 バタン! アウチ!


 何かいた何かいた何かいた何かいた何かいた何かいたー!! そして何か言ってたー!!


 脳内は混乱を極め、暫し時間が止まったように身動きしなかった。

 その代わり、机の引き出しはガタガタと揺れ、次の瞬間にはバタンと開いた。


「娘よ。いきなり閉めるでない。痛いではないか。危ないであろ?」


 それはみっちりと引き出しの中に詰まっていた。全体的にぷにぷにした二等身の生き物である。

 頭には白いふわふわした髪。触ったら柔らかそうである。その髪に半ば埋もれるようにして、黒く丸い獣の耳が見えた。その耳に挟まれるようにして、王冠が見える。何かいっちょ前にとか言いたい。

 顔を見れば目の下に隈みたいな模様があった。

 これは何であろうか。とある動物を連想してしまう。


「……たぬき?」

「我をそのような下等な俗物と一緒にするでない。我はパンダぞ? 高潔なる美しき白と黒の芸術品ぞ?」


 凄いドヤ顔で言われた。

 何か腹が立ったので、引き出しにみっちりと詰まったその体をツンツン突付いてやった。気持ち良かった。


「擽ったいぞ娘。高貴な我と仲良くしたいのは分からんでもないが、まずは此処から出すのが礼儀であろ?」

「えー、別に仲良くしたい訳じゃないしー」

「フッ、無知だな娘よ。我らぷにの世界では指で突っつく行為は友への誘いよ」


 何か鼻で笑われた。凄いバカにされた感がある。

 やっぱり閉めちゃっていいよね。


「待て待て待て! 無言で閉めようとするでない!」

「仮にもそれが人に物を頼む態度でしょーか……私知ってるよ。そういう態度の事を傲慢って言うんだよね」

「クッ、生意気な小娘よ」

「あれー、何だろうー。手が勝手に引き出しを閉めていくー」

「ちょっ、待て! 待てとゆーに!

 分かった! 頼む! この通りだ! 此処から出してくれ! 正直この体勢は辛いのだ!」


 必死な自称パンダは、この時涙目でした。

 何だか可哀想になったので、助けてあげる事にします。

 お母さんがよく、恩は売っておきなさいと言っていたのを思い出しました。

 パンダの恩返しを期待します。


「ふぅ、全く酷い目にあった。後でぷるぷる王国に抗議文を送っておこう」

「ぷるぷる王国?」


 はて、何処かで聞いたような?

 それもつい最近。


「今まで我の国とは交流はなかったが、新しい王になって交流を求めてきてな。つい三日ほど前、王女が贈り物を持って現れたのよ」

「王女? お姫様?」

「なかなか気だての良い王女でな。我に見劣りせぬほどの美しい黒猫ぷにであった」

「黒猫!」


 猫かぁ……しかも黒猫……。

 猫は大好き。短毛種かな、長毛種かな?


「王女は常に優しく微笑んでおってな、我を優しく突ついて友になりたいと……っ」


 頬をポッと染め、もじもじし出す二頭身の自称パンダ。

 こりゃ惚れてんな。その黒猫に。

 でも、パンダと猫って合うのかな?

 うーん、あ! 確か中国ではパンダの事、大熊猫って書いてたよね!

 じゃあ大丈夫かなぁ?


「でも、それが何でぷるぷる王国への苦情になるの?」

「おお、そうであった。実はその王女の持ってきた贈り物が原因で、我は此処に居るのよ」

「贈り物?」

「うむ、それが是非我の遊具にとタイヤを贈られたのだ」

「あー、動物園でよくタイヤで遊んでるよね、パンダ」


 確かに贈り物にタイヤなんか渡されてもなぁ。

 この自称パンダさんは一応パンダらしいけど、だからって動物園のパンダと一緒にされたらそら嫌だよね……。

 と、思っていたのだけど……。


「それが、なかなかに具合の良いタイヤでな。我はそれを吊るして遊んでいたのだ」

「可愛いな、おい」


 驚いた事にタイヤは贈り物としてOKらしい。

 思い出しているのか、目をキラキラと輝かせて見えない花を飛ばしている。

 見た目はころころとして可愛らしいので、タイヤにぶら下がって遊ぶ姿はさぞかし愛らしいものになっただろう。

 ふと、隣のお姉さんを思い出した。

 お姉さんはこんな感じの可愛らしいものが大好物だったなぁと。

 きっと、この自称パンダを見たら、内心涎垂らして鼻血吹いて息を荒らくしていることだろう。

 そして、周りの者にはそれを悟らせないのだ。

 お姉さんにはそのつもりはないらしいのだが、色々考えいる間はそれが顔に出ないらしい。

 不思議なお姉さんである。

 でも、そのお気に入りのタイヤがどんな原因を生んだのだろうか?

 すると自称パンダは言った。


「今日、我はそのタイヤをくぐろうとしたのだ」

「あ、もしかしてそれでトリップしちゃったの?」

「いや違う。不思議なことに途中でつかえて抜けなくなってしまったのだ。前の日まではギリギリくぐれたのに!」


 ギリッとちっちゃな手を握り込んでいる。

 よほど腹立たしいらしい。若干涙目である。

 でも、前の日までくぐれて今日くぐれないって事は……。


「それって、単に太っただけじゃあ……」

「それから、何とか抜け出そうと我は必死になった」

「あれ!? スルーされたよ!?」

「宰相も手伝ってくれたのだがなかなか抜け出せなんだ」

「さいしょう? ああ、王様とか補佐する人!」

「ふっ、そうよ。我は王ぞ! そして宰相はレッサーパンダぞ!」

「レッサーパンダ! ふーた君みたいに二本足で立つの!?」


 すると自称パンダの王様はフッと笑って胸を張った。

 めっちゃドヤ顔なんだけど何で?


「娘よ、我を見るがいい!」

「え、見てるよ?」

「二本足で立ってるであろ?」

「うん、そうだねー」


 それが何だと言うのだろうと首を傾げると、自称パンダの王様は地団太を踏んだ。


「我はジャイアントパンダ! レッサーパンダのレッサーは小さいという意味よ! そんなレッサーパンダより上の我が小娘の言う二本足で立っているのだ! 誉め称えるが道理であろ!?」

「え、えっと、す、凄いねー」

「そうであろ? もっと誉めよ! もっと称えよ! 崇めたてまつるがいい!」


 どうしよー、こいつめんどくせー。

 それよりもタイヤの話はどうなったの?

 どうやって机の引き出しにトリップしたのさ?

 そう言って話を促したら、今にも高笑いしそうなのを止める事が出来た。

 寧ろこっちを誉めろ。


「ゴホン。そして宰相の手も借りて漸く抜け出した我は、勢い余って部屋の壁に突っ込んでしまってな。丁度その壁には秘密の抜け穴があって、我は秘密の部屋へと続く長いスロープを滑り落ちる事となった」

「何か話が壮大になってきたね」

「最初は何だか分からずに恐ろしいと思っていたが、体に沸き起こるその爽快感に次第に我は楽しくなってきたのだ」

「ああ、滑り台って楽しいよね」

「後ろから宰相のはしゃぐ声も聞こえてきた」

「え? レッサーパンダもついてきちゃったの!?」

「その余りの楽しさに、後ろからくる宰相と、是非皆で滑れる超巨大最長スロープを造ろうというプロジェクトをたちあげる相談をした程だ」

「わー、楽しそー」

「だが、その楽しさも長くは続かなかった。長いスロープは終わりを見せ、我は華麗に地面に着地したのだ」

「何だろ、この後の展開が読めてきたぞ?」

「見渡せば広い部屋。中央には台座に置かれた荘厳な雰囲気を称えた大きな壷。辿り着いた部屋は、我がころころ王国に古くから伝わる秘密の部屋。城の何処かにあると言われていて、長いこと誰も探し出せなかった場所であった」

「くるぞ、くるぞ……」

「我は中央の壷に近づこうとした時だ。後ろから今までに感じた事のない程の衝撃を受け、我は前に吹っ飛ばされた」

「きたー! レッサー? レッサーだよね?」

「先ほどからうるさいぞ、娘よ。この我が話しておるのだ。静かに拝聴するが礼儀であろ? しかしまぁ、小娘の言うとおり、後から滑り落ちてきた宰相にその勢いのままに突っ込まれたのよ。吹っ飛んだ際に宰相の顔が見えたわ」

「予想を裏切らないね」

「吹っ飛んだ我は、何とも間抜けな宰相の顔を拝んだのを最後に闇に包まれた。我は理解した。壷に頭から入ったのだとな」

「コントの様ですね」

「そして暫く抜け出そうともがいていたが、一向に抜け出せなんだ。それ所か、何かにはまった様に身動きが出来ぬ始末。漸く光を見たと思ったら、小娘、お前が居たのよ」


 なるほど、自称パンダの王様がトリップしてきた経緯は分かった。

 しかし、一つ言いたい事がある。


「大分長い説明だったけど、結局の所、タイヤ全然関係なくね?」

『…………』

「な、なん、だと!?」


 呆然と自称パンダの王様は呟く。思っても見なかったと言うような表情だった。

 因みに、一番の原因は、自称パンダの王様が太ったことにあると思うの。

 それでもタイヤのせいだと言うなら、寧ろそのお陰で秘密の部屋が見つかった事に感謝すべきだと思うの。

 そんな事を呟いたせいだろうか、自称パンダの王様がその場に膝をついた。


「な、何と言うことだっ。抗議文と共に、賠償に王女をお嫁さんとして要求しようという目論見がっ」

「え? 何それきたなっ!」


 さっきまでモジモジとした純情そうなパンダはどこいったの!?

 何とも三流悪役のような目論見を暴露した自称パンダの王様。見た目が愛らしいだけに非常に残念である。

 でもお姉さんだったら許しそうである。寧ろ、悪役パンダ萌え、位言いそうである。


「もー、好きならもっと他にすることがあるじゃん」

「なっ!? す、すすすす好きなどと誰が言った!? わ、我はっ!」

「お嫁さんにしようとしてる時点で既にそうじゃん」

「うぐっ」


 じと目で見遣ると目をそらしてたじろいだ。


「ちゃんと誠意を見せないと嫌われちゃうよ?」

「それはない!」


 嫌われると言った途端、腰に手を当て胸を張る自称パンダの王様。

 絶対的自信を持っているようだ。

 彼はフフンと笑ってやはり自信満々にこう言った。


「何故なら我はパンダだからだ! パンダを嫌う者など居ないであろ?」

「うーん、パンダは好きだけど、レッサーパンダの方がもっと好きです」

「な、何だと!? 何故だ!?」

「やっぱりでかいより小さい方が手ごろです」


 手をわきわきさせながら言ってみる。

 ああ、レッサーパンダ抱っこしてみたい。

 求めるものは縫いぐるみ的愛らしさ。

 こうギュッと抱き締められる手ごろ感がいいと思うの。

 そう伝えれば、自称パンダの王様は酷くショックを受けたようだった。


「パンダも縫いぐるみ的愛らしさであろ?」

「遠くから見る分にはねー。身近で見たら、きっとデカくて引くと思うよ」

「我は、我は……」


 素直な意見を述べた所、自称パンダの王様はプルプルと震えだした。

 そして顔を上げると、うるうるとさせた目で両手を差し出してきた。


「娘、我を抱っこせよ。そしてギュッといたせ」

「…………」


 不覚にもキュンときた。

 これがお姉さんだったら、間違いなく飛びついて抱き潰していると思う。

 あざとい。めっちゃあざとい……。




 ― 机の引き出しに変なの入ってた ―

 《青い狸かと思ったら、黒と白の高慢パンダでした》



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