16.もう一度、襖を開けますか?
やあ! ぷにを愛する皆! 今日も元気にぷにっとエンジョイ!
さぁて前回、秘密の部屋にてど○でもドアで現実世界に帰ってきた私。
何と、夢だと思っていたのに夢でなく、八頭身の素晴らしいプロポーションの超絶イケメンな王様とコンニチハしてしまった訳だけれども……。
ぷにを愛してやまない私は、思わず「私の王様はどこ?」なーんて言っちゃったんですのよ。
どさくさ紛れて“私の”なんて……キャー! 私ったら、だ い た ん! ハズカシー!
……なーんてな。
前回のあらすじという名の現実逃避をしちまったい……。
さて、今私は何をしているかというと、相も変わらずリアル王様を睨み付けていた。
王様もまた、そんな私を見下ろしているわけなんだけど……何だろう、そろそろ私の限界が近づいてきたぞ。
普段お気楽な性格なせいか、人を睨むなぞあまりした事が無いんだよね。
そんなもんだから、こう……眉間とか目元がムズムズというかピクピクする。
「余だ」
「え?」
時間にしたら、ほんの数分程度の事だろう。
沈黙を破ったのは王様だった。
「余がそなたの王様だ」
「………」
クソッ、声もすげーイケメンだなっ。腰にくるっつーかなんつーか。
でも、やっぱりぷにの時程ときめかない。
そして、とうとう私は限界を越え、顔面の力を抜いてしまった。
それがどう捉えられたのか、目の前の王様が驚き狼狽えたようだった。
「な、何故泣く!?」
「え? ……泣いてませんけど?」
「泣きそうな顔をしているではないか!」
どうやら力を抜いた顔が、泣きそうな顔に見えたようだ。
思ってもないことだったので、キョトンとした顔をすれば、漸く王様は落ち着いたようだった。
そして私の手を取ると、そのルビーのような赤い瞳で私を見つめ、そっと頬を撫でてきた。
ぶえっ!? ギャー、ゾワッときたゾワッと!
リアル王様、色気半端なっ!!
「改めて言いたい。そなたと結ば……」
“どさっ”
「グッ」
「うわっ」
「えっ!?」
「何!?」
王様の声を遮るように聞こえてきた音と声によって、私達は揃ってそちらを見ることになる。
あれ? あれってさっきのど○でもドアじゃね?
そう、顔を向けた先にあったのは、あの目に痛いサーモンピンクの扉。
未来から来たという、青い猫型ロボットが今にも「はい、ぼくドラ○もんです」と開けて出てきそうなアレだった。
というか、さっきの音と共に聞こえてきた呻き声。あれってもしかして……。
「ううっ、一体ここは……」
「ハッ、王様とあの子は!?」
王様程じゃないにしろ、これまたイケメンな二人がいた。
いやさっきから普通にイケメンとか言っちゃってるけど、ホント言ったらイケメンというチンケな言葉で表していいのか疑問な位三人とも美形です。
これもみんな私の語録の乏しさ故です。国語の成績もアレだった私です。
因みに、一方は茶色のフサフサした髪で、もう一方は水色のサラストな髪です。
二人とも鎧を着けており、腰には剣があった。
うん、二人とも騎士っぽいね。近衛兵ってやつなのかなやっぱ。
ていう事は……。
「レオンとニールか……」
「ハッ、もしかして王様ですか!?」
「という事は、隣にいるのはあの黒猫なのですね!?」
「………」
やっぱりねー!
というかさ、二人ともあの独特の訛り消えてね?
えー? 「だギャ」とか「にょろ」とか可愛かったのにー。
つーか、レオンでかっ! 筋肉すごっ!
ニールも背高っ! 細身だけど筋肉もしっかり付いてるね。いわゆる細マッチョってやつっスか?
いやー二人ともカッチカチですなあ。
アハハ、凄いなあ。
アハハハハ。
アハハ。
アハ……。
………。
ぷ に は ど こ い っ た !?
ぷにが……ぷにが恋しい……。
今ならケロヨンでも抱きつけ……いや無理だ。あれは妥協でどうなる次元じゃねえ……。
ハッ、待てよ? 二人がこっち来たって事は、もしかすると後二人も来るかもしれないって言うことか?
や、やべー……。ケロヨンやべーって……。
リアルであいつ来ちゃったら……カエルだからヌメヌメで、禿げたおっさんな奴はきっとモザイク無しには見られないんじゃ……。
こんな超絶イケメンに囲まれた顔面破壊兵器は色々とやばいんじゃあ……。
私は無意識にピンクの扉を睨みつけていた。
「王様……これは一体どういう事なんですか?」
「僕たちはあの不思議な扉をくぐってきたのですが……」
「あれは王族に古くから伝わる扉で……」
何やら王様達が話しているけど、これから来るかもしれない脅威を思うと、扉から目が離せない。
だが、私の予想は大きく外れることとなる。
スパーン!
「王様は此処かピョン!」
「僕と一緒にころころ王国に行くもん!」
ピンクの扉と反対方向の壁に、見覚えある襖が現れた。
そして、それを勢いよく開けたのは、あのピョン吉……じゃなかったケロヨン、とニコだった。
危惧した破壊兵器はそこにはなかった。
恋い焦がれてやまなかったぷにが今そこにある。
何時堪能する? 今でしょ!
という訳で、死語になりつつある鉄板ギャグを脳内で展開しつつ、目の前のぷにに向かってルパンダイブを決行しようとした。
いや、ピョン吉にじゃないよニコにだよ。
しかしながら、「いや待てよ?」と寸前で思いとどまる。
果たして、ぷにの認識能力で、私が黒猫ぷにだと気づいてくれるのか?
見れば、二匹のぷには唖然とした顔をしていた。
当然だろう。ぷにからしたら、リアルな人間の姿なんて初めてだろうし。
一体、彼らぷにには私達リアルな人間がどのように映っているのか……。
飛びついて、泣かれでもしたら立ち直れない自信がある。
そしてニコがこちらに顔を向けた。
ニコは私を見ると、自分のぷにぷにの頬っぺたを押さえ叫んだ。
「あ、あの子が大きいもん!」
どうやら認識されたようである。
そして、ピョン吉はというと、王様を見てポッと頬を赤らめた。
「王様、なんと神々しいお姿に!」
……ピョン吉……お前まさか……。
いや、考えるのはよそう。おぞましすぎる。
ちょっとばかし浮かんだ「B」と「L」の文字に若干気分が悪くなりました。
「王様、あの扉は一体……」
「ケロヨン殿が出てきたという事は、あの扉は我々の世界と繋がっているという事ですよね」
「あの扉の存在は余にも分からぬ。しかしあの姿のままというのは……」
何やら王様達は、難しい顔をして話をしておられる。
リアルになった彼らの会話は、ぷにの時とは違い知的なものになっているようだ。その中で「ケロヨン」という名前は物凄く違和感を感じますですはい。
あれ? でもちょっと待てよ?
どこ○もドアがでっかくなって、襖がぷにになる扉だろ?
という事はだ。
王様を襖に入れればまた……。
「本当にあの子かもん?」
「……ニ、ニコ?」
目をキランと光らせて、襖と王様を見ていた私に、クイクイと服の裾を引っ張ってくるニコ。
私はこのだんご虫のぷにを見て、きゅんと胸を高鳴らせた。
だってね、ふくふくほっぺとキュッと引き結んだお口。チラリと見える灰色の目は、不安そうに上目遣いで見上げてくるんだよ。
ズキュンとやられたね。
そう、これはトキメキ。
リアル王様では感じなくなってしまったトキメキが、今ここによみがえる。
嗚呼、やっぱりぷにが好き。
私はきっとぷにという生き物、存在自体に恋してしまったのだ。
この小さな手足、ポコンとしたお腹、プクプクとして柔らかそうな頬っぺた。
この全てに胸が苦しい程に高鳴る。
でも、その中でもやっぱり王様が一番で、その肝心の彼は今、八頭身のイケメンになってしまっている訳で……。
ぷにが好きという事実に気づいた今、彼を見て感じるのは、ぷにの時の面影を重ね見る事によって沸き起こる、胸の切なさと侘びしさだけである。
もう一度ニコを見る。
「もん?」と言って首を傾げるその姿に、私は一大決心した。
よし、ぷにの世界で生きよう。
そう思うが早いか、私はニコを抱き上げ王様を振り返って言った。
「王様、ごめんなさい! 私、ぷにが好きなんです! ぷにじゃなきゃ駄目なんです! 愛してるんです! だから私、あっちの世界に行きます!」
そこまで言い切ると、呆気にとられる彼らをそのままに、ニコを小脇に抱えて襖に手を掛ける。
スパーン!!(ピカッ)
開けたと同時に辺りは光に包まれた。
そして……。
△▼△▼△▼
え? それからどうなったって?
そりゃ勿論ぷにの世界で幸せに暮らしましたとさ……となったと思ったよね。
ところがどっこい。
気づいたらまたベットの上でしたー。
アハハー、王様達やニコの姿が何処にもねーですやん。襖と扉も跡形もなく消えてますやん。
夢落ち二段構えってどーゆーことやねん。
私の一大決心どうしてくれる。
しかしながら私のそんな嘆きは誰にも聞き届けられる事はなく、ただただ空しい溜息を吐くしかなかったのである。
そんな私は、今日も何の変哲もない日常を送っているわけで、ちょっと小腹が空いてしまって母に何か無いか聞きにいった。
「お母さんお腹すいたー」
「あらあら、まるで育ち盛りの男の子みたいな台詞ね」
「えー、れっきとした女の子ですぅー。ちょっと摘めれば何でもいいからさぁ。最悪飴ちゃんでもいいよ」
「ハッハッハッ! 娘よ! 飴ちゃんとは言わず、ケーキでもどうだ!」
「えっ? ケーキ!?」
「そうだぞ! お前の好きな苺の乗ったショートケーキだ!」
ショートケーキと聞いて、あちらの世界を思い出した。
ニコはまた王様のおやつを盗み食いしてるのだろうか……。
あれ?
「ちょっと、お父さん? 何でこんな時間にいるの? 会社は?」
「うん? 会社か? それなら辞めてきた!」
「…………はぁ!? ちょっ、えっ、はぁ!?」
「ハッハッハッ! 言葉になってないぞ!」
「そんなん当たり前でしょう!? もー、お母さーん!」
「はいはい。丁度いいからおやつ食べながらお話しましょ」
こうして、若干おやつ時にする話じゃなくね? と思わなくもなかったが、ケーキの誘惑に負けリビングへ。
そして話される衝撃の事実!
詳細はこうだった。
「実はな、ずっと隠してたんだが母さんはコロボックルの世界のお姫様だったんだ」
「…………で?」
「ある日父さんの所に襖が現れてな、そこから母さんが現れたんだ」
「うふふ、懐かしいわ」
「三毛猫の母さんはべらぼうに愛らしくてな。一目見て父さんは恋に落ちた!」
「……あー、血筋だー(ボソ)」
「そうなのよー、お母さんコロボックルの姿のままだったのにね? あぁ、あっちではコロボックルはぷにって呼ばれてるのよ」
「……うん、知ってるー(ボソ)」
「それでな、父さんと母さんはあっちで暮らすことにしたんだ!」
「え?」
「私のお父様……あ、あなたのお爺様ね。そろそろ隠居したいからこっちで暮らさないかって」
「国の名前はぷるぷる王国だぞ!」
「え、なにが?」
「あなたのお爺様はチワワなのよ」
「あれー? 今ので納得だー」
「それでね? あなたはどうしたい?」
ふいに問いかけられた言葉に「え?」と声をこぼしていた。
見れば母の顔は真剣だった。
「あっちで暮らすか、こっちに残るか。お前が選びなさい」
そう言った父はにこやかだったけれど、その眼差しは母と同様に真剣で……。
「一つ聞いていい?」
「なぁに?」
「あっちにぷにぷに王国ってある?」
「あら、あるわよ。ぷるぷる王国とはお隣同士仲良しよ」
「王様ウサギだったりする?」
「よく分かったわね。今は白兎の王様だった筈よ」
「じゃあ、ころころ王国は?」
「うーん、その国とは交流はあまり無かったけど……確か王様はパンダだったわね」
「宰相がレッサーパンダだったり?」
「ええ、そうよ。本当よく分かったわねぇ」
間違いねぇ。あれは夢なんかじゃなかった。
そしていつからそこにあったのか、私の後ろの壁にあの襖がデンと存在を主張していた。
「その襖が、あちらの世界への入り口よ」
「後はお前の返事次第だ!」
「あ、荷物とかは心配しなくても大丈夫よ。お爺様が全部用意してくださるって」
「ハッハッハッ! 太っ腹だなぁ!」
豪快に笑う父。
私は振り返って襖の前に立つ。
「さあ、どうする?」
「襖を開ける?」
「私は――」
― もう一度、襖を開けますか? ―
≪いえすっ! 私はぷにに生きる!≫
何とか最終話までこぎ着けました。
こんな感じで終わりましたが如何でしたでしょうか?
最初の構想では、最後に襖が現れて、お持ち帰りエンドだったんですけどね。
いや、これじゃあ主人公の歪み無いぷに愛は表現できねえ……という事でこんな終わりになりました。
では、ここまで読んで下さりありがとうございました!
ぷにぷに!