表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/19

14.逆ハーっぽい展開はお望みですか?


 初恋。


 それは何とも甘酸っぱい響きである。

 いつか誰かが言っていた。


 初恋は自由だと。

 どんな者に恋をしても許されるのだと。

 何故なら、初恋は実らないものだから……。


 そして、それが本当ならば、私は今実らない恋をしているという事になる。


 ……嗚呼、初恋とは何と切ないのか……。


 おまけに相手はぷにである。

 くりくり可愛いけれど、何処か凛々しい赤い瞳の白うさぎのぷにである。

 今こちらをじっと見据えているこのぷには、頭に王冠をかぶせた王様。


 嗚呼、初恋はやっぱり実らないのね……。


 そう思った私の目から、ポロリと雫が落ちる。

 滲む景色の中で、赤い瞳が見開かれた気がした。そして次に頬に感じた感触。


 ふに。

 ふにふにふに。


 こ、これはっ!!



「お、王様! そのような者の頬っぺたをツンツンしたら駄目ピョン!」



 カエル、お前うるさい! 名前がケロヨンのくせにっ!

 というか、この感触は王様が頬っぺたを突ついているの?


 え? ちょい待ち。頬っぺたってことは、お友達になりたいって言う意思表示じゃなかったっけ?

 な、何て事!? 是非お友達にっ!!

 いや、寧ろそれ以上でお願いします!


 思わず私は、頬っぺたを彼に向かってスリスリしてしまった。しかも、真っ直ぐ向かうは彼の頬っぺである。

 どうやらぷにの本能に身体がつき動かされたらしい。

 だって今ぜんぜん意識してやってなかったよ!?

 ハッ! って事は、今まで私のしてきた行動も、全部本能によって引き起こされたものなのか!?



「そなたは王である余にそこまでの想いを……?」



 何か、王様が感極まったように呟いた気がしたけれど、私はスリスリする事に夢中で聞いていなかった。

 だって、流石王様。


 パねぇ……この感触…今まで以上だゼ……。

 パねぇよマジで……ニコ以上だよ。

 うっ、あまりの感触に鼻血が出そー!


 と、その時である。

 今まで以上の至福の感触が私の頬を襲った。そのまま昇天しても可笑しくない天上の感触。

 何と王様は、私の頬っぺたに擦り寄せ返してきたのである。


 はわっ、はわわわわわっ!

 や ば い !!

 これはヤバすぎる!



「今まで、余に対してそんな風に真っ直ぐに、想いを伝えてくれたのはそなただけだ。余はとても嬉しいぞ」



 な、何だろう。

 ぷになのに……声もすっごく可愛いのに……何故だろう? 男を感じるのは……。

 いや、可愛いんだよ? 男って言うより男の子って言った方がいいんだろうけどさ。凄く男を感じます。

 私、変になってしまったんだろうか?

 それにしても、さっきから聞こえるこの音は何だろう?

 グルグルというか、ゴロゴロというか……ハァッ!!

 何と言うことだろう、音の出所って私だっ!!

 私ってば喉鳴らしてるよ!?

 猫だからか!? 猫のぷにだからか!?


 そんな事を思っていると、キュッと手を掴まれた。


 イヤン、手握られちゃった。


 キュンとする胸を押さえていると、王様が言った。



「そなたの黒はとても綺麗だな。尻尾の毛並みも素晴らしい。

 何より、そなたの頬は何者にも代え難い至上の柔らかさだ。

 どうか余とけっこ」

「ちょぉっと、待つもんっ!!」



 え? うそ!? これって願ったりなプロポーズの流れ!?

 等と期待に胸膨らませた矢先、肝心の所で別の者が言葉を遮った。

 その場にいた誰もが、事の成り行きを呆然として見ていた訳だけど、今の声で我に返り各々騒ぎ出した。



「そ、そうだピョン! 待つピョン! 王様気を確かに持つピョン! こんな怪しい奴と結婚なんてっ!」

「この黒猫ぷには、おいらが先に見つけたんだぎゃ! だからおいらのお嫁さんに!」

「何を言うにょろ! 僕だってお嫁さんにするって決めてたぅにょ!」



 何だこいつ等邪魔しやがって、と思っていたけど、その言葉の内容に目を白黒させる。

 思わぬモテ期到来かと、何とも言えぬ思いに包まれた所で、はたと思考を停止させる。


 あれ? 最初に邪魔した声って、あれって確か……。

 そうだよ、語尾が「もん」だし。


 ………。


 ああっ! そうだった! 私、だんご虫のぷににプロポーズされてたぁ!!

 しかも、そんなニコの前で私、王様とイチャこらしようとしてた!


 ………。


 え? 私悪女?

 いや、でもさ。言い訳させてもらうと、ニコの時って私まだ恋とか知らなかった訳だしさ……。

 適当な気持ちで接してた私も悪いけど……でもでも、王様は初恋なのだよ。こんな気持ちは初めてなのです。

 こうしている間も、外野はギャーギャー騒いでた訳だけれども。

 王様、王様……あれ? そういえば王様って語尾に何も付けてなくない?

 めっちゃ今更だけどさ。

 王様だから? 王様クオリティ? オプション?

 ……やだ、そんな王様ステキ……。


 そんな感じでウットリしていたら、急にグイッと引っ張られました。

 ビックリして引っ張られた方を見れば、怒った顔をしただんご虫のぷにが居た。



「ニコ?」

「もう、この子は僕のお嫁さんだもん! プロポーズだって済ませたもん!

 お前達なんてお呼びじゃないんだもん!」



 そう叫ぶと、私の手をグイグイ引っ張ってその場から連れ出そうとする。



「あっ……」



 私は王様に手を伸ばす。

 王様もこちらに向かって手を……。


 何か悲劇のヒロインっぽいんですけど……。

 いやいや、そんな自分に酔ってなんていませんよ!

 逆に寒いからっ! 私のキャラじゃないから!



「ま、待てピョン!」

「そーいえばお前は誰だぎゃ!?」

「そうにょろ! さっきまで誰も居なかったぅにょ!」



 いや、居たよ。

 ずっとお前達の側で転がってたよ。

 すると彼らの言葉を受け、ニコは立ち止まり振り返った。その顔は自信に満ち溢れている。

 ぶっちゃけて言うと、ドヤ顔である。



「僕はコロコロ王国隠密部隊隊長、だんご虫のニコだもん!」

「お、隠密部隊!?」

「ハッ、じゃあまさか! お前が曲者なのかぎゃ!?」

「じゃあ、王様のおやつを摘み食いしたのも……」

「フッ、クリームたっぷりの大きなイチゴが乗ったショートケーキの事かもん? とても美味しく頂いたもん!」



 いや、何か物凄く深刻な状況のようだけど、話の内容大した事ないからね?

 ニコもかっこつけてるようで、かっこ悪いからね?

 ただ、つまみ食いして「メッ!」な話だからね?



「くそ! 何て卑劣な奴だぎゃ!」

「王様のおやつを……なんてあくどい奴にょろ……」



 何だこの悲壮感漂う雰囲気は……。

 カエルも「そんな……王様のおやつが……」とか言って頭抱えてるし……。

 ニコや? お前もなんてあくどい顔をしているんだい?

 全然怖くないから。寧ろ可愛いから。

 そんなちっちゃいお口でニヤッと笑っても、そのぷくぷく頬っぺの愛らしさが打ち消してるから。


 それから、王様はというと……。


 ええ、思わずドキッとしちゃいましたよ。

 だってね? ずっとね? こっちを見ているんですもの。

 真剣な眼差しで、こちらをじっと見据えてるんですもの。

 ニコが曲者とか、つまみ食いとか、全然気にしてないと言うか……。

 え? もしかして私の事しか考えてないとか……。

 いやいや、まさかそんな。自惚れてはいけないよ私。


 しかし、王様がその時、私に向かってスッと手を差し伸べてきた。

 まるで来いって言ってるみたいに。




 ― 逆ハーっぽい展開はお望みですか? ―

《実際なってみるとあんま嬉しくない》



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ