11.S心と秋の空は移ろいやすい?
どうも! 前回、何やらニコが曲者の正体だと判明し、捕まったら“頬っぺたつねつねの刑”だと恐がっているニコに(萌えっとなんかしてないんだからね!)と迂闊にもツンデレってみた自分に思いっ切り引いていた、そう私です。
さっきまでぷるぷると震えていたニコも、漸く落ち着きを取り戻したようで、良かった良かった。
やっぱり頬っぺたを突っついてあげたのが良かったみたい。
ポッと頬を染めてはにかみながらも嬉しそうにしていたのには、ズキュンとやられたけれど。
あれ? でも、確かこの行為って友達になりたい意思表示だったはずだよね? お友達以上の関係(一応)の今ってどうなの? どうなるの? うーん、ま、いっか。
それよりもニコが曲者だったとは……。
罪状は……摘み食い?
あるりぇー? 何か私も一緒に食べちゃったけど、これって共犯になるんだろうか?
むむーんと考えていると、ニコが急にハッと顔を上げて、
「ハッ! 誰か来るもん! 結婚式の話はまた今度にするもん!」
とか言ってギュルンと甲羅を丸めて、見事な灰色のボールになる。
そしてボールになったと同時に、息を切らせたレオンとニールが戻ってきた。
「待たせたぎゃ!」
「こんな所に置いてきぼりにして、ごめんなさいにょろ!」
二匹のコロボックルはすまなそうに眉を下げていた。ものすっげキュンときた。
「ううん、大丈夫。親切な人……いや、親切なぷにが話し相手になってくりぇたにょ」
チラと廊下の端っこに丸まったニコを見ながら言う。
あ、今少しピクッと動いた。
いや、あのね。別にバラそうとか思ってないから。
私の予想だと、絶対大丈夫だと思うんだよね。
だってニコすっごい自信たっぷりに丸まってたからね。
それに、ここが私の常識を凌駕した場所って言うのと、どんな反応するのかとか興味もあったし、バレたとしても刑軽そうだし、そして少しばかりのS心?
「ふーん。それでその親切な奴は何処に行ったぎゃ?」
「此方からもお礼を言いたいにょろ」
レオンもニールもキョロキョロと辺りを見回すけれども、灰色の丸い物体が視界に入ったにも拘わらず、完璧にスルーした。
やはり私の予想通りだった。
すごいな、ぷにの認識能力……。こりゃあれだな、隠れ蓑の術とか言って、壁と全く違う柄の布で隠れても見つからなさそうだな。
………。
え?? 何そのベタコント?
きっとニコは甲羅の中で得意満面となっている事だろう。
それを想像したら、また私のS心がざわつきました。
「それで、レオン達は曲者は捕まえられたにょ?」
おうおう、ニコってば今ビクってなったよ。おもしろーい。(←ひでぇ)
「それがおいら達が行った時には、既に逃げた後だったんだぎゃ」
「本当逃げ足が早い奴にょ! 見つけたらただじゃおかないにょろ!」
「そうだぎゃ、頬っぺたつねつねの刑だぎゃ!」
ああ、震えてる! ニコってば震えてる!
それなのに何故気づかないぷに達よ!
でも何これ、すっげ楽しい!
「そんなに頬っぺたつねつねの刑って怖いにょ?」
「何言ってるんだぎゃ! 怖いに決まってるんだぎゃ!」
「そうにょろ! 絶対そんな刑受けたくないにょろ!!」
おおぅ、レオンもニールもさっきのニコみたいに頬っぺた押さえてぷるぷるしてるよ。涙目萌えっ!
「わたちもっと怖い刑知ってるよ」
ここで私のS心に火がついた。
レオンとニールもビクビクとしながらも興味を示している。
おまけにニコも、ピタッと閉じていた甲羅を少しだけ開けて此方を伺っている。
ますますS心が燃え上がるじゃないか!
私は彼らに聞こえる程度に声を落として言う。
「それはね、パッチンの刑って言うにょ」
「パッチン?」
「聞いた事がないにょろね」
「うん、滅多に執行しゃりぇにゃい(されない)刑だかりゃ。だけど、本当に悪い事をしたぷににだけ、この刑は執行しゃりぇる(される)……」
「ど、どんな刑なんだぎゃ?」
「き、気になるにょろ」
「………」
ゴクンと喉を鳴らしたレオン達。ニコもいつの間にやら私のすぐ後ろにやってきて話を聞いている。
ああ、ニコってばもろにレオン達の視界に入ってるのに……。よく見りゃ、ふるふると震えてるのに……。
何故気付かない!?
いや、面白いけど。
むしろ、そんなぷに達の認識力の低さは、私の萌えセンサーを著しく刺激するけれども。
私はさっきから萌え萌えして床を転げ回りたい衝動を必死に押さえ、彼らに説明を開始する。
《ぷにのぷにによるぷに達の為のパッチン講座》
1.適度な長さの紐数本と、紐と同じ数の洗濯バサミを用意しよう。(数は受刑者の犯罪の数だけ用意しよう)
2.洗濯バサミに紐を括り付けよう。(洗濯バサミから紐が解けないようにしっかりと縛り付けようね)
3.次に受刑者の罪状を読み上げると共に、一つづつ洗濯バサミを受刑者の頬っぺたに挟んでいこう。
4.洗濯バサミを全部頬っぺたに付け終わったら、最後の仕上げに洗濯バサミに付いた紐を一斉に力一杯引っ張ろう。
『ぎゃぁあああー!!』
レオン達が頬っぺたを押さえて叫んだ。
3のあたりから、彼らの目がキョドり始めたけど、私の思惑通り4の最後で見事に全員反応してくれた。
みんな涙目である。
ちょっとやりすぎたかな、尋常じゃない怖がりようなんだけど。
怪談話なんて目じゃないね。
レオンなんてその場で縮こまってガタガタ震えてるし、ニールは涙を流しながら「うあぁぁーん!! 頬っぺたが!! 頬っぺたがー!!」と泣き叫んでいる。
ニコは震えてはいないが、甲羅の隙間から液体が流れている。微かに「シクシク」と聞こえる事から、泣いているようだ。
どんだけ!? どんだけ頬っぺた大事なの!?
つーか、何この子達。
萌えー!! 怯えて泣いてる子達、萌えー!!
ああ、なんかこの城にいるぷに達全員集めて今の話してぇー!! 大集団で怯えているぷに達が見てみたーい!!
― S心と秋の空は移ろいやすい ―
《移ろいやすいと言うかぷにだからこその湧き上がるS心だと思う》