第38話:エマの事
ミレー殿下にお会いしてから1週間後、ミレー殿下はアイザック殿下を連れ、パレッソ王国に帰って行った。
この1週間で異例の速さで婚約を済ませ、早速国に戻ったら、婚約披露パーティーを行うらしい。そしてアイザック殿下はそのまま、パレッソ王国の女王の配偶者となる為の教育を受けるらしい。
その話をエヴァン様に聞いた時、あまりにも急展開でさすがに驚いた。ただ、ミレー殿下が一刻も早く婚約を結び、国でお披露目をしたいと陛下に伝えた事、さらに本人でもあるアイザック殿下が、ミレー殿下と離れる事を強く拒んだため、このようなスケジュールになったらしい。
アイザック殿下は完全にミレー殿下の美しさにノックアウトされている様だが、ミレー殿下の勇ましさを知ったら怖気づかないかしら?そう思ったのだが…
「たとえ怖気づいたとしても、既に国を挙げて婚約発表をするのだから、今更逃げ出す事なんて出来ないよ。アイザック殿下の卑怯で自分の事しか考えてない甘ったれた性格を、少しは叩き直してもらえるいい機会だろう」
そう言ってエヴァン様は笑っていた。確かにアイザック殿下は少し考えが甘いところがあるし、何よりミレー殿下はアイザック殿下を躾し直すのを楽しみにしていた。きっとアイザック殿下は。
…これ以上想像するのは止めよう。とにかくアイザック殿下は、お美しい女性と結婚したかったのだ。その願いが叶ったのだから、きっとよかったのだろう。きっと…
ちなみに今は、エマと一緒に昼食タイムだ。
「ねえ、ルーナ。ここ数日、ナタリー様があなたに暴言を吐かなくなったわね。一体どうしたのかしら?」
不信そうな表情で私に問いかけてくるエマ。
「そうね、そういえば最近大人しいわね。もしかして、ミレー殿下に言われた事を気にしているのかしら?それとも、さすがに他国の次期女王様の前で悪態をついたことを、公爵様に怒られたとか…」
「あの女がそんな事で、ルーナに対する嫌がらせを止めるなんて思えないわ。きっと何か企んでいるのよ。そうに違いないわ。私、なんだか嫌な予感がするの」
「大丈夫よ、きっとまたしばらくすれば、いつもの様に私に暴言を吐くようになるわ」
「そうよね。あのナタリー様から暴言を取ったら、何も残らないものね」
「さすがにそれは言いすぎよ。それよりエマ、今週末、また孤児院に行くの?」
「ええ、もちろんよ。孤児院の子供たち、本当に可愛いのよ」
「知っているわ。私がエヴァン様に冷遇されている時、何度か連れて行ってくれたじゃない。私、子供たちの無邪気な笑顔を見て本当に心が救われたの。そういえばエヴァン様と婚約破棄をしてから、一度も孤児院に行った事がなかったわね。私も連れてってくれる?」
「…ごめんね…あの時はルーナが少しでも元気になってくれたらと思って連れて行ったのだけれど…その…今は…」
珍しくエマが言葉に詰まっている。どうしたのかしら?ただ、きっと私に孤児院に来て欲しくない理由があるのだろう。
「大丈夫よ。私の方こそ困らせてごめんね。そうだ、それならせめて、文房具を子供たちに持って行ってあげてくれない?あの子たち、きっと喜ぶと思うの」
「ええ、もちろんよ。ルーナ…私…うんうん、何でもない」
何かを言いかけたエマ。
「エマ、あなたが何を隠しているか知らないけれど、私はいつでもあなたの味方よ。それだけは忘れないでね」
「…ルーナ、私は何も隠していないわ。ただ…昔、貴族学院に入る前にね。私と同じ様に、孤児院に来ていた男の子がいたの。とても優しくて、子供思いで、本当に素敵な子だった。でも…」
「エマ、その男の事の子が好きなのね。だからあなた、婚約者を作らないの?ねえ、その男の子って一体どんな人なの?」
「もう、ルーナはすぐに食いついてくるのだから。確かにその人の事は大好きよ。でも…私には逆立ちしても手に入らない様な人なの。だからね、私、自分からお別れを言ったの。でも…もしかしたらまた、孤児院に来てくれるんじゃないかって思って…」
「なるほど、だから極力私を連れていきたくないのね。エマ、可愛い!」
ギューッとエマを抱きしめた。
「もう、からかわないで!ほら、もうすぐお昼休みが終わるわよ。早く食べましょう」
顔を赤くして急いで食事を口に運ぶエマ。昔からエマはそう、自分の事はあまり話してくれない。そんなエマが、自分の事を話してくれた。それが嬉しくてたまらない。
でも、エマが恋をした相手って、どんな人だったのかしら?出来ればエマの恋を叶えてあげたい。う~ん、相手が誰だかわかれば、協力も出来るのだけれど。
「ルーナ、私とその子をなんとかして逢わせてあげたい、恋を叶えてあげたいって考えているでしょう。気持ちは嬉しいけれど、さっきも言った通り、逆立ちしても手に入らない人なの。だから変な考えを起こさないでよ!いいわね!」
そう釘を刺されてしまった。エマったら、どうして私の考えていることがわかるのかしら?それでもやっぱり私は、エマに幸せになってもらいたい。
そう心から願っているのだ。




