第34話:ミレー殿下が私に会いたいそうです
「ルーナ、明日なのだが陛下に呼ばれてしまってな。急なのだが私と一緒に登城してくれるかい?」
パレッソ王国のミレー殿下が我が国に来て、1週間が過ぎようとしていた頃、急にお父様から王宮に出向くように言われたのだ。
「急にどうされたのですか?陛下に呼ばれるだなんて、私、何も悪い事をしたつもりはありませんが…」
もしかしてナタリー様の事で何か私に言いたい事でもあるのかしら?でもどちらかと言うと、ナタリー様が一方的に私に暴言を吐いているのだけれど…
「実はな、今パレッソ王国からミレー殿下が来ているのだが、どうしてもルーナに会いたいとの事なんだよ。ほら、ルーナはアイザック殿下から婚約の申し込みを受けていただろう。それで…」
そっちか!もしかして私に文句を言いたいのかしら?どうしましょう、次期王妃様だけでなく、他国の次期女王様にまで嫌われているだなんて…
「そんなに青い顔をしなくても大丈夫だよ。ミレー殿下もルーナに文句を言いたい訳ではない様だから。明日はその…エヴァン殿もいる様だし…」
「エヴァン様がですか?一体どうして?」
「今回ミレー殿下にアイザック殿下を紹介したのは、どうやらエヴァン殿の様だ。表向きは資源が豊富なパレッソ王国との関係を深めたいためと言っていたが…きっとルーナの婚約者候補に名乗りを上げている人物の中で、唯一自分より身分の高いアイザック殿下を排除したいのだろう…」
何とも言えない顔で呟いたお父様。
「まあ、どんな理由であれ、アイザック殿下がミレー殿下と結婚すれば、我が国には大きな利益になる。幸いアイザック殿下はミレー殿下の神的な美しさにすっかりノックアウトされた様だし、ミレー殿下も、中性的で温厚なアイザック殿下を気に入った様だよ」
なるほど、お互いが気に入っているなら、何も問題ないのだろう。それで、なぜ私が呼ばれたのかしら…
「とにかく、ミレー殿下はナタリー嬢みたいな人ではない様だから、そんなに不安そうな顔をしなくてもいい」
そう言ってほほ笑んだお父様。
話が終わると、自室に戻ってきた。お父様はああ言っていたけれど、本当に大丈夫かしら?もしミレー殿下に“私のアイザック殿下に手を出すなんて!この尻軽女!”とか罵られたら、どうしよう。
あぁ、考えただけで頭が痛い。でも、エヴァン様もいる様だし、なんとかなるか…て、どうしてここで、エヴァン様が出てくるのよ。第一、私は侯爵令嬢なのよ。こういうピンチな場面でも、上手くかわせる様にならないと、立派な貴族とは言えないわ。
そうよ、エヴァン様になんて、頼っていられないわ。明日は自分の力で、困難を乗り越えないと!
翌日、瞳の色に合わせ、水色のドレスを着て王宮へと向かう。
「ルーナ、緊張しているのかい?大丈夫だよ。陛下やクリスティロソン公爵の話では、ミレー殿下は気さくでいい人らしいから。それに…」
「それに?」
「いいや、何でもない。さあ、王宮に着いたよ」
話をそらされてしまった。私はそれに…に続く言葉が聞きたかったのに!でも、着いてしまったものは仕方がない。気を取り直し、ゆっくりと馬車から降り、お父様と一緒に王宮の中に入って行く。
王宮なんてほとんど来たことがないから緊張するわ。でも、キョロキョロ見るなんてはしたない事はしないんだから。背筋をピンと伸ばし、お父様について歩いて行く。そして、扉の前で止まった。きっとこの扉の向こうに、ミレー殿下がいらっしゃるのだろう。
「ルーナ、大丈夫かい?さあ、中に入ろうか?」
「ええ、大丈夫ですわ。参りましょう」
ゆっくり深呼吸をして気持ちを落ち着かせた後、お父様に向かってそう伝えた。扉が開き、お父様と一緒に部屋の中に入って行く。
もちろん、背筋を伸ばし、しっかり前を向く。本当は今にも心臓が口から飛び出そうなくらい緊張しているが、極力冷静を装う。
部屋の中には、陛下と王妃様、ハドソン殿下と不機嫌そうなナタリー様、クリスティロソン公爵とエヴァン様、さらに銀色の髪に赤い瞳をしたそれはそれは美しい女性と、その女性にベッタリくっ付いてだらしのない…失礼、嬉しそうな顔をしたアイザック殿下の姿が。
「皆様、お待たせして申し訳ございません。ミレー殿下、こちらが娘のルーナです」
「ルーナ・アルフィーノです。どうぞよろしくお願いいたします。ミレー殿下」
ミレー殿下に向かって、カーテシーを決める。その時だった。
「ちょっと、どうしてドレスが青色なの?私のドレスと被っているじゃない!もしかしてあなた、ハドソン様の瞳の色を意識してドレスを選んだの?アイザック殿下が駄目なら、ハドソン殿下を狙うだなんて、本当に卑しい女ね!」
すかさず私に暴言を吐くナタリー様。ちょっと、いくら何でも、ミレー殿下の前で暴言を吐くだなんて。
「ナタリー様、それは誤解ですわ。私は自分の瞳に合わせて、水色のドレスを着てきたまでです」
「ナタリー嬢、変な難癖をつけて、ルーナを困らせるのはやめて下さい。このドレスは、僕が彼女への償いの為に、贈ったものだ。ルーナの瞳を意識してね。ルーナ、そのドレス、とても似合っているよ」
私を背にかばい、ナタリー様にはっきりと告げてくれるエヴァン様。またエヴァン様に助けられてしまったわ。それにしても、見た事のないドレスだと思っていたけれど、まさかエヴァン様の贈り物だったなんて…
「またそうやってすぐにこの女を庇って!大体青も水色も同じ様な色でしょう?ハドソン様の色でもある青系をこんな重要な場所で着てくるだなんて、本当に気が利かない女。侯爵も娘をどんな育て方をしたのかしら?男に色目を使う事だけは、一人前のようだけれど」
今度はお父様の事まで酷く言うなんて、さすがにこの暴言は許せないわ。
そう思って反論しようとした時だった。




