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トン。トン。

ソル

「違う」



トン。


タツゾウの包丁が、まな板に落ちる。




今度こそ、と力を込める。




トン。


さっきよりは、ましだ。




だが。




ソル

「……違う」




間髪入れずに落ちる声。





タツゾウ

「どこがだ!!」


ソル

「……力、強すぎ」


タツゾウ

「強ぇほうが切れるだろうが!!」




トン!


叩きつけるように切る。




ぐしゃ、と音がした。




ソル

「……ほら」


タツゾウ

「……っ」


ソル

「……潰れてる」




まただ。




また、同じだ。




タツゾウは歯を食いしばる。




タツゾウ

「……もう一回だ」




トン。


トン。


トン。




今度は慎重に。




だが、ぎこちない。




ソル

「……違う」


タツゾウ

「まだかよ!!」


ソル

「……遅い」


タツゾウ

「はぁ!?」


ソル

「……均一じゃない」


タツゾウ

「そんなもん食えりゃ――」


ソル

「……違う」




被せるように、同じトーン。




タツゾウのこめかみが、ぴくりと動く。




トン、トン、トン。




何度も。


何度も。


切る。


潰す。


やり直す。




ソル

「……違う」



ソル

「……違う」



ソル

「……違う」



変わらない声。


変わらない温度。




フワンは、横で静かに見ている。




止めない。


助けない。


ただ、見ている。




タツゾウ

「……っざけんな!!」




ついに、包丁を叩き置いた。




ガン、と鈍い音が響く。




モフリオンはびくっと怯えている。




タツゾウ

「こんなもん、やってられっか!!」




ソルは、少しも動じない。




ソル

「……そう」




それだけ。


それだけで、火に油が注がれる。




タツゾウ

「帰る!!」




背を向ける。




そのとき。




フワン

「タツさん」




やわらかい声が、止めた。




タツゾウ

「なんだよ」




振り返らない。




フワン

「ソルさん、意地悪してるわけじゃないんです」




タツゾウ

「……」




フワン

「ただ、料理が好きなんです」




少しだけ、言葉を選ぶように間があく。




フワン

「言い方は、きついかもしれませんけど」




タツゾウ

「……」




フワン

「タツさんと、同じですよ」




その一言で、タツゾウの足が止まった。




フワン

「ちゃんとやりたいから、言うんです」




静かな声。




押しつけるでもなく、ただ置くように。




フワン

「“これじゃダメだ”って」




タツゾウの頭に、浮かぶ。




弟子に怒鳴った自分。




「こんなんじゃ通用しねぇ!」と叩き直した日々。




タツゾウ

「……」




ゆっくりと、振り返る。




ソルは、変わらずそこにいる。




無表情で。


ただ、こちらを見ている。




タツゾウ

「……ちっ」




頭をかく。




タツゾウ

「……悪かったな、さっきは」


ソル

「……別にいい」




間。




それだけ。


それ以上、何も言わない。




タツゾウは少しだけ、目を細めた。




タツゾウ

「……お前」


ソル

「……?」


タツゾウ

「めんどくせぇな」


ソル

「……そう」




やっぱり、変わらない。


だが、さっきほど腹は立たなかった。




ソル

「……料理、続ける?」




短い確認。




タツゾウは、ふっと息を吐く。




タツゾウ

「あぁ」




もう一度、包丁を手に取る。




タツゾウ

「もう一度、よろしく頼む」




ソルは、わずかに頷いた。




ソル

「……じゃあ」




まな板を指さす。




ソル

「……そこから」




また、同じ場所。




だが。


さっきとは、少しだけ違う。




トン。




タツゾウの手が、今度はほんのわずかに軽くなる。




その動きを。



ソルは、無言で見ていた。

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