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迷える神

扉の鈴が、ちりんと鳴る。


「……やってるか」


「おや、ディジルさん」


フワンが顔を上げる。


その瞬間。

梁の上から、くすりと笑い声。


「ほう。これはまた、面白いものが来たのう」


ディジルの背筋が、ぴくりと揺れる。


「……今、誰かいたか?」


「さぁ?」


フワンは、パンを切る。


モフリオンが、ぴたりとディジルの足元に座った。



「……実は、フワンさんに相談がある」


少しだけ声が低い。


「ほう」


「誰にも言うなよ?」


「えぇ」


フワンは穏やかにうなずく。


ディジルは一瞬ためらい、視線を逸らす。


「人間の家に……行くことになった」



沈黙。



窯の火が、ぱちりと鳴る。


「それはまた、大きな一歩ですね」


「別に大したことじゃない」

即答。


だが拳は、わずかに握られている。


「ただ……その……」


梁の上から、愉快そうな声。


「ほう?恋の匂いがするのう」


「うわぁっ!!」


ディジルが跳ねる。


「お前!いつからいた!!」


「ずっと聞こえておったぞ?」


「最悪だ……」


額を押さえるディジル。


「一番聞かれたくないやつに……」


アマリュウがくつくつ笑う。


「神ともあろう者が、人間の家に行くだけで震えるとは」


「震えてない!」

即座に否定。


「うるさい!帰れ!」


「我はまだパンを食うておらぬ」


「食わなくていい!」


モフリオンが、もふ、と鳴いた。


フワンは、静かに新しいパンを窯へ入れる。


「ディジルさん」


「……なんだ」


「怖いのは、悪いことではありませんよ」


ディジルは黙る。


視線を落とし、ぼそりと。


「……そうだよな」


「えぇ」


「……ここだけの話にしてくれよ」



梁の上から、にやりとした気配。


「無論、我は黙っておこう」


「信用できるか!!」


窯の火が、ぱちりと弾けた。

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