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ノクシア登場

今日もみんなは「境界の窯」にいる。




焼きたてのパンの香りと、いつものゆるい空気だ。



モフリオンが、雲のような体をふわふわと揺らしながら、棚の上を行き来している。




ディジル

「おいこら、そこは食うなって言ってるだろ」


モフリオン

「もふ〜」


イネリア

「モフリオン元気だべ〜」


フワン

「ふふ、今日はよく動きますね」




そのとき──




モフリオンが、すっと軌道を変えた。




ディジルの顔のすぐ横へ、ふわりと寄ってくる。




ディジル

「うおっ!?」


反射的にのけぞる。


そのまま足を引いて──




ゴンッ




ディジル

「っっっっっ!!」




その場で固まる。





みちる

「え、なに!?」


ディジル

「……小指……やった……」


みちる

「え、だいじょうぶ!?」


イネリア

「うわ、それ痛いやつだべ……」


フワン

「見せてください」




しゃがみ込み、確認するフワン。




フワン

「腫れてきていますね……折れてはいなさそうですが」


ディジル

「いやこれ無理だろ……歩けねぇ……」


モフリオン

「もふ……」


しゅんとした様子で、ディジルの周りをふわふわ漂う。




──そのとき




扉の鈴が、ちりんと鳴る。




ゆっくりと入ってきたのは、黒いローブに身を包んだ小柄な老婆だった。




折れたとんがり帽子。丸メガネの奥で、静かな目が光る。




ノクシア

「騒がしいねぇ」




空気が、すっと変わる。




イネリア

「ノクシア様〜!」




ぱっと駆け寄る。




フワンはすぐに姿勢を正す。




フワン

「……ノクシア様。本日はどのようなご用件で」




梁の上のアマリュウも、わずかに姿勢を正す。




ディジル

「……ばあさん」




ノクシアはゆっくりと近づき、ディジルの足元を見る。




ノクシア

「ほう……」




しゃがみ込み、そっと小指に触れる。




ディジル

「いっ……!」




ノクシア

「ただの打撲だねぇ。大げさに騒ぐんじゃないよ」




ディジル

「大げさじゃねぇって……!」




ノクシアは懐から小さな瓶を取り出す。




透明な液体が、かすかに光っている。




ノクシア

「これを一滴」




指先に乗せ、軽く触れる。




ほんの一瞬。




ディジル

「……あれ?」




ゆっくり足を動かす。




ディジル

「痛くねぇ……」




みちる

「え、もう!?」


イネリア

「すごいだべ〜!」


フワン

「……さすがでございます」





ノクシアは瓶をしまい、立ち上がる。




ノクシア

「これくらい、どうということもないさ」




ディジル

「最初から呼べばよかったじゃねぇか……」




ノクシア

「なんでも頼るんじゃないよ」




少しだけ口元が緩む。




みちる

「おばあちゃんすごい⋯!」


イネリア

「みちる!ノクシア様をおばあちゃん呼びだべ!?」


ノクシア

「イヒヒ……何でも構わないよ」




一拍おいて、ノクシアは目を細める。




ノクシア

「……今日はねぇ、お前たちに頼みがあって来たんだ」




フワン

「頼み、ですか?」




ノクシアは店の奥、窓の外へ目を向ける。




ノクシア

「少しばかり、手を借りたいことがあってねぇ」




イネリア

「お手伝いだべ!?」




ノクシア

「……ああ。花を、摘みに行く」




その一言に、空気がわずかに張りつめる。




みちる

「花……?」


ディジル

「ただの花じゃなさそうだな」





ノクシアはゆっくりと振り返り、メガネの奥で目を細めた。




ノクシア

「そうさねぇ……」




ノクシア

「“効きすぎる”花さ」




モフリオン

「もふ……?」

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