夜と、知らない君と
――僕は、その夜のことを
きっと忘れないだろう。
―――
見慣れた狭い住宅街。
真夜中、灯りはまばらで、
ただ夜になっただけのはずなのに、
どこか少しだけ違って見えた。
―――
あてもなく歩く。
ただ、歩き続ける。
それでも――
何かを探していたような気がした。
―――
風が吹いた。
誘われるように顔を上げると、
屋根の上に人が座っていた。
こんな時間に、こんな場所に――
人がいる。
その事実に驚いて、
思わず声が漏れた。
「……わっ」
―――
どこか遠くを見ていたその人は、
僕に気づくと、
消え入りそうな笑顔を向けてきた。
性別はわからない。
ただ、月明かりに照らされたその姿は、
息をのむほど――綺麗だった。
―――
しまった、と思って
僕は慌てて口を押さえた。
――でも、遅かった。
次の瞬間、
その人は屋根から飛び降りた。
―――
思わず悲鳴が出そうになる。
けれどその人は、
音もなく、重さすら感じさせないほど
ふわりと地面に降り立つと、
僕の口元に手をあてて、静かに言った。
アマリュウ
「――騒ぐでない」
―――
体が動かない。
声も出ない。
そんな僕を見かねたのか、
その人は穏やかに問いかけてきた。
アマリュウ
「こんな時間に、何をしておる?」
少しの間、言葉が出なかったが、
ようやく声を絞り出す。
「……はは、夜の散歩……です」
本当は違う。
家にいたくなくて、
衝動のまま飛び出して、
――このまま消えてしまいたかった。
でも、そんなことは言えない。
「あなたこそ、どうして屋根の上に?」
アマリュウ
「ん? まあ……星を見ておった」
(天体観測……?)
そんなことを考えていると、
アマリュウ
「……散歩か。では、お前に付き合おうかのう」
どうやら、ついてくるらしい。
見知らぬ相手にしては、あまりにも自然で、
少しだけおかしいと思ったけれど――
「……じゃあ、行きましょうか」
理由もなく、
僕はその申し出を受け入れていた。




