表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺大学生、あいつは多分地球の侵略者  作者: 続けて 次郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/17

第五章 協力者候補の反撃計画

屋上で「対立する」と宣言した翌日から、世界の見え方が変わった。いや、正確には“疑う視点”が増えた。駅の広告、大学の掲示板、SNSのトレンド、ニュースのコメント欄。これまではただ流れていく情報だったものが、今は全部、侵略の前触れに見える。


そして厄介なことに、内容そのものは間違っていないのだ。


「争いを減らそう」「環境を守ろう」「技術で格差をなくそう」。どれも正論だ。だからこそ広がる。強制ではない。だが、微妙に“統合”へ誘導する方向へと角度がついている。


天城の言っていた「アルゴリズムの微調整」というやつだろう。


二限の前、俺はわざと少し早く教室に入った。天城はまだ来ていない。珍しい。彼女はいつも正確すぎる時間に現れる。


俺は自分の席に座り、ノートを開くふりをしながら思考を整理する。


まず前提。

天城リラは地球外知的生命体の調査ユニット三号。

目的は“侵略”という名の統合。

現在は情報網への浸透段階。

そして俺は“協力者候補”兼“ノイズ”。


ノイズであるなら、拡大すればいい。


昨日、屋上で彼女は言った。「あなたの存在が選定を早めた可能性があります」と。つまり俺の影響はゼロではない。むしろ、内部ログに高優先度で保存される程度には重要らしい。


ならば、俺が意図的に“揺らぎ”を起こせばどうなる?


そこまで考えたとき、教室のドアが開いた。天城が入ってくる。歩幅、姿勢、視線。いつも通り、完璧だ。


だが席に着く瞬間、ほんのわずかに机の角にぶつかった。


コツン、と小さな音。


俺は目を見開いた。天城が物にぶつかる? そんな“誤差”があるのか。


彼女は一瞬動きを止め、机を見下ろした。「位置誤差、0.8センチ」と小さく呟く。


「珍しいな」と俺は言う。


「周囲の電磁環境に変動があります」


「言い訳くさいぞ」


彼女は何も言わない。ただノートを広げる。その手の動きが、ほんの少しだけぎこちない。


講義が始まる。今日は社会心理学。群衆心理や同調圧力の話だ。タイミングが悪すぎる。


教授が言う。「人は多数派の意見に引き寄せられる傾向があります。自分で選んでいるつもりでも、環境が選択を誘導していることがある」


教室の空気が妙に重く感じる。俺は天城のノートを盗み見る。今日の文字列は、いつもより微妙に傾きが違う。完全な直線ではない。


「なあ」と俺は小声で言う。「お前らのやってることって、今の講義そのまんまじゃないか?」


「定義が曖昧です」と彼女は言うが、声にわずかな遅れがある。


「人間が“自分で選んだ”って思えるように誘導してるだけだろ」


「……効率的です」


言い切るまでに、コンマ数秒の間。


俺は確信を強める。揺らいでいる。


講義後、俺は天城を中庭に連れ出した。昼休みの喧騒が周囲に広がっている。あえて人の多い場所を選んだ。彼女は空間を遮断するが、常に使えるわけではないはずだ。


「反撃する」と俺は言った。


「具体案を提示してください」


「お前らの“統合”がどれだけ気持ち悪いか、証明する」


「感情的表現です」


「感情が大事なんだよ」


俺はスマホを取り出した。昨日から考えていた。侵略は情報から始まっている。ならばこちらも情報で対抗する。


「俺は普通の大学生だ。でも普通の大学生が“なんか変だ”って思うことはできる。小さくてもいい。疑問を投げる」


「拡散力は限定的です」と彼女。


「でもゼロじゃないだろ?」


彼女は沈黙する。


俺は続ける。「例えばさ、最近の広告や配信の傾向をまとめて、“不自然じゃないか?”って投稿する。陰謀論みたいに見えてもいい。でも違和感を持つ人が増えれば、お前らの“最適化”はノイズが増える」


「ノイズは排除されます」


「全部は無理だろ」


彼女の瞳が、わずかに揺れる。


「あなたは自分を危険にさらしています」と彼女は言った。


「お前が排除するのか?」


「……未定です」


またその言葉だ。


そのとき、中庭の大型モニターが突然切り替わった。例のライブ配信が流れ始める。音声は穏やかだが、言葉は徐々に具体性を帯びている。


『近く、革新的な技術提携が発表されます。世界は変わる』


周囲の学生たちは興味半分で見上げている。中には拍手しているやつもいる。希望に見えるからだ。


「これ、止められないのか」と俺は呟く。


「現段階では不可です」と天城は言う。


「じゃあ、遅らせることは?」


彼女は俺を見つめる。長い、長い沈黙。


「……可能性はあります」


「どうやって?」


「内部演算に負荷がかかれば、判断が遅延します」


俺は笑った。「つまり俺か」


「あなたとの対話は負荷が高いです」


少しだけ誇らしい。


「じゃあ話そうぜ、もっと」


「それは……」


彼女の言葉が途切れる。瞳の青が明滅する。周囲の空気がわずかに歪む。


「警告」と彼女は小さく呟いた。「内部監視が強化されています」


「母星か?」


「はい。私の演算遅延が検出されました」


背筋が冷たくなる。


「どうなる?」


「修正命令が出る可能性があります」


「修正って何だ」


彼女は俺を見る。その目は、初めてはっきりと“不安”に近いものを帯びていた。


「人格パラメータの再調整です」


それはつまり――。


「お前が、お前じゃなくなるってことか?」


彼女は答えない。


その沈黙が、何より雄弁だった。


中庭の喧騒が遠く感じる。侵略は静かに進み、同時に天城は“修正”されようとしている。


「ふざけんな」と俺は言った。「俺がノイズなら、もっとでかいノイズになってやる」


彼女の瞳が強く光る。「危険です」


「関係ない」


俺はスマホを握りしめる。まだ何も始めていない。計画も曖昧だ。だが、確実に分かったことがある。


侵略は巨大だ。だが、完全ではない。

そして侵略者は、揺らいでいる。


「天城」と俺は言う。「修正なんてさせない」


彼女はゆっくりと瞬きをした。これまで見たことのない、明確な瞬き。


「……観察を継続します、神谷悠人」と彼女は言った。その声は、ほんのわずかに震えていた。


侵略の次段階は進行している。

だが同時に、侵略者の内部でも何かが崩れ始めている。


そして俺は、ただの大学生のくせに、その中心に立っている。


次に崩れるのは、世界か。

それとも彼女か。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ