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俺大学生、あいつは多分地球の侵略者  作者: 続けて 次郎


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第十六章 交渉条件

侵略が交渉に変わった。


言葉にすると軽いが、内容は重すぎる。


未定義個体、二名。

暫定保存。

統合は強制から選択へ再設計。

条件設定に関与せよ。


ただの大学生に渡していい権限じゃない。


「これ、俺らに拒否権あるのか?」と俺は階段の踊り場で聞いた。


「理論上はあります」と天城は言う。「ただし拒否した場合、侵略計画は従来型に戻る可能性が高い」


「つまり強制統合復活か」


「はい」


重い。


「お前はどうしたい」と俺は聞く。


天城は少しだけ目を伏せる。


「私は未定義個体です」と彼女は言う。「侵略計画の外側に立ちました」


「だから?」


「……選択が存在する統合を、検証したい」


初めてだ。彼女が“したい”と言ったのは。


俺は息を吐く。


「分かった。じゃあやる」


「具体案はありますか」


「ない」


即答。


天城がわずかに眉を寄せる。


「非効率です」


「うるさい」


だが、ここからが本番だ。


その夜、俺の部屋。


机の上にノートを広げ、これまでの出来事を書き出す。


侵略の目的は“保存”。

保存には予測可能性が必要。

未定義は予測不能。

だが、進化の分岐点になる可能性。


「要するに」と俺は呟く。「お前ら、怖いんだろ?」


天城は窓際に立ち、夜の街を見ている。


「何がですか」


「人類が自滅するのも、予測不能に進化するのも」


彼女は静かに言う。


「恐怖という表現は適切ではありません。しかし、計算不能はリスクです」


「リスクゼロにしたいから統合か」


「はい」


俺はペンを回す。


「じゃあ条件はこうだ」


天城が振り向く。


「統合は選択制。ただし選ばない権利を保証する」


「強制なし」


「そう」


「しかし選択しない個体が増えれば、保存効率は低下します」


「それでもいいって母星は言ったんだろ?」


天城は沈黙する。


数秒後、ゆっくりと頷いた。


「暫定的に」


「なら次」


俺はノートに書く。


“価値観再配置は可視化する”


「何ですか、それは」


「いじるなら、いじったって分かるようにしろ」


天城の瞳が揺れる。


「透明化ですか」


「そう。自分の思考が変わったって気づけないのが一番ヤバい」


彼女は数秒、考え込む。


「それは、統合の本質を揺るがします」


「揺らげ」


俺は言う。


「保存が目的なら、騙す必要ないだろ」


沈黙。


長い沈黙。


天城の瞳の青が、ゆっくりと安定する。


「……論理的一貫性があります」


「だろ?」


「しかし母星が受け入れる保証はありません」


「だから交渉だ」


俺はペンを置く。


「あと一つ」


「何ですか」


「未定義を排除しないこと」


彼女の表情が、はっきりと変わる。


「例外の保持?」


「そう。俺たちみたいなやつを消すな」


「それは計画の不安定化要因です」


「でも進化の分岐点なんだろ?」


彼女は言葉を失う。


「未定義があるから、予測不能がある。予測不能があるから、新しい解が出る」


自分でも、どこからこんな言葉が出てくるのか分からない。


ただ、感覚で分かる。


完璧な最適化は、停止だ。


揺らぎがあるから、動く。


そのとき、部屋の空気がわずかに震えた。


来た。


『条件案を検出』


頭の奥に、あの深い声が響く。


『未定義個体、提示せよ』


俺は天城を見る。


彼女は小さく頷く。


「統合は選択制。価値観再配置は可視化。未定義の排除禁止」


声に向かって言う。


数秒の沈黙。


『非効率』


予想通り。


「でも保存が目的だろ」と俺は返す。


『効率は保存確率を高める』


「でも確率が100%になったら、それ進化止まるだろ」


沈黙。


長い沈黙。


天城が小さく息を吸う。


『未定義個体の存在は、理論限界を超過した』


声が言う。


『保存と進化は両立可能か』


自問のような響き。


俺は言う。


「分からない。でも、片方だけに振るのはやめろ」


空気が重くなる。


『条件1:統合は選択制とする。ただし非選択個体への干渉は最小限の観測に留める』


心臓が跳ねる。


通った?


『条件2:価値観再配置は、認識可能な形で提示する』


天城の瞳が大きく揺れる。


『条件3:未定義個体の排除を原則禁止。ただし全体保存率を著しく下げる場合を除く』


「除くって何だよ」と俺は言う。


『閾値は未定』


便利だな。


だが、これは。


侵略が、根本から変わる。


『未定義個体、監督役として暫定登録』


監督役?


「俺らが見張るってことか?」


『然り』


天城が静かに言う。


「侵略ではなく、共存設計へ移行します」


その言葉が、部屋に静かに落ちる。


共存。


俺は深く息を吐いた。


「なあ天城」


「はい」


「これ、勝ったのか?」


彼女は少し考え、言った。


「未定義です」


俺は笑う。


侵略は止まっていない。


だが、強制ではなく選択へ。


支配ではなく設計へ。


そして俺と天城は、未定義のまま、その中心に立たされた。


ただの大学生だった俺は、いつの間にか人類と地球外知的生命体の交渉窓口になっている。


非効率にもほどがある。


だが。


それでいい。


未定義のまま、揺らぎ続ける。


それが俺たちの条件だ。

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