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生きてゐるタワーマンション  作者: 葉方萌生
第一話 おひとりさま満喫

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6/7

5

 その日の二十一時半。

 入浴を済ませた俺は、明日のために部屋の掃除に勤しんでいた。と言っても、まだ住み始めて一ヶ月しか経っていない新築タワマンの部屋はどう見ても綺麗だ。一ヶ月の生活で汚してしまった部分だけ、拭き掃除や掃き掃除をしたが、ものの二十分程度で終わってしまった。

 残りの時間はネット配信サービスで映画でも見ようかとサイトを漁っていたとき、自宅のインターホンが鳴った。


 ピンポーン


 一人暮らしの静かな室内に、インターホンの音が鳴り響く。

 こんな時間に誰だ? 遅れている宅配でもあっただろうか、と記憶を探ってみるも、通販などで何かを購入した記憶はない。田舎に住んでいる親からも、特に何かを送るという連絡は受けていなかった。

 だったら、なんだろう——と訝しみながらインターホンのモニターを見ると、知らないおばさんが映っていた。

 誰がどう見ても、宅配業者ではない。ならばよくある宗教勧誘かと一瞬疑ったが、モニターから見える女性は、特に怪しげな雰囲気ではない。本当に、ごく普通の人だとしか思えなかった。

  

 ピンポーン

 

 再び女性がインターホンを押した。なんとなく、居留守を使うのが憚られて、俺は「はい」とインターホンの「通話」ボタンを押して答える。


「あっ、夜分遅くにすみません。私、昨日隣の部屋に引っ越して来た者で」


 女性は、俺が通話に応じたことに少し驚いた素ぶりを見せたあと、隣に引っ越して来たと言った。

 なんだ、引越しの挨拶か。

 と最初は腑に落ちたものの、ふと違和感を覚える。

 隣の1403号室には俺が入居するタイミングで同じように入居した家族がいたはずだ。新築マンションなので、ほとんどの部屋は四月に一斉に入居をしているのだ。

 そのとき、特にお互いに挨拶などはしなかったものの、奥さんとは二回ほど顔を合わせているので、覚えている。


 あれからまだ一ヶ月しか経っていないのに、隣の家族はもう引っ越してしまったというのだろうか。


 疑問に思ったものの、とりあえずわざわざ引越しの挨拶に来てくれた人を邪険にするわけにもいかず、俺は玄関まで出て行った。


「こんばんは、あの、わざわざありがとうございます」


 なにもこんな時間に来なくても、とちょっぴり悪態をつきたくなる気持ちを抑えて、表面上は笑顔を取り繕って挨拶をした。


「こんばんは。隣の1403号室に越して来た渡辺(わたなべ)と申します。これからよろしくお願いします」

「どうも、吉野です。よろしくお願いします」


 渡辺と名乗ったその女性は、ぱっと見五十代半ばぐらいの女性だった。一人暮らしだろうか。それともご家族で? 不明な点は多いけれど、何よりも元々住んでいた1403号室の家族はどうしたんだろうと不思議に思う。

 前のご家族の名前はなんだっけ……思い出せないなあ。

 都会のご近所付き合いなんてその程度だ。

 

 渡辺さんは挨拶が済むと、「それでは失礼します」とぺこりとお辞儀をして隣の部屋に戻って行った。ガチャリ、と玄関の扉が開かれる音がして、本当に1403号室に住んでいるのだと実感する。いや、まあそりゃそうなんだけど。そういえば、連休前に近所で鈍い音が響いていたが、あれは隣の部屋の引越しの音だったのだろうか。今となってはそうとしか思えない。


 俺はこの日の出来事を不可解に思いつつも、まあ生きていればそういうこともあるか、と特に気に留めることはなかった。

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