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生きてゐるタワーマンション  作者: 葉方萌生
第一話 おひとりさま満喫

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4/9

3

***



圭介(けいすけ)のやつ、また結婚式呼ばれてんじゃん。誰だこの女? あ、男のほうのお呼ばれか。そりゃそうだよな」


 四月、RESIDENCE SAKAE ONEでの新生活を開始した俺は、週末は自宅に引き篭もりながらネットサーフィンやゲームざんまいな日々を送っていた。

 十四階の1402号室。部屋の間取りは2LDK、広さは55.12㎡だ。

 一人暮らしなら1LDKでも十分な広さだが、ここは少し贅沢をして2LDKにした。タワマンを買うというのにケチっても仕方ないし。とはいえ、3LDKにしなかったのは、やはり価格がぐっと上がってしまうのを抑えるためだし、タワマンらしい高層階ではなく中層階を選んだのも、同じ理由からだ。

 つまり、タワマンを選びながら中層階の手頃な価格の部屋を選んだ中途半端な男、それが俺というわけだ。


 写真投稿アプリである「Iスタグラム」を開くと、いつものように友人たちが「メモリー」と呼ばれる二十四時間限定投稿機能で、幸せな投稿を繰り返す。

 特に現在三十歳である俺の友人や学生時代の先輩、後輩たちは、やれ結婚だの友達の結婚式に行っただのと毎週のように投稿している。子どもが生まれたという報告も珍しくない。同級生で仲の良かった友達から初めて子どもが生まれたという報告を受けたときは、「おお、もうそんなフェーズに入ったやつがいるのか」と素直に驚いていたが、何度も同じような報告を受ける今となっては特に驚くこともなくなった。


 感動的な報告であるはずの投稿が、無感動な空気の中で流れていく。

 子どもが生まれたという報告は多すぎて、学生時代の友人たちも、誰が子持ちで誰がそうでないのか、もはや把握できていない。仲が良かった友人グループで誰が既婚者なのかどうかも、記憶が曖昧になりつつある。


 こうしてIスタグラムで目にする知らないやつの結婚式の動画だって、うんざりするほど目にしてきた。

 昨年末までは、「次は俺の番だな」と心に余裕を持って眺めていたはずなのに、気がつけば彼女に浮気をされて別れ、おひとりさまになった俺は、こうして焦燥感とも孤独感ともつかぬ絶妙な感情を抱きながら、流れてくる華やかな投稿たちに心を抉られてきたというわけだ。


 でも、つまるところそういった劣等感のような感情も、最近は穏やかになりつつある。

 理由は言わずもがな、RESIDENCE SAKAE ONEに引っ越したからだ。


「そういえば圭介も、ちょっと前に子どもが生まれたんだったなー」


 大学時代に一緒にサッカーサークルに所属していた圭介は、当時からモテ男だった。サークル内で彼女を取っ替え引っ替えしていて、それも全部女の子のほうから言い寄ってきていたのだから、俺は純粋に羨ましかった。

 

「子どもの名前、なんだっけ」


 お祝いを贈ったはずなのに、圭介の子どもの名前を思い出せない。忙殺される日々の中で、友人たちの幸せな出来事すら、川の流れのようにさらさらと通り過ぎていく。

 俺はいつから、他人に関心がなくなっちまったんだろうなぁ。

 自分で言うものなんだが、友達はそれなりに多いほうだったし、圭介ほどではないけれど、学生時代と社会人になってから、一人ずつ女性とお付き合いだってしていた。社会人になってからの彼女には、見事に浮気されてしまったわけだが。

 

「ま、次会ったときに聞けばいいか」


 多少気になることがあっても、俺は今、間違いなく“幸せ”な生活を送っているので、おおらかに受け流す。

 新築のタワマンの部屋は驚くほど静かで、当たり前だがキッチンも廊下もトイレもお風呂も、すべてが美しい。お風呂には浴室乾燥機がついていて、クローゼットはもちろんウォークインクローゼットだ。

 このマンション売りのセキュリティも、確かに目を瞠るものがある。

 エントランスのトリプルオートロック、二十四時間常駐してくれている管理人、警備員、監視カメラ、指紋認証や顔認証システムなど、これでもかというぐらいのセキュリティが完備されている。

 AIによる管理システムというのは何をしているのか、まだ実感が湧かないが、セキュリティにいろいろと関与しているのだろう。俺も、全然詳しくないのでよく分からないが。


 とにかく“守られている”という感覚になれるので、ここでの生活に安心感を覚えていた。

週末に自宅に引きこもっているのも、タワマンでの暮らしが心地良すぎるためであり、もともと出不精だった俺は、さらに磨きがかかったかのように家から出ることがなくなっていた。

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