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生きてゐるタワーマンション  作者: 葉方萌生
第一話 おひとりさま満喫

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 1403号室の住人が度々入れ替わる。

 そんな非現実的な現象を目の当たりにしてからというもの、俺の周囲ではおかしな出来事が繰り返されていた。

 

「お宅の子どもの足音がうるさいですけど! ちゃんとしつけてもらえない!?」


 真下に住む1302号室の女性から、ヒステリックなお叱りを受けたのは、1403号室の「調整」が済んだ翌日のこと。エントランスに貼り出された「調整完了のお知らせ」をぼんやりと見つめながら帰宅したあと、二十二時半に下の階の女性がやってきたのだ。

 もはや定例行事と化している夜の来客に、俺は面倒だとも思わなくなってしまっていた。


「は、子ども……? いや、うちには子どもなんていないですけど」

「そんなはずないじゃない。ドタバタと人が駆け回る音が響いてるのよ。あなた、三十代ぐらいでしょう? 子どもがいなくても恋人や奥さんはいるんじゃないの? とにかくあなたたち(・・・・・)の生活音がうるさくて眠れないの!」


「はあ」


 どういうわけか、女性は新築タワマンに三十代の男が一人で暮らしているとは認めたくないようで、怒りに任せて身に覚えのないことを、しゃあしゃあと語っていた。


 俺は呆気にとられたまま、彼女の怒声を浴びる。もはや反論する気力すらなく、「早く怒りがおさまってくれないかな」と他人事のように考えていた。


「ねえあなた聞いてるの!? さっきから何も言わないし、謝りもしないってどういうこと!」

「……すんません、以後気をつけます」


 騒音を出しているという自覚がまったくないのに、騒音被害について謝罪させられる。 

 訳の分からない事態に、もしかして、と俺はふと思いついたことがあった。


「調整、されるのか……?」


 俺の呟いた一言を、1302号室の女性が「なに?」と眉を顰めながら聞き返す。


「いえ、なんでもありません」

「もう、あなたとは全然話が通じそうにないわね! 改善されないようなら、管理室に訴えますからね!」


 ぷりぷりと怒りながら、女性は去っていった。

 管理室は裁判所ではないのだが——と呑気なことを考えてしまうのは、連日続く不可解な現象に、頭がぼうっとしているせいだろうか。

 仕事から帰ってきた際に目にした「調整完了のお知らせ」にも、確かにそんなことが書いてあったな。


“住人同士のトラブル、不快な生活音、その他気になる点がございましたら、速やかに管理室までお知らせください”


 もし1302号室のあの女性が管理室に俺の部屋の「騒音」について訴えたら、俺は本当に「調整」されてしまうのだろうか。

 第一、「調整」された人はどこへ行ったんだろう。

 普通に考えれば引っ越したと思うほかないのだが、どうもそうではないという予感が拭えない。引っ越し先がすぐに決まるとは考えにくいし、第一、買ったマンションを一ヶ月やそこらで手放すなんて非現実的だ。

 それならやっぱり、現実的ではない何かの力が絡んでいる——そう考えるしかなかった。

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