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小さな小さな、水の音

作者: 西日爺

多分改定が付いておりますが内容の変化は無く、あとがきに作者の別作品の宣伝が追加されたのみとなっております。

――ぴちょん

「……ん~?」

とても耳に残る、小さな水音で目を覚ました。

真っ暗な部屋の中、自分の声を目覚まし代わりに枕元に置いたスマホを押す。ぼんやりと明るくなった部屋はまだまだ物が少なく、引っ越して半年も経ってないため違和感はぬぐえない。

「3時……最悪」

中途半端な時間に起きたことに苛立つ。寝なおそうとスマホを伏せると、暑くて蹴ってしまったタオルケットを再び羽織る。

――ぴちょん

「……何の音~?」

再び聞こえて来た音に意識が覚醒する。水音のような、この部屋には合わない音が広がる。伏せたスマホを再び持ち上げると、弱い明かりで周りを照らす。

そこには水のような物は無く、生活感が出始めた部屋が広がるだけだ。

「トイレ?流し台?」

ぼそぼそと呟きながら部屋の電気をつける。しっかりと照らされた部屋は寝た時と何も変わらず、不審な物も何もない。仕方なく起き上がると、小さく狭く使い勝手の悪い流し台を見る。

――ぴちょん

再び聞こえた、今度はまるで耳元で響いたような音に周りをキョロキョロするも何もない。その事に恐怖しながらも、その恐怖を打ち払うように少し大きく独り言を言う。

「トイレ?それともシャワー?」

何もない流し場には水の痕跡は無く、音の元凶はここではない。仕方ないと歩き出すと、5歩もかからずに目的の扉へと辿り着く。

ガチャリと開けるとそこは簡素な脱衣所と洗濯機があるばかりで、特段変わった物はない。

「あれ?こっちも何もない」

そのままお風呂場の扉を開けるがトイレもシャワーも異変は無く、水が落ちたような跡も残っていない。

「なんだ、気のせいか。ははは……」

乾いた笑いを浮かべながら、何も無いと言い聞かせるように声を響かせる。その声には水音も何も追いかけず、ただお風呂場特有の音の反響が起きるだけだ。

――ぴちょん

再び聞こえた音に悲鳴を上げそうになるも何とか堪え、気のせいだと言わんばかりに勢いよく扉を閉める。そんな衝撃を与えても、水が落ちたような音は一切しない。

「明日も早いんだ、寝る!」

嫌な事を忘れる様に、出来るだけ自分の声が耳に入るようにしっかりと言葉にする。慌ててベットへと戻ると、電気も付けたままタオルケットを頭からかぶる。

「おやすみ!」

何も無かったと言い聞かせるように目を瞑ると、何も考えないように小さく丸まる。

しかし眠気は一向に来ない。



――ぴちょん



小さな音が耳の奥で響くと、まるで水のように冷たい何かが、首を掴んだ。

「ここで宣伝すれば作風も伝わるし丁度いいじゃん!」と言うのに気づくのに1日かかるのんびり屋な作者です。


今回『夏のホラー2025』に参加しましたが、当方がメインで書いております『英雄達の愛娘』があります。

作者が「ファンタジーの面を被ったノンフィクション風の何か」と表現している作品です。

今回投稿しましたの『小さな小さな、水の音』のように、王道から外れつつもどこか親近感のわく世界観を目指しておりますので、ご興味を持ちましたら指を動かしていただけると幸いです。

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