**律視点
空は真っ赤に染まっている。
「トマトを食べるのは苦手だけど、克服しないとなぁ」
小さい頃からトマトが苦手だ。酸っぱくて、ぐにゃっとした食感が喉に引っかかって、吐きそうになったことがある。でも由希くんは、一緒に育てたミニトマトを一緒に食べようと、はしゃいでいた。俺も、本当は一緒に食べたい。
俺は部屋の窓から外を眺めながら、ふーっとため息をついた。
由希くんが家に帰った直後から俺はずっと何回も部屋で今日のことを思い返していた。
――由希くんと色々なことができて、色々な由希くんを見ることができた。
自転車で花を買いに行った。
畑で由希くんの笑顔や鼻歌を歌う姿を見れた。
涙を流しながら、本音を話してくれた。
そして、わだかまりが解けて仲直りした。
困り顔、笑顔、泣き顔……俺と違って様々な表情をする由希くんは、すごく可愛い。
全てが胸の奥に焼き付いて離れない。ふと、本棚に目がいく。『キミと手をつなぎたい』。由希くんが大好きな小説だ。
俺はあの物語のふたりみたいに、由希くんと関わると胸がざわめくし、苦しくもなる。手を繋ぎたいし、友達以上にもなりたい。そんなふうになるのは由希くんに対してだけだ。他の人には全くと言っていいほどに何も感じない。
それに、由希くんをそっと抱きしめた時、胸の奥がこれまで感じたことのない熱で満たされた。
この感覚はただの友達としては説明できない――。
もしかして俺は、由希くんのことを恋愛の相手として好きかもしれない。
由希くんに知られても、由希くんは男の子同士の話が好きだし、大丈夫かな? でも、引かれて嫌われる可能性の方が明らかに高い。だから決して由希くんに知られてはいけない。きゅうりの事件で俺は由希くんを失う恐怖を初めて知った。せっかく仲直りできたのにもしも恋心を伝えて、また由希くんの笑顔が俺の前から消えてしまったら、俺はもう立ち直れないかもしれない。
由希くんに嫌われるのが、怖い――。
昼間由希くんが覗いていた箱から一枚の手紙を手に取った。
『りつくんへ りつくんがいちばんだいすきだよ。おおきくなったらけっこんしようね』
まだこの手紙の約束が有効だったら良いのに。
窓から差し込む夕陽が、部屋の床に長い影を落としていた。
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