***律視点
冷たく透き通った風が頬をかすめる朝。いつものように由希くんと畑を眺める。野菜は少し枯れている。花も枯れ始め、種がなり始めていた。
「ミニトマト、寒くなってきたからもう赤くならないよな」
俺がそう言うと由希くんはしゃがんで青いミニトマトの実に触れた。俺も横でしゃがむ。
「それがね、赤くなる方法があるの」
「どうやって?」
「毎年ね、外では赤くならないミニトマトの実を収穫して家の中に入れて、ストーブで温めてるんだ」
「赤くなるの?」
「うん、なるよ!」
ストーブの前でミニトマトに話しかけながら大切に育てている由希くんの姿が頭に浮かぶ。
「トマト以外、今年はもう終わりか。次は来年の春に……」
ミニトマトを眺めていた由希くんが突然こっちを見た。
「来年ね、苗じゃなくて種から育てようと思うんだ」
「いいね」
少しモジモジする由希くん。
「……あの、来年、一緒に発芽させませんか?」
「うん、やる」
上目遣いでそう尋ねられた俺は、迷わずにすぐ返事をした。
誘ってくれることも嬉しかったけれど、由希くんの未来に俺がいられること、いてもいいんだと思えることが何よりも嬉しかった。外は肌寒いのに胸の辺りがぎゅっとして、温かさが全身に流れるような感覚がした。
「ミニトマトの種ってね――」
由希くんの話が止まらなくなる。畑関係の話をしている時の由希くんは、本当に生き生きしていて、聞かせてくれる時間も大好きだった。ずっと聞いていたくて止めたくないけれど、そろそろ行かないとバスに乗り遅れてしまう。
「由希くん、そろそろバスが来るから行こうか」
「うん、そうだね」
手を繋ぎながらバス停に向かう。バス停に着いても手を離さなかった。手袋越しに繋がっている由希くんの手の温もりを感じながら、バスを待つ。由希くんを横目でチラ見していると、ふわっと雪が由希くんの肩に乗った。由希くんは〝ゆき〟という名前も、空から降る雪も似合う。白くて、小さくてふわっとして。ずっとギュッと抱きしめていたくなるような儚さも……。由希くんについてはずっと語れる。
小さい頃からずっと、見つめてきたから――。
「バスが来たね」
由希くんは遠くの方で見えるバスを見つけた。
バスは少しずつ近づいてくる。
一緒にまいた種が発芽しているシーンを想像した。来年も再来年も、おじいちゃんになっても由希くんと一緒にミニトマトを育てられたらいいな。
「由希くん、ずっと一緒にいようね」
「うん」。
✩.*˚
――幼なじみの君と、ずっとミニトマトを育てたい。
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