**由希視点
雲ひとつない青空と眩しい光を放つ太陽。
今日は朝から天気が良くて、暖かい。
家の玄関の隅には、実のなる気配がまだないミニトマトのポット苗が置いてある。それを持つと外に出た。ちょうど制服姿の律くんの、凛とした後ろ姿が見えた。背中を見つめていたら律くんが振り向く。一瞬だけ目が合った。
唯一繋がれる言葉、「おはよう」が今日は言えなかったな――。
僕たちは今年、高校一年生になった。
九月九日に生まれた僕、綿谷 由希と十月十日に生まれた光田 律くん。生まれた日はふたりともゾロ目で一ヶ月違い。
律くんはきっと僕の誕生日を忘れていて、全く興味はないんだろうな。
「もう僕たちは仲良くなれないのかな……」と、ミニトマトに向かって呟く。
アパート前の、日当たりが良い場所にミニトマトを置くと「元気に育ってね」と話しかけながら水をあげた。苗は返事をするように、明るい春の風に合わせて揺れた。しばらくトマトを眺めてから立ち上がる。
――さて、僕も学校に行こう。
小さな頃から僕たちはアパートの隣同士に住んでいて、近くにいる。そして高校一年生になると、同じクラスにもなった。
ふたりが離れることになってしまった原因は、僕だ。僕が「嫌い」と言ってしまったから。あの時の律くんの表情を思い出すたびに涙がこぼれそうになる。ずっと後悔している。仲が良かったあの頃に戻りたい。
今はもう、太陽と影みたいに遠くて決して触れることのできない、僕たちふたりの距離――。
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