第98章:双子の襲来
「…しかし、魔具の反応は感じぬのぉ」
精神世界にいるトルティヤは、遺跡内に眠る魔具の気配を懸命に探ろうとしたが、その意識には一切の反応が返ってこなかった。
「じゃあ、この遺跡はハズレってこと?」
アリアがトルティヤに尋ねる。
「いや、そう決めるのは時期早々じゃ」
トルティヤがきっぱりと否定する。
「魔具の中には魔力を発しない物もある。じゃから、とにかく歩いて、自分の目で見て探すのも大事じゃ」
トルティヤは、精神世界にいるサシャの意識をじっと見つめ、その言葉を伝えた。
「わ、分かってるよ。僕だって魔具が欲しいし…」
サシャは、トルティヤの言葉に頷きながら、小さく声を上げた。
こうしてサシャたちは、広大な遺跡の内部をくまなく探索し始めた。
「これは…古代エルフ族の遺骨か?」
リュウが古代エルフ族のものと思われる朽ちた遺骨を発見したり。
「見てよ!こんなところに銀でできた盃があるよぉ!」
アリアはきらびやかな銀製の盃を見つけて歓声を上げ。
「これは…魔具じゃないか」
サシャもまた、美しい装飾が施された一本の剣を発見したり。
過去の形跡や財宝らしきものは次々と見つかった。
しかし、彼らが探し求める肝心の魔具は、どこにも見当たらなかった。
「…ふむ。どうやら本当にハズレのようじゃな」
トルティヤは、状況を悟ったかのように、静かに諦めの言葉を漏らした。
「大体、調べつくしたしね…魔具は本当になさそうだね」
サシャは、深いため息をつき、肩を落として落ち込んだ。
「ま、魔具自体がレアなものだ。そう簡単に見当たらないのが当然だろう」
リュウが、サシャの肩にそっと手を置き、軽く励ますように叩いた。
「けど、財宝はたくさん手に入ったよぉ!」
アリアは財宝を手に入れて嬉しそうにしていた。
「魔具がないと分かったなら、ここにいる理由はないのぉ。撤収じゃ撤収!」
こうしてトルティヤが、これ以上の滞在は無意味だと判断し、彼らに撤収を促した、その時だった。
「ねぇねぇ君たち…」
「財宝を持ってどこに行こうとしているの?」
「…!!」
サシャたちは、不意にかけられた声に驚き、一斉にその方向へと視線を向けた。
すると、彼らの視線の先、遺跡の建物の屋根の上に、二人の人影が立っているのが見えた。
一人は赤みがかった髪と漆黒の翼を持つドラゴニア「ユー」、もう一人は金色の髪と純白の翼を持つドラゴニア「リンチー」だった。
「(こいつらいつの間に…!)」
リュウは、気配すら感じさせなかった二人の登場に、瞬時に警戒の色を強めた。
「お前たちは誰だ!?」
サシャが二人のドラゴニアに強気な口調で尋ねる。
「僕はリンチー」
「アタイはユー」
二人は簡潔に自己紹介を終えると、優雅に翼を羽ばたかせ、地面へと降り立った。
「…その腕章。龍心会か?」
サシャが二人の腕に着けられている腕章に注目する。
「あぁ、龍心会…そういえばそういう名前だったね」
「そうそう。アルタイル姉ちゃんが一番偉いんだよ…」
二人は、わざととぼけるように言葉を交わした。
「気を付けるのじゃ…こいつらは結構できるぞ」
トルティヤは、二人の能力を見抜いたかのように、サシャたちに厳しく警戒を呼びかけた。
「で、君たちこんなところで何をしているの?」
リンチーが、探るような視線をサシャたちに向け、問いかけた。
「冒険をしていただけだ。それが何か?」
リュウが毅然とした態度で答える。
「そうだよ!!龍心会の人だからって人の冒険まで邪魔される筋合いはないよぉ!」
アリアも強い口調で答える。
「じゃあ、その手にある剣と杯と金貨袋はなぁに?」
ユーが、サシャたちの手に握られた財宝を指し示しながら、冷めた口調で指摘した。
「これは…」
サシャは、ユーとリンチー、そしてアリアが抱える銀の盃を交互に見つめ、状況を測った。
「おおかた、この遺跡で手に入れた財宝だよね。おとなしくそれを渡してくれるなら見逃してあげるよ」
リンチーが、淡々とした口調で要求を突きつけた。
「…嫌だと言ったら?」
サシャが尋ねる。
「力ずくで…」
ユーが懐から、しなやかな鎖分銅を取り出す。
「奪い取る!」
リンチーが懐から、鋭い金属製のチャクラムを取り出す。
「お主ら!こんな連中に財宝を手渡すでないぞ!」
トルティヤは、サシャたちの行動を制するように、精神世界から声を荒げた。
「分かってるよ!」
サシャは、迷うことなく腰の双剣を引き抜いた。
「財宝の横取りはダメだよ!」
アリアもまた、素早く背中の弓を構えた。
「…ふっ」
リュウは、静かに背中の鞘から刀を引き抜いた。
「僕たちと…」
「やろうってんだね」
「「いいよ。かかってきなよ」」
ユーとリンチーはサシャ達を挑発する。
「随分と余裕そうだな!」
リュウが、挑発に応じるかのように、目にも止まらぬ神速の踏み込みを見せた。
「アリア!援護してくれ!」
サシャも双剣を構え、リュウに続いて前に出る。
「うん!」
アリアは、素早く後方にある家の瓦礫を踏み台にして屋根へと飛び上がった。
「ユー…任せるよ」
リンチーは、ユーにアイコンタクトを送るかのように、その背後へと素早く身を引いた。
「はーい」
次の瞬間、ユーの口から魔法が紡がれ、その手が大きく振りかざされた。
「雷鳴魔法-雷影の乙女-!」
空間に眩い電撃が奔り、それらが集まって優雅な乙女の姿を象ると、その体から無数の鋭い雷の針が放たれた。
「はぁっ!!」
サシャは双剣でそれを弾き飛ばす。
「それがどうした!」
リュウも針を刀で弾き飛ばす。
しかし、その時だった。
「ガキン!!」
リュウの刀に何か硬いものが打ち当たる音が響いた。
「むっ!」
リュウが驚いて刀身に視線を落とすと、そこには雷の針に紛れて飛んできた鎖分銅が、刀身に巧妙に絡みついているのが見えた。
「リンチー!」
ユーがリンチーに指示を出す。
「もうやってるよ」
次の刹那、リンチーの手から放たれたチャクラムが、風を切るような音を立てて高速でリュウに向かって飛んできた。
「(なるほど…電撃の中に鎖分銅を紛れこませ、動きを封じて、遠距離攻撃を行うスタイルか…)」
リュウは、絡め取られた刀身と迫りくるチャクラムを交互に見つめ、相手の戦術を冷静に分析した。
「そうはいかないよ!」
その時、まるで呼吸を合わせたかのように、アリアが屋根の上から先端が螺旋状になっている特殊な矢を放った。
「ガキィィン!」
その矢は、見事チャクラムの側面を直撃した。
「ふっ…甘いな」
だが、リンチーは、その攻撃をものともしない不敵な笑みを浮かべた。
「キィィィン!」
金属音を立てて、チャクラムはアリアが放った矢を強力な回転力で弾き飛ばした。
「あっ!」
アリアは呆気にとられる。
そして、その勢いを保ったまま、再びリュウめがけて一直線に飛んでいく。
「くっ!」
リュウは鎖分銅で刀を絡めとられて動けない。
「やらせない!!」
すると、サシャが降り注ぐ電撃の隙間を縫うように、リュウとチャクラムの間に割って入った。
そして飛んできたチャクラムを双剣で弾いた。
「わぁ…少しはやるみたいだね」
リンチーは、弾き返されたチャクラムを軽やかに手元に戻しながら、サシャを評価するように言葉を放った。
「鎖分銅には少し驚いたが…それが分かればどうってことはない」
リュウは、刀に絡みついた鎖分銅を見ながら、静かに魔法を唱え始めた。
「水魔法-蒼嵐ノ巨剣- !」
リュウが魔法を唱えると、刀身に青い水が渦を巻きながら纏わりつき、瞬く間に刀身自体が巨大化していく。
鎖分銅は、その膨張に耐えきれず、パキンと音を立てて砕け散り、刀から外れた。
「ちっ…しゃらくさいね」
ユーは、絡め取った鎖分銅が破砕されたことに舌打ちすると、咄嗟に後方へと身を引いた。
そして、別の鎖分銅を懐から取り出した。
「ユー。こいつら結構強い」
「そうだね。リンチー」
「少し本気出そうか?」
「そうだね。ユー」
二人は再び鎖分銅とチャクラムを構えサシャ達と対峙した。
「ふん…こちらも体が温まってきたところだ」
リュウは余裕の表情を崩さない。
「負けるものか!」
リュウは再び双剣を構える。
「(あのチャクラム…僕がなんとかしないと!)」
アリアはリンチーをじっと見つめる。
「今度は僕の番…」
リンチーはそう言葉を発すると、流れるような動作で魔法を詠唱し始めた。
「烈風魔法-天空の円舞曲-!」
すると、円盤状の風がサシャ達に向かって放たれる。
「さっきのように攻撃の中にチャクラムが紛れているかもしれない!」
リュウは、迫りくる円盤状の風を刀で弾きながら、先ほどの攻撃パターンから相手の狙いを予測した。
「分かった!」
サシャは、双剣を巧みに操り、風の円盤を弾きつつ、時には素早い動きで回避しながら立ち回った。
「…隙だらけだよ!」
その時、アリアはリンチーに向かって弓を引こうとしていた。
だが、その隙を突くように、一筋の鋭い電撃がアリアめがけて飛来した。
「うっ!」
アリアは咄嗟に身をかがめて電撃を回避した。
その瞬間、彼女の視界に上空を舞うユーの姿が捉えられた。
「リンチーを狙おうだなんて、そうはいかない」
そして、ユーが魔法を唱える。
「雷魔法-爆電回走-!」
次の瞬間、ユーの肉体が眩い雷光に包み込まれた。
そして、体を丸め、まるでボールのようにアリアに向かって突進してきた。
「うわぁ!!」
アリアは間一髪で身を翻し、その突進を回避した。
「ガラガラ…」
彼女がいた場所の床は、ユーの衝撃によって粉々に砕け散っていた。
そして、砂煙の中からユーが現れた。
「あんた近接戦闘苦手でしょ?」
砂煙の中から現れたユーは、間髪入れずに鎖分銅を手に取り、アリアに近接戦を仕掛けた。
「そんなことないよ!!鎖魔法-チェーンナックル-」
アリアは、自身の両手足に魔力を込めた鎖を幾重にも巻き付け、ユーの攻撃を迎え撃つ姿勢を取った。
「はっ!」
ユーが、鋭い音を立てて鎖分銅を振り回し、猛攻を仕掛ける。
「そんなの当たらないよ!」
アリアは、軽やかなステップを刻みながら、その攻撃を巧みに回避し続けた。
「それ!おかえしだよぉ!」
アリアは、ユーの攻撃の合間を縫い、鋭いストレートパンチをユーの顔面めがけて放った。
「中々、いいパンチ…」
それはユーの頬を微かに掠めたが、直撃には至らなかった。
「そこっ!!」
だが、アリアは既にユーの脛に狙いを定め、素早くローキックを繰り出していた。
「ぐっ!」
パンチに意識が集中していたユーは、不意のローキックをまともに受けてしまい、その痛みに思わず呻き声を上げた。
「(怯んだ!)くらえ!!」
アリアは、怯んだユーに止めを刺すべく、再度鋭いストレートを繰り出そうと拳を構えた。
「…てめぇ。よくもやってくれたな」
だが、ユーは狂気にも似た憎悪の視線をアリアにぶつけ、怯んだ体勢から鎖分銅をアリアの顔面めがけて投げつけた。
「うっ!」
突然の奇襲にアリアは反射的に顔をそむけた。
しかし、ユーはまさにこの隙を狙っていたのだ。
「雷鳴魔法-高貴なる雷槍-!」
ユーは素早い動作で手元に雷の魔力を凝縮した細いランスを生成すると、それを無防備になったアリアの腹部めがけて深く突き刺した。
「ザシュ!!」
その一撃はアリアの腹部を捉えた。
「うっ!」
アリアの脇腹からは鮮血が滴り落ち、同時に全身に電撃による激しい痺れが奔った。
「アリア!!」
サシャがその様子を見て叫ぶ。
「一旦、アリアの方に行くぞ!」
そう叫ぶと、リュウとサシャはアリアの元へと猛然と駆け出した。
しかし、それを遮るかのように、リンチーが彼らの目前に立ちはだかった。
「邪魔させない」
リンチーがチャクラムでリュウに斬りかかる。
「ちっ…サシャ先に…」
リュウが刀でその斬撃を受け止める。
「そうはいかないよ」
だが、リンチーは追撃と言わんばかりに魔法を唱える。
「烈風魔法-砂塵障壁-」
リンチーが魔法を唱えると、サシャの進路に、無数の小型の竜巻が突如として現れ、その行く手を完全に塞いだ。
「うっ…!魔法解除!」
サシャは、自身の魔力で竜巻を一つずつ打ち消していくが、その数はあまりにも多く、アリアの元へはなかなか辿り着けなかった。
「まずは一人…」
その間に、ユーが槍を抜こうとする。
「…」
だが、アリアは、残された僅かな力でユーの腕をがっしりと掴んだ。
そして、自身に巻き付けた鎖を伸ばし、ユーの腕に絡ませ、決して離れないように固定した。
「なにっ!?」
ユーは、予想外の抵抗に驚き、目を大きく見開いた。
「勝手に殺しちゃ困るよぉ…」
アリアの瞳には、まだ闘志の光が宿っていた。
「だったら…死んで」
ユーは、ランスを握る手にさらに力を込め、アリアを仕留めようと試みた。
「うっ…」
アリアは痛みを堪える。
わき腹からは血が滴る。
「ほぉら?苦しいだろ?離せよ。そうすれば楽になれるぞ?」
ユーは不敵な笑みを見せる。
だが、アリアは無言で、空いている方の腕をユーの腹部に強く押し当てた。
「…な、なにを?」
ユーは、アリアの突然の行動に、困惑の色を浮かべた。
「近距離でも…弓は使えるんだよ!」
アリアがにやりと笑う。
その次の瞬間だった。
「どすっ!」
ユーの腹部に激しい痛みが奔った。
「…な、に?」
ユーが衝撃に耐えながら腹部を見下ろすと、そこには一本の鋭い矢が鳩尾を貫通しているのが見えた。
「うっ…息が…」
鳩尾を貫かれた激痛と衝撃に、ユーの魔力は乱れ、その手に握られていた雷のランスは霧散した。
ユーは呼吸が困難になり、その場に崩れ落ちるように動けなくなった。
「今度こそ…終わりだよ!!」
アリアは、とどめとばかりに拳を大きく振り上げ、ユーの顔面に鋭い右ストレートを叩き込んだ。
「あべっ…!」
ユーは、まともにパンチを受け、その体が宙を舞い、遺跡の地面に激しく叩きつけられた。
「ユー!!」
その様子を目にしたリンチーは、リュウとの戦闘を中断し、倒れたユーのもとへ急いで駆け寄った。
「アリア!」
竜巻を突破したサシャとリュウは急いでアリアの元に駆け寄る。
「うっ…」
ユーは、脇腹の傷口から血を流し、口元からは折れた歯と鮮血が混じり合っていた。
その意識は完全に途絶え、気を失っていた。
「…ぼ、僕なら平気だよぉ」
アリアはそう言葉を発したが、その脇腹からは未だ大量の血が滴り落ちていた。
「急いで手当をしないと…」
サシャは、事態の深刻さに顔を曇らせ、急いで懐から回復薬を取り出すと、アリアの腹部の傷口に慎重にかけた。
「うっ…」
だが受けたダメージが大きいのか回復に時間がかかっているようだった。
その時、顔を上げたリンチーが、サシャたちを激しい憎悪を込めた鋭い視線で睨みつけた。
「よくも…ユーを…お前ら…殺す」
リンチーの肉体から膨大な魔力が溢れてくる。
そして、同時に気を失っているはずのユーからも魔力が溢れてくる。
「気を付けるのじゃ!あやつ何かする気じゃ!」
トルティヤは、リンチーとユーから溢れ出す尋常ではない魔力を感じ取り、サシャたちに最大級の警告を発した。
「風雷共鳴魔法-嵐禍雷災-!!」
そして魔法名が放たれると同時だった。
「ドドドドドドド!!」
天地を揺るがすような轟音と共に、雷の魔力を纏った巨大な竜巻が、まるで荒れ狂う巨竜のようにサシャたちに襲いかかった。
「みんな!僕の後ろに隠れて!」
そして、サシャは迷うことなく、右手を大きく前に突き出した。
「魔法解除!!」
サシャが魔法を唱えると同時、竜巻がサシャ達を包み込む。
「ぐっ…(まるで右手をもっていかれそうな勢いだ)」
サシャの魔法解除によって直撃こそ避けられたものの、その風圧と渦巻く雷の魔力は凄まじく、サシャたちは今にも吹き飛ばされそうだった。
あまりの強風と雷鳴に、周囲の状況を把握することすら困難だった。
やがて数分が経過し、巨大な竜巻が収束すると、辺りには再び静寂が戻った。
ユーとリンチーの姿は、彼らの目の前から完全に消え失せていた。
どうやら、あの猛烈な竜巻が起きている最中に撤退したようだった。
「耐え…た」
リュウは、安堵の表情を浮かべながら、小さく息をついた。
「た、助かったよぉ…」
アリアもまた、緊張の糸が切れたのか、お腹を抑えながら深いため息をついた。
だが、その時アリアの力が抜けて地面に倒れた。
「アリア!」
サシャがアリアに近づく。
アリアの腹部からは血が溢れていた。
「くそ…回復薬では間に合わないか…」
リュウが焦りの色を見せる。
「…小僧。体を借りるぞ」
すると精神世界のトルティヤがサシャの肩を叩く。
そして、精神がトルティヤと入れ替わる。
「まったく…随分と派手にやられおって…無限魔法-聖なる羽衣-」
トルティヤが呆れながらも魔法を詠唱する。
アリアの体を、柔らかな水色の光のベールが優しく包み込んだ。
「…これで小娘は大丈夫じゃろう。ほれ、戻すぞ」
トルティヤがそう呟くと再びサシャの肩を叩く。
そして、精神がサシャと入れ替わる。
「トルティヤ…ありがとう」
サシャはトルティヤに礼を言った。
こうして、サシャ達はアリアの回復を待つことになった。
一方その頃、カリカリの森上空。
リンチーがユーを抱えて空を飛んでいた。
「あいつら…許さない。次あったら殺す…」
リンチーの目は怒りに燃えていた。
「うっ…」
その時、ユーが目を覚ます。
「ユー、大丈夫?」
リンチーがユーを見つめる。
「ごめん。リンチー…油断した」
ユーは、力ない声でそう言葉を発した。
「仕方ない。あいつら想像よりもずっと強かった」
「…けど、次は絶対に負けない」
「まぁ、とりあえず、任務は失敗しちゃったね。アルタイル姉ちゃんに謝りに行こう…」
リンチーは、小さくため息をつくと、意識を取り戻したユーをしっかりと抱え直し、シュリツァの方向へと飛び去っていった。




