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第94章:カベルタウン

サシャたちは、期待と好奇心を胸に、カベルタウンの石畳の道へと足を踏み入れた。

カベルタウンは、目に鮮やかな赤い瓦屋根が特徴的な、独特の趣を持つ街並みを形成していた。


「カベルタウン名物「九龍饅頭(クーロンまんじゅう)」!できたてですよ!」


「そこの冒険者さん、いい武器があるわよ」


「ドラゴニアワイン売ってますよ!お土産に1本いかがですか?」

街の入口から中心へと続く大通りには、色とりどりの店が軒を連ね、活気あるマーケットを形成していた。

行き交う人々は、それぞれの店で商品を選んだり、店主との会話を楽しんだりしており、思い思いに商売の賑わいを創り出している。

しかし、目を凝らすと、そこにあるのはほとんどがドラゴニア族が経営する店ばかりであることに気づかされる。


「いくつかの店はもぬけの殻だな…」

リュウは、鋭い眼差しで街全体を見渡した。


すると、通りに点在するいくつかの店舗が、まるで時が止まったかのようにひっそりとしており、もぬけの殻になっていることに気づいた。

店内の器具や装飾品がそのまま残されている様子は、まるで突然の夜逃げでもあったかのような、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。


「みんな龍心会の政策から逃れようとしたのかな」

その光景を見たサシャの脳裏には、龍心会が打ち出した他種族、特に人間に対して課された厳しい税制のことが蘇った。

その政策の余波は、サシャが想像していたよりも遥かに顕著な形で、この街に現れ始めていた。


「あれ?あそこのお店、何か貼ってあるよ!」

その時、アリアが、通りの向こうにある一軒の店の扉に、大きく何か貼られているのを見つける。


「本当だ!」

サシャたちはその店の前に近づく。

どうやらその店は、モンスターの素材を取り扱う店のようだった。


「なになに?『新生ドラゴニア王国公認店』だって?」

扉に貼られているものは、そう書かれたシールだった。


「とりあえず、話を聞いてみるか」

リュウは、状況を探るべく、その素材取扱店の店主から情報を聞き出すことを提案した。


「そうだね。情報収集も頼まれてるからね」

そして、三人は店の扉を開ける。


「カランカラン」

店の扉を開けると、上部に設置された呼び鈴が、澄んだ音を立てて来店を告げた。


「いらっしゃいませ…」

店内には、様々なモンスターの素材が、種類ごとに丁寧に陳列され、まるで美術品のように飾られていた。

その一つ一つが、冒険者の好奇心を刺激するような、見事な品質を保っている。

店内にいた数人の客は、やはりというべきか、全員がドラゴニア族であった。


「わぁ…珍しいモンスターの素材がいっぱいだよぉ」

アリアは、珍しい素材の数々に目を輝かせ、まるで宝物を見つけた子供のように店内を見回していた。


「珍しいモンスター?これとか?」

サシャは、特に目を引いた、近くに展示されていた見事な羽根の素材に、思わず手を伸ばそうとした。

その時だった。


「お客様、そちらに触れるのはご遠慮いただけますか?」

カウンターの奥から現れた、片眼鏡をかけた一人の従業員に、静かな声で注意を促された。


「あ、すみません…」

サシャは、まさか注意されるとは思わず、慌てて手を引っ込めた。


「こちらは、上物の「ホクトウカラス」の羽根でしてね。この黒色の色は着色料に。他には武具の飾りや呪具に使われることが多いんです。ただ、耐久性に難がありましてね。何度も何度も触れるとボロボロになってしまうんです。なので、購入時以外は触るのをご遠慮させてもらっています」

従業員は、冷静かつ丁寧な口調で、その素材が「ホクトウカラス」の上質な羽根であること、そしてその繊細さゆえに触れることができない理由を説明した。


「そうなんですね。そうとは知らず…」

サシャは、状況を理解し、心から申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「いえいえ。注意書き等もないものですから…では、ごゆっくりご覧ください」

従業員は、にこやかな表情で丁寧に一礼すると、店の奥へと姿を消した。


「とはいったものの、買うものもないしな…」

サシャは、店内を見回しながら、特に買うものも見当たらず、どうしたものかと頭を悩ませた。


「サシャ、遺跡で手に入れたべラオスの素材を売れないか聞いてみたらどうだ?」

その時、リュウは、サシャの傍らに進み出て、白銀の遺跡で手に入れたべラオスの素材を売ってみることを提案した。


「あ!そういえば!」

サシャも思い出したかのような表情を見せ、慌てた様子で腰に提げた亜空袋(ポータルバッグ)から、巨大なべラオスの素材を取り出した。


「わぁ…これは「ギンヨクグリフォン」の爪と羽根だよ…本物を初めて見たよぉ…」

一方で、アリアは、展示されている別モンスターの素材に興奮を隠せない様子で、まるで図鑑を眺めるかのように楽しそうに観察していた。


「(アリアは…そのままにしておこう)」

その様子を見たサシャは、アリアの純粋な好奇心を尊重し、何も言わずに静かに頷いた。

そして、カウンターへと向かう。


「いらっしゃいませ」

カウンターには、先ほどの片眼鏡の従業員とは異なる、茶色い髭をたくわえた高貴な雰囲気を纏う男性が立っていた。


「あの…これを売りたいのですが…」

サシャは、べラオスの巨大な翼、鋭い嘴、そして輝く毛皮を、一つずつ丁寧にカウンターに置いた。


「これは…少々お待ちください。オーナーをお呼びいたします」

従業員は、サシャが差し出した素材を一目見て、驚きの表情を浮かべた。

そして、急ぐように店の奥へと姿を消した 。


「トルティヤが言う通り、相当すごそうなものなのか?」

リュウは、従業員の慌ただしい様子を見て、サシャに確認するように問いかけた。


「オーナーを呼びに行くくらいだから、そうなのかも…!」

サシャの顔は、高額な取引への期待に満ち、わずかに紅潮していた。


「いらっしゃいませ…」

そして、間もなくすると、店の奥から足早にオーナーが現れた。


「あ!さっきの…」

サシャは、その姿が先ほど自分に注意を促した従業員と同じであることに気づき、わずかに驚きを覚えた。


「おや、あなたは先ほどの…素材を売りに来たのですね」

そこに立っていたのは、片眼鏡をかけた、人の良さそうな笑みを浮かべる男だった。

先ほど、従業員だと思っていた男は、この店のオーナーだったのだ。


「あ、はい。なんかべラオスというモンスターの素材です」

サシャは、オーナーの問いかけに、目の前のべラオスの素材へと視線を向ける。


「べラオス…絶滅種の素材ですか。これはまた随分と珍しいものを…。どちらで手に入れましたか?」

オーナーはサシャにべラオスの素材の入手経路を尋ねる。


「ある遺跡で冷凍状態になっているべラオスの死体がありまして、それから剝ぎ取ったものです」

サシャはべラオスの素材の入手経路について説明する。


「なるほど…どおりで状態がいいわけだ。べラオスは乱獲されすぎて絶滅したが故に、素材は非常に希少価値が高い。だが、価値があるのは毛皮と翼だけだ。嘴の別のモンスターの素材で代用が可能だから高値はつけられない…」

オーナーは、サシャの説明に納得したように頷くと、熟練した手つきでそろばんを弾き始めた。


「保存状態を加味して、三点で13万ゴールドといったところだ。毛皮が7万ゴールド。翼が5万5000ゴールド。嘴が5000ゴールドといったところだ。どうだろうか?」

オーナーは、弾き終えたそろばんから顔を上げ、サシャの目を見て価格を提示した。


「トルティヤ、これって妥当な価格だと思う?」

オーナーの提示した値段に対して、サシャは、提示された金額の妥当性を測るため、精神世界にいるトルティヤに問いかけた。


「ワシは古物商じゃないぞ。…とはいえ、金額は妥当じゃな。それに、このまま長期間保存していたら素材が痛んで価値が下がってしまうわい。それなら、さっさと売ってしまうのじゃ」

トルティヤは、サシャの問いに対し、取引の有利さを説き、早く売るように促した。


「分かった!じゃあ、売っちゃうね」

サシャは、トルティヤの言葉に納得し、意識を現実世界へと戻した。


「分かりました。13万ゴールドで大丈夫です!」

サシャは、オーナーの提示した価格に同意し、取引に応じる姿勢を見せた。


「ありがとう。今金貨を…」

オーナーは、取引成立に満足げな笑みを浮かべ、近くにいた従業員に指示書のような紙を一枚手渡した。

指示を受け取った従業員は、無言で頷くと、店の奥へと足早に消えて行った。


「あの…一つお伺いしても?」


「はい。他に何かご入用ですか?」


「外の扉に貼っているシール。あれは、一体なんなのかなと思いまして」

サシャは、この店に入ってからずっと気になっていたことを、 オーナーに尋ねた。


「あれですか?あれは、龍心会公認店の証明シールですね。なんでも、龍心会の方が言うには、税金を納め、龍心会に実用性を認められた優良店のみが貼ることを許されるとか…ま、正直言いますと、税金が増えたおかげで、こちらも少し大変になりそうですけどね…」

オーナーは、周囲を気にするように少し小声で、そのシールの意味を話し始めた。


「(これは、シールを持つ店と持たない店との間に、明確な差別化を図るための策か。そして、最終的にはシールを持たない店に対して、何かしらの難癖をつけて閉店へと追い込む算段 もしれないな)」

龍心会の巧妙な手口に、リュウは内心で舌を巻いた。


「なるほど…ありがとうございます」

サシャは、オーナーの正直な説明に対し、深く頭を下げて礼を述べた。

その言葉と同時に、店の奥から戻ってきた従業員が、ずっしりと重そうな金貨袋を携えていた。


「では、こちらが金貨になります。あぁ、龍心会のせいで商売をやめたり、夜逃げした店がいくつかあるみたいですが、逆にしっかりと税金さえ支払えば、商売は保証されるということですから、我々は頑張りますよ」

オーナーは、手渡された金貨袋をサシャに渡し、笑顔で言葉を続けた。


「ありがとうございます!」

サシャは、金貨袋をしっかりと受け取ると、オーナーに一礼し、リュウと共にアリアの元へと向かった。


「わぁ…「ウインドランドユニコーン」の毛皮…本物だよぉ」

アリアは、未だ珍しい素材の数々に夢中になっており、目を輝かせながら展示されている商品を見つめていた。


「アリア、そろそろ行こうか。あのシールのことも分かったし」

サシャは、夢中になっているアリアの肩にそっと手を置き、声をかけた。


「えー、もっと見たいよぉ」

アリアは、名残惜しそうに店内の素材に視線を送りながら、少し不満げな表情を浮かべた。


「今は調査と遺跡の探索が優先だよ。それに遺跡に珍しいモンスターがいるかもしれないし!」

リュウは、アリアの気持ちを察したように、優しくフォローする言葉をかけた。


「確かに!遺跡にも珍しいモンスターがいるかもしれないもんね!」

アリアは、その言葉にぱっと顔を輝かせ、不満げな表情から一転、満面の笑みを浮かべた。

こうして、三人は素材取扱店を後にした。


「そういえば、シールについて何か分かったの?」

店を出るとすぐ、アリアは興味津々といった様子でサシャとリュウに尋ねた。


「簡単に要約すると「ドラゴニア王国に対して忠実なお店の証」という感じかな」

サシャは、オーナーから聞いた話を簡潔に要約し、アリアに説明した。


「忠実な…なんかよく分からないけど、ドラゴニア王国からしたら都合が良いお店って感じかな?」

アリアは、サシャの説明を聞くと、核心を突くような言葉を口にした。


「まぁ、そんなところだ…」

リュウは、アリアの的確な見解に、静かに同意する意を示した。


そして、サシャたちは宿屋を探して街中を歩く。

街のいたるところには、龍心会、すなわち新生ドラゴニア王国の新しいロゴが入ったポスターが貼られ、通りを彩る旗も、赤色と水色を基調とした新国旗へと一新されていた。


「それにしても、どこもかしこも龍心会一色だな…」

リュウは、その徹底した変化を目の当たりにし、この街が完全に龍心会の支配下に置かれていることを改めて確認した。


「そうだね。ドラゴニア以外の種族をさっきから見てないし…」

先ほどから街を歩き続けているサシャの目に、ドラゴニア族以外の通行人がほとんどいないという事実が飛び込んできた。


そして、刻一刻と時間が過ぎ、街の建物が夕焼けのオレンジ色と紺色に染まり始めた時だった。


「高すぎる!こんな宿、二度と来るか!!!」

サシャたちが宿屋を探して街を歩いていると、突如、近くの建物から乱暴にドアが開かれ、激しい足音と共に冒険者らしき一団が飛び出してきた。

彼らは人間、エルフ族、ナーガ族からなる混成パーティーのようだった。


「あ、あの何かあったんですか?」

サシャは、怒りに顔を紅潮させて先頭を歩く、坊主頭の人間の冒険者に、恐る恐るといった様子で声をかけた。


「あぁ、お前らも冒険者か?それなら、あそこの宿だけはやめておけ。なんか、宿泊税とかなんとか言ってきて、追加で15000ゴールドも要求されたぞ!!」

坊主頭の冒険者は、怒りに声を震わせながら言葉を続けた。


「そうだ。まるで意味が分からない…ドラゴニア族にはそのようなものを求めていなかったのに、どうして我々だけ。おまけにこの国に入るときに入国料とかいって9万ゴールドも徴収された…」

緑髪のエルフ族の男は、困惑した様子で首を傾げた。


「本当よ。ドラゴニアは穏やかな国だって聞いていたのに訳が分からない。黎英(れいえい)から来て、ドラゴニアを経由してサージャス共和国に行きたいだけなのに…」

黒髪のナーガ族の女性も、顔いっぱいに怒りを浮かべ、現状への不満をぶつけた。


どうやら、彼らは龍心会が発布したばかりの新憲法の存在を、全く知らなかったようだった。


「あ…実はそれ…」

サシャは、事の経緯を説明するため、懐から新憲法が書かれた一枚の紙を取り出し、冒険者たちに手渡した。


「なんだこれ?新憲法?」

手渡された紙を見た坊主頭の男は、そこに書かれた内容に驚き、大きく目を見開いた。


「宿泊税に入国料…これ、本当なの?」

ナーガ族の女性はサシャ達に確かめるような視線を向ける。


「残念ながら本当だ。今日の明朝に龍心会という保守組織が国王を殺して国を乗っ取った…クーデターが起きたんだ」

リュウは、彼らの疑問に答えるように、落ち着いた口調で現状の事態を説明した。


「なんと…そんなことが。私たちが入国したのは昼頃だったから、既に新政権が発足して、入国料を徴収していたというわけか…」

エルフ族の男は、リュウの説明を聞き、冷静に事の次第を理解していく。


「なるほどな。この様子じゃドラゴニアの宿屋はダメそうだな」

坊主頭の男は、現状を把握し、深く落胆したように大きくため息をついた。


「これは赤鎧峠のあたりで野宿ですね…」

エルフ族の男は残念そうな表情をする。


「しょうがないわね…ま、さっさとドラゴニアを立ち去るのがよさげね」

ナーガ族の女性はがっかりしているようだった。


「じゃあ、俺たちは、とりあえずシュリツァに向かうわ…教えてくれてありがとうな」

坊主頭の男はサシャ達に礼を告げると、エルフ族の男とナーガ族の女性と共にトボトボとシュリツァの方向へと歩いて行った。


「みんな困っている様子だったね」

アリアはどこかすっきりとしない顔をしていた。


「そうだね…もう少し街の様子を見てみようか」

サシャの提案に、リュウとアリアは迷うことなく頷いた。


サシャ達は、再び街の中を歩き始めた。

しかし、目に映るのは、どこもかしこも龍心会の紋章が入ったポスターと、通りを行き交うドラゴニア族ばかりだった。

他種族の姿は、以前にも増して見当たらない。


そして、一時間ほど街を歩き続けた頃、彼らの耳に、偶然にも気になる会話が飛び込んできた。


「知っているか?街南部の遺跡に財宝が眠っているらしいぜ!」

街角で立ち話をしている、腕に龍心会の腕章をつけた二人のドラゴニア族の男性が、小声でひそひそと話していた。


「マジで?それを見つけてアルタイル国王に献上すれば俺らも出世できるかな?」


「いやいや…無断で持ち場から離れたら怒られそうだしやめとこうぜ」

二人はそのような会話をしていた。


「街の南部に遺跡…ヘレンさんの話は本当だったんだ…」

サシャは、その会話を聞き、ヘレンから得た情報が真実であることを悟った。


「どうするかだな。今から行くなら確実に野宿になる。だからといって、宿屋に泊まるとなると宿泊税がかかるしな…」

リュウは、野宿と宿泊の選択肢の間で、深く悩んだ表情を浮かべた。


「僕はどっちでも大丈夫だよ!!ご飯なら、その辺の虫とかモンスターを狩ってくれば解決だし!」

アリアは、無邪気な笑顔で、全く気にしていない様子を見せた。


「…(む、虫)」

アリアの衝撃的な発言に、サシャとリュウは思わず背筋を凍らせた。


「や、やっぱり今日は日が暮れてきたし、宿屋を探そうか!(5000ゴールド多めにかかっちゃうけど、よく分からない虫を食べさせられるよりマシか…)」

サシャは、慌てた様子で宿屋に泊まることを強く提案した。


そして、三人は少し歩いた先にあった、赤い瓦屋根の趣ある宿屋の扉を開けた。


「いらっしゃいまし!」

宿屋の中に入ると、看板娘らしき若いドラゴニア族の女性が、屈託のない笑顔で元気よく出迎えてくれた。


「あの、食事を…それと部屋を三人で!」

サシャは、看板娘に人数と希望を伝えた。


「あいよ!けど、あなたたち人間ね。宿泊税として一人5000ゴールド追加でかかるけどいい?」

看板娘は、サシャたちの種族を確認すると、少し心配そうな表情を浮かべながら尋ねた。


「大丈夫です!」

サシャは、迷うことなく頷き、人差し指と親指でOKサインを作って見せた。


「それなら、窓の近くの席に座ってくださいまし」

それなら、と看板娘は、窓から街の明かりが見える席へとサシャたちを案内した。


しかし、本来なら賑わうはずのレストランフロアは、宿泊税の影響からか、サシャたち以外に冒険者の姿はほとんど見当たらなかった。

静かな空間に、彼らの話し声だけが響く。


「僕は…鳥そば…を」

サシャがメニューに目を向け、注文しようとしたその時、精神世界にいるトルティヤが、まるで待ちかねたようにサシャの肩を強く叩いた。


「飯じゃな…!」

トルティヤがその言葉を発した瞬間、サシャの意識は強引に精神世界へと引き込まれた。

そして、サシャ達が注文を終えてから数分後。


「はいよ!豚そば、鴨そば、牛そばでし!」

看板娘が、湯気を立てる三人分のそばを、手際よくテーブルに運んできた。


「おぉ!久々の豚そばじゃ!ほほっ!いい香りじゃ!」

トルティヤは、久々の豚そばの香りに目をキラキラさせ、待ちきれない様子で箸を手に取った。


「いただこう…」

リュウは、トルティヤの様子に小さく笑みをこぼすと、温かいそばを箸で掴み上げた。


「あつあつだよぉ!」

アリアは、湯気立つそばを冷まそうと、ふぅふぅと息を吹きかけながら、美味しそうにすすろうとしていた。


「くぅ…なんかこうなる気がしていた」

そして、精神世界から、自分の夕食がトルティヤに奪われたことに、サシャは悔しそうな表情で目の前の光景を見つめていた。


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