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第91章:元エース

サシャたちは、ヘレンの家に招き入れられ、リビングでソファに座っていた。

ヘレンは、カチャカチャと音を立てながらキッチンから姿を現した。

彼女の手には、湯気を立てる紅茶入りのポットと、丁寧に並べられたティーカップが載ったお盆が揺れている。


「とりあえず、茶でも飲みな。話はそれからだ」

ヘレンは、サシャたちのそれぞれの目の前に、音を立てないようそっとティーカップを置いていった。

紅茶からは湯気が立ち上り、芳醇な香りが家中に漂い始めた。


「いい香りだよぉ」

アリアは、ふわりと立ち上る芳醇な香りに誘われるように、そっと目をつぶった。


「これは…お茶?」

リュウは、目の前の珍しい飲み物に、興味津々といった様子で目を丸くしていた。


「…ブラッドオレガノティーじゃな」

トルティヤは、カップから立ち上る香りを深く吸い込むと、その銘柄を確信したように口にした。


「正解…あんた。冒険者のくせに鼻が利くじゃないか」

ヘレンは、トルティヤの言葉に満足げに口角を上げた。


「独特の甘酸っぱい香りと僅かに漂う甘さ…これくらい嗜みじゃ」

トルティヤは、その知識をひけらかすかのように、当然といった表情を浮かべた。


「ほう。言うねぇ。して、ラウ。私に用事があるんじゃないの?」

ヘレンは紅茶を一口飲むと、静かにカップをソーサーに戻した。

そして、ラウ老師に視線を向ける。


「あぁ…単刀直入に言う。ワシらが後継戦争時に使用したバンカーを貸してはくれないか?」

ラウ老師は、手にしていたカップをテーブルに静かに置き、その視線をヘレンへと向けた。

一瞬、リビングに沈黙が訪れ、周囲に緊張が走った。


「…あんた。いい年して何をしようとしているんだい?」

ヘレンは、ラウ老師の言葉に、不敵な笑みを深くした。


「なに…弟子の暴走を止めなければなと思ってな」

ラウ老師は、ヘレンの言葉に、わずかに表情を曇らせながら答えた。


「ふっ…罪滅ぼしってわけだね」

ヘレンはそう言うと、少し一考する。

そして、ゆっくりと口を開く。


「悪いがお断りだ。安寧な余生に私を巻き込まないでおくれ」

ヘレンは、顔色一つ変えず、冷たい口調で断りの言葉を告げた。


「そんな…」

一同はその言葉に愕然とする。


「龍心会が政権を取ろうが何しようが、私はドラゴニアだ。税金だって、追加で取られることはないし、徴兵がどうこう言ったって、この老いぼれを戦場へ連れて行くような真似はしまい。だから、私には関係のない話さ」

ヘレンは紅茶を静かに飲みながら、淡々と言葉を続けた。


「別に協力しろと言っているわけじゃない…バンカーを貸してもらうだけだ。お前やヒュウナ、お店には迷惑をかけない。約束する。だから、なんとか頼めないか?」

その言葉に対して、ラウ老師はヘレンに深く頭を下げ、懇願した。


「…そう言われてもねぇ」

すると、リュウが立ち上がり、真剣な眼差しでヘレンに頭を下げた。


「俺からもお願いします」

すると、リュウが頭を下げる。


「僕たちにはやらなければならないことが…この通り!」

アリアもまた、リュウの隣に並び、懸命に頭を下げる。


「…(今のワシらには拠点がなんとしても必要じゃ。ここは頭を下げておくか)」

トルティヤは、普段の傲慢な態度をかなぐり捨て、無言で深々と頭を下げた。


「俺からもお願いします…!ご家族は俺が命に代えてもお守りしますから」

ラジアンは、ヘレンの視線を受け止め、その真摯な眼差しで懇願した。

彼の言葉には、強い決意が込められている。


「…まったく、どいつもこいつも」

ヘレンは、全員の懇願の視線を受け止めるかのように、ゆっくりと手元のカップをテーブルに置いた。


「ついておいで」

ヘレンは、立ち上がると、無言で廊下の奥へと足を進めた。

サシャたちは、ヘレンの突然の行動に戸惑いながらも、期待と不安を胸に、彼女の背中を追った。


すると、廊下の行き止まりには、壁一面を覆い尽くすほどの巨大な一枚の絵画が、厳かに飾られていた。

そこには、荘厳な古城と大きな門の風景が描かれている。


「まさか、ここをまた開ける時がくるなんてね…」

ヘレンはその絵画の前に立つと、絵に描かれた門の鍵穴の部分に、懐から取り出した古びた鍵を差し込んだ。


「ゴゴゴゴゴ…」

すると、絵画は、重厚な音を立ててゆっくりと横にスライドし、その奥に隠されていた地下へと続く石造りの階段が姿を現した。


「わぁ…」

アリアは、突然目の前に現れた精巧な仕掛けに、驚きの声を上げた。


「これは随分と大層な仕掛けじゃな」

トルティヤもまた、その精巧な仕掛けに、驚きのあまり目を丸くしていた。


「…あの頃のままじゃな」

ラウ老師は、懐かしそうに、そして感慨深げにその場所を見つめながら、静かに言葉を漏らした。


「ほら。さっさと行くよ…」

ヘレンが先を促す。


サシャたちは、ヘレンに促されるまま、地下深くへと伸びる階段を、一歩一歩踏みしめるように降りていった。


地下へと続く石壁はひんやりと湿気を帯び、微かにカビの匂いが漂っている。

それが、店内の革靴の芳醇な香りと混じり合い、独特の、どこか懐かしさを感じる空気を醸し出していた。


「あの…どこに?」

リュウは、辺りを見回しながら、ヘレンに尋ねた。


「…あんたらが欲している場所さ」

ヘレンは、低い声で、その問いに短く答えた。

そして、サシャたちは階段をさらに下っていく。


やがて、長い階段を降りきると、視界が一気に開け、広大な地下室に辿り着いた。空気はひんやりと重くい。

地下室は薄暗く、ボロボロのランプだけが頼りだった。

壁には、長年の埃と湿気でボロボロになった、かつての組織を示すエンブレムが、その形を辛うじて留め、錆びた斧や剣が無造作に壁に立てかけられていた。

そして、部屋の奥には、ボロボロの椅子と机が申し訳程度に置いてあるだけだった。


「懐かしいな…」

ラウ老師は、その荒廃した空間を、まるで遠い過去を思い出すかのように懐かしげに見渡した。


「随分とジメジメとした場所じゃな」

トルティヤは、そのジメジメとした空間に、明らかに不満そうな表情を浮かべた。


「80年間そのままだからね」

ヘレンは、トルティヤの不満を聞き流すかのように、淡々と言葉を続けた。


「あの…ここが話にあった、バンカー…ですか?」

ラジアンは、目の前の空間を改めて見渡し、ヘレンに確認するように尋ねた。


「あぁ。ここを貸してほしいんだろ?」

ヘレンがサシャたちにそう問いかける。


「あぁ。貸してくれると大変助かる」

ラウ老師は、ヘレンをじっと見つめる。


「…そこの、坊や」

すると、ヘレンは、鋭い視線でラジアンを捉え、その指を真っ直ぐに向けた。


「え?俺か?」

ラジアンはきょとんとした顔を見せた。


「そう。あんただよ。さっき、「ご家族は俺が命に代えてもお守りします 」と言っていたよね?」

ヘレンは、ラジアンの目を見据えながら、静かに言葉を続けた。


「はい。言いました」

ラジアンは、ヘレンの視線から逃げることなく、真っ直ぐに彼女を見つめ返した。


「私はね、口だけの人が嫌いでさ…そこで一つ試させてもらう」

すると、ヘレンは、ラジアンの返答を聞き終えるや否や、空間に響くような声で魔法の詠唱を始めた。


「年魔法-遡る時間(バックトゥタイム)-」

ヘレンの身体は、突然、強烈な黄色い光に包み込まれ、その輝きは瞬く間に地下室全体を圧倒した。


「これは…!?」

その眩いばかりの光に、リュウは思わず腕で目を覆った。


「うわぁ!なんか眩しいよぉ…」

アリアも同様に、その輝きに耐えかねて顔を背けた。


「(その魔法を見るのも久々じゃな)」

ラウ老師は、その光景を懐かしむかのように、微動だにせずヘレンの姿をじっと見つめていた。

やがて、その強烈な光がゆっくりと収束していくと、そこに現れたのは、かつてのヘレンとは異なる、若々しい人影だった。


「…ふぅ。この姿になるのも久しぶりだね」

そこには、艶やかなオレンジ色の髪が肩を流れ、背には透き通るような美しいオレンジ色の翼を持つ、一人の若き美しいドラゴニアが立っていた。


「へ、ヘレンさん?」

アリアが、目の前の信じられない光景に、恐る恐る尋ねた。


「あぁ。私がドラゴニア王国軍諜報部隊の元エース。ヘレン・ハウゼンさ」

そこに立つ若きドラゴニアは、かつての老女とは似ても似つかぬ堂々とした表情で、自らの名と過去を告げた。


「(年魔法か。ここまで大きく年齢を変化させることができる使い手は初めて見たわい)」

トルティヤは、ヘレンの変身を目の当たりにし、感嘆の声を漏らした。


「年魔法?」

精神世界から様子を見ていたサシャがトルティヤに尋ねる。


「自身、もしくは触れた生物の年齢を操作できる魔法じゃ。ただし、操作できる年齢幅や効果時間は使い手によって異なるのぉ。あの女、自身をあそこまで若返らせられるとは、中々の使い手と見える」

トルティヤは、サシャの問いに、知識をひけらかすかのように得意げに年魔法の概要を説明した。


「さ、坊や。今から私と一騎打ちをしろ。魔法や武器を使っても構わない。もし、私から一本取れたら、ここのバンカーを貸してやる。ただし、負けたら大人しく引き下がってもらう。ラウ、文句はないな?」

ヘレンは、ラウ老師の顔を見据え、有無を言わせぬ口調で問いかけた。


「あぁ、構わない。頼んだぞ、ラジアン」

ラウ老師は、ヘレンの言葉に小さく頷くと、信頼を込めた視線をラジアンに送った。

そして、ラジアンはこくりと首を縦に振る。


「私から一本を取れないようでは…」

次の瞬間、もの凄い勢いでヘレンはラジアンに迫る。

その姿は、まるで一陣の風のように音もなく、神速でラジアンの眼前へと迫った。


「(早い!)」

ラジアンは、その速さに舌を巻きながらも、咄嗟に愛用のクピンガを構え、迎撃態勢に入った。


「さっきの言葉は信頼に値しないな!」

そして、ヘレンから放たれたのは強烈なバックキックだった。


「ガキン!」

ラジアンは辛うじてクピンガでキックを防いだかのように見えた。

だが、当たった場所が悪かったのか、クピンガはラジアンの手から弾き飛ばされる。


「ぐっ…(くそっ。防いだはずなのに腕がビリビリしやがる)」

ラジアンの腕にビリビリと痺れるような衝撃が走る。


「どうした?攻めてこないのかい?」

ヘレンは、間髪入れずに鋭い蹴りをラジアンに放った。

その足技には、一切の迷いがない。

その隙のなさゆえに、ラジアンはあっという間に防戦一方になった。


「なんという体幹のよさだ。一切のブレを感じない」

戦いの様子を静かに見つめていたリュウは、ヘレンの動きからその実力を正確に見抜いていた。


「ヘレンはかつてワシと共に戦った同志だった。諜報部隊のエースとして活躍していてな。「朱燕(しゅえん)」と呼ばれ、敵側にも恐れられておった」

ラウ老師は、かつての同志の強さを見せつけられるように、ヘレンの過去について静かに語り始めた。


「そんな人が相手じゃ、ラジアンさん大変なんじゃ?」

アリアの表情は、ヘレンの圧倒的な実力に、不安の色を濃くしていた。


「確かにヘレンは強い。じゃが、そう簡単に負けるような弟子をワシは育てておらん」

ラウ老師の顔には、弟子への揺るぎない信頼が満ち溢れていた。


「防戦一方じゃないか。それでもドラゴニア王国の兵士なの?」

ヘレンは、容赦なく蹴りを放ち続けながら、ラジアンの闘志を煽るかのように言葉を投げかけた。


「へっ…ようやく目が慣れてきたところだよ」

ラジアンは、ヘレンの言葉に不敵な笑みを浮かべると、それまでの防御一辺倒の動きから一転、鋭い蹴りを紙一重で回避した。

そして、ヘレンの側面へと素早く回り込むと、全身の力を込めて大きく拳を振り上げた。


「(大ぶり!避けられる!)」

ヘレンは、ラジアンの動きを瞬時に察知し、回避行動に入ろうと身を捻った。

しかし、そのヘレンの反応よりも早く、ラジアンの口から魔法の詠唱が放たれた。


「血流魔法-限界加速(リミットバースト)-!!」

次の刹那、ラジアンの拳の速度が一気に早くなる。

それは、空気をねじ曲げるかのような凄まじい勢いであり、その拳には血管がビキビキと浮き上がり、尋常ではない力が宿っているのが見て取れた。


「(加速した!?)」

加速した拳をヘレンは回避することができなかった。


「これで…どうだっ!!」

ラジアンの拳はヘレンの頭部に直撃する。


「きゃああっ!!」

ヘレンは間一髪のところで腕を入れガードするが、その一撃は重たく、ヘレンの肉体は、まるで糸の切れた人形のように宙を舞った。


「一気に決めるぜ!!」

ラジアンは、間髪入れずに宙へと跳躍した。

追撃の意を込めて、さらに強烈な拳を振り下ろす。


「もらったぁぁぁ!!」

拳がヘレンに近づく。


「詰めが甘いね」

だが、ヘレンは、驚くべき体幹で空中で体勢を立て直すと、間一髪でラジアンの拳を回避した。

そして、ラジアンの肩に触れる。


「年魔法-刻む時間(アップトゥタイム)-!」

ヘレンは、ラジアンの肩に触れた指先から、冷たい魔力を一気に送り込んだ。


「ぐっ…(なんだ、急に力が…)」

すると、ラジアンの腕は見る見るうちに生気を失い、皮膚には深い皺が刻まれ、その老いは瞬く間に彼の全身へと広がっていった。


「はぁ…はぁ(胸が苦しい…)」

ラジアンの肉体は急速に萎縮し、筋肉は小さく縮み、力強い黒髪は白銀に変わった。

彼の体は、まさに老いさらばえた老人そのものに弱体化し、骨が軋む音と、内臓が悲鳴をあげるような苦痛に苛まれていた。


「筋は悪くない。だが、真っすぐで実直。それがアンタの弱点さ…」

ヘレンはラジアンの弱点を的確に指摘する。


「弱点だって?俺は…俺は不器用だからな…真っすぐでしか語れないのさ…」

ラジアンは、荒い息を吐きながらも、その言葉を振り絞るように口にした。


「そうかい。だったら、それがアンタの限界時点だ」

ヘレンは、ラジアンの言葉に冷たい視線を送ると、再び電光石火の如く加速した。


「若い芽を摘んで申し訳ないが、これは勝負だ。綺麗に片付けさせてもらうよ」

ヘレンの鋭い蹴りが、容赦なくラジアンの顔面に迫る。


「まだだ…血流魔法-気力循環エナジーサーキュレーション-」

次の瞬間、ラジアンの体内から漲る魔力があふれ出し、萎縮していた全身の筋肉が瞬く間に隆起し始めた。

そして、ヘレンの足をがっしりと掴む。


「なにっ!?まだ、こんな力が!?」

ヘレンは、予想外の抵抗に、驚きを隠せないでいた。

咄嗟に身を捻り、拘束から逃れようと試みるが、ラジアンの腕力はすさまじく、その足はまるで鋼のように固く掴まれていた。


「逃がさない…このまま一気に片付けさせてもらおう」

ラジアンは、ヘレンの足を力強く引っ張り、そのまま自身へと引き寄せた。

そして、ヘレンの体をがっしりとホールドすると、渾身の力で宙へと高く跳躍した。


「うっ(まさかこれは…)!」

ヘレンはこの技に見覚えがあった。


「はぁぁぁぁぁぁ!!喰らえ!!」

そして、そのままヘレンの頭部を下へと向け、重力に任せて猛烈な勢いで地面へと落下していく。


「(間に合わない!!)」

ヘレンは、必死に拘束を解こうと身を捩るが、ラジアンはまるで岩のように彼女の体をしっかりとホールドしており、その試みは叶わなかった。


「ドラゴニア流体術奥義・彗星堕とし!!」

そして、轟音と共に、ヘレンを頭から地面へと叩きつけた。

その一撃は地面が揺れるほどの衝撃だった。


「ぐあっ…」

その勢いにヘレンは一撃で気を失う。


「おいおい…死んじゃいない…よな?」

その凄まじい一撃を目の当たりにしたリュウは、ヘレンの安否を案じるように心配そうな表情を浮かべた。


「大丈夫じゃ…ヘレンはそんなやわな女じゃない」

それに対してラウ老師は、一切の動揺を見せず、静かに言葉を返した。


「…はぁ、はぁ…」

地面に着地したラジアンは、気を失ったヘレンをゆっくりと地面に横たえると、荒い息を吐き出した。

ヘレンが気を失ったことにより、ラジアンにかけられていた年魔法の効力が失われ、彼の肉体は瞬く間に元の若々しい姿へと戻っていった。


「…」

ヘレンの身に纏っていた若返りの魔法も、既に解除されており、その姿は、いつの間にか元の狡猾な老婆のものへと戻っていた。


「へ、ヘレンさん大丈夫なのかな?」

その様子を見た精神世界のサシャは、ヘレンの安否を心配し、トルティヤに問いかけた。


「死んではおらぬ。のびておるだけじゃな」

トルティヤは、ヘレンの様子を冷静に見極めると、そう告げて、倒れているヘレンの前にゆっくりと歩みを進めた。

そして、ヘレンの意識を取り戻させるかのように、一つ治癒魔法の詠唱を始めた。


「治癒魔法-六花の朝露(りっかのあさつゆ)- 」

すると、トルティヤが手から緑色の雫をヘレンに垂らす。

雫は波紋のように広がり、ヘレンの体を優しく包み込む。


「うっ…」

次の瞬間、ヘレンの瞼がゆっくりと開き、その瞳に光が戻った。


「…お目覚めじゃな」

ヘレンの視界にはラウ老師が笑みを浮かべ立っていた。


「そうか…私は負けたんだね」

ヘレンは頭を抑えるとゆっくりと立ち上がった。

その様子を見たラジアンは、安堵の息を漏らし、ヘレンにゆっくりと歩み寄った。


「すみません。手加減をしていたら間違いなく俺が負けていたので…」

ラジアンは、勝利を収めたにもかかわらず、どこか申し訳なさそうな表情でヘレンに言葉をかけた。


「ふん…言ってくれるね。さすがはラウの弟子だ」

ヘレンは、ラジアンの謝罪を受け流すかのように、彼を称賛する言葉を口にした。

そして、ラウ老師に視線を向ける。


「さて、約束は約束だ。バンカーを貸してやろうじゃないか」

ヘレンは、ラジアンから視線を外し、ラウ老師の顔を見据えて言葉を続けた。


「ありがたい…」

ラウ老師はヘレンに感謝する。


「やった!!」

アリアは喜びの笑みを見せる。


「(どうなるかと思ったが一件落着じゃな…)」

トルティヤは、口角を上げ、静かに胸の内で喜びを噛みしめた。


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