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第87章:大波乱

1か月後。

サシャたちの姿は、修行を終え、心身ともに引き締まった様子で、ラウ老師の自宅前に立っていた。

朝の光が彼らの顔を照らし、旅立ちの空気が満ちている。

そこには、ラウ老師、妻のソニア、そして飼いケルベロスのシリウスも一緒だ。


「ワシができるのはここまでじゃ。1か月よく頑張った」

ラウ老師は、彼らの成長を労うように、優しい声で語りかけた。


「お世話になりました」

サシャが深々と頭を下げる。

その声には、感謝と、新たな旅への決意が込められていた。


「大変でしたが、この学びを活かして旅を続けます」

リュウも深々と頭を下げた。

彼の言葉には、武人としての真摯な姿勢が表れている。


「ラウ老師、ありがとう!」

アリアは、元気な声でラウ老師に微笑んだ。

彼女の笑顔は、別れの寂しさを吹き飛ばすような明るさを持っている。


「して、お前たちは「龍心会」に行くのじゃろう?気を付けるのじゃ。奴らは何を企んでいるか分からぬ。それに、レグルスだけではなく、リーダーのアルタイルもいる」

ラウ老師は、彼らのこれからの旅路を案じながら、とあるドラゴニアの名前を口にした。


「アルタイル…ですか?」

サシャが首をかしげる。

その名は初めて聞くもので、彼の心には新たな疑問が生まれた。


「彼女も…ワシの弟子のひとりじゃった。彼女はエルフ族とドラゴニアのハーフでな。剣術はもちろんのことだが、魔法も超一流だ。気を付けるのじゃぞ」

ラウ老師は、アルタイルの危険性について具体的に忠告した。


「分かりました…ご忠告痛み入ります」

リュウは、真剣な表情で頷いた。


「分かった!気を付けるよぉ」

アリアは、元気な声で頷いた。


「はい…ありがとうございます。では、行ってきます!」

サシャは、改めて感謝の言葉を述べると、旅立ちの準備を整えた。


「何かあれば、またいつでもいらっしゃい!」

ソニアは、彼らの背中を見送るように、柔らかな声で呼びかけた。


「元気でな。風邪、ひくんじゃないぞ」

ラウ老師は、名残惜しそうに大きく手を振った。


こうして、サシャ達が旅立とうとした、その時だった。


「ゴゴゴーン!!」

天を(つんざ)くかのような、地鳴りにも似た轟音が響き渡り、空気が大きく震えた。

その音は、彼らの足元を揺るがすほどの衝撃を伴っている。


「なんだ?この音は?」

サシャは、その尋常ならざる音の大きさに驚愕し、大きく目を見開いた。


「首都の方から…じゃな」

ラウ老師は、事態の深刻さを察したように小さく唸ると、一気に加速し、天空へと舞い上がった。


「…なんてことじゃ。シュリツアの方向から黒い煙がいくつも上がっておる」

ラウ老師の視線の先には、ドラゴニア王国の首都シュリッツアが広がり、その街の中心部から、いくつもの黒い煙が不気味に立ち上っているのがはっきりと見えた。


「…一体何が起きているんだ」

リュウは、突然の異変に思考を巡らせ、困惑した表情で首を傾げた。


「ワシは先にシュリツアの様子を見てくる!」

ラウ老師は、ただならぬ事態に焦燥感を滲ませるように、そう言い残すと、あっという間に視界から消え去るほどの速度でシュリッツアの方向へと飛んでいった。


「僕たちも向かおう!」

サシャは、急展開する状況に焦りを感じながら、リュウとアリアに呼びかけた。


「だが、時間がかかるな…草原を抜けてカリカリの森を抜けるとなると最低でも6時間はかかるだろう」

リュウは、シュリッツアまでの道のりを頭の中で計算し、眉間に深い皺を寄せた。


その時、ソニアがシリウスの頭を優しく撫でた。


「シリウスちゃん。皆をシュリツアまで乗せて行ってくれるかしら?」

ソニアは、シリウスにそう尋ねた。


「ワンッ!」

シリウスは、ソニアの言葉に応じるように力強く吠えると、サシャたちが乗りやすいように、大きな頭をゆっくりと下げた。


「さ、シリウスに乗って!」

ソニアが、優しい笑顔でシリウスに乗るように促す。


「じゃあ失礼して…」

サシャは、恐る恐るシリウスの大きな背中に乗った。


「うわっ!もふもふだよぉ」

アリアは、シリウスの背中に乗ると、その柔らかな毛並みに頬を擦り付け、満面の笑みを浮かべた。


「ケルベロスに乗るとはなかなかレアな体験だな」

リュウも、冷静な表情ながらも、どこか感嘆した様子でシリウスの背に乗った。


「じゃあ、シリウス、頼んだわよ…」

ソニアは、シリウスの大きな顔を優しく撫でた。


「ワンッ!」

シリウスは、ソニアの言葉に応えるように再び吠え、準備を整える。


「じゃあ、皆さん、気を付けてね!あと、手綱はしっかりと握ってるのよ!シリウスは結構速いから!」

ソニアは、サシャたちに注意を促すように声をかけた。


「あ、はい!ありがとうございました!」

サシャは慌てて手綱をしっかりと握った。

次の瞬間、シリウスが猛烈なスタートダッシュで駆けた。

その巨体が地面を蹴るたびに、土埃が舞い上がる。


「うわぁぁぁ!」

サシャたちは、突然の猛スピードに体が大きくのけぞり、必死に手綱を握りしめ、振り落とされないように耐えた。

風を切る音が耳元を通り過ぎ、景色が飛ぶように後方へ流れていく。

その様子をソニアは、彼らの姿が小さくなるまで、じっと見つめていた。


「まぁ、夫の修行を乗り切ったんだもの。きっと大丈夫よね」

ソニアは、心配と希望がないまぜになったような表情を浮かべつつも、彼らの旅の無事を祈るように、静かに見送った。


一方、ドラゴニア王国の首都シュリッツアは、突如として訪れた大混乱の渦中にあった。

街のあちこちで悲鳴が上がり、人々は我先にと逃げ惑っていた。


「きゃぁぁぁぁ!!」


「交易所で火事だ!!」


「王宮が爆発されたぞ!!」

人々はパニックに陥っていた。


「くそっ…一体何が起きてやがる」

ピンク色の翼を持つドラゴニアの兵士は部下を率いて混乱する周囲を見渡していた。

その時、目の前に部下を複数従えたレグルスが現れる。


「久しぶりだなラジアン…元気にしてたか?」

レグルスは、再会を愉しむかのように不敵な笑みを浮かべ、 兵士に尋ねる。


「レグルス…お前がやったのか!?」

ラジアンと呼ばれたドラゴニアが、怒りに燃えるような表情でレグルスを睨みつけた。


「さぁな…それよりも王宮に行かなくていいのか?国王様がピンチではないのか?」

レグルスは、ラジアンの問いを嘲笑うかのように受け流すと、燃え盛る王宮を指さしながら、わざとらしい声で言い放った。

王宮は既に激しい火の手が上がり、黒い煙が天高く昇り続けている。


「くっ…お前らは街の消火活動を…」

ラジアンが、一刻も早く街の消火活動と避難誘導を指示しようと、部下たちに声をかけようとした、その時だった。


「おいおいラジアン。何を勘違いしているんだ?俺がここからお前らを動かすとでも?」

すると、レグルスは、嘲るような笑みを浮かべたまま、懐から愛鎌「風斬り」をゆっくりと抜き出した。

同時に、レグルスの背後に控えていた「龍心会」の部下たちも、一斉に得物を構え、殺気を放ち始めた。


「やろうってのか…いいぜ。お前をコテンパンにして色々と聞き出してやる」

ラジアンは、レグルスの挑発に乗るかのように、懐から一つの武器を抜き出した。それは、刃が卍型になった異様な形状のナイフだった。


「ラヴィタ教主国発祥の武器「クピンガ」。相変わらず使いにくそうなものを使ってやがる…」

レグルスは、ラジアンの持つ武器を鼻で笑うように言い放った。


「やかましい。その鎌で誰かを傷つけている暇があるなら、米でも刈り取って国に貢献しやがれってんだ」

ラジアンも、その言葉に負けじと、鋭い視線で言い返した。


「ほざけ…お前ら。こいつには手を出すな。他の雑魚共を始末しろ」

レグルスは、ラジアンから視線を外すことなく、部下たちに冷酷な指示を言い放った。

すると、レグルスの部下たちが、獲物を狙うかのようにぞろぞろと武器を手に取り、前へとにじり寄ってきた。


「皆、…奴らを全員拘束しろ。可能な限り殺すな」

ラジアンは、部下たちに明確な指示を与えた。


「ラジアンさん…任せてください!」


「こんなならず者に負けません」


「ドラゴニア王国軍の力を見せてやりましょう!」

部下たちは、一斉に武器を構え、応戦の準備を整えた。


「ふん…念のため、聞いてやる。龍心会に下る気はないか?同期のよしみでお前には幹部の席を用意してやる。部下の命も助かる。悪い話ではないだろう?」

レグルスは、最終通告とばかりに、ラジアンに問いかけた。


「ふざけるな!お前らのやり方は間違っている…そんなところに俺は身を置くわけにはいかない!」

ラジアンは、迷いなく神速の踏み込みを見せ、レグルスとの距離を一気に詰めた。

そして、手にしたクピンガを、レグルスに向けて一気に振り下ろす。


「交渉…決裂だな」

レグルスは、その表情に不敵な笑みを深く刻むと、手にした鎌を構え、迎撃態勢を取った。


「ガキィィィィン!!」

激しい金属音が辺りに響き渡り、二つの武器が激しく火花を散らした。


「かかれー!!」


「あんな連中に負けるな!!」


「ドラゴニアの未来が分からない馬鹿共に後れを取るな!」


「龍心会万歳!!」

その激しい衝突が引き金となり、レグルス率いる「龍心会」の部下たちと、ラジアン率いるドラゴニア王国軍の兵士たちが、一斉に激しい戦闘を開始した。


同時刻、ドラゴニア王国の王宮内部では、激しい戦いが繰り広げられていた。


燃え盛るドラゴニア王国王宮の内部は、既に地獄絵図と化していた。

廊下の至る所には、無残に切り刻まれた兵士たちが、血だまりの中に無数に転がっている。

焦げ付くような肉の匂いと、煙の臭いが入り混じり、周囲の空気を重くしている。


「ぐぁぁぁっ!!」

その場に倒れ伏した兵士が、喉から血を噴き出し、短い断末魔の叫びを上げて絶命した。

彼の瞳は、恐怖に大きく見開かれたまま、虚空を見つめている。


「こいつ…強い…強すぎる」

目の前で繰り広げられる惨劇に、一人の兵士は恐怖に支配され、その場に腰を抜かして尻餅をついた。

震える手で、かろうじて持っていた剣が、床に音を立てて落ちた。


「戦わぬ者に用はない。失せろ」

緑色の翼をもった、金髪が美しいドラゴニアが尻餅をついた兵士に向かって鋭い視線を向ける。

その声は、刃物のように鋭く、兵士の耳朶 (じた)を突き刺した。


「ひぃぃぃっ!」

その兵士は、恐怖に引きつった悲鳴を上げると、地面を這うようにして、一目散にその場から逃亡した。


「…情けない。これが今の王国兵だというのか」

そう、緑色の翼をもったドラゴニアというのは、龍心会のリーダーである、アルタイルだったのだ。


そして、アルタイルはこのまま廊下を静かに進み、巨大な扉の前で立ち止まる。


その時、廊下の脇から、紫色の翼を持つドラゴニアの男性と多数の兵士が、重々しい足音を立てて現れた。

彼らは、アルタイルの行く手を阻むように、巨大な扉の前に立ち塞がった。


「アルタイル…貴様の仕業か…」

男はアルタイルを鋭く睨みつけると、手にした薙刀を低く構えた。


「スチュアート。いつまで、あの老害共の世話をしているのだ」

アルタイルは、嘲るような口調で男に語りかけた。


「ぬかせ!!王国を裏切り、龍心会などという訳の分からない組織を作りおって。何が保守だ。何が祖国を守るだ。おまえらがやっている行為は蛮族と何も変わらないぞ!」

スチュアートと呼ばれたドラゴニアは怒りに満ちた声で叫ぶ。


スチュアート・ブレッド。

ドラゴニア王国親衛隊の隊長。

歴戦の猛者であり、岩石魔法の使い手であることから「巨岩のスチュアート」という異名を持っている。


「蛮族…か。確かにそうかもしれないな」

アルタイルは、自嘲するような笑みを浮かべたまま、その手に持つ剣をゆっくりと構えた。


「それでも、私にはこの国を真の意味で守る必要があると感じた。だから、多少の犠牲が出ようとも…私は私の道を進む!」

アルタイルは、一切の迷いなく、スチュアートに堂々と言い放った。


「…もう。俺の言葉は届かないようだな」

スチュアートは、重々しい声で告げると、薙刀をさらに深く構え直した。

燃え盛る王宮の業火が、二人の間に不気味な影を落とす中、両者は互いの命を賭けて、鋭く睨み合った。


「一気に終わらせる…岩石魔法-ロックアクセル-!!」

次の瞬間、スチュアートの周囲の空間が歪み、巨大な岩石が複数出現した。

彼は、それらをアルタイルに向けて、容赦なく放った。


それを皮切りに他の兵士もアルタイルに向けて槍や剣を手に突撃してくる。

中には、風魔法や火魔法、雷魔法で攻撃する者もいた。


「…空間魔法」

アアルタイルは、迫り来る魔法や岩石の群れを前にしても冷静さを保ち、静かに魔法を唱えた。

彼女の周囲に、微かな空間の歪みが生じる。


虚空穴(ボイドホール)

そして、手にした刀を、まるで空間を切り裂くかのように、迷いなく縦に振り下ろした。

その一閃と共に、空間に大きな穴が開き、放たれた魔法や岩は、その穴の中に吸い込まれるように消えていった。


「なんだあの魔法は?」


「知っている…あれが空間魔法」


「それがどうした!相手は単騎だ!かかれ!」

兵士らはアルタイルに向けて突撃していく。


「愚かな…空間魔法-烈旋時空刃(れっせんじくうじん)-!!」

次の刹那、アルタイルは無数の斬撃を放つ。

それはまるでレーザーのように真っすぐ飛んでいく。


「ぐぁぁぁぁ!!」

兵士達は次々と斬撃に斬り伏せられていく。

肉片が辺りに次々と転がっていく。


「くっ…!化け物が…」

その攻撃に一部の兵士が怯む。


「雑魚に用はない…空間魔法-虚無大穴(ボイドピットホール)-」

アルタイルが指を鳴らす。

次の刹那、兵士達の足元に巨大な穴が広がる。


「え?」

兵士らは反応するが遅かった。

彼らは穴の底へ落下していった。


「くそっ…謎の力が働いて…登れない」

一部の兵士は羽ばたいて穴から脱出しようと試みたが、謎の力で登りきることができず最終的に穴の底に引きずり込まれていった。


そして、スチュアート以外の兵士が全員、穴の中に落ちて行った。

やがて穴は閉じて元の床が現れる。


「これで1対1だな…」

アルタイルはにやりと笑う。


「厄介な魔法だ…それなら直接叩き斬るまでよ!」

スチュアートは爆発的な踏み込みを見せると、一気にアルタイルとの距離を詰める。

その速度は、まるで音すら置き去りにするかのような、まさに神速の踏み込みだった。


「おらぁぁ!!」

スチュアートは、渾身の力を込めて薙刀をアルタイルに振るった。

その一撃は、眼前に立ちはだかる全てを斬り裂かんとするほどの、凄まじい迫力を伴っていた。


「スチュアート…残念だ」

だが、アルタイルは、迫り来る薙刀を、まるで予測していたかのように冷静に回避した。

その足さばきは、まるで舞踏を踊るかのように軽やかで、一切の足音すら立てなかった。

そして、アルタイルは剣を構える。


「すまないが、ここで時間を食うわけにはいかない。空間魔法-虚空斬(ボイドスラッシュ)-!」

アルタイルは、手にした剣を鋭く閃かせると、空間そのものを断ち切るかのような、見えない剣戟を放った。


「ふん!その程度の攻撃防ぐまで…岩石魔法-グラビドアーマー-!!」

スチュアートは、アルタイルの攻撃を受け止めようと、全身を瞬時に硬質な岩石の鎧で覆い、万全の防御態勢を取った。


「…」

だが、アルタイルは、その防御を嘲笑うかのように、静かに、そして無慈悲に、剣を鋭く一閃した。


「キィィィン…!!」

次の瞬間、空中に、空間そのものが引き裂かれたかのような縦一文字の亀裂が走った。

その亀裂がスチュアートを通過すると同時に、彼の全身を覆っていた硬質な岩石の鎧と、手にした薙刀が、まるで豆腐でも切るかのように、見事に真っ二つに斬り裂かれた。


「な…なにが…ぐふっ…」

スチュアートは、理解できない現実に絶望の表情を浮かべたまま、口から大量の血を吐き出した。

そのまま、彼の肉体は、縦に左右に分断され、血飛沫を撒き散らしながら、熱された床に音を立てて倒れ伏した。


「…私の空間魔法の前の防御は無意味。相性が悪かったな」

アルタイルは、冷淡な口調でそう告げると、スチュアートの亡骸には一切目もくれず、目の前にある巨大な扉へと歩み寄った。


「ギィィィィィ…」

重厚な扉が、軋むような音を立ててゆっくりと開かれた。

その先には、王宮の心臓部、謁見の間が広がっていた。


謁見の間は、豪華絢爛な装飾品が壁一面に施され、王座に向かって真紅のカーペットが敷き詰められていた。

しかし、その荘厳な空間も、燃え盛る炎と舞い散る灰によって、異様な雰囲気に包まれている。


そして、その一番奥にある玉座の近くに、一人の男が、燃え盛る炎の中で静かに立っていた。


「そうか。アルタイル…お前の仕業であったか」

燃え盛る炎の中で、その男はゆっくりと振り向いた。

彼の瞳には、怒りよりも、むしろ深い悲しみが宿っているように見えた。

そう、彼はドラゴニア王国の国王、ベクティアルであった。


「貴様が我々の忠告を頑なに無視したからだ 」

アルタイルは、謁見の間に堂々と足を踏み入れると、ゆっくりとベクティアルの方に向けて歩き出した。


「国を愛する気持ちは理解できる。お前がエルフ族以外の他種族。特に人間に激しい憎しみを抱いているのも理解できる。だからといって、祖国を燃やし、混乱に陥れ、人間から入国料を搾取をする。そんな連中の話を聞き入れる訳がないだろう」

ベクティアルは、アルタイルの歪んだ思想を真っ向から否定するように、強く言い放った。


「ほざけ。貴様は腑抜けた。多民族共生だの自国の繁栄のためだのとほざき、人間共に土地を売り、国民が汗水流して収穫した農産物を他国に安売りし、挙句の果てにはドラゴニア王国軍にドラゴニア以外の種族を採用し、選挙権や居住権も与えやすくするだと?どう考えても正気ではない!」

アルタイルは、ベクティアルの言葉を鼻で笑うかのように、激しい口調で言い放った。

そして、迷いなくその手に持つ剣をベクティアルに突きつける。


「…どうやら聞く気はないらしいな。それなら、ワシも覚悟を見せねばな」

ベクティアルは、重々しい口調で告げると、玉座の近くに突き立てられていた一本の巨剣を、ゆっくりと、しかし確かな力で手に取った。


「じゃが、このベクティアルを簡単に討ち取れると思うでない!!」

ベクティアルが巨剣を構えた瞬間、彼の全身から眩いばかりの金色のオーラが、猛烈な勢いで噴き出した。

周囲の炎の熱気が、そのオーラによってさらに強まる。


「ふん…今日で貴様の天下も終わりだ。貴様を討ち取り、ドラゴニアは新しい国へと生まれ変わるのだ」

アルタイルは、勝利を確信したかのように言い放つ。


そして、燃え盛る王宮の業火が二人の影を大きく揺らす中、ドラゴニアの未来を賭けた、戦いが始まった。

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