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第85章:ラウ老師

「…」

次の瞬間、巨人は、通路を埋め尽くすほどの巨体で、紙でできた巨大な斧を、唸りを上げてサシャたち目掛けて振るった。


「危ない!」

サシャは、斧の軌道を素早く見極め、体勢を低くしてその攻撃を回避した。

髪が頬を打つ風で大きく揺れる。


「うわっ!」

アリアも、その巨大な斧の威圧感に思わず声を上げ、慌てて身をかがめて攻撃を回避した。


「はっ!」

リュウは、迫り来る斧から逃れるように、高く跳躍して攻撃を回避した。


「ブンッ!」

その剣圧は凄まじく、三人の髪が大きく逆立つほどだった。

頬を打つ冷たい風が吹き抜け、服が激しくはためく。

だが、大きく振りかぶった直後のため、巨人の動きは一時的に硬直していた。


「紙ということは…火属性が弱点のはず!」

サシャは、直感的に巨人の弱点を見抜き、双剣に魔力を集中させた。

刃の先端が赤く染まり、微かに熱気を帯びて揺らめく。


「はぁぁっ!!」

サシャは素早く巨人の足元に滑り込むと、熱を帯びた双剣を迷わず叩き切った。


「ボワッ!!」

巨人の足元から、勢いよく炎が燃え上がった。


「このまま!追撃するよぉ!」

アリアは、サシャの攻撃を見て、即座に一本の矢を放った。


「べちゃ!」

その矢が巨人の胸元にヒットすると、ねっとりとした何かの液体が体中に飛び散った。

液体からは微かに独特の匂いが広がる。


「もう一本だよ!」

今度は、先端に火のついた矢を弓にあてがうと、アリアは全身に集中力を込めて一気に放った。

放たれた矢は、一直線に巨人の胸元へと再び命中する。


「ボワッ!!」

すると、巨人の体が赤い炎に包まれていった。

紙の肉体が激しく燃え盛り、パチパチと音を立てながら崩れ落ちる。


「リュウ!」

サシャは、炎に包まれる巨人から視線を外し、リュウに呼びかけた。


「任せろ…!荒覇吐流奥義・剛鬼あらはばぎりゅう・ごうき!!」

リュウが持つ刀の刀身に、白い鬼のオーラが禍々しく纏わりついた。

空気が微かに震え、刀から凄まじい圧力が放たれる。そして、鋭い一閃が空間を切り裂くように走った。


「スパッ」

その一閃は、炎に包まれながらも、巨人の体を斜めに寸断した。


「パチパチ…」

巨人の体は真っ二つに分断され、紙でできた肉体は炎で激しく燃えさかる。

黒い灰が舞い上がり、辺りに焦げ付く匂いが満ちる。

そして、しばらくすると巨人は跡形もなく燃え尽きた。


「よし!!」

サシャは、目の前の光景に歓喜の声を上げた。


「火属性が弱点で助かったよぉ」

アリアもまた、無事に試練を突破できたことに、喜びの声を上げた。


「うまくいったな…」

リュウは、静かに頷き、刀を鞘に収めた。


三人がその様子を見守る中、目の前の重厚な扉が、重々しい音をたててゆっくりと開き始めた。


「…」

サシャたちは、開いていく扉の隙間から見える光景に、固唾を飲んでドキドキしながら見つめた。

そして、扉の先が明らかになる。


扉の先は広い道場になっていた。

木製の床はピカピカに磨き上げられ、窓から差し込む光を反射してきらめいている。

その中央には、一人の男が静かに鎮座していた。


「よく来たな…小童(こわっぱ)共」

そして、道場の窓から微かに入る光が、男を照らし出す。

その光は、彼の輪郭を際立たせ、神秘的な雰囲気を醸し出す。


「…!!」

サシャは、その姿に驚きで目を見開いた。


「あ!あの時の!」

アリアは、驚きと興奮で思わず口を押えた。


「まさか…あながたラウ老師!?」

リュウが、探るような視線を男に向け、問い詰めるように言葉を発した。


道場にいたのは、一人のドラゴニアだった。

風雨に晒されたかのように赤く色褪せた翼は、長年の経験と知恵を物語っている。

その上には、派手な柄の金色のシャツが、彼の悠然とした佇まいを際立たせるようにだらしなく羽織られていた。

そして、白髪の頭からは、長く白いヒゲが三つ編みのように丁寧に編み込まれ、ただ者ではないオーラを静かに放っている。


そう。

彼こそがサシャたちがカザに入る前の草原で出会った老ドラゴニアだったのだ。


「いかにも。ワシが、お主らが探しておった「ラウ老師」じゃよ」

ラウ老師は、老獪な笑みをサシャたちに見せた。


「(あの時の動きから只者ではないと思っていたが、まさかラウ老師だったとは…)」

リュウは、ごくりと唾をのんだ。

彼の脳裏には、草原での戦いで、圧倒的な実力を見せたラウ老師の姿が蘇る。


「あの…アフォガードさんから、強さを求めるならあなたに会えと…」

サシャは、緊張した面持ちでラウ老師に語りかけた。


「なんかすごい弓術の使い手だって…!」

アリアが、目を輝かせながらラウ老師に尋ねた。

すると、ラウ老師は静かに口を開いた。


「まずは、アフォガードが死んだという話をお主らから貰った手紙を通じて知った。そして、お主らのことは妻から聞いた。なんでも強い冒険者だと…」

ラウ老師は、ニコニコと穏やかに言葉を紡いだ。

その表情は一見すると穏やかに見えるが、その奥には底知れない深みが感じられる。


「強いかどうかは分かりませんが…」

サシャは、ラウ老師の言葉に謙遜気味に答えた。


「いやぁ、少し照れるよぉ」

アリアは、両頬を赤く染めながら、照れた様子を見せた。


「腕には、それなりの自信があります…」

一方で、リュウは、まっすぐラウ老師の目を見据え、やや強気な口調で言い放った。


「確かに、ワシが用意した試練も無事に突破してきたあたり、そこそこできると見える」

すると、ラウ老師が、ゆっくりと重々しく立ち上がった。


「ならば最後の試練じゃ。このワシに一回でも攻撃を当ててみせよ。そうしたら、詳しい話を聞こうではないか」

ラウ老師は、緩慢な動作で、何らかの武術の構えを取った。

その瞬間、彼の表情は一気に真剣なものへと変わり、眼光が鋭く光り、周囲の空気が張り詰める。


「それって、一人ずつですか?」

サシャが、ラウ老師に尋ねた。


「いや、三人いっぺんにかかってくるといい…魔法や武器を使っても構わんぞ」

ラウ老師は、不敵な笑みを浮かべた。

その表情は自信に満ち、彼らへの挑発的な態度がうかがえる。


「では…遠慮なくいきますよ!!」

サシャは、強い決意を込めて双剣を構えた。

同時に、リュウは刀を、アリアは弓を構え、それぞれが臨戦態勢に入った。


「まずは…俺からだ」

リュウが、素早いスタートダッシュを切った。

その速さは、並みの冒険者では見切れないほどだろう。


「中々のスピードじゃな…」

だが、ラウ老師は、動じることなく、冷静にリュウの動きを見極めた。


「はぁぁっ!!」

リュウは、間合いを詰め、鋭い袈裟斬りをラウ老師に放った。

刃が風を切り裂く音を響かせた。


「じゃが、まだ見切れるな…」

ラウ老師は、音もたてずにリュウの一撃を回避した。


「そこっ!!」

だが、ラウ老師が回避した先に、サシャが双剣を構えて待ち受けていた。

彼は、間髪入れずに双剣による横なぎを放った。


「ほほう…」

しかし、ラウ老師は、床に軽く足を着くと、一気に上へと跳躍した。

サシャの双剣は空を切り、虚しく音を立てた。


「空中なら回避は難しいはずだよぉ!」

すると、アリアが、上空にいるラウ老師を目がけ、弓を構えていた。

弦には既に矢がつがえられており、それを放つ。


「忘れたか?普通の人間ならいざ知れず…」

ラウ老師は、ニヤリと笑みを浮かべると、その背に生えた翼を大きく羽ばたかせ、左に避けた。

その動きは、残像すら残すほど素早いものだった。


「嘘!?」

アリアは、自分の矢が回避されたことに、驚きを隠せない。


「…ワシはドラゴニアじゃ。空中での回避くらい朝飯前じゃ」

ラウ老師は、余裕の表情を浮かべて道場の床に着地した。

同時に、サシャとリュウが、彼を挟み撃ちにするように同時に斬りかかった。


「「はぁぁぁぁっ!!!」」

二人の連携は素早くも鋭い一撃だった。

流れるような連携で繰り出された剣と刀は、ラウ老師を確実に捉えた…はずだった。


「ほいさっと」

だが、ラウ老師は、剣と刀の僅かな合間を縫うように、しなやかな動きで攻撃を回避した。

そして、一瞬でリュウの後ろに回り込んだ。


「なっ!?」

リュウは、刀の斬り終わりで体勢が悪い。

一瞬の油断と隙を突かれ、彼に焦りの色が浮かぶ。


「スキだらけじゃの…少し歯を食いしばれ」

ラウ老師は、そう言葉を漏らすと、まるで弾丸のような凄まじい拳をリュウの背中にねじ込んだ。


「ぐうっ…」

内から骨が軋む嫌な音が響き渡り、リュウは空中で回転しながら壁に叩きつけられた。


「リュウ!!」

サシャから焦りの声が上がった。


「まずは一人…さて、次はどうする?」

ラウ老師は、涼しげな眼差しでサシャとアリアを見つめ、挑発するように言葉を投げかけた。


「(強い…リュウを一瞬で…)」

サシャは、ラウ老師から溢れる圧倒的な闘気に、全身を凍りつかされるような威圧感を覚えた。


「それなら一気に三本だよぉ!!」

一方でアリアは、恐れを知らぬかのように、素早い動作で三本の矢をつがえ、ラウ老師に向けて一斉に放った。


「ほう。中々、粋なことをするな…だが…」

ラウ老師は、アリアの攻撃を冷静に受け止めた。

そして、三本の指をゆっくりと突き出すと、独特の構えを取った。


「|綿津見流奥義・三指鋭刀わだつみりゅうおうぎ・さんしえいとう

次の刹那、ラウ老師が三本の指を、まるで目に見えない刀を薙ぎ払うかのように横に振るった。


「ヒュンッ!」

すると、空気が一気に波打ち、目に見えない衝撃波が道場を駆け抜ける。


「バキィィ!」

そしてアリアが放った三本の矢は、その衝撃波に触れた途端、木片を盛大に飛び散らせて一気に破壊された。


「え!?」

アリアは、目の前で何が起きたのか理解できずに、呆然と立ち尽くした。

その瞬間、ラウ老師が、音もなく、残像すら残すかのような速度でアリアに接近した。


「よくやった…が、ワシには通じんな」

ラウ老師は、冷徹な声でそう言葉を漏らすと、アリアの足元に滑り込み、流れるような動作で彼女の足をかけて転ばせた。


「きゃっ!」

アリアの視界が逆さまになり、身体的な混乱が彼女を襲う。

そして、道場の床に頭を打ち付けるように倒れ込んだ。


「バンッ!!」

同時に、アリアのすぐ横の床が、轟音と共に勢いよく踏みつけられる。

床板がミシミシと軋む音が響いた。


「うわぁっ!」

アリアは、その迫力に委縮し、身体を硬直させてしまった。


「今ので…お前は死んだ。さ、残りは坊主…お前だけじゃ」

ラウ老師は、鋭い眼光でサシャを射抜き、言葉にならない圧力をかけた。


「くっ…」

サシャは、額に冷や汗をかきながらも、懸命に双剣を構え直した。


「臆したのか?いかぬなら…ワシから行くぞ!」

ラウ老師は、挑発するように言い放つと、素早い踏み込みを見せた。


「(何か策を考えないと…この状況を打開する何かを)」

サシャは、襲い来る危機の中で、冷静に状況を分析した。

その間にも、ラウ老師の拳による嵐のような乱打が、容赦なくサシャに襲いかかった。


「ほれほれほれほれ」

ラウ老師は、残像を残すほどの猛烈な勢いでパンチを放つ。

拳が空気を唸らせ、サシャの視界を埋め尽くす。


「まだです…まだ!」

サシャは、紙一重のところで回避を織り交ぜつつ、双剣での反撃を試みた。

彼の双剣が鋭く閃くが、その攻撃はまるで影を斬っているかのように、ラウ老師の姿を捉えることができない。


「遅いぞ…そんなんでは戦場では殺されるのがオチじゃ…」

ラウ老師は、サシャの双剣の振り終わりを狙い、その隙を突いて拳を放った。

その拳は、サシャの顔面目掛けて一直線に飛んでくる。


「ぐあぁぁっ!」

拳は顔面に直撃し、衝撃がサシャの全身を駆け巡る。

そして、彼は勢いよく後ろに吹き飛ばされ、激しい音を立てて壁に叩きつけられた。


「(強い…全く歯が立たない…)」

衝撃でサシャの視界がぐらりと揺らぎ、意識が朦朧とする。


「ドサッ…」

サシャは、そのまま道場の床に大の字に倒れ込んだ。


「ううっ…」


「つ、強いよぉ…」


「うっ…」

サシャたちは、あっという間に倒され、動けない状態に陥っていた。


「もう終わりか?ほれ、立ち上がってこんかい?」

ラウ老師は、倒れ、うつむいている三人を見下ろし、挑発するように語り掛けた。


「くっ…」

サシャは、立ち上がろうと力を込めるが、何故か足に力が入らない。

全身が重く、まるで鉛のように感じられる。


「(くそっ…体が軋む…)」

リュウは、体を動かそうと試みるも、全身の節々が激しい痛みを伴い、動くことができない。


「…」

アリアは、その圧倒的な力量の前に、完全に戦意を喪失していた。

恐怖に支配され、顔色は青ざめ、ただじっと床を見つめるだけだ。


その様子を見て、ラウ老師が、魂を揺さぶるような大声で叫んだ。


「どうした?強くなりたいんじゃないのか?それとも、今から尻尾を巻いて逃げるか?」

その言葉は、まるで雷鳴のように三人の心に響き渡り、彼らはハッと目を見開いた。


「(そうだ…こんなところで)」


「(立ち止まっちゃ…)」


「(ダメだ!)」

そして、三人は、全身に走る痛みに耐えながら、再びゆっくりと立ち上がった。


「それでいい…さ、もう一度かかってくるがよい」

ラウ老師は、彼らの再起を見て満足げに大きく頷くと、再び武術の構えを取った。


「リュウ!アリア!」

サシャは、二人に力強く声をかけた。


「…分かってる。やってやろう」

リュウは、固い決意の表情で応じ、刀を構え直した。


「まだ…諦めないよ!!」

アリアもまた、顔色に血の気が戻り、弓を構えながら力強く返事をした。


「ラウ老師…いきますよ!」

サシャは、新たな気迫を漲らせ、素早くスタートダッシュを切った。


「サシャ、二人でいくぞ」

同時にリュウも、呼応するように力強く地面を蹴り、スタートダッシュを切った。


「はぁぁっ!」

二人は、ラウ老師を挟み撃ちにするように、一斉に鋭い斬撃を浴びせた。


「さっきより早くはなっているな…」

ラウ老師は、僅かに評価の言葉を漏らす。

だが、連続で繰り出される素早い剣と刀の攻撃も、彼は全て音もなく回避してみせた。


「じゃがまだ遅い…」

そして、ラウ老師が剣戟の間を縫うように、サシャに向けて拳を振るった。

それと同時だった。


「鎖魔法-チェーンバインド-!!」

アリアが、魔力を込めた声を上げ、魔法を発動した。

すると、ラウ老師の隣から魔法陣が淡く輝き、そこから銀色の鎖が現れて、彼の腕に絡みつこうと伸びる。


「むっ!」

だが、ラウ老師はそれに反応すると、寸前で拳を引き抜いた。

鎖は空を切り、虚しく地面に落ちた。


「搦め手か…悪くはないが詰めが甘いのぉ」

ラウ老師は、わずかに口元に笑みを浮かべると、残った拳に凄まじい魔力を集約させた。


「次は少し強くいくぞ…!|綿津見流奥義・一掌彗星わだつみりゅうおうぎ・いちしょうすいせい

魔力を込めた渾身の正拳突きが、流星のような速度でサシャとリュウを目掛け放たれた。


「…(引きつけろ)荒覇吐流奥義・静寂(しじま)

リュウは、迫り来る拳を前に、極限まで集中力を高めた。

彼の眼差しは研ぎ澄まされ、時間の流れがスローモーションになったかのようだ。

そして、その技のギリギリ横を通り過ぎるように、渾身の突きを放った。


「むっ!」

ラウ老師の表情が、その精密な攻撃に一瞬強張った。

それでも、信じられないほどの柔軟性で首を横にそらし、寸前のところで攻撃を外してみせた。


「くっ…(これでもダメか)」

リュウの顔に焦りの色が浮かんだ。


「まだ終わらない!!」

それでも、リュウの攻撃を繋げようと、サシャが残った双剣を力強く振るった。


「二番煎じが通じる訳がなかろう…」

ラウ老師は、サシャの攻撃を予測し、体軸を横にずらして回避しようとした。


「そう来る気がしてました!!」

すると、サシャは、双剣のうち一本をラウ老師に向けて投げつけた。

それは、ブーメランのように猛烈な勢いで回転しながら、ラウへと飛んでいく。


「なんとぉぉぉ!!」

ラウ老師の顔には、戦いを心から楽しんでいるような満面の笑みが浮かんでいた。

だが、体軸をずらすのをやめ素早くかがみこみ回避する。

そのまま、双剣は道場の壁へ突き刺さる。


「はぁぁっ!」

同時に、サシャが残った一本の双剣を構え、ラウ老師に向けて振り下ろした。


「あらよっと!」

しかし、ラウ老師は、再び地面を力強く蹴り上げると、軽やかに宙に舞った。


「アリア!!」

サシャは、上空にいるラウ老師を目がけ、アリアに叫んだ。


「うん!…鎖魔法-メガ・チェーンバインド-」

アリアは、サシャの叫びに素早く反応し、先ほどよりも巨大な魔法陣を足元に展開した。

天井から、先ほどよりもはるかに太い鎖が無数に現れ、ラウ老師に向けて一斉に絡みつこうと伸びていく。

ラウ老師は空中に留まっているため、逃げ場が限られる。


「むぅっ!!」

それでも、ラウ老師は、体軸をずらし左側に避けた。

だが、その際、わずかだがバランスを崩したように見えた。


「リュウ!」

サシャは、大きな声でリュウに呼びかけた。


「あぁ…任せろ!!」

リュウは、サシャの意図を瞬時に理解し、力強く地面を蹴って素早く跳躍した。

そして、ラウ老師の目の前に現れる。


「今度こそ…荒覇吐流奥義・蒼月 あらはばぎりゅうおうぎ・そうげつ!」

リュウは、空中で体勢を整え、落雷のような鋭い袈裟斬りを放った。

刀身が青白い光を放ち、ラウ老師の頭上へと振り下ろされる。


「ほいさぁぁ!」

それでも、ラウ老師は、首の皮一枚のところで辛うじて回避した。

だが、相当ギリギリだったのか、彼の体勢は完全に崩れ、平衡を保つことができない。


「「サシャ!!!」」

リュウとアリアがサシャの名を叫ぶ。


「今度こそ…はぁぁっ!」

サシャは、壁に突き刺さった双剣を足場にし、勢いよく空中へと飛び上がった。

彼が目指すは、体勢を崩したラウ老師だ。


「ドシュ!!」

ラウ老師は、その一撃をギリギリかわした…かのように思えた。


「ばさっ…」

だが、束ねていた髭の一部が、ラウ老師の顔からハラリと落ちた。

束ねていた紐が斬れて、白く長い髭が広がり、風に舞う。


「むうっ…ワシの髭が…」

ラウ老師は、わずかに顔をしかめると、ゆっくりと道場の床に着地した。


「はぁ…はぁ…」

サシャもまた、肩で息をしながら道場の床に着地した。

極限の戦いを終え、疲労が彼らを包む。

サシャたちの間に、重い緊張が走った。


「お主ら…」

ラウ老師は、彼らを鋭い視線で睨みつけた。


「うっ…」

その圧倒的な覇気に、サシャたちは思わず身構えた。

しかし、一変、ラウ老師の表情が満面の笑みに変わった。


「合格じゃ!」

指でOKサインを出しながら、ラウ老師は嬉しそうにそう言葉を発した。


「ご、合格?」

突然の宣言に、サシャは戸惑いを見せた。

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