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第83章:強奪

「それは僕たちが先に見つけた…ものだ…返せ…!」

サシャの体は未だ壁に張り付けられたままで、引力魔法の重圧が全身を締め付けていた。

彼は震える手をランプへと伸ばそうとするが、激しい痛みが伴い、体が上手く動かせずにいた。


「この魔具はアルタイルの野望を達成すのに必要なもの。貴様ら冒険者如きが扱ってもいい代物ではない」

レグルスは、白い光を放つ極天のランプを高く掲げながら、傲慢な声音で言い放った。


「ずるいよぉ…先に見つけた人の魔具を横取りするなんて…」

アリアは、壁に張り付けられたまま、レグルスをじっと睨みつけた。


「我々は目的のためなら手段を選ばない。ここで冒険者三人が消えたところで誰も気が付かない。あいにくだが、運が悪かったと思ってあきらめることだな」

レグルスは、にやりと不気味な笑みを浮かべた。


「ふざけるな!!うぉぉぉぉ!!」

その時、レグルスの冷笑に、リュウの顔には怒りの色が深く刻まれた。

全身の筋肉を震わせ、引力魔法の重圧に抗うように、彼はゆっくりと、しかし確かな力で立ち上がった。


「レグルスさん!」

二人の護衛が、警戒の面持ちでレグルスの前に立ちふさがった。


「ふっ…まさかこの魔法を打ち破るとは…大した気合いだ」

レグルスは、リュウの不屈の闘志にわずかに感嘆の声を漏らすと、すぐに魔法を唱え始めた。


「引力魔法-天蓋磔罰(てんがいたくばつ) -!」

レグルスの言葉と共に、サシャたちの体は、まるで目に見えない楔で打ち付けられたかのように、壁にぴったりと吸い寄せられ、身動き一つ取れなくなった。

彼らは壁に磔にされた囚人のように、完全に拘束されてしまう。


「ぐっ…苦しい…」

サシャは、肺を圧迫されるような苦痛に、苦悶の声をあげた。


「くそ…まだこんな手を隠し持っていたとは…」

リュウも、全身の血が逆流するような感覚に耐えながら、壁にはりつけにされた。


「うぅ…」

アリアもまた、顔を歪ませ、苦悶の表情を見せた。


「さ。終わりだ…我が愛鎌「風斬り(かざきり)」の錆になるといい」

レグルスは、左手に握られた巨大な鎌「風斬り (かざきり)」をゆっくりと掲げ、サシャたちに近づいてくる。


「くっ…!(体が動かない)」

リュウは、もがこうと全身に力を込めるが、体はピクリとも動かせずにいた。


「小僧!状況が状況じゃ。ワシが出るぞ!」

そう言うとトルティヤは、サシャの肩を叩いた。


「では、まずはそこの小娘からだ…」

レグルスは、狙いをアリアに定め、その瞳に冷たい光を宿しながら、ゆっくりと近づいてきた。


「うっ…やめて…」

アリアの瞳から、恐怖と絶望の涙が流れ落ちた。


「さらばだ。人間の小娘よ。こいつらについていった自分を恨むんだな」

そして、レグルスはゆっくりと、しかし確かな動作で鎌を掲げた。

その時だった。


「ガキン!!」

轟音と共に雷光が迸り、レグルスの左手に握られた鎌が、金属質の甲高い音を立てて弾き飛ばされた。


「むっ!」

レグルスは、咄嗟にアリアから距離を取り、警戒の面持ちで顔を上げた。


「…雷魔法-聖者の鉄槌(せいじゃのてっつい)-。お主、何をしておるのじゃ」

トルティヤの目は、冷たい炎を宿したかのように怒りに満ちていた。


「ほう。俺の引力魔法を突破するとは」

レグルスは、予期せぬ事態にも関わらず、不敵な笑みを浮かべた。


「レグルスさん!」

部下の二人のドラゴニアが、レグルスの前に立ちふさがり、攻撃の姿勢を取った。


「邪魔をするな!無限魔法-羅刹の炎-!」

次の刹那、トルティヤが部下のドラゴニアに向けて黒い炎を飛ばす。


「ガッ!」


「ホゲッ!」

黒い炎が二人のドラゴニアを襲い、彼らは声もなく崩れ落ち、絶命した。

その体は、一瞬にして炭化し、見るも無残な姿になる。


「今の連中はワシを殺そうとした。文句はなかろう?」

精神世界でトルティヤがサシャに尋ねる。

その視線は、いつもにも増して冷徹に感じられた。


「…うん。契約だからね」

サシャは、トルティヤの言葉にそっと頷いた。


「ほう…大した奴だ」

しかし、レグルスは部下を失ったにも関わらず、その顔には余裕の表情が浮かんでいた。


「仲間が死んだというのに随分と冷静じゃのぉ。極天のランプ…返してもらおうかのぉ」

トルティヤは、レグルスを鋭い眼差しで睨みつけ、極天のランプの返還を要求した。


「ふん。もう一度張り付いているといい…引力魔法-万有乖離(ばんゆうかいり)-」

レグルスが、トルティヤに向けて再び魔法を唱え始めた。


「ふん…そんな手品、見切っておるわ」

するとトルティヤは、すかさず魔法を放つ。


「鏡魔法-魔鏡反射マジックリフレクション-」

次の瞬間、トルティヤの目の前に菱形に輝く巨大な鏡が空間に現れた。

そして鏡の中から、見えない何かが放たれる。


「ボシュ」

奇妙な音を立てながら放たれた何かが、空中で消失した。


「ふん…鏡魔法か」

レグルスは、不敵な笑みを浮かべた。


「お主の引力魔法は、対象に見えない杭を打ち込み引き寄せる。といった寸法じゃろう?ワシが戦ってきた引力魔法の使い手は皆そうじゃったわい」

トルティヤは、レグルスの引力魔法のからくりを見抜いたことを告げた。


「よく知っているじゃないか…大したものだ。だが、からくりが分かったところで…俺には勝てぬ」

レグルスは、地面に落ちていた大鎌を拾い上げると、冷たい視線をトルティヤに向けた。


「それはどうかのぉ…斬魔法-逢魔の鍵爪(おうまのかぎつめ)-!」

トルティヤは、魔力を集中させ、強力な斬魔法を放った。

空間を切り裂くような黒い光の爪が、レグルスへと迫る。


「おおっと…!」

だが、レグルスはトルティヤの斬魔法を横に飛んで回避する。


「ズコーン!!!!」

トルティヤの斬魔法は、室内を一直線に引き裂き、轟音と共に天井の氷塊がボロボロと崩れ落ちた。

冷たい外気が一気に流れ込み、空間に白い霧が立ち込める。

広間の壁にも深い亀裂が走り、部屋全体が大きく揺れた。


「ふん。まともに喰らっては身が持たんな…やられる前に潰すとしよう」

レグルスは、崩れ落ちる天井を見上げ、わずかに眉をひそめると、大鎌を手にトルティヤに向かって猛進した。


「はっ!」

大鎌は、狙い澄まされ、トルティヤに向けて勢いよく振り下ろされる。


「ちっ…(こいつ言うだけのことはある。早いのぉ)」

トルティヤは、辛うじて回避するが、大鎌の刃が肩を浅く掠め、わずかに血が滲んだ。


「どうやら貴様は近接戦が苦手と見た。ならば、我が鎌術。たっぷりと味わうがよい!」

レグルスは、容赦なく鎌をブンブンと振り回し、トルティヤに猛攻を仕掛けた。


「(厄介じゃのぉ…魔法を唱えるスキが全くないのじゃ)」

トルティヤは、回避に専念するが、レグルスの苛烈な攻撃により、肉体がところどころ鎌によって削られていく。

トルティヤは後退を続け、回避しているうちに、屋敷の天井部分に辿り着いた。


「広いところに逃げた程度では…」

するとレグルスの肉体が大きく反り返る。


「俺は止められん!」

そして、口から灼熱の炎を噴き出した。

室内の空気を焼き尽くすかのような灼熱の炎が、轟音と共に口から噴き出される。

それは瞬く間に屋根の上全体を覆い尽くし、あらゆるものを燃やし尽くさんと迫る。


「流水魔法-蒼き波濤(あおきはとう)-!」

トルティヤが魔法を唱えると、彼の周囲に渦を巻く水の壁が瞬時に出現し、灼熱の炎と水の壁が衝突する。

ジュウ!という轟音と共に白い水蒸気が激しく立ち上り、火が防がれていく。


「…貴様、さっきから違う魔法をゴロゴロと。相当な腕前の複数魔法使用者(マルチマジカリスト)だな」

レグルスは、トルティヤが複数の属性魔法を使いこなすことに気づき、驚きの色を浮かべて問いかけた。


「さぁのぉ…答えてやる義理はないわい」

トルティヤは、レグルスの問いには答えず、不敵な笑みを浮かべると、再び魔法を唱え始めた。


「無限魔法-白き大嵐(ホワイトテンペスト)-!!」

トルティヤの目の前に、神々しい白い輝きを放つ巨大な魔法陣が現れた。

そこから、嵐をまとった白い雷が、轟音と共に放たれる。

そのスピードは非常に早く、瞬く間にレグルスへと迫った。


「むっ!」

レグルスは、その圧倒的な速度の雷光をじっと見つめていた。


「ドドーン!!」

白い雷光がレグルスを直撃し、巨大な爆音と共に白い煙が周囲を包み込んだ。

煙の中には、稲妻が激しく走っている。


「お終いじゃ。さて、極天のランプを返してもらうとするかのぉ」

トルティヤは、深くため息を吐くと、白煙の中にいるレグルスに近づいた。

しかし、白煙がゆっくりと晴れると、そこには。


「むっ…これは」

トルティヤは、目の前の光景に目を丸くした。

そこには、無数の瓦礫や氷塊が、レグルスを覆いつくすように重なり合い、彼を防御していたのだ。

そして、その瓦礫の隙間から、レグルスがわずかに顔をのぞかせた。


「危ねぇな。まさか、こんな魔法を隠し持っていたとはな」

レグルスの顔には、冷徹な表情の中に、僅かだが焦りの色が生まれていた。


「なるほどのぉ。周囲の瓦礫や氷塊を引き寄せて防御したって訳か。随分と策士じゃな」

トルティヤは、レグルスが講じた策を見抜いたことを告げた。


「…ふん(これ以上の戦いはリスクが伴う。今回の目的は極天のランプをアルタイルに持っていくこと。ならば)」

次の瞬間、レグルスは、その強靭な翼を力強く羽ばたかせ、一気に空へと飛び上がった。


「なっ!逃げる気か!!」

トルティヤが、レグルスに向かって叫んだ。


「なんとでも言え。俺の目的は極天のランプだ。目的は達したのでな」

レグルスは、トルティヤの叫びに応えるかのように、嘲笑を浮かべながら空高く飛び上がっていく。


「逃がさぬ!無限魔法-堕天撃滅砲(だてんげきめつほう)- 」

トルティヤは、魔力を込め、レグルスに向けて黒と白色の螺旋状のレーザーを放った。


「ふん。ドラゴニアの機動力を侮るな」

だが、レグルスは、その圧倒的な機動力で、レーザーをさっと回避していく 。

そして、遺跡の天井に開いた小さな穴から、レグルスは悠然と外へと飛び去っていった。


「ちっ…逃げ足の速いやつじゃ」

トルティヤは、悔しげに舌打ちをした。


「ねぇ、トルティヤ…リュウとアリアの様子が心配だよ」

その様子を見たトルティヤにサシャは心配そうな表情を見せる。


「…小僧と小娘なら大丈夫じゃろう」

そう言いつつ、トルティヤは穴が空いた天井から、ゆっくりと室内に戻る。


すると、床にアリアとリュウがうずくまっていた。

どうやらレグルスの魔法は完全に解けたようだった。


「ううっ…あのドラゴニア強かったよぉ」

アリアは、唇を噛みしめ、瞳に涙をにじませながら、悔しそうな表情で顔を上げた。


「くそ…奴は?」

リュウは、頭を抱えながら、朦朧とする意識の中で、トルティヤに問いかけた。


「逃げおったわい…」

トルティヤは、深くため息をつきながら、短く答えた。


「…確か、あいつと初めて会った時言っていた。「我々は龍心会」って」

サシャは、カザの近くの草原でレグルスと出会った時の出来事を鮮明に思い出し、その言葉を口にした。


「それなら次の目的は決まったも同然じゃな。その龍心会とやらに乗り込んで極天のランプを奪取する…」

トルティヤの目は、目の前で魔具を奪われたことへの怒りで、復讐の炎を宿したかのように更に赤くなっていた。


「…そうだな。あのドラゴニアには礼をしなくてはならないな」

リュウは、握りしめた拳をゆっくりと開くと、重い体を起こした。


「奪われたままは悔しいもんね!」

アリアは涙をぬぐうと、小さな拳を握りしめ、決意を新たにゆっくりと立ち上がった。


「そうと決まれば、まずはここを出るのじゃ!」

トルティヤが遺跡から出るように促す。


こうして、サシャたちは、目の前で極天のランプを奪われてしまった。

三人は悔しい思いを心に秘め、凍り付いた遺跡を後にした。


外に出ると、空は既に深い茜色に染まり、辺りはすっかり夕暮れ時になっていた。

西の空には、橙色から紫へと移ろうグラデーションが広がり、辺りにはひんやりとした夕暮れの空気が漂っている。

付近の木々からは、低い声で鳥たちが、ねぐらへ帰るように鳴く声が聞こえてきた。


「にしても、龍心会?が、どうして極天のランプなんかを?」

サシャは、気になっていたことを口にした。

ちなみに、トルティヤは先ほどの激戦で魔力を消耗したせいか、サシャの人格と入れ替わり、精神世界ですやすやと眠っていた。


「さぁな…街での演説を聞く限りで保守組織であることは間違いなさそうだが」

リュウも、あごに手を当てて考え込んだ。その顔には、真剣な思索の表情が浮かんでいる。


「うー…今日はもうお腹が空いたよぉ」

アリアは、呑気そうな表情を浮かべながら、両手でお腹を押さえた。


そんな会話をしながら、サシャ達はボッカス村へと向かった。


「着いた…」

サシャたちは、たどり着いたボッカス村の入り口で、安堵の息を漏らした。


ボッカス村の集落からは、温かい夕食の香ばしい煙が立ち上っていた。

夕暮れの村は、どこか懐かしい生活の匂いに満ちている。


「宿とか…あるかな?」

サシャたちは、集落に入ると、宿屋の看板を探すように辺りを見渡した。


「いや…それらしき看板はどこにも…」

リュウが、首を振って答えた。

村のあちこちを見渡したが、宿屋らしきものは一つも見当たらない。


「さすがに今日、ドラゴニア渓谷を抜けるのは…ブロッケスまで戻る?」

サシャが、ブロッケスに戻り、件の宿屋に泊まろうかと考えた、その時だった。

目の前から、見慣れた顔が歩いてくる。


「あれま!昼間の冒険者でねぇか」

その人物は、昼間に会ったボッカス村の村長だった。

村長は、サシャたちを見ると、驚きの声をあげ、笑顔を向けた。


「あ、どうも…」

サシャは、軽く頭を下げて挨拶を交わした。


「あんたら無事だったんだな?幽姫様(ゆうひめさま)はいただか?何かあっただが?」

村長は、矢継ぎ早にサシャへ質問してきた。


「あ、いや…その」

サシャは、村長の言葉にたじろぎ、言葉を選ぶのに困惑した。 その時だった。


「グー」

アリアのお腹が、可愛らしい音を立てて鳴り響いた。


「あちゃちゃ、お腹空いたから、お腹の音が鳴っちゃったよぉ」

アリアは、顔を赤らめ、はにかむように両手でお腹を押さえた。


「あんたら腹が減ってるだが。それなら、うちさこい」

村長は、アリアがお腹を空かせている様子を見ると、温かい笑みを浮かべ、彼らを自宅へと誘った。


「は、はい。ありがとうございます」

サシャたちは、村長の温かい申し出に、素直に感謝の言葉を述べた。

こうしてサシャたちは、村長の家へと向かった。


「ささ、狭い家だけどもくつろいでけれ。今から飯作るすけ、少し待っててけれな」

村長が、サシャ達を居間へと案内した。

居間の床には、藁で作られた座布団が敷かれ、 中央には囲炉裏があった。


「ありがとうございます」

サシャが、感謝の言葉を述べながら辺りを見渡すと、囲炉裏の傍に村長の家族らしき写真が飾ってあるのが目に入った。


「あの…ご家族とかは?」

その写真を見て気になったのか、リュウが尋ねる。


「ここはオラ一人だべ。夫は米を売りに行く途中、モンスターに殺されて、息子は2年前に人攫い(ひとさらい) に攫われてどこかへ行ってしまっただ…」

村長は、台所で手際よく料理をしながら、どこか悲しげな声で、過去の出来事を語った。


「あっ…申し訳ない」

リュウは、聞いてはいけないことを聞いてしまったと思い、村長に謝罪の言葉を述べた。


「気にしねぇでけれ。もう終わったことだべ」

村長は、気にする様子もなく、手元を休めることなく料理を続けた。


そして、10分頃が過ぎたころ。


「おっし、これを今から囲炉裏にある鍋さ入れるだよ」

村長は、新鮮な肉と色鮮やかな野菜が乗った皿と、何かの出汁が入った器を両手に持ってきた。

そして、それらを豪快に、囲炉裏にかけてあった大きな鍋の中へと入れていく。


「あとはこれも入れてだ」

更に別皿に盛られた白い団子を、村長は鍋の中へと加えていった。

そして、囲炉裏に火をつけ、鍋を煮込み始めた。


「これは、なんという料理ですか?」

サシャは、鍋から立ち上る湯気に顔を近づけ、村長に尋ねた。


「これは「ダマゴッツ鍋」だべ。お米の団子と旬の野菜、それと(べこ)の肉ば入れて、醤油と牛の骨髄から取った出汁、少しの砂糖で煮込んだもんだ」

村長が、鍋の中身を指し示しながら、料理について説明した。


「米と牛肉か…いいな」

リュウの表情は、期待に満ちていた。


「うわぁ…いい匂いがしてきたよぉ」

アリアの顔が、うっとりとした表情に変わった。


鍋はぐつぐつと音を立てて煮立ち、芳醇な醤油の香りが部屋中に漂い、食欲をそそる。

そして、村長は、ゆっくりと熱気を帯びた鍋の蓋を開けた。

鍋からは湯気が濛々と立ち上り、中から食欲をそそる香りがさらに強く広がる。


「さ、口に合うかわかんねけんども、食べてけれ」

村長が、温かい湯気を立てる鍋を、大きな木杓子 (きしゃく)で器へと丁寧に取り分けた。


「ありがとうございます!」

サシャたちは、差し出された器を両手で受け取った。


「すごくいい香りがする…」

リュウは、香りを深く嗅ぐと、まずは熱いスープを軽く口に含んだ。


「うん!芳醇な味わいだ…牛の出汁と醤油の配合が絶妙だ」

リュウは、その深い味わいに満足げに頷き、美味しそうに食べ進めた。


「この団子も、もちもちしてて美味しいよぉ」

アリアは、白い団子を口に運び、その食感と味わいに喜びの声を上げた。


「美味しいです(トルティヤが寝ててよかった…)」

サシャは、温かい具材の野菜と牛肉を食べながら、村長に感謝の言葉を述べた。


「えがったえがった…」

村長は、彼らが喜んでくれる様子を見て、心底嬉しそうな表情を見せた。


「して、さっき質問されていた遺跡の件ですが…」

サシャは、食事が一段落したところで、遺跡であった出来事を村長に伝え始めた。


「なんと!幽姫様(ゆうひめさま)はただの噂だっただが!?あと、宝があったとは…いやぁたまげた」

村長は、サシャの話に目を丸くして驚いていた。

サシャは、余計な事態に巻き込むことを考えて、ドラゴニアが襲来したことや、極天のランプのことは伏せておいた。


「して、宝というのは?よがっだら見せてけねぇか?」

村長が、興味津々といった様子で、身を乗り出してサシャに尋ねた。


「はい…これです」

サシャが亜空袋(ポータルバック)からべラオスの青白い毛皮を取り出す。


「毛皮だが?随分と綺麗な毛皮だべ…これが宝?」

村長は、毛皮を見つめ、少しばかり首を傾げた。


「はい。珍しい生物の毛皮です。逆にそれ以外には何もありませんでした」

サシャが、毛皮を亜空袋(ポータルバック)に戻しながら、村長に説明した。


「なるほどな…教えでくれでありがとうな。今夜は夜も遅いし、うちさ泊まっていってけれ。この村は宿屋もねぇしな」

村長が、温かい表情で泊っていくように提案した。


「それは助かります…!これ宿代になります!」

サシャは、金貨袋から輝く金貨を1枚取り出して差し出した。


「そんなのええっで。遺跡の話を聞けただけでオラは満足だ。その礼だべ」

村長は、差し出された金貨を優しく押し返し、屈託のない笑顔でそう述べた。


「ですが…」

サシャが、その厚意に戸惑いを見せた。


「それに、久々にこうやって誰かと食事ができてオラも楽しいで。だから、気にするんでね」

村長は、彼らが食事を楽しむ様子を眺め、しみじみと語った。


「ありがとうございます!」

サシャたちは、その温かい言葉に深く心を打たれ、村長に頭を下げた。


「したらば、たくさん食ってけれ。今おかわりの具材持ってくるけんな」


「わーい!この団子もっと食べたいよぉ!」


「牛肉が甘くて美味しいな…」

こうして、サシャ達は村長のおもてなしを受けて、ボッカス村での楽しい夜を過ごした。

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