第8章:正体
翌朝。結局、昨日は手がかりなく、振り出しに戻り二日目となった。
サシャは、リュウの寝顔をそっと見つめた。
昨日、深手を負ったリュウの姿を見た時は、もうダメかと思った。
しかし、リュウは謎の医者の技術と驚異的な回復力で一命を取り留めた。
サシャは、リュウの強さに感心すると同時に、彼の過去に触れたことで、彼に対する理解を深めた。
サシャは、リュウがゆっくりと休めるように、そっと部屋を後にした。
「おはようございます」
サシャは借りている高級毛皮店に入る。
店にアイアンホースが先に来て開店準備をしていた。
「おぉ。坊主!よく眠れたか?」
彼は陽気に尋ねる。
「はい!リュウも特に問題なくゆっくり眠ってます」
サシャは状況をアイアンホースに伝える。
「そらよかった。ほんじゃ本日も張り切って開店だ!」
お店が開店した。
-数時間後-
「今日は暇ですね…」
サシャは奥の椅子に座って所在なさげにしていた。
今日は客足はまばらで、時間を持て余していたのだ。
サシャは、退屈しのぎに、店に並んでいる毛皮を眺めていた。
艶やかな毛並み、美しい色合い、そして、滑らかな手触り。
高級毛皮は、見る者を魅了する力を持っていた。
窓の外は通りを行き交う人々が、皆忙しそうに歩いている。
「しかし、手がかりが全くないな…」
アイアンホースは、低い声で呟いた。
「昨日、倉庫に潜入したけど、何も手がかりはなかったからなぁ…」
サシャは、肩を落とした。
「ま、焦っても仕方ない。地道に探すしかないさ」
アイアンホースは、気を取り直して言った。
その時だった。
「ズゴーン!!!!」
街の方向から地響きのような轟音が響く。
「なんだ!?」
サシャは、驚きで思わず声を上げた。
「サシャ。例の強盗団かもしれん。確認しに行くぞ」
アイアンホースは、冷静に言った。
そして、二階で新聞を読んでいた店主に店番をお願いするとアイアンホースとサシャは轟音がした方角に向かう。
何か事件が起きたのだろうか。
サシャは、急いで現場に向かった。
「…これはひどいな」
そこは、交易所があった場所だった。
交易所は爆破され、大勢の人々が負傷しており、現場は悲惨な状況だった。
建物は焼け焦げ、瓦礫が散乱し、あちこちから悲鳴が聞こえる。
サシャは、目を覆いたくなるような光景に息をのんだ。
爆発の衝撃で、建物は原型を留めていなかった。
瓦礫の山が積み重なり、黒煙が立ち上っている。
地面には、血を流して倒れている人々がいた。
悲鳴、うめき声、そして、助けを求める叫び声が、耳を劈く。
サシャは、その惨状に言葉を失った。
「(なんてことだ…)」
サシャは、目を逸らしたくなった。
「おい!急げ!まだ息があるぞ!」
現場には帝国東方警備部隊が出動していた。
兵士たちが負傷者の救護や消火活動に奔走している。
負傷者を担架で運び出す兵士、消火活動を行う兵士、そして、現場の状況を把握しようとする兵士たち。
彼らの顔は、疲労と緊張で歪んでいた。
爆発は、交易所の中央付近で起こったようだ。
周囲の建物も巻き込まれ、大きな被害が出ていた。
そんな時、アイアンホースはとある男に声をかける。
「おぉ!シルヴァじゃねえか!久しぶりだな!」
アイアンホースは、少し離れた場所に立っている男に声をかけた。
「これはアイアンホースさん。お久しぶりです」
シルヴァは、アイアンホースの方を向き、顔に笑みを浮かべながら敬礼した。
金色の長く美しい髪に、銀色の鎧がよく似合う偉丈夫だった。
しかし、その笑顔の奥には、どこか冷たい光が宿っているようにも見えた。
「いやぁ、鋼鎧龍討伐任務の時以来だな」
アイアンホースは、懐かしそうに言った。
「えぇ。アイアンホースさんは相変わらずお変わりないようで。この子は?」
シルヴァは、視線をサシャに向け、柔和な笑みを浮かべた。
「まぁ、俺のお仲間だ」
「サシャといいます」
サシャはシルヴァに自己紹介をする。
「私はシルヴァと申します。この警備部隊の指揮を任されています」
丁寧に挨拶をするシルヴァ。
「こいつはすげぇんだぜ?魔法無使用者で帝国軍に入隊して、今じゃ東方警備部隊の隊長だ。優秀としか言えんよな」
アイアンホースが付け加えるように話す。
魔法無使用者。
魔力を持たない人間のことを指し、大陸では珍しい存在とされている。
一方で、何かしらの身体能力や頭脳面に優れていることが多いのだ。
シルヴァはそんな魔法無使用者の一人だった。
「いやいや…周りの皆さんの力があってこそです」
シルヴァは謙遜するように小さく呟いた。
「しかし、大変なことになっな」
アイアンホースは、周囲の惨状を見渡しながら言った。
「えぇ。本当に…」
シルヴァは、顔を険しく歪めた。
「俺は今、丘の上にある高級毛皮専門店の店主に依頼されて強盗団の行方を追っててな。今回の事件も奴らが?」
アイアンホースがシルヴァに尋ねる。
「ええ。可能性は大いにありますね。」
そう言うとシルヴァは語りだした。
「爆弾が使われた形跡がありましてね。被害は、現場で確認できただけで死者8名、負傷者23人。それと、交易所の倉庫から、毛皮が大量に盗まれているのを確認しました」
シルヴァは、事件の詳細を説明した。
「なるほどな。してやられたってわけだ」
アイアンホースは納得したような表情をしつつ呟く。
「今のところはこんな感じです。我々の方でも捜査は進めます。何かあればアイアンホースさんにもお伝えします。では、私は現場に戻りますのでこれで」
シルヴァは足早に去っていった。
「ここでウロウロしても仕方ない、ここはシルヴァに任せて、一回店に戻るぞ」
こうしてサシャとアイアンホースは店に戻った。
「よう」
すると、店の前にリュウが立っていたのだ。
「リュウ!大丈夫なの?」
サシャは、リュウの顔を覗き込む。
リュウの顔色はまだ少し青白いが、昨日よりは幾分かマシに見えた。
「ああ。大丈夫だ。傷はかなり塞がった」
リュウは、力強く答えた。
その表情には、焦りと不安が入り混じっていた。
「ガッツは素晴らしいが、無理はしなくてもいいんだぞ?」
アイアンホースもそう言うが。
「いや。アイツに負けたのに寝てられない」
リュウは、悔しさを滲ませた。
彼は、一刻も早くイゾウに追いつき、復讐を果たしたいと願っていた。
こうしてリュウも店の手伝いを再開した。
三人はそれぞれの役割をこなしながら、日暮れまで店を続けた。
午後はまばらだったが、店には様々な人々が訪れた。
毛皮を買い求める貴族や商人、珍しい毛皮を見に来る学者や、
大金が手に入った冒険家など客層は様々だった。
こうして、日が暮れ、店の片付けをすることになった。
「結局、犯人らしきやつらは現れなかったか」
アイアンホースは落胆の色を隠せない。
「まぁ、仕方ないか…違う方法を考えよう」
リュウはアイアンホースを慰めるように言う。
「おや?」
店の片付けをしていると店の外にローブを着た三人組がいるのをリュウが見つける。
「…」
彼らはジーッと店の中を覗いている。
「あれ?あの人たち…」
サシャも気配に気がついたようだった。
「怪しい…」
リュウは、男たちを警戒した。
ローブの男たちは、一様に顔を隠しており、その表情を窺い知ることはできなかった。
その時、奴らは何かを店に投げた。
鈍い音と共に窓ガラスが割れ、何かが床に転がる。
それは、勢い良く白い煙を吹き出した。
「煙玉!?」
周囲は瞬く間に白煙に包まれた。
「さすがにここでやられるわけにはいかねぇな…」
アイアンホースは懐から変わった形状の武器を取り出した。
それは筒状をした金属製の武器だった。
「それは?」
リュウは尋ねる。
「俺の相棒だ」
それに対してアイアンホースはそう答える。
「それはピストル!もしや、こやつは「フラッカーズ」の傭兵か!?」
トルティヤは知っているような口調で呟く。
「フラッカーズ?」
サシャはトルティヤに尋ねる。
「大陸全土に拠点がある傭兵達の旅団じゃ…ピストルはその旅団に所属している傭兵が持っている特殊な武器じゃ」
トルティヤが話す。
「ってことは、アイアンホースはそこの傭兵?」
「まぁ、ほぼそれで間違いないじゃろう」
そうこう話していると…
「…!」
襲撃者たちは白煙の中、三人に飛びかかってくる。
一人は槍を持ち、一人は雷魔法、一人は双剣で襲い掛かってくる。
「ふんっ!」
リュウは白煙の中、研ぎ澄まされた感覚で双剣使いの気配を察知し、素早い攻撃を受け流した。
「おりゃ!」
サシャは雷魔法を魔法解除で打ち消す。
そして、槍を持った男は、アイアンホースに素早く間合いを詰め、鋭い突きを放ってきた。
「はっ…見え見えだぜ」
アイアンホースはバックステップで回避すると、素早く武器を構えた。
「弾丸魔法-音速弾-」
次の瞬間、アイアンホースの持つ武器から白いエネルギー弾が放たれる。
「…!」
エネルギー弾が槍を持った襲撃者に命中すると、襲撃者は激しく吹き飛ばされ、背後の壁に叩き付けられた。
「くっ!中々手強い」
一方でサシャは雷魔法を使う襲撃者に苦戦していた。
襲撃者は、両手に稲妻を纏わせ、強力な魔法攻撃を仕掛けてきた。
稲妻は、まるで生き物のようにうねり、サシャたちに襲いかかる。
「この程度の相手に、何をもたもたしておるのじゃ…」
戦闘の様子を見ていたトルティヤが苛立ちを露わにする。
「そう言ったって…」
雷魔法を必死に魔法解除で打ち消すサシャ。
「ふっ!」
リュウは、双剣を持った襲撃者と激しい攻防を繰り広げていた。
襲撃者は二本の剣を巧みに操り、流れるような連撃を繰り出してきた。
「(こいつできる。一流だ)」
リュウは双剣を受け止めながら、内心で相手の実力を認めた。
「(坊主達が苦戦してら…このままじゃ埒が明かない)」
アイアンホースは、冷静に周囲の状況を把握していた。
そして、アイアンホースはゆっくりとピストルを構え、その銃口を敵に向ける。
「…弾丸魔法-追尾散弾-」。
今度は、複数の白いエネルギー弾が、雷魔法の襲撃者と双剣の襲撃者に向けて放たれた。
「…!」
エネルギー弾はサシャとリュウを流れるように避け、正確に襲撃者たちに命中する。
襲撃者たちは、衝撃で壁に叩きつけられた。
「ありがとうございます。助かりました」
「助かった…」
サシャとリュウはアイアンホースに感謝の言葉を述べた。
「いいってことよ…それよりもだ」
ちょうど、煙が晴れる。
店は少しごちゃごちゃになったが、
商品の毛皮は無事だった。
アイアンホースは、倒れた襲撃者たちにゆっくりと近づく。
「…」
フードをめくろうと手を伸ばしたとき、倒れた襲撃者たちが突然、
素早く起き上がると、一斉に店を飛び出した。
「なにっ!?」
アイアンホースは突然のことに一瞬動揺する。
「そんな…!」
その素早さに、サシャは驚愕した。
男たちは、まるで最初から逃げるつもりだったかのように、
夜の街へと迷うことなく走り去っていった。
「逃げ足が早いな!このまま追うぞ!」
アイアンホースはすぐに後を追う。
襲撃者たちは夜の街を駆ける。
「どこへ行くつもりなんだ!」
サシャとリュウもアイアンホースに続くが、トルティヤだけは疑問に感じていた。
「うーん、奴らの動き…なんかわざとらしいのぉ。」
トルティヤは、彼らの逃走経路に不自然さを感じていた。
まるでどこか特定の場所に誘導されているような。
そんな気がしたのだ。
「けど、これを逃したら手がかりはない。行くしかない」
サシャは、トルティヤの懸念を打ち消すように言った。
今は、襲撃者たちを追うことが最優先だと考えていた。
「確かに、そうじゃな」
トルティヤは、サシャの言葉に頷いた。
今は、わずかな手がかりも見逃すわけにはいかない。
サシャ達は襲撃者たちを追う。
「あいつら、どこへ行く気だ?」
サシャは、息を切らしながらも襲撃者を追っていた。
「街の外に出てるのは確かだ。それにしても、随分と足が速いな」
アイアンホースは、余裕そうな表情で答えた。
「まさか、どこかに待ち伏せでもされてるんじゃ?」
サシャは、警戒しながら周囲を見回した。
「心配性だな、坊主。まあ、用心に越したことはないな」
アイアンホースは、顎を撫でながら言った。
更には街の入口からも離れていき、街の灯りが少しずつ小さくなっていく。
やがて少し進むと襲撃者たちの姿はとある洞窟の入口で消えた。
「ここは?」
サシャ達は洞窟の入り口で足を止めた。
「こいつは結界か…まいったな」
廃鉱山の入り口は、まるで水色の巨大な膜で覆われており、その表面には複雑な模様が刻まれていた。
模様の中心には、まるで何かが封印されているかのように、光が渦巻いている。
その光こそ、結界の正体であった。
「こりゃ、対魔法の結界だな。厄介なものを張ってやがる」
アイアンホースが分析する。
「けど、俺の魔法ならもしかして」
サシャはダメもとで結界に触れた。
「魔法解除…」
すると触れた箇所から結界はガラスのようにひび割れ、そして砕け散った。
「おぉ、坊主やるじゃねぇか」
アイアンホースはニコニコする。
「サシャ…お前、複数魔法使用者なのか?」
リュウが驚いた様子で尋ねる。
「複数魔法使用者?」
サシャが首を傾げる。
「お主それも知らんのか」
トルティヤが呆れ顔で呟く。
「生物は本来、一人につき一つしか魔法を持たん。だが、極まれに複数の魔法を持って生まれてくる者もおる。それが複数魔法使用者じゃ」
トルティヤが説明する。
「へぇ…」
サシャが感心していると、アイアンホースがランタンに火をつける。
「さ、いくぞ」
こうしてサシャ達は廃鉱山の中へ足を進めた。
「うわぁ…少し肌寒い」
坑道内は少し肌寒く、空気が淀んでいた。
壁には、鉱石が剥き出しになっており、所々に落盤の跡が見られる。
「この鉱山、かなり古いみたいだ」
リュウは、周囲を見回しながら言った。
「ああ。もう何年も使われていないらしい。だが、盗賊団にとっては、隠れ家として都合が良いのだろう」
アイアンホースは答えた。
しばらく進むと、坑道の奥から不気味な音が聞こえてきた。
「…何かいるぞ!」
アイアンホースは、ランタンを構え、警戒した。
「ガシャン…ガシャン」
次の瞬間、坑道の奥から、鎧に身を包んだモンスターが現れた。
銀色の鎧を身につけたモンスターは、所々鎧に錆び付きが見られた。
手に持った巨大な西洋剣や斧は、鋭い切れ味に見え、見る者を威圧する。
「あれはダークナイトじゃな」
トルティヤが説明する。
「ダークナイトはアンデッドの一種じゃ。並大抵の攻撃はその鎧で弾かれてしまうぞ。さぁ、どうする?」
トルティヤが試すような目でサシャを見つめる。
「こんな奴ら…!」
サシャが双剣を構える。
「油断するな!数が多いぞ!」
リュウも刀を構え、戦闘態勢に入った。
すると、アイアンホースが一歩前へ出た。
「ここは俺に任せとけ」
そう一言だけ言うとアイアンホースはピストルを構える。
「弾丸魔法-連射散弾-」
アイアンホースの銃口から、無数の蒼白い魔力の弾丸が、まるで機関銃のように勢いよく放たれる。
弾丸は、まるで散弾銃のように広範囲に拡散し、鋼鉄の鎧を纏ったダークナイトたちの全身に次々と命中した。
「グォォォ……!」
衝撃を受けたダークナイト達の鎧は、まるで脆い陶器のように粉々に砕け散り、悲鳴を上げながら次々と倒れていく。
その光景は、まさに圧巻の一言だった。
「…すごい」
サシャとリュウは、その圧倒的な光景に唖然と立ち尽くしていた。
アイアンホースの想像を遥かに超える実力に、言葉を失った。
「(やはり、只者ではないのぉ…)」
トルティヤはアイアンホースの魔法を見て、
やはり、彼が只者ではないことを見抜いていた。
「さてと。先を急ぐぞ」
アイアンホースに促され、サシャ達は再び歩き始めた。
やがて、坑道が開け、広い空間に出た。
「ここは?」
そこは、トロッコがたくさん放棄された場所だった。
トロッコは、錆び付き、車輪は固着している。
そして、レールは歪み、所々で途切れていた。
だか、奥に1台だけ新品の大型トロッコが見えた。
「おい!あれを見ろ」
アイアンホースが指差す方向には、大型トロッコに積まれた大量の毛皮があった。
毛皮は、色とりどりで、どれも高級そうなものばかりだ。
そして、その毛皮のそばには先程の襲撃者たちがいた。
襲撃者たちは黙々と毛皮を大型トロッコに積み込んでいた。
「ここが奴らのアジトか……」
サシャは、息をのんだ。
「間違いない。そして、あのトロッコは方角的に街の外に続いている…そんな気がするな」
アイアンホースは線路が続いている方向を見ながら話す。
「しかし、数が多すぎる。それに、魔法を使う奴もいる。油断はできない」
リュウは、警戒しながら周囲を見回した。
「ま、そう心配するな。俺がいる」
アイアンホースは、不敵な笑みを浮かべた。
「作戦はシンプルに殲滅戦だ。俺は正面の奴らをやる。お前達は側面から奴らを叩け」
アイアンホースは、指示を出すと同時に、正面の敵に向かって突進した。
「行け!今だ!」
アイアンホースが叫ぶ。
サシャとリュウは側面から突撃した。
「…!」
襲撃者たちはサシャとリュウを見て臨戦態勢に入る。
ひとりは電流を蓄え、ひとりは茨の蔦をローブの袖口から出し、ひとりはフレイルを構え、ひとりは長い槍を構えていた。
「…!」
襲撃者が黄色い雷と刺々しい茨がサシャを襲う。
「おりゃあ!」
サシャは、魔法解除で雷魔法と茨魔法を跳ね返すと、双剣で攻撃を仕掛けた。
サシャの双剣は、流れるように敵の攻撃をいなし、隙を突いていく。
「はっ!」
リュウは、フレイルと槍の連携を上手くいなしていた。
敵の攻撃をギリギリまで引き付け、その勢いを逆手に取るように攻撃を叩き込む。
「…!」
敵はリュウの動きで相打ちになった。
「くらえ!」
そして、刀は稲妻のように敵を切り裂いた。
「…よし!」
二人の連携は完璧で、襲撃者は翻弄され、抵抗する間もなく倒れていく。
「(妙じゃ。さっきより手応えがない気がするのじゃ)」
トルティヤは妙な違和感を覚えていた。
一方で、アイアンホースは、単騎で正面の敵を圧倒していた。
「お前らは本当に無口だよな…おもしろくねぇな」
ピストルを構え、次々と蒼白い弾丸魔法を放ち、敵をなぎ倒していく。
「喰らいやがれ!!弾丸魔法-爆裂散弾-!」
アイアンホースのピストルから放たれた弾丸は、着弾と同時に激しい爆発を引き起こし、周囲の襲撃者たちを容易く吹き飛ばした。
次々と倒れていく襲撃者たち。
その光景は、まさに圧巻の一言だった。
そして、サシャとリュウ、アイアンホースはその場を制圧した。
「…終わった」
サシャは一息つくと辺りを見渡す。
あたりは襲撃者たちが倒れている。
「これで終わりだな。さて、連中の素顔を拝もうぜ」
アイアンホースは倒れている襲撃者のローブを掴む。
「さぁ…お前らは…一体何者なんだ!」
ローブ勢い良くをはぎ取る。
「…これは!?」
しかし、襲撃者は人間ではなかった。
顔色は蒼白く、腐敗した肉体は見るも無残。
目は虚ろで、生気を感じさせない。
「アンデッド……!?」
サシャは、驚愕した。
「なに?」
リュウも驚きを隠せないでいた。
「どういうことだ?なぜ、アンデッドがこんな?」
アイアンホースが困惑した表情を浮かべた。
その時、背後から声が聞こえた。
「おや?アイアンホースの旦那…それに昼間に出会った…」
振り返ると、そこには北方警備隊の隊長であるシルヴァがランタンを持って立っていた。
「シルヴァ隊長……?」
サシャは、思わず声を上げた。
「商人から廃鉱山に怪しい男達が入っていったと通報を受けて来ました」
シルヴァは、事情を説明した。
「なるほど。それで、ここに来たってわけだな」
アイアンホースは、納得した様子で頷いた。
「しかし、連中の正体がアンデッドとは…」
シルヴァは、倒れているアンデッドを見つめ、顔を険しくした。
「一体、誰がこんなことを…」
サシャが考え込む。
「複数のアンデッドを操り、その上、武器や魔法も使わせるとは…敵は相当手練な屍魔法の使い手かもしれんぞ?」
トルティヤが思い出したかのように呟く。
「屍魔法…聞いたことがある。確かアンデッドを使役する魔法…だったか?」
サシャがそう呟く。
「ほう。分かっておるではないか」
トルティヤがニヤリとサシャを見つめる。
「おそらく、このアンデッドを操っている奴が裏で糸を引いているんだろうな」
アイアンホースは推論するように呟く。
「で、シルヴァよ。これからどうすんだ?」
アイアンホースは、シルヴァに話した。
「ふむ…そうですね…」
シルヴァは、腕を組み、にこやかな笑みを浮かべながら考え込んだ。
「では、こうしましょうか」
シルヴァは、そう言いながら、アイアンホースに近づいた。
彼の表情は、先ほどの笑顔から一変し、冷酷なものに変わっていた。
「……ん?」
次の瞬間、シルヴァはいつの間にか持っていた短剣で、アイアンホースのお腹を躊躇なく突き刺した。
「なっ…ぐふっ…」
アイアンホースは、苦悶の表情を浮かべ、口から血を吐き、激痛に悶て膝をついた。
彼は、信じられないといった目でシルヴァを見つめた。
「なぜ…?お前が…?一体、何が…?ゴフッ…」
アイアンホースは口から血を吹き出す。
「え?…どういう…」
突然の出来事に、サシャとリュウは驚愕した。
「いや。俺の裏稼業を旦那に嗅ぎまわられたから。だから、先に始末しとこうと思ってさ。で、わざとアンデッドに店を襲わせて、旦那を鉱山に引き付けたってわけ。結界も破壊されてて来てみたら…目論見通り、お前らがいたってわけさ」
シルヴァは、冷酷な笑みを浮かべながら言った。
「ってことは犯人は!」
リュウが怒りの眼差しを向ける。
「そう。俺が犯人だ」
シルヴァは狂気に染まった顔を向ける。
「(馬鹿な!お前は魔法が使えない魔法無使用者のはず…なのに…どういうことだ!?)」
アイアンホースは頭が混乱していた。
「さぁ、次はお前達だ。邪魔者には消えてもらおう」
こうしてサシャとリュウ、そしてシルヴァが向き合った。