第79章:懺悔
「ええい離せよ!」
「ちくしょう!覚えてやがれよ!」
海兵隊の魔導船の甲板では、捕縛された海賊たちが甲板下にある牢へ次々と連行されていく。
その声が響き渡る中、船内の医務室は静寂に包まれていた。
微かに薬品の匂いが漂う室内で、サシャたちの姿があった。
「…ううっ」
シャロンは治療台に横たわり、衛生兵の手によって懸命な治療が行われていた。
すぐそばに立つ衛生兵らしき男性海兵は、その手に青い光を纏わせ、患部に深く刺さった珊瑚の針と毒を慎重に摘出しようとしている。
「シャロンさん…アリア。大丈夫かな」
治療台のすぐ近くで、サシャとリュウ、そして横になっているアリアがいた。
アリアは爆発を受け、顔や太ももに火傷を負い気を失っていた。
衛生兵たちは、彼女の火傷の治療にも全力を注いでいた。
「…全部僕のせいなんだ。僕が弱いから」
サシャはひたすらに自分を責めていた。
もし、自分が強かったらアリアを負傷させずに済んだかもしれない。
キャプテンテネシーを生け捕りにすることもできたかもしれない。
後悔ばかりが頭をよぎった。
「さっきも言ったが、これは戦いなんだ。それに、サシャに殺意を向けていたんだろ?なら正当防衛だ。仕方ないんだよ…」
リュウはサシャの肩に手を置き、説得するように穏やかな声で諭す。
その眼差しには、サシャへの深い理解と労りが込められていた。
「…ごめん。少し風にあたってくる」
サシャはそう口にすると、椅子から立ち上がった。
医務室を出て、揺れる船体を歩き、甲板の船首へと向かう。
「…」
サシャは船首の柵に肘をもたれかけ、沈黙していた。
海面を眺める彼の目は、意気消沈し、自身の不甲斐なさに深く落ち込んでいた。
同時に、制御できない力への苛立ちも募る。
その時、精神世界のトルティヤがサシャに声をかける。
「お主、いつまでくよくよしておるのじゃ。あの小僧の言う通り、奴はお主を殺そうとした。殺されても仕方なかったではないか」
「だけど、海兵隊としては生け捕りが目的だったんじゃないか。それに、僕はキャプテンテネシーを殺すつもりは全くなかったんだよ…なのに殺してしまった」
サシャはうつむき、低い声で呟く。
「まったく…」
トルティヤはため息をつくとサシャの目の前にやってくる。
そして、何の躊躇いもなく、その手をサシャの頬へと伸ばした。
「ベシッ!!」
乾いた音が響き、サシャの頬を思いっきり、はたいた。
「あいたた…何するんだよ」
サシャは頬を押さえながらトルティヤに抗議する。
「考えすぎじゃ。そんな精神で世界中の魔具が回収できると思っておるのか」
トルティヤはじっとした目でサシャを見つめる。
「けど…」
サシャはそれでも、まだ心の整理がつかないのか、言い淀む。
「あのな…生物というのは何かを巡って必ず戦うものじゃ。己が名誉のため、プライドのため、保身のため、食べるものを手に入れるため、私利私欲のため、大儀のため、野望をかなえるため…理由はそれぞれじゃ。生きる上で戦いは避けて通れぬ」
トルティヤは厳しい口調で、諭すようにサシャに語りかける。
「…」
サシャはトルティヤの言葉を、ただ静かに聞いていた。
「もちろん、お互い傷つかない方法もあろう。じゃが、それは妥協策じゃ。お互い譲れないものがあるのであれば…戦うしかない。戦いとはそういうものじゃ」
「譲れないもの…戦うしかない?」
サシャはトルティヤの話に真剣に耳を傾ける。
その言葉の重みが、少しずつ彼の心を深く揺さぶっている。
「そうじゃ。そして今お主は、その戦いの結果から目を背き続けておる。だから、弱いのじゃ」
トルティヤはサシャの中にある、核心的な「弱さ」を鋭く見抜いていた。
その指摘は、彼の心の奥底に眠る真実を抉り出す。
「目を背き続けている?」
サシャはハッと目を開ける。
「そうじゃ。目をそらさず、その時の戦いの結果を素直に受け入れる。そして、反省点があれば反省する。それが強くなるための秘訣じゃ…」
トルティヤは静かに頷きながら、力強く語る。
その言葉一つ一つが、サシャの心に深く刻み込まれていく。
「トルティヤ…ごめん。僕が間違っていた」
トルティヤの言葉は、氷のように閉ざされていたサシャの心へと確かに刺さった。
サシャの表情に、少しずつ迷いが晴れていく。
「分かったのならよい。もし、これを言ってもくよくよするようじゃったら、お主の肉体を奪い取ってやるところじゃったわい…」
そう口にしたトルティヤは、珍しく穏やかな笑みを浮かべた。
「…それは嫌だよ」
それに対してサシャは、ようやく心の底から笑って見せる。
その表情には、先ほどの苦悩はもうなかった。
「そういえば、僕が倒れた時、こんな記憶が流れてきたんだけど…」
そして、ずっと気になっていたことをトルティヤに尋ねる。
サシャはトルティヤに流れてきた記憶を説明する。
「懐かしいのぉ。そういえば、そういうこともあったのぉ」
トルティヤは遥か遠い過去を懐かしむように、宙を静かに見つめた。
「ちなみに赤いローブの魔導師とエルフ族の剣士は誰だったの?仲間?」
サシャは興味津々といった様子で、立て続けに問いかける。
「さぁのぉ…お主にそこまで教えてやる義理はないわい」
トルティヤは、どこ吹く風といった表情で肩をすくめた。
「だと思った…だったら、僕が使った魔法や傷が治ったたことについてくらいは教えてくれよ」
サシャは自身が発動した火魔法と傷が治ったことについて、トルティヤに説明を求めた。
「まずお主が使った魔法…あれはアグニの滅焔じゃ。天界のみに燃え盛る「滅焔」を召喚し周囲を焼き尽くす魔法じゃ。そんじょそこらの火魔法とはスケールが違うのじゃぞ」
トルティヤは魔法の起源と特性を説明する。
「その魔法名が突然、脳内に浮かんできて…唱えたら魔法陣が現れて、それからは…わかるでしょ?」
サシャは自身の体験を思い起こしながら、魔法が使用できるようになった経緯を語った。
「ふむふむ。じゃが、お主が魔法を発動するまで、その魔法の存在自体をワシは忘れておった。何故かは分らぬがのぉ」
トルティヤも、その事実に不思議そうな表情を見せる。
「そうなんだ…不思議なこともあるんだね」
当然だが、トルティヤが分からないことは、サシャにも理解できるはずがなかった。
「じゃが、禍津球の影響かもしれんのぉ。現にワシが持っておった魔法解除の魔法が使えておったのしのぉ」
トルティヤは現状あり得ることを推察する。
「なるほど…じゃあ、僕の肉体が回復したことについては?これも禍津球の影響なの?」
サシャは自身の身体に起こった奇妙な現象について、トルティヤに尋ねる。
「それについては、確信がないのじゃが、ワシがお主の肉体に何度か憑依しているうちに、堕天使族特有の回復力がお主にも備わったのかもしれぬな。もしくは、ワシと肉体を共有しているから、ワシ自身の元来の力がお主にも現れたか…」
トルティヤは再び推論を語り始めた。
その言葉の節々には、確証はないものの、もっともらしい理屈が込められている。
「え!?じゃあ、僕の体は堕天使に近づいているということ!?」
サシャは目を丸くしている。
「いや、残念ながらお主の肉体は未だに人間のままじゃ。魔力が増えた形跡もない。ましてや赤い天輪や黒い翼がない。だから、ワシの回復力のみが、お主の肉体に何かしらの影響を及ぼして発動した…というべきじゃろう」
トルティヤいわく、トルティヤが元来持っている堕天使族特有の回復力が何かしらの理由で一時的にサシャの肉体で発現したのだと言う。
「なるほど…どちらにせよ人間のままでよかったよ」
サシャは自身に起きたことに納得するとホッと胸をなでおろす。
「数回憑依した程度で堕天使族になれるわけがなかろう。馬鹿者め」
サシャはトルティヤに呆れたように呟くと、ため息をついた。
その時、医務室の扉が勢いよく開いた。
「あー!あんなところにいた!!」
そこには傷の手当てを受け、元気な表情をしたアリアがいた。
そして、その隣には、こちらを見つめるリュウの姿もあった。
「ほれ、行ってこんかい」
精神世界でトルティヤがサシャの背中をバンと力強く押した。
「そんなに強く押さなくても分かってるよ」
サシャは苦笑を浮かべつつ、アリアとリュウのもとへと歩み寄った。
彼の顔からは、先ほどの葛藤の影が薄らいでいる。
「アリア!傷はもう大丈夫なの?」
サシャはアリアに尋ねる。
「うん!なんかすごい魔法で回復してもらったら、元気になったよぉ!」
アリアは先ほどまで爆発魔法で気絶していたのが嘘のように、跳ねるような動作で答える。
「シャロンさんは、まだ治療中だ。だけど、命に別状はないらしい」
リュウは、どこか安堵した面持ちでサシャに告げた。
「シャロンさんも…よかった」
サシャは心底安堵し、大きく息を吐き出した。
その時、船首にイワンと部下の姿が現れる。
「少年達よ。協力に感謝する。肝心のキャプテンバランタインは逃してしまったが、デュワーズ海賊団とマッカラン海賊団の実質的な壊滅は戦果として大きい。本当によくやってくれた」
イワンはそう言葉を紡ぐと、恭しい態度で深々と頭を下げた。
「気にしないでください。むしろ、キャプテンテネシーを…生け捕りできなくて申し訳ないです」
サシャは自らの行動を悔いるように、イワンに謝罪の言葉を述べた。
「気にするな。元々、奴は賞金首。我々が殺らなくても誰かが殺っていたかもしれん。その時期が早まっただけの話だ」
イワンはサシャの肩を軽く叩き、気遣うように語りかける。
「それならいいんですが…」
サシャは依然として申し訳なさそうな表情を隠せないでいる。
「ふむ。何より市民の安全が第一だ。それを排除できたことは称賛に値する。少年たちにお礼を…」
イワンが言いかけると、横に控える部下へ視線を送った。
「本件は海兵隊の任務のため、テネシーにかけられた懸賞金はお支払いできませんが、先ほど捜索部隊から徴収したデュワーズ海賊団の財宝の一部をどうぞ」
部下はそう説明を加えてから、ずっしりと重そうな金貨袋を一つ、サシャに手渡した。
「いいんですか?財宝とかは海兵が押収する決まりじゃ?」
サシャは予期せぬ贈り物に戸惑いを見せ、受け取るのを躊躇した。
「キャプテンテネシーを討伐してくれたのに、何も報酬を渡せないというのもなんだしな。それに、君らの協力があってこそ成功した任務だ。もし何か言われたらワシが責任を取る。遠慮せず受け取ってくれ」
イワンはサシャの目を見て、力強く頷いた。その表情には、感謝の意が明確に表れている。
「…分かりました。ではありがたくいただきます」
サシャは大きな金貨袋を両手でしっかりと受け取った。
それは見た目以上に重く、相当な金額の金貨が詰まっていることが伺える。
「これで当面の冒険の資金は大丈夫そうだな」
リュウが金貨袋を覗き込み、笑みを浮かべた。
「何か美味しいものでも食べようよぉ!」
アリアは金貨袋を見つめながら、目をキラキラと輝かせた。
「それと、この船はボルジア島の海兵基地まで直行する。君らも当初はボルジア島に行くつもりだったのだろう?」
イワンがサシャに問いかけた。
「はい。シャロンさんにボルジア島まで乗せていってもらうつもりでしたから」
サシャはイワンの問いに素直に頷いて答えた。
「うむ…では、窮屈な船かもしれんが、ボルジア島まで船旅を楽しんでくれ」
そう言い残すと、イワンは部下と共に船内へと戻って行った。
「…結構、重たいけど中身はなんなんだろう?」
サシャは袋の重さを確かめるようにしながら、中の金貨が気になるのか、紐を解いて中身を覗き込む。
「…おぉ。これは」
「うわぁ…ゴールドがたくさん」
「おぉ!中々ではないか!」
リュウとアリア、そして精神世界から様子を見ていたトルティヤは、その光景に目を丸くした。
金貨袋の中には、銅貨に銀貨、そして輝く金貨がぎっしりと詰め込まれていた。
その量は、おおよそ30枚程度はあると思われ、旅の資金としては十分すぎるほどだ。
こうして、サシャ達を乗せた魔導船は、波をたてながらマクレン海をゆっくりと進み続けた。
辺りは既に日が暮れ、空と海は朱色に染まり、息をのむような黄昏時を迎えていた。
船体は穏やかに揺れ、風が甲板を吹き抜けていた。
そして、デュワーズ海賊団のアジトがあった島から約3時間の航海を経て、サシャ達の姿はボルジア島の港にあった。
港は、夜にもかかわらず活気に満ちている。
海兵たちが確保した財宝の積み下ろし作業を活発に行っており、ガタガタと荷物が動く音が響く。
その近くには、サシャ達に加え、すっかり回復したシャロンの姿もあった。
「んー…!よく寝たからすっきりしたわ」
シャロンは両手を気持ちよさそうに頭上へ伸ばし、大きく伸びをした。
「もう傷は大丈夫なんですか?」
リュウは、シャロンの回復ぶりに驚きながら尋ねた。
「あら。心配してくれるの?優しいのね」
シャロンはリュウに妖艶な笑みを向けた。
「けど、大丈夫よ…毒も綺麗になくなったし」
シャロンは余裕綽々といった表情で、自らの回復ぶりを披露した。
「本当によかった…」
その言葉に、サシャは心からの安堵を口にした。
「さて、悲しいけど坊やたちとはここでお別れね…短い間だったけど楽しかったわよ」
シャロンがそう切り出すと、サシャの掌に小型のプレートを二枚握らせた。
「これは?」
サシャは掌に握られた奇妙なプレートを訝しげに見つめた。
「これは鉄の符号よ。伝書梟の使用に必要なものなの」
シャロンが鉄の符号について、簡潔に説明した。
鉄の符号。
伝書梟が目的の場所や人物に飛んでいくのに必要な符号である。
魔力が込められた金属片であり、伝書梟はこれを読み取り、同じ符号を持っている人、そして場所に向かって飛んでいくという、独自のシステムが搭載されている。
「これさえあれば私と離れても、お手紙を送れたりするわね。せっかくだから受け取ってちょうだい」
シャロンは微笑みながら、サシャの今後の旅を気遣うように言った。
「ありがとうございます」
サシャはシャロンに深々と頭を下げた。
すると、遠くからイワンの声が響き渡った。
「シャロン!基地に報告に行くぞ!」
遠目に見えるイワンが、こちらに向かって手を振っている。
「…行かなきゃ。じゃあね坊や達。また会えたらいいわね」
シャロンがそう言い残してイワンの方へ向かうかと思った、その時だった。
彼女の行動は、サシャたちの予想を遥かに超えるものだった。
「ん…ちゅっ」
なんと、シャロンはサシャの額にそっと唇を寄せると、続けてリュウ、そしてアリアの額にも、それぞれ別れのキスを落としたのだ。その動作は流れるように自然で、一切の迷いがなかった。
「…!!!????」
シャロンの突拍子もない行動に、サシャとリュウは顔を真っ赤に染め上げた。
「わっ!シャロン姉さん?どうしたの?」
アリアは、何が起きたのか全く理解できていない様子で、ただ目を丸くしている。
「ふふふ…別れのキスってやつね。坊やたちには唇はまだ早いから額で我慢してあげる。それじゃあ、またね!あ、そのうち伝書梟で連絡ちょうだいね!」
シャロンは満面の笑みを浮かべ、そう言い残すと、颯爽とした足取りでサシャ達のもとを去っていった。
「あわわわわわわわ…あの破廉恥女…は、ななななな何をしておるのじゃ!?」
シャロンの奔放な行動に、精神世界にいるトルティヤは激しく動揺した。
その声は、かつてないほどの狼狽を露わにしている。
「やっぱり、よく分からない女だ…」
リュウは、遠目になっていくシャロンの姿を見つめながら、静かにそう漏らした。
その表情には、困惑と同時に、どこか呆れたような感情が浮かんでいる。
「なんか…すごい人だったね」
サシャはまだ動揺が収まらないのか、言葉を絞り出すのがやっとだった。
顔の赤みが完全に引いていない。
「けど、なんか嬉しい気分かも!」
アリアは、何故か頬を緩ませ、ニコニコと微笑んでいる。
彼女にとっては何の抵抗もない、むしろ嬉しい出来事だったようだ。
こうして、サシャたちはシャロンと別れ、ボルジア島の港から市街地へ向かって歩き出した。
夜の帳が降りた街の明かりが、彼らを優しく包む。
そして、港からほど近い場所に、一際大きな宿を見つけた。
その宿の木製の看板には、「港町の宿 チュローイ」と、味わいのある文字で書かれている。
「今日は夜も遅いしここに泊まろう」
サシャたちは宿屋の木の扉に手をかけ、中へと入っていく。
「ギィィィ…」
年季の入った扉が、軋むような低い音をたててゆっくりと開いた。
「次の積み荷は24の刻に到着だ」
「とりあえず、明日までロメリア王国の商人を待とう」
「今日も頑張った!一杯やろうぜ!」
宿屋のレストランは、活気に満ち溢れていた。
商人や水夫たちが大きなテーブルを囲み、豪快に食事をしたり、ジョッキを打ち鳴らしてお酒を楽しんでいる。
芳醇な料理の匂いと、陽気な笑い声が混じり合い、心地よい喧騒を作り出している。
「いらっしゃいまし!」
青く小さな翼を背に生やした、可愛らしいドラゴニア族の女性店員が、サシャたちを明るい笑顔で迎えた。
「食事を…三人で!あと部屋を一つお願いします!」
サシャは店員に声をかけ、夕食と宿泊の予約を依頼した。
「はーい!空いている席に座ってお待ちください!」
店員はそう応えると、両手に持ったビールのジョッキを巧みに運び、違う席にいる水夫の元へ届けに行った。
「とりあえずご飯だ…」
サシャたちは窓際にある席を見つけ、そこに腰を下ろした。
窓の外には、港の明かりが瞬いている。
「なんかお腹が空いたよぉ」
アリアがメニュー表を手に取り、美味しそうな料理の名前を目で追う。
「久々に牛そばが食べたいな」
リュウもメニュー表をじっと見つめ、思案するように呟いた。
その視線の先には「牛そば」と書かれてあった。
「僕も鳥そばにしようかな…すみません!鳥そばを…」
サシャが鳥そばを注文しようと店員に声をかけようとした、まさにその時、精神世界でトルティヤがサシャの肩に手を置いた。
その表情は、これまで見たことのないほどに笑みに満ちていたが、そこからはサシャを射抜くような、強烈な無言の圧力を感じた。
「…え。ちょっと待ってよ!」
トルティヤの笑みの裏に潜む意図を感じ取ったサシャの表情は、一瞬にして凍りついた。
まるで時間が止まったかのように、彼の体から力が抜けていく。
そして、サシャとトルティヤの意識が入れ替わった。
こうして、サシャ達はボルジア島の宿で賑やかな夕食をとり、一晩を過ごすことになった。




