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第76章:海賊討伐

「ザザザーッ!!」

サシャ達の姿は海上の魔導船にあった。


あれからサシャ達はブリリアントカジノを出て、蒼霧列車(アズールトレイン)で船着き場に戻り、シャロンが操縦する魔導船でサイテン島を出発していた。


スコールが過ぎ去った後の空は、どこまでも澄んだ青色を取り戻し、海は穏やかに波打っている。

潮風が頬を撫で、日光が暖かく肌を照らす。


「カジノのような遊び場もいいけど、やっぱり外の方が気持ちいや」

サシャは潮風を浴びながら深呼吸をする。


「…」

トルティヤは相変わらずふんぞり返っている。

負けたことが相当悔しいようだ。


「同感だ。スリルはあったが、俺には人が多すぎて落ち着かなった…」

リュウは腕を組み、遠くの水平線を見つめていた。


「僕はまた遊びに行きたいよ!絵合わせ箱や弓矢のやつ面白かったし!」

アリアはブリリアントカジノに満足している様子だった。


「ふふふ…満足できたようでよかったわ。じゃあ、このままボルジア島まで飛ばすわよ!」

シャロンが嬉しそうな表情をし操舵輪に力を入れる。


「ん?なんか音がする」

その時、サシャが今乗っている魔導船以外に何か起動音を辺りに感じる。

そして、ふと後ろを振り向く。


「ザザザーッ!」

すると、後方から一隻の魔導船が猛スピードでこちらに向かってくるのが見えた。

その魔導船はサシャ達が乗っているものよりも大きく、ルーフにはマクレン海兵隊の旗がはためいていた。


「あら。うちの海兵隊の船だわ」

シャロンがそれに気が付きスピードをあげようとした。

その時、後方の魔導船から、大きな声が辺りに響き渡る。


「前方の魔導船、ただちに止まれ!繰り返す!ただちに止まれ!」


「あの声は…最悪ね」

シャロンは諦めたかのように魔導船のスピードを落とした。


「あの…同僚の船ですか?」

サシャがシャロンに不安そうな表情をしながら尋ねる。


「あの声は、イワン・ロックビル隊長。ズィーゲル隊長の同期よ…面倒なのに捕まったわね」

シャロンはため息をつく。

そして、サシャ達が乗った魔導船は完全に停止した。


「ザザザッ」

海兵隊の魔導船が、サシャ達の魔導船のすぐ横に横づけされる。

すると、上から金属製の梯子が下ろされる。


「登ってこい!貴様に拒否権はない!」

魔導船から低くいかつい声が響く。


「悪いけど、言う通りにしてくれるかしら?」

シャロンが申し訳なさそうな表情を見せながら、サシャ達を見つめる。


「だ、大丈夫ですけど…」

サシャは少し戸惑いながらもシャロンの言う通りにした。


「とりあえず行くしかないようだ」

リュウも戸惑いを見せつつ梯子に手をかける。


そして、四人は梯子を昇る。


昇り終えると、そこには50人くらいの海兵隊が整列していた。

そして、中央には短髪の白髪が特徴的な、筋骨隆隆とした体格の男が立っていた。

海兵隊の証でもある制服は、汚れや(しわ)一つなく綺麗に整っている。

彼の周りだけ空気が張り詰めているようだった。


「これはこれは、イワン隊長。ご無沙汰してますわ」

シャロンがゆっくりとイワンに向かって形式的な敬礼をした。


「何が「ご無沙汰してます」だ。ズィーゲル隊長が貴様を探していたぞ。二日間も無断でどこへ行っていた?」

イワンは呆れたかのようにシャロンに厳しい視線を向ける。


「(うまく言っておいてとジョージに言ったはずなのに…)そう言われたって…巡行任務をしていたのよ」

シャロンは心の中で舌打ちしつつも、悪びれもなく呟いた。


「貴様と言う奴は…」

イワンは左手で頭を抱える。

そして、一呼吸を置くと、周囲に響き渡るような大声で口を開く。


「バッカモーン!!!!二日間の不在を巡行任務だと?ふざけるのも大概にしろ!!」

船内、いや、海上に響き渡るような怒声が響く。

声は衝撃はとなり、一瞬だが強風を起こし、魔導船を揺らす。


「うわ…声だけですごい迫力」

思わずサシャ達は耳を塞ぐ。


「何が巡行任務だ。どうせ、ふらふらと遊びまわっていたのだろう。それに、こいつらは誰だ?何故、海兵隊の魔導船に乗せている?」

イワンは矢のようにシャロンに向けて疑問を投げかける。


「そんなことないわよ。巡行途中に彼らが漂流していたのを見つけたのよ。なんでも、ボルジア島に借りた船で行く途中にスコールで難破してしまったようなのよ。だから、ボルジア島まで送り届けている途中だったの」

シャロンはありもしない事実を淀みなく並べ、釈然とした態度でイワンに話した。


「(この破廉恥女は嘘が下手すぎるのじゃ)」

トルティヤが呆れたように様子を窺う。


「(いやいや、こんな大嘘、信じる訳がないよ)」

その様子を見たサシャはそんな嘘が通じるわけないと思っていた。


「(なんか、ここは何も話さない方が得策かも)」

アリアはじっとイワンとシャロンのやり取りを見ていた。


「難破して漂流だと…?」

イワンは怪訝な表情でサシャ達を見つめる。

そして、ゆっくりとサシャに近づき、様子を伺うように手を伸ばす。


「うっ…」

サシャはひきつった顔をする。

すると、ポンとイワンの手がサシャの肩に置かれる。


「それは大変だったな」

イワンは厳しい表情を崩し、優しい表情でそう呟いた。


「(嘘が通じた…だと?)」

リュウは驚いた表情をする。


「まぁ、漂流者の対応も我々の任務の一つだからな。だが、二日間も不在だった件については見逃せんな」

イワンがシャロンに再び鋭い視線を向ける。


「そこを何とか見逃してもらえないかしら?」

シャロンは少し甘えたような口調でイワンに懇願する。


「ダメだ。規律を破っているのは海兵隊として許すわけにはいかない…」

イワンが厳しい口調でシャロンに呟く。

その時、サシャが間に割って入る。


「あの…シャロンさんを許してもらえないでしょうか?もし、シャロンさんに発見されなかったら僕たちは今頃、海獣の餌食になっていたと思うんです…だから、僕からもお願いします!」

サシャは頭を深々と下げる。


「俺からも頼む…」

リュウも真剣な表情をし、頭を下げる。


「う、うん!僕からも!」

アリアは少し戸惑いつつ、リュウに続いて頭を下げる。


「ふーむ…」

イワンは悩んだ表情をする。

そして、決断したかのように口を開く。


「よし、分かった。この子らの懇願に免じて許してやる。その代わりにシャロン!貴様には我々の任務に参加してもらう」

イワンの口から任務の参加命令がシャロンに下った。


「任務の内容を聞いてもいいかしら?」

シャロンが腕組みをしながらイワンに尋ねる。


「ちょうど、この近辺にデュワーズ海賊団の本拠地があるという情報がうちの偵察部隊から入った。奴らは月に一回、成果を共有し合うために本拠地に集まるらしい。そこを一気に叩く…」

イワンが作戦についてシャロンへ話す。


「そこの漂流者達は俺の部下が責任をもってボルジア島まで連れていく。貴様に任せると何処へ行くか分からないからな」

イワンは部下へ視線を送る。


「あ、あの!」

その時、サシャが勇気を振り絞り声を出す。


「ん?」

イワンはサシャに怪訝そうに視線を向ける。


「その任務、僕たちにも協力させてくれませんか?」

サシャがイワンに協力の意思を伝える。

声は少し震えているが、その瞳からは強い意志が感じられた。


「お主!何をアホなことを言っておるのじゃ!?」

トルティヤはもの凄い形相でサシャを睨む。


「だって、シャロンさんには世話になっているし…放っておけないよ」

サシャがトルティヤを宥めるように呟く。


「全く…お主という奴は…まぁよい、好きにしたらよい。じゃが、ワシは手を貸さぬからな」

そう言うとトルティヤは再びサシャにそっぽを向く。


「まったく…」

サシャはやれやれといった表情を見せる。


「少年…気持ちは嬉しいが奴らは悪名高い海賊団だ。遊び半分で行けるような場所ではないのだぞ」

イワンが穏やかな口調で、諭すようにサシャに呟く。


「せっかく色々とお世話になったのに、恩を返せないまま、お別れなんて寂しいよぉ」

アリアが続けるように呟いた。


「同感だ。それに剣には多少の心得はある…」

リュウは自信に満ちた表情をイワンに向ける。


「剣って…持っていないじゃないか」

イワンの部下がリュウが刀を持っていないことを指摘する。


「今はちょっと訳ありで持っていない…だが…」

リュウは右手に魔力を集中させる。


「水魔法-蒼神ノ御太刀(ソウジンノオンタチ)-!」

リュウの右手が青く輝き形を成していく。

そして、水の魔力で形成された一本の太刀が現れる。


「リュウ…そんな魔法が使えたんだ」

リュウの魔法にサシャとアリアは目を丸くする。


「これを…」

そしてリュウは一つのリンゴをポーチから取り出すと、それを空中に放り投げる。


「なんだ?何をするつもりだ?」

イワンとその部下たちはその様子を見守っている。


「…|荒覇吐流奥義・波濤ノあらはばぎりゅうおうぎ・はとうのつるぎ

そして、水の魔力で形成した太刀をリンゴに向かって振るう。


「スパン」

鋭い風切り音と共に、リンゴは真っ二つに縦に割れる。


「これは…オマケだよ!」

アリアは咄嗟に弓を構えて、矢を二本放つ。


「ザクッ!」

二つに割れたリンゴに矢が深々と刺さる。


「はぁっ!」

そして、最後にサシャが双剣を構え、リンゴに斬りこむ。


「スパン」

その一撃は、リンゴを更に半分に切断した。

リンゴは四つに分かれ、ボトっと音をたてて床に落ちた。


「…おおっ!見事な連携技だ」


「この子らやり手だ」

イワンの部下たちが騒ぎ立てる。

目を見開き、感嘆の声を上げていた。


「ふむ…普通の漂流者ではないようだな。お前たち、名前は?」

イワンはサシャ達に名前を尋ねる。

その声には、彼らの実力を認めた上での、わずかな尊敬と好奇心が含まれていた。


「僕たちは…」

サシャ達はイワンに各々自己紹介をする。

そして、今まで対峙してきたモンスターや海賊について話す。


「なるほど。世界中を旅している冒険者という訳だな…」

イワンは彼らの経緯を理解し、納得したように頷いた。


「ダンジョンや遺跡の探索、モンスターや対人戦闘の経験もあります!」


「報酬とかを求めている訳じゃない。純粋に恩を返したいだけなんです」


「力になるよぉ!このアリアに任せて!」

サシャ達の目はやる気に満ちていた。


「ふっ…俺の若い時みたいだな…」

サシャ達のやる気と実力、そして純粋な動機に、険しかったイワンの表情が穏やかになる。


「…シャロン。貴様が責任をもって、この子らの面倒を見ろ。貴様の下で任務にあたらせる。それが条件だ。」

イワンはシャロンに静かにそう告げた。


「ふふふ…承知しましたわ」

シャロンは笑みを浮かべ、その言葉を受諾する。

こうして、シャロン達は元の魔導船に戻る。


「我々が先導する。ついてくるんだ」

イワンが大きな声でシャロンとサシャ達に告げる。

そして、二隻の魔導船は海原を勢いよく進む。

海兵隊の船が先行し、シャロンの魔導船が追随する形だった。


「よかったの?私の厄介事に首を突っ込んじゃって」

シャロンは不安そうな表情をサシャ達に見せる。


「(この破廉恥女の言う通りじゃ。余計なことに首を突っ込む。小僧の悪い癖じゃ)」

精神世界でトルティヤはあくびをしながら、サシャ達の様子を窺っていた。


しばらく海原を進むと遠目に島が見えてくる。

島の輪郭がはっきりと見え始め、島には数隻の船が見える。


「あれがデュワーズ海賊団の本拠地だ…!一気に行くぞ!」

イワンの号令と共に海兵隊の魔導船は一気に加速する。


「私たちも飛ばすわよ!」

シャロンの言葉にサシャ達は頷く。

そして、約10分後、魔導船は島の近くまで来ていた。


「ちょっと待て…何かおかしい。船の数が報告にあった数よりも多い…」

イワンがストップをかける。

予期せぬ事態に表情を変える。


「この船って、デュワーズ海賊団のものなんじゃ?」

サシャがシャロンに尋ねる。


「それもある。…けど、違う海賊旗があるでしょ?」

シャロンが海賊旗に指をさす。


サシャ達が海賊旗に視線を向ける。

一隻の船には黒地に白く描かれた髑髏に刀と蛇が巻きついた海賊旗があり、それはデュワーズ海賊団の旗だった。

そして、もう一隻の船には赤地に黒く描かれた髑髏に巨大な鎌が組み合わされた海賊旗が、風にはためいていた。


「本当だ!なんで二隻の海賊団の船があるんだろう?」

アリアは状況を理解できず、首をかしげる。


「あの赤い旗はマッカラン海賊団の旗…とにかく調べてみましょう」

シャロンの魔導船、そしてイワンの魔導船はゆっくりと桟橋に向かう。


「これは…血の匂いだ…」

リュウが鼻から血と硝煙の匂いを感じ取り、顔をしかめる。


「…なんだこれは」

桟橋付近の様子を見ていたイワンが息を呑む。


「うぉぉぉ!!!」


「奴らの財宝を全部かっさらえ!!」


「マッカランの奴らは全員死ね!」

桟橋付近と双方の海賊船、そして浜辺では、デュワーズ海賊団とマッカラン海賊団と思われる多くの海賊団員が、入り乱れて戦闘をしていた。


辺りには海賊の団員と思われる死体が無数に転がり、魔法で焼け焦げた建物の残骸、双方の海賊船は、ところどころ魔法の痕跡で穴が空いていたり、マストが破けていたりもしていた。

そして、浜にはクレーターのような穴がぽっかりと空いており、戦闘の激しさを物語っている。


「もしかして、デュワーズ海賊団とマッカラン海賊団の縄張り争いか?」

イワンは予想以上に深刻な状況に困惑していた。


「ドカーン!!」

その時、島の奥から爆発音と剣戟の音、叫び声が聞こえる。


「…どうするの?イワン隊長」

シャロンは船の先に立っているイワン隊長を見つめる。


「面白い…好機だ。このまま二つの海賊団を討伐してしまおう」

イワンの顔は二つの海賊団の討伐に燃えている様子だった。


「よし!皆、聞け!目標はデュワーズ海賊団、そしてマッカラン海賊団だ!…下っ端一人とて逃がすな!」

イワンの号令の下、魔導船は桟橋に停泊する。

隊員たちの顔には緊張と決意が浮かぶ。


「進め!!!」

イワンが力強く号令を出すと同時に、海兵隊の隊員らが船から飛び降り、戦闘の中に突入する。


「うぉ!海兵隊まで来やがった!」

双方の海賊団は海兵隊の到着に身構える。


「なんだ!漁夫の利をしに来たってのか!」

そして、二つの海賊団と海兵隊が激突する。


「水魔法-逆流葬(げきりゅうそう)-!!」


「海兵風情が調子に乗るな!糸魔法-蜘蛛糸の射手(スパイダースナイパー)-」


「くらぇえ!」


「帰れクソ海兵共!!!」

双方の魔法が飛び交い、剣戟が繰り広げられる。


「どけ!おっさん!邪魔すんじゃねぇ!!」


「長生きしたけりゃ失せな」


「火魔法-炎輝牙(フレアファング)-!!」

すると数人の海賊がイワンに飛び掛かってくる。

おまけに、一人は火魔法で作られた犬を三頭従えていた。


「隊長!」

部下の二人が剣を抜く。


「下がっていろ」

だが、イワンはそれを制して前に出る。


「あなたたち。耳を塞いでいなさい」

シャロンがサシャ達に耳を塞ぐように指示する。


「あ、はい…」

サシャ達はシャロンの指示に従い耳を塞ぐ。


「その首、もらった!!」


「こいつは将校クラスだ!!」

海賊とイワン隊長の距離はわずか数メートルまで近づいていた。

だが、次の瞬間イワンが魔法を唱えた。


「声魔法…-大声轟(だいせいごう)-!!!!」

イワンが魔法を唱えたと同時だった。


「ウォォォォォーーーーーーーーー!!!!!!!」

イワンの声が爆発的な衝撃波となる。

それは地面を抉り、空気を振動させ島に生えていたヤシの木を大きく揺らした。


「ぐぁぁあっ!!頭が割れる…」

近づいていた海賊は、その衝撃の前に紙屑のように後方に吹き飛び、火魔法で作られた炎の犬は霧散した。


「くっ…(なんて声なんだ)」

リュウはその音量と衝撃に顔をゆがませる。


「(うわぁ…オババ様よりも大きい声だよぉ)」

アリアはその音量に目を丸くしている。


「(声魔法…これほどの使い手は初めてじゃ)」

精神世界でその様子をトルティヤはじっと見つめていた。

そして、数秒後に声が止む。


「…ふぅ。三人とも気を失っておるな。捕縛せよ」

イワンがため息をつくと部下に命じる。


「は、はいっ…風魔法-ウインドロック-」

女性の部下が風でできた縄で海賊を捕縛する。

緑色の風が渦巻き、縄状に形を変え、海賊を縛り上げる。


「…すごい魔法だった」

サシャはそっと耳から手を離す。

同時に、リュウとアリアも耳から手を離す。


「あれがイワン隊長の声魔法よ…声の大きさを自在に調整できるの…」

シャロンも耳から手を離す。


「さて、ガンガン捕まえろ!抵抗したら屠っても構わん!!海兵の名のもとに正義を執行せよ!」

イワンの指示のもと戦闘は激化する。

海兵隊員たちはイワン隊長の声魔法で気絶した海賊たちを次々と捕縛していく。


「私たちは奥へ向かいましょう…こういう時って親玉は奥にいるのが約束でしょ?桟橋近辺はイワン隊長に任せましょ」

シャロンが我先にと先に進む。


「あ!ちょっと待ってください!」

サシャ達は慌ててシャロンの後を追いかける。


「おら!お前のお宝よこせ!!!」


「へっ、逆にお前らがよこせっての!!」


「逃がすな!捕らえろ!」

奥でも二つの海賊団と海兵隊が戦っていた。

サシャ達は戦闘を避けながら進む。


「けど、どこにいるんだろうか?」

サシャは辺りを見渡す。

しかし、親玉らしき者はいなかった。


「あっ!あれ!!」

アリアが指さす方向にちょっとした砦らしき建物があった。

それは、丸太で強固な壁を形成しており見張り台らしき櫓もそびえ立っていた。


「怪しさ満点だ。船長とかがいるのかも…」

サシャが砦に視線を向ける。


「調べてみた方がよさそうだな」

リュウがサシャの言葉に頷く。

そして、四人が前に出たその時だった。


「ちょっと、止まりな。ストップだ」


「その小僧が着ているマントとか…そこの小娘が着ているポンチョとかは高く売れそうだな」


「子供が、なんでこんなところにいるのか分からんが…運が悪かったな」

あっという間に、物陰から数人の海賊が現れ、サシャ達を囲む。

彼らの顔には下卑た笑いが浮かび、剣や斧、棍棒といった武器を構えている。

更に、増援といわんばかりに砦からも数人の海賊が現れる。

その数はざっと10人程度だ。


「仕方ないわね…地道に倒していくしか…」

シャロンが懐からナイフを取り出し臨戦態勢に入る。


「ふっ…水魔法-蒼神ノ御太刀(ソウジンノオンタチ)-!」

すると、リュウは水でできた太刀を形成し構える。


「ここは俺に任せておけ。刀はないがこいつら程度ならこれで(蒼神ノ御太刀)で十分だ」

リュウが自信満々に三人を見つめる。

その言葉には一切の迷いは見受けられない。


「…わかった。リュウ。気を付けて!」

アリアはリュウの言葉に頷くと先に進む。


「坊や、無理しないでね」

シャロンがリュウに、からかうかのように軽くウィンクする。


「桟橋で落ちあおう…!」

サシャはそう言うと二人の後を追いかけた。


「へっ、一人で残ってヒーロー気取りか?」


「ヒューヒュー!かっこいいねぇ!だが、すぐに泣きつくことになるぜ!」

海賊たちはリュウをからかう。


「ふん…御託はいいからかかってくるんだな」

リュウが水の太刀を構える。

その闘志はいつにも増して燃えているようだった。


「ここから行けるわね」

シャロンが丸太で囲まれた壁の間に、人が一人通れるくらいの隙間を見つける。


「行こう!」

そして、サシャ、シャロン、アリアの三人は丸太の壁の間の隙間から島内の砦へと音を立てないように入り込んだ。

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