第75章:一攫千金?
「わ…わしのチップがぁぁぁ!!!」
トルティヤは絵合わせ箱の前で呆然としていた。
ジャラジャラとチップが吸い込まれていく音だけが耳に残る。
「あらあら…お気の毒」
その様子をシャロンは静かな目で見ていた。
「悲惨だな」
「あわわ…チップが全部なくなっちゃったよぉ」
リュウとアリアもトルティヤの運のなさに目を丸くしている。
結局、トルティヤは絵合わせ箱で賭けた60枚のチップを全て使い果たしてしまった。
派手なファンファーレは一度も鳴らず、大負けしたという結果に終わった。
「ぐぬぬ…すっからかんになってしまったのじゃ!!」
トルティヤは悔しそうに唸り、その場で地団駄を踏んでいた。
精神世界で、サシャはそんなトルティヤを呆れた様子で見つめていた。
「だから、やめておけばと言ったのに…」
サシャは精神世界でトルティヤの無謀な行動を諌める。
「もうよい!ワシは休む!こんなもの面白くもなんともないのじゃ!!」
そう呟くと、サシャの肩をポンと軽く叩く。
すると、髪の色と目の色がサシャの姿へと変わる。
「勝つか負けるかが楽しい…とか言ってたいじゃないか…」
サシャが手元を見ると、チップが入っていたはずの籠は空っぽだ。
結局、無一文になったことを理解し、愕然としていた。
「ま…災難だったな。仕方ない」
リュウはサシャに同情するような視線を向けた。
「ふふふ…他にも色々な遊びがあるわ…遊んでみましょう」
シャロンが他のゲームを遊ぶように促す。
「…もう1万ゴールドくらいなら」
サシャはせっかくカジノに来たということもあり、追加でもう1万ゴールドだけ出費することにした。
そして、サシャはチップを交換し終わる。
「これで勝負が決まるのか…」
「ではアタイはこの札を…」
とある台では男性冒険者と女性デイラーが互いに、手札から一枚のカードを出している。
「「決闘!!」」
そして、札が同時にめくられる。
結果は、男性冒険者は◇の7。女性デイラーは△の8だった。
「うわぁ!俺の負けだ!」
男性冒険者は頭を抱え床に膝をつく。
「まいどあり!また挑戦してな!」
女性デイラーは元気な声で男性冒険者に声をかける。
「あれはなんという遊びかな?」
サシャがシャロンに尋ねる。
「あれは「決闘」というゲームね。お互いに山札から13枚のカードを選んで手札にする。そして、お互い手札から1枚のカードを場に出す。そして数字が高い方の勝ち。それを13回繰り返して、勝った回数が多い方の勝利。簡単よ?」
シャロンが「決闘」のルールについて説明する。
「へぇ…やってみようかな」
サシャが女性デイラーに近づく。
「次の挑戦者はあなた?」
女性デイラーは挑発的な視線をサシャに送る。
「あぁ。チップを5枚を賭ける」
サシャはチップを5枚場に出す。
「承知!では、この山札から…」
すると女性デイラーが素早いシャッフルを見せる。
そして、数十枚のカードを台の上に並べる。
そのカードさばきは芸術と呼べるものだった。
「好きなカードを13枚とって」
女性デイラーはサシャにカードを取るように促す。
「…」
サシャは並べられたカードの中から13枚のカードを手札に加える。
「では…決闘!!」
女性デイラーが威勢よく言葉を放つ。
しかし、サシャは首をかしげている。
「ほら!あなたも言うのよ!」
女性デイラーが顔を赤くしながら小声で呟く。
「あ、はい…」
「では…せーの」
そして二人は呼吸を合わせたかのように口を開く。
「「決闘!!」」
こうして二人による決闘が始まった。
「これだ!」
「へぇ、やるじゃん…!」
サシャと女性デイラーは交互に札を出す。
しかし、12枚の時点でお互い6勝6敗という結果だった。
「さ、これで決着ね!」
「(僕の手札は13のカード…どんなカードが来ても勝てる。最悪、引き分けに持ち込むことだって)」
サシャの手札には王様のイラストが描かれた◇の13があった。
「…では、これで最後ね」
そして、サシャと女性デイラーが同時にカードを台に置く。
カードが互いにめくられる。
「…!!」
「アタイの勝ちだね」
サシャはその展開に驚いた表情を見せる。
なぜなら、女性デイラーの場には道化師のイラストが描かれた札があったからだ。
「なんだこれは?」
サシャは初めて見る札に言葉を失う。
「道化師の札ね。どんな数字のカードにも勝てる最強の札。54枚のカードの中に1枚しか入っていないレア札…それを引き当てて最後まで温存しておくなんて」
後ろから様子を見ていたシャロンが道化師について解説する。
「というわけで、アタイの勝ち!」
サシャは女性デイラーの策にハマり敗れた。
「ぐぅ…負けると確かに悔しい…」
サシャはトルティヤの気持ちが少しわかった気がした。
「さ、次は誰が戦うの?」
女性デイラーは強気な視線をサシャ達に向ける。
「じゃあ、俺が受けてたつ。同じくチップを5枚を賭ける」
リュウが前に出てチップを賭ける。
「いいね!じゃあ…」
「「決闘!」」
リュウと女性デイラーによる決闘が始まった。
それから、1時間後。
サシャ達は全員女性デイラーに負けていた。
「まいどあり!!また挑戦してね!」
女性デイラーはニコニコしながら呟く。
「誰も勝てなかったよぉ…」
アリアがしょんぼりとした表情を見せる。
「だが、イカサマをした形跡はなかった…悔しいがあの女が強かった」
リュウは悔しさに拳を握りしめていた。
「本当ね…「賭け事は胴元が勝つようにできている」というけど、本当なのね…」
シャロンはため息をつきながら呟く。
「まだ、チップが5枚あるし…トルティヤがやっていた漆黒の騎士でもやってみようかな」
そう呟くとサシャは漆黒の騎士が行われている台に向かって歩きだした。
「ふっ…俺はあの女にリベンジするとしようか…」
リュウは先ほどの女性デイラーのもとに向かう。
「僕はどうしようかな?」
アリアがキョロキョロと周囲を見渡す。
「あれなんかいいじゃないかしら?」
シャロンが一つの遊戯に指をさす。
「おっしゃ!この俺が射抜いてやるぜ!」
ワイルドな風貌をしたエルフ族が弓を手に取っていた。
そして、かなり離れた場所に5つの的があった。
その的は距離が違う上に大きさも異なっていた。
「エルフ族の弓術なら高得点待ったなしだな!」
「これは見ものだ」
周囲のギャラリーはざわついている。
「わ!なんか弓を使っているよ!なんて遊びかな?」
アリアが目を輝かせながらシャロンに尋ねる。
「あれは、自由の射手という遊びね。支給された弓を使って的を狙うのよ。的に当たれば距離に応じて賭けたチップが還元されるというものね」
アリアが丁寧に説明する。
「僕、やってみるよぉ!」
アリアは意気揚々と魔弾の射手が行われているコーナーに向かった。
「うっ…あと少しだったのに…」
ワイルドな風貌のエルフ族は一番奥の的を狙ったが、交換した矢を全て失ってしまった。
一番奥の的はリンゴ並みに小さいうえに、かなりの距離がある。
「あれは相当難しいぞ…」
「弓が得意なエルフ族が当てられないとは」
「あの的に当てられる人なんているのか?」
見物していた客たちはざわめき立っていた。
誰もが一番奥の的に当てられる者はいないと思っていた。
「さぁさぁ、次の挑戦者はいませんか?一番奥の的に当てられたら5倍のチップが返ってくるよ!!」
男性職員が客に呼び込む。
「はいはーい!僕がやるよぉ!」
アリアが勢いよく手を挙げる。
「おいおい…あんな子供が…」
「当てられるわけないだろう」
客達はアリアの姿を見るや否や否定的な声をあげる。
「おっ!お嬢さん、やってみるかい?倍率は、手前の的から順番に1.2倍、1.5倍、2倍、3倍、そして5倍だ。矢は一本につきチップ10枚だ!」
男性職員がアリアに倍率について説明する。
「じゃあ、3本ちょうだい!チップ30枚だね」
アリアはそう呟くと籠の中からチップを30枚取り出し男性職員に手渡す。
「はいよ。じゃあ、これが弓と矢だ」
男性職員はアリアに弓と三本の矢を手渡す。
その弓はアリアが普段使っている弓より半分ほどの大きさしかない弓だった。
「ん?なんだか軽いよぉ」
アリアは弓を上下に振る。
そう呟きつつアリアはスタートラインに立つ。
「…」
アリアは集中をする。
そして、一呼吸を置くと矢を放つ。
だが、それは無情にも一番奥の的に届く前に地面に落下した。
「むぅ…なんか弓が軽いからいつも感覚が違うよぉ」
アリアが悔しそうに頬を膨らませる。
そして、もう一本矢を弓にあてがう。
「…これなら!」
アリアは再び矢を放つ。
だが、今度は的の横を通過していった。
「おいおい…もう後がないぞ」
「やっぱ、無理なんだよ」
「けど、あの嬢ちゃん、着実に的に当てようとしているぞ」
客達は期待を込めた視線でアリアを見つめる。
「(次がラスト…これで決めるよ)」
アリアは頭の中でイメージする。
「あれは…新種のモンスター!」
アリアは森の中にいた。
そして、遠くの木の陰には小さな赤い毛皮をしたモンスターがいた。
その体毛は風のせいか不規則に小刻みに揺れていた。
「落ち着いて…息を肺にいっぱい吸い込んで…狙いをじっと定める。息を吐け…そして…」
アリアは深く息を吸い込み、そして息をゆっくりと吐く。
「射て!!」
アリアは意を決したかのように指を離す。
一本の矢は空を切りながら的を目指して直進する。
「ザクッ!」
そして、矢は一番遠くの的に深々と突き刺さる。
しかも真ん中を綺麗に射抜いていた。
「…!!」
アリアの為したことに辺りは一瞬静まり返る。
そして、静寂を突き破るかのように男性職員が手にベルを取る。
「おめでとうございます!!」
ベルを激しく上下に揺らす。
カランカランという音が周囲に響き渡った。
「おぉ!すげぇ!」
「あのお嬢ちゃんがやったぞ!」
見物客はアリアが的を当てたことに驚き歓喜していた。
「お嬢さん。お見事だったよ…」
男性職員はアリアから弓を預かる。
「うん!少し難しかったけど頑張った!」
アリアは笑みを見せながら呟く。
「では、一本当たったので5倍の…チップ50枚だ」
そう呟くと男性職員はチップを50枚手渡した。
「ありがとう!!」
アリアはチップを嬉しそうに受け取った。
「(この子、よいハンターになりそうね)」
その様子を見てシャロンはクスッと笑った。
こうして、サシャ達はカジノを満喫した。
やがて時間はあっという間に過ぎていった。
「うっ…結局、あの女には勝てなかった」
リュウはあの後、女性デイラーに何度か挑んだが全敗したという。
そのため、結果的にチップは少し増えたくらいに落ち着いた。
「僕もダメだった…カジノって難しいね」
サシャも起こりのチップを漆黒の騎士に賭けたが、デイラーに翻弄され負けてしまった。
よって、1万ゴールド分のチップは泡となって消えた。
「わぁ!チップがたくだんだよぉ」
そんな二人を尻目にアリアの籠にはたくさんのチップが入っていた。
その量は、籠からあふれ出しそうなほどだった。
「すごいなアリア…」
「換金したらどのくらいになるんだろう?」
サシャとリュウはアリアが抱えている籠を見て呟く。
「ね!楽しみだよぉ!」
アリアはニコニコしている。
その表情は、いつもに増して嬉しそうだった。
「とりあえず換金しに行きましょう」
シャロンの案内でサシャ達は換金所に向かう。
「といっても、僕は換金できるチップがないんだけど…」
サシャは気持ちを切り替え、壁に貼られている案内板を見つめる。
そこには「→換金所」と書かれていた。
カジノのフロアは相変わらず熱狂の渦に包まれており、老若男女問わず、多くの人がギャンブルに熱中していた。
ファンファーレの音に、人々の歓声やため息が混ざり合う。
「よっしゃ!当たった!」
「今日は波に乗っているぞ!」
歓喜の声が聞こえれば。
「◇の5…うっ…負けたわ…ツイてない…」
「また負けた!!」
悲しき声も聞こえる。
そこは、様々な感情が渦巻く空間だった。
「みんな一攫千金を夢見て遊んでいるんだね。すごい熱気だ…」
サシャはそんな彼らの様子を見て、感心したように呟いた。
換金所の案内に従って進み、やがて換金所に到着する。
そこはカジノのフロアの一角にある、少し隔てられた空間だった。
受付の窓は堅牢な鉄格子になっており、周囲には薄緑色の結界らしきものが張られていた。
更に、換金所の棚にはチップと交換ができる景品らしきものが多数鎮座されていた。
高価そうな装飾が施された槍、真珠のネックレス、白い石で作られた精巧な蛇の置物、更にはガラスのショーケースの中に飾られた、驚くほど精巧に作られた人形など、様々なアイテムが並んでいた。
「景品とも交換もできるんだな。刀は…なさそうだな」
リュウは棚に並べられた景品を見て少し残念そうな表情を見せた。
換金所には数人ほどが列をなして並んでいた。
彼らも早くチップをゴールドに換金したくて待ちきれないのだろう。
「ねぇねぇ!このチップを換金したらどのくらいになるかな?」
アリアは籠にぎっしりと入った、きらきらと輝くチップを見つめる。
チップが籠の中でジャラジャラと音を立てる。
「どうだろう?でも、その量なら、最初に換金した分よりは儲けてるはずだよ」
サシャはアリアのチップを見て推測した。
「相当な金額になっていると思うわ。楽しみね」
シャロンがニコニコしながら呟く。
そして、サシャ達は列に並び、やがてリュウの番になる。
「すみません。換金を…お願いします」
まずはリュウがチップの入った籠を受付の窓口に持ち込み、籠を職員に手渡す。
「はい。換金ですね…少々お待ちください」
オレンジ色の髪をした若い女性職員が、丁重にリュウのチップを受け取った。
チップをカウンターに広げ、素早く数え始める。
カチカチとチップを数える音が響く。
そして、しばらくすると、ずっしりとした重みのある金貨袋が窓口から差し出される。
「チップが80枚なので、合計で8万ゴールドになります」
職員が金額を告げる。
「どうも…ありがとうございます」
リュウは金貨が入った袋を受け取る。
「わぁ!結構、換金できたんだね!」
サシャがずっしりと金貨が入っているであろう、金貨袋を見つめた。
「あぁ…結果としては5万ゴールドの儲けというわけだ」
リュウの顔には満足気な表情が浮かんでいる。
「次は僕だね!」
アリアが目を輝かせ、受付にチップがたくさん入った籠を手渡す。
彼女の籠は今にもチップが溢れそうだ。
「少々お待ちください。チップの量が多いので、少しお時間をいただきますね」
受付の職員は丁寧にチップの入った籠を受け取る。
その重さに少し驚いた顔をしつつ、チップを数え始める。
そして、しばらくすると、ずっしりとした金貨袋を2つ、職員が窓口に持ってくる。
「チップが180枚なので合計で18万ゴールドになります」
なんと、驚きの金額が告げられた。
アリアが最初に換金した1万ゴールドを遥かに上回る金額だ。
「わー!そんなに貰えるんだ!やったよぉ!」
アリアは金貨袋を2つ手に取ると、その重さに少しよろめきながらも嬉しそうな表情を見せる。
こうして、サシャ達はチップをゴールドに換金し終える。
そして、気が付くと時刻は午後の14の刻になろうとしていた。
「そろそろ、スコールも止んでいる頃かしら?」
そう呟くとシャロンが、壁に掛けられている一枚のパネルに視線を向ける。
そこには、太陽のマークがデカデカと表示されていた。
「あれはなんですか?」
サシャがシャロンに尋ねる。
「あれは外の天候を教えてくれるパネルね。ここは海底だから天候を中から確認できないの。けど、1時間おきにここの職員が外の天気を調べて、こうやって表示してくれるの」
シャロンがパネルについて説明する。
「晴れ…それなら…」
その時、リュウがぼそっと話す。
「どうしたの?」
サシャがリュウに尋ねる。
「いや…もし皆がいいなら、どこかで刀を買いたいなと思って。さすがに刀がないと心もとない」
リュウは先のネクタルとの戦いで使用していた刀を失っていた。
刀の入手は彼にとって最優先事項でもあった。
「それなら、首都があるボルジア島に腕のいい鍛冶屋を知っているわ。私は直接行ったことがないけど、海兵隊で話題になっているのを聞いたわ」
シャロンがボルジア島にある鍛冶屋について話す。
「それなら次はそこに行こうよ!」
サシャがその話を聞くとボルジア島に行くことを提案する。
「僕も賛成!カジノでたくさん遊んだし満足だよぉ」
アリアもサシャの話に賛同するように頷く。
「ふふふ…じゃあ、これからボルジア島に向かいましょうか…ここから約4時間といったところね」
シャロンはサイテン島からボルジア島までの到着時間をサシャ達に伝える。
「行こう…ボルジア島へ!!」
こうしてカジノで遊んだサシャ達は次の目的地であるボルジア島に向かうことになった。




