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第7章:着流しの男

リュウは倉庫の二階に飛び上がると、男が逃げていった方向へ走った。


「(今度こそ…ヤツを…!)」

リュウの胸には、滾々と湧き上がる怒りが渦巻いていた。


鬼車(おにぐるま)との取引現場で見た、あの着流しの男。

奴は間違いなく、リュウが探し求めていた男だった。


そして、男を追ってたどり着いたのは、古びた冷凍庫だった。

冷凍庫は長年使われていないようで、扉には錆が浮き出ていた。

しかし、場所柄かろうじて冷気だけは残っており、周囲の空気を僅かに冷やしている。


リュウは警戒しながら、男の姿を探した。

男は冷凍庫の陰に隠れていると思われた。

しかし、背後から気配を感じた。


「(!!)」

咄嗟に背後へ刀を振るうが、男の姿はない。

代わりに、頭上から男の声が聞こえた。


「やぁ、久しぶりだね。リュウ」

頭上にあるコンテナを見上げると、

そこに一人の男が立っていた。


男はにこやかな笑みを浮かべているが、その目はどこか冷めているようにも見える。

まるで能面のような、無機質な笑みだった。


「…イゾウ!」

リュウの顔が怒りに染まる。


「せっかくの兄弟子との再会だというのに、随分と不機嫌そうだね」

イゾウと呼ばれた着流しの男はそう呟く。

その声は、どこか余裕に満ち溢れていた。


「黙れ!よくもぬけぬけと…!」

リュウは刀を構え、男を睨みつけた。

殺気立つリュウの表情には、並々ならぬ決意が表れている。

それでもイゾウは余裕の顔を見せる。


「にしても、たまには護衛の依頼を受けてみるものだね。縁に引き寄せられて、こうして君と再会した。正直、あいつらのことは死のうが生きようがどうでも良かった。だから、様子を見ていた」

イゾウは鬼車(おにぐるま)のボディガードとして雇われていたようだ。


イゾウの言葉に、リュウは怒りを覚える。

鬼車(おにぐるま)を利用していたこと、そして仲間たちを見殺しにしていたこと。


「相変わらずのようだな…」

その全てが、リュウの怒りの炎に油を注いだ。


「ま、弱いやつは死ぬだけさ。この世の摂理だよね」

イゾウはニコリと笑う。

その笑顔は、リュウの神経を逆なでするほど冷酷だった。


「黙れ!!」

リュウは激高する。

イゾウの言葉に、リュウの怒りは頂点に達した。


「いいね!久々に…やろうか?斬り合いを!」

イゾウは腰から刀を抜く。

刀は刀身が赤黒く、禍々しい気配を放っていた。


「貴様は…今度こそ確実に殺す!」

リュウはイゾウに切りかかる。

怒りのままに放たれた一撃は、イゾウに容易く回避される。


「へぇ。まぁまぁ早くなったじゃん…」

イゾウは余裕そうにリュウの攻撃を回避する。

彼の動きは、まるで風のように軽やかで、捉えることができない。


「お前だけは!…絶対に!」

リュウは立て続けに攻撃をする。

イゾウに追いつくため、必死に刀を振るう。


「許さない!」

渾身の袈裟斬りを放つ。

攻撃が当たったと思われた。が…


「…ダメだね。これじゃ遅い。遅すぎる」

イゾウは攻撃をギリギリまで引きつけてから回避する。

彼の目には、リュウの動きがスローモーションのように映っているのかもしれない。


「じゃあ今度はこっちの番かな」

イゾウは刀を構え、リュウに切りかかる。

彼の刀が、稲妻のようにリュウに迫る。


「(やはり早い!)」

リュウは懸命に回避するが、頬を切られてしまう。

イゾウの攻撃は、スピードだけでなく、正確性も兼ね備えている。


「どうしたの?僕を殺すんじゃなかったのかい?」

イゾウは素早い斬撃や突きを織り交ぜて攻撃してくる。

刀身がまるで生き物のようにうねり、リュウを追い詰める。


「くぅ…」

リュウは少しずつ斬られ、体のあちこちから血を少しずつ噴き出す。

傷口から流れ出る血が、リュウの集中力を削いでいく。


「君は弱い。けど素質がある。だからあの時、君を生かした。強い剣士となって僕と斬り合いをするため!だから、僕を失望させないでくれよ」

イゾウは戦闘を楽しむかのようにリュウに呟く。

彼の言葉は、リュウを挑発しているようにも聞こえる。


「うるさい!お前の欲望のために死んでいった師匠や兄弟子たちに、あの世で詫びろ!」

リュウは両手に力を込める。

怒りと悲しみが、リュウの体内で渦を巻く。


「食らえ!荒覇吐流奥義・剛鬼あらはばぎりゅうおうぎ・ごうき!」

リュウは全身全霊の攻撃を男に放つ。

刀身が鬼の形相を含んだオーラを纏い、イゾウに襲い掛かる。


「カギィィィン!!」

刀と刀がぶつかり合う。

金属同士がぶつかり合う、耳をつんざくような音が響き渡る。


「…!」

だが、イゾウは、まるでリュウの攻撃を吸い込むように、片手でいとも容易く受け止めていた。


「こんなものなの?大したことないね」

イゾウは残念そうに呟く。

彼の言葉にリュウは驚愕する。


「(馬鹿な…直撃したはず)」

リュウは咄嗟に距離を取ろうとするが、イゾウの方が早かった。

彼は一瞬にしてリュウとの距離を詰め、刀を構える。


「残念だ。君には素質があったと思ったのに…|裏荒覇吐流奥義・撃閃珀式《うらあらはばぎりゅうおうぎ・げきせんひゃくしき》」

イゾウは鋭い斬撃をリュウに放つ。

複数の斬撃が閃光のようにリュウに迫る。


「(くそっ!かわせない!)」

ならばと、リュウは刀で受けようとした。

しかし、イゾウの放った斬撃は、リュウの刀をいとも簡単に弾き飛ばし、その肉体を切り裂いた。


「ぐわぁぁぁ」

リュウの胸から大量の鮮血が噴き出す。

激痛がリュウの体を駆け巡り、意識を朦朧とさせる。


「(くそっ…力が…)」

力が抜け落ちたように、リュウの刀が音を立てて地面に落ちる。


「くそ…まだ…くっ」

リュウは立ち上がろうとするが出血で足元がおぼつかない。

体から力が抜け、立っていることさえ困難だった。


「もういいや。僕の目が間違っていたんだ…リュウ。君は弱い。弱くて愚かだ」

イゾウが少しずつ迫ってくる。

彼の言葉は、リュウの心を絶望へと突き落とす。


「くっ…水魔法-竜泉(りゅうせん)-!」

リュウが魔法を使い、破れかぶれに小型の鉄砲水を放つ。

最後の力を振り絞って放たれた魔法はイゾウに尽くかわされる。


「だから無駄なんだって。君も分かってるはずだ」

イゾウは音もなくそれをかわす。

彼の目には、リュウの抵抗が無意味なものとして映っているようだ。


「はぁ…はぁ…」

胸から血がどくどくと滲み出る。

呼吸をするたびに、胸の傷口が痛む。


「痛そうだね。けど大丈夫。もう楽にしてあげるから…裏荒覇吐流奥義うらあらはばぎりゅうおうぎ…」

イゾウが剣を構えたその時だった。


「影魔法-影縫い(かげぬい)-!」

リュウの足元から影が伸びてイゾウを捕らえようとする。


「しっ…」

イゾウは影を回避する。

彼は警戒し、影と距離を取る。


「…サシャ…か?…うっ」

リュウはそう言うとドサっと倒れる。

意識が遠のき、視界がぼやけていく。


「…やれやれ。こっぴどくやられたのぉ。」

冷凍庫の扉の方にはトルティヤに交代したサシャがいた。


「ふふふ。まぁいい。その命…次までに預けてあげるよ。助かったね、リュウ」

イゾウはそう言うと、もう片方の扉から音もなく冷凍庫を出た。


「うぁぁぁ!リュウ!」

サシャは精神世界の中で、悲痛な叫びをあげる。


「ふむ…」

トルティヤはリュウに近づく。

リュウの胸には、深々と刀傷が刻まれていた。


血が止まらず、傷口からはドクドクと赤い液体が流れ出ている。

その手は震え、顔は蒼白になっていた。


「急いでアイアンホースのところに…ちなみにトルティヤは回復魔法は使えないの?」

慌てるサシャ。


リュウを助けるためには、一刻も早く手当てをしなければならない。

しかし、サシャは回復魔法を使うことができない。

そこで、トルティヤに助けを求めるが、返ってきたのは冷たい言葉だった。


「使えないことはない。が、今のお主の肉体では魔力が足りぬ」

冷静に答えるトルティヤ。


「(とはいえ、この小僧は中々に見どころがある。死なすのは惜しいの)」

トルティヤが内心、そう呟く。


「とにかくアイアンホースのところに戻ろう!」

サシャは慌てた素振りを見せる。

すると、トルティヤは仕方なさそうにリュウの手を握り魔法を唱える。


「慌てるでない…転送魔法-韋駄天の長靴(いだてんのながぐつ)-」

二人は一瞬で姿を消した。

次の瞬間、サシャとリュウはアイアンホースのいる店の中に転送されていた。

店の中ではアイアンホースが鼻歌を唄いながら店の片付けをしていた。


「ほれ着いたぞ」

トルティヤが呟く。


「お!お前らどこから!?…ってかリュウ!お前!!」

傷を見てアイアンホースが叫ぶ。

アイアンホースは、サシャたちの突然の出現に驚いた様子だったが、リュウの姿を見ると、駆け寄ってきた。


「お主…なんとかできるか?」

トルティヤがアイアンホースに尋ねる。


「いや、俺は医者じゃねぇし回復系の魔法も使えん。だが大丈夫だ安心しろ。俺に考えがある」

そう言うとアイアンホースはリュウを背負い店を出る。


アイアンホースは、リュウを背負うと、店の裏口から出て、路地裏へと入っていった。

トルティヤは、その後を必死に追いかけた。


「どこへいくのじゃ?」

トルティヤがアイアンホースに尋ねる。


「いいからついて来い」

普段の飄々とした雰囲気から一変し冷静な口調で話す。

アイアンホースは、トルティヤに何も言わずに、どんどん路地裏の奥へと進んでいく。

トルティヤは、その後を黙ってついて行った。


路地裏は、薄暗く、ゴミが散乱していた。

足元には、ドブ川が流れ、悪臭が漂っている。

そんな路地裏を、アイアンホースは迷うことなく進んでいく。

そして、石造りの建物に入った。


建物は古く、窓は割れ、壁には蔦が絡みついていた。

中に入ると、埃っぽく、薄暗かった。

そして、階段を下る。


そこは廃棄された診療所だった。

部屋には古い医療器具や薬品などが散乱していた。


「診療所?けど、廃墟…」

サシャは精神世界から様子を見ていた。

サシャは、こんな場所でリュウを治療できるのかと不安に思った。


「まぁこの男のことじゃ。何かあるじゃろう」

トルティヤは黙って見守るようにサシャに促す。


「…鋼の馬は天を駆ける」

アイアンホースは、壁に掛かっている古びた絵画に向かって、そう呟いた。

次の瞬間、サシャたちの目の前に、古めかしい雰囲気の診療所が現れた。

診療所の壁は白く塗られ、窓にはレースのカーテンがかかっていた。


「よぉ旦那。今度は右目もなくしたのかい?」

奥から白衣を着た小柄な男が現れる。

顔には皺が刻まれていたが、目は鋭く光っていた。

口元には、自信に満ちた笑みが浮かんでいる。


「ちげぇよ。ちょい急患だ。コイツをなんとかしてやってくれ」

アイアンホースはリュウを診療台に寝かせる。


「ほうほう。これはこれは…」

男は、リュウの体を隅々まで観察した。


「軽い刀傷が複数。胸に大きな刀傷が一つと…けど、急所は外れているね」

男は、リュウの傷の状態を的確に把握した。


「ほっ…」

その言葉を聞いてサシャは安堵した。


「ま、そんなことじゃろうと思ったわい」

トルティヤは知っていたような素振りをする。


「傷は深いが…余裕で助かる…お前が昔、肝臓の半分と片方の肺をなくして来た時に比べたらな」

男はからかうようにアイアンホースに呟く。


「うるせぇ。あの時は本当に死ぬかと思ったんだぞ」

アイアンホースはニヤリと笑う。


「まぁ、任せろ…縫合魔法-金色繭糸(ゴールデンアイブロー)-」

男が魔法を唱えると金色の糸が手元に現れる。

男はそれでリュウの体を器用に縫合していく。

 

男の手は、まるで生き物のように動き回り、リュウの傷口を縫い合わせていく。

斬られた傷が少しずつ塞がっていく。

傷口から流れ出ていた血が止まり、リュウの顔色が少しずつ戻ってきた。


「…すごい。これなら」

サシャは安心した顔を見せる。


「(縫合魔法とな。これはまた珍しい魔法が見れたわい)」

トルティヤは少し嬉しそうだった。

そして、10分位すると男は手を止め呟く。


「よし。これで後は一晩くらい寝ておけば傷は完全に塞がる。…じゃあ、あとは任せたぜ旦那」

男が満足そうに頷くと、再び空間が一変し、サシャたちの視界は、廃墟の診療所に戻っていた。

リュウは古びた診療台で横になっていた。


「ふぅ…もうよかろう」

トルティヤはサシャの肩を叩く。

人格がサシャへと入れ替わる。


「トルティヤ…ありがとう」

サシャはトルティヤに礼を言う。


「勘違いするでないぞ。あの小僧がもしかしたら魔具の手がかりになるかもしれぬ。だから助けようと思っただけじゃ」

トルティヤはツンツンしながら言葉を返す。


「(まったく…)」

リュウがニコリと笑う。

そして、リュウの方を見る。


「リュウ…よかった」

サシャは、リュウが無事だったことに、心から安堵した。


「あいつはガラが悪いが、昔、黎英(れいえい)で皇室お抱えの医者をしていたんだ。腕前は保証する」

アイアンホースいわく、ああ見えてかなりの名医らしい。


三人はリュウを背負い、青い屋根の宿屋に戻った。

そして、部屋でリュウをベッドに寝かせた。


「とりあえず、あいつの魔法なら言ってた通り一晩で治るだろう」

アイアンホースはそう呟く。


「じゃ、あとは任せるぞ。俺は店の後始末が残ってるから行ってくる」

アイアンホースは、サシャたちにリュウのことを任せると、店へと戻った。


その後、サシャはリュウのそばにいた。

静かな部屋で、リュウは穏やかな寝息を立てていた


サシャは、少しウトウトし始めた。

その時、リュウが目を覚ました。


「ここは…俺は…」

リュウは、ゆっくりと体を起こした。

そして、周囲を見渡した。


「リュウ!よかった!」

サシャは、リュウの顔を覗き込んだ。

サシャの顔には、安堵の色が浮かんでいた。


「…その…ありがとう…」

リュウは、少し照れ臭そうに言った。

サシャに助けられたことを、感謝しているようだった。


「あの男は何者だったんだ?」

サシャは、リュウに尋ねた。

リュウは、少し間を置いてから、話し始めた。


「分かった話そう。いや、お前には話す義理があるな」

そう言うとリュウは語り始めた。


「俺は魏膳(ぎぜん)という国で育った。名前くらいは聞いたことがあるだろう?」

魏膳(ぎぜん)はトリア帝国より東側にある巨大なルネスタ山脈を挟んだ向こうの国だ。

武術が盛んな国で数多の武芸者を輩出している。


「あぁ。もちろん」

サシャも名前くらいは知っていた。

名を馳せた剣豪は大体は魏膳(ぎぜん)の出身なのだ。


「俺はそこにある「荒覇吐流(あらはばぎりゅう)」の門下生の一人だった」

荒覇吐流(あらはばぎりゅう)

師範の「ヒルコ」を筆頭に門下生100人。

300年以上の歴史があり、学んだ人は数知れぬという剣術の名門だった。


「色々あって俺は家族と仲が良いとは言えなかった。そんな中、出会ったのが荒覇吐流(あらはばぎりゅう)だった」

リュウは一人でいることが多かった。

そんな中、荒覇吐流(あらはばぎりゅう)の道場に入門した。


「最初は不安だった。けど、師匠の励ましや兄弟子達との交流を通じて、荒覇吐流(あらはばぎりゅう)の道場が俺の居場所になっていたんだ」

リュウにとって、荒覇吐流(あらはばぎりゅう)の道場や仲間は、家族のようなものだった。


毎日稽古を重ね、荒覇吐流(あらはばぎりゅう)の奥義も取得し、免許皆伝も近いと周りから言われて始めていた。

だが、ある日、リュウの人生が一変する事件が起きる。


-1年前 魏膳(ぎぜん) 周薩(すさつ)にて-


「…あれ?静かだ」

いつものように門をくぐるリュウ。

だが、道場はいつもの活気はなく静まり返っていた。


「山へ稽古に出てるのかな?」

それにしては、あまりに静かすぎる。

とりあえず稽古場に入ろうと扉を開けると中から男が倒れこんでくる。


「うわっ!?」

リュウは咄嗟に男を受け止める。

しかし、男は血に塗れ、既に息はなかった。


「(刀で斬られてる。道場破りか?)」

男をそっと地面に寝かせると、稽古場に足を踏み入れる。


「っ!!」

だが、中からは血の匂いが漂った。

そして、奥へ進むと衝撃の光景が広がっていた。


「なんだよ…これ」

稽古場は血まみれになっていた。

多くの門下生の死体が転がっていたのだ。

そんな中、一人の男が剣を持って立ち尽くしていた。


「…イゾウ兄さん?」

リュウは男に声をかける。

するとイゾウがゆっくりと振り向く。


「…やぁリュウ。見てよこれ。これ全部僕がやったんだ。すごいでしょ?」

イゾウの表情は狂気に染まり、体は返り血で赤く染まっていた

その姿は、まるで鬼のようだった。


「え?」

突然のことに思考が追いつかない。


「すごい力だよね…裏荒覇吐流(うらあらはばぎりゅう)…師匠はなんでこんなすごい力を封印したんだろう」

リュウはイゾウの後ろに倒れている者を見つける。

それは尊敬する師匠の「ヒルコ」だった。


「ヒルコ師匠!!」

駆け寄るが既に事切れていた。


「無駄だよ。師匠は死んだ。そして、裏荒覇吐流(うらあらはばぎりゅう)と「妖刀-唐紅(からくれない)-」は僕のものになった」

イゾウの手には赤黒い刀身をし、不気味なオーラを放つ剣が握られていた。


「…イゾウ兄さん…どうして!」

リュウは涙を浮かべながら剣をイゾウに振るう。

しかし、かすりもしない。


「どうしてって決まっているだろ?力だよ力。生物の本質は皆、力を欲している。力を得たものは強くなり弱者は淘汰されて死ぬ…そう君のようにね!」

イゾウはリュウに刃を振るう。


「くぅ!」

リュウは咄嗟に後ろに回避する。

ギリギリで避けたが腹の皮を薄く斬られる。


「すごい!今のよけるんだ!じゃあ…これならどうだ!?」

今度は突きを放つ。


「(早い!)」

ギリギリでかわすが頬を掠める。

じわっと鮮血が溢れる。


「…へぇ。これも避けるんだ。リュウ。やっぱり君はすごいよ」

イゾウはニコニコしながら話す。

すると、イゾウが後ろに下がった。


「よし。決めた。君はもっと強くなる。そして、強くなったら僕ともう一度斬り合おう!そうしよう!」

イゾウは狂気的な笑みを浮かべる。

イゾウの言葉は、リュウを混乱させた。


「ふざけ…ぐっ!」

ふざけるな。

そう言おうとした時、腹に鈍い痛みが刺さる。

イゾウが目の前まで来ており、お腹には剣の柄が深々と鳩尾に刺さっていた


「おやすみ」

イゾウはそう言うと、リュウから剣を抜き、鞘に収めた。


「…ま、待っ…て」

どこかへ去るイゾウの姿を最後にリュウは意識を失った。


「生存者だ!」

その後、リュウは駆けつけた村人によって助けられた。


「聞いたか!?とんでもない事件だ!」

 

「嘘!?信じられない!」


「どこのどいつがやったんだ!?」

世間では「あの荒覇吐流(あらはばぎりゅう)が壊滅した」と話題になったのだ。


-現在-


「ってなわけさ。俺があいつを追っている理由さ。分かっただろ?」

リュウは、悲しそうな表情で言った。

サシャは、リュウの過去を聞いて、言葉を失った。


「わかった。話してくれてありがとう。確かにリュウの気持ちはわかるけど俺達は仲間だろ?助けが必要なら頼ってほしい」

とサシャは言う。


「…」

その言葉を受けて、リュウは一考してこうつぶやいた。


「…分かった。助けられてばかりですまない。ただ、あいつは俺が殺す。それは譲れない」


「それで十分」

それに対して、サシャはニコリと笑った。

サシャは、リュウの気持ちを尊重することにした。


「すまないが、今日は寝かせてくれ」

そう言うと、リュウは再び目を閉じた。


「…リュウにそんな過去が」

サシャは呟く。


「ふむ…荒覇吐流(あらはばぎりゅう)が滅んだとはのぉ」

トルティヤは難しい顔をしていた。


こうして波乱の1日が終わった。

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