第65章:バルズアナ島
「(なんだこれ…まるで脂を口に入れているようだ)」
サシャは、飲み込んだパニュパニュの身から口の中に広がる強烈な味に、思わず咳ばらいをした。
「ぐっ…(急にくどくなってきた…!なんだこの味は…)」
それはサシャだけではなかった。
最初は美味しいと食べていたリュウも、顔を歪め、口元を押さえている。
「スープは美味しいのに、身は脂っぽいよぉ…」
アリアも、口の中に広がる味に困惑した表情を浮かべていた。
それでも、なんとか飲み込み、少し涙目になりながら呟いた。
「ふふふ。ちゃんと食べ方があるのよ…」
シャロンは、サシャ達の反応を面白そうに見つめると、小さく笑った。
そして、自身のパニュパニュプレートに目を向け、フォークでパニュパニュの身をすくい、口に入れる。
「まずは、パニュパニュの身を、この添えてあるラムラムという果実と一緒に食べるの」
シャロンは、パニュパニュの身をゆっくりと咀嚼し飲み込むと、皿に添えてある緑色の小さな果実、ラムラムをフォークで刺し、少しかじる。
「こうして一緒に食べると、パニュパニュの独特の脂っぽさが中和されて、マイルドになるわ。あとは、スープを飲んだり、このスパイス入りの米と一緒に食べると、さらに美味しいわ」
シャロンは、そう呟くと、白濁したスープを一口飲む。
「そ、そうなのか…」
リュウは、シャロンの説明に半信半疑といった様子だったが、騙されたつもりでシャロンの食べ方を試すことにした。
「…っ!」
食べた瞬間、リュウの顔色が変わった。
先ほどまでの強烈な脂っぽさがなくなり、ほどよい脂のまろやかさと、ラムラムの清涼感のある後味が絶妙にマッチしていたのだ。
「うん!これは美味しい…」
リュウは、感心したように大きく頷いた。
そして、パニュパニュプレートを黙々と食べ始めた。
「…本当だ…!濃厚だけど全然しつこくない!」
サシャも、リュウの反応を見て、急いでシャロンがしていた食べ方を試した。
パニュパニュの身とラムラムを一緒に食べると、口の中に広がる味の変化に、美味しさと驚きで言葉を失った。
「うーん!パニュパニュの身とラムラム、そしてスープと米の組み合わせが絶妙だよぉ!」
アリアも、言われた通りにパニュパニュプレートを食べ、その美味しさに満面の笑みを浮かべた。
頬を押さえて、幸せそうに食べ進めている。
「(なんと…!パニュパニュには、そうやってクセを打ち消す食べ方があったとはのぉ…)」
精神世界から食事の様子を眺めていたトルティヤは、サシャ達が美味しそうに食べている様子を見て、感心するように頷いた。
こうしてサシャ達は、マクレン名物パニュパニュプレートを、その真価を知り、心行くまで満喫した。
そして、食事が終わり、会計を済ませて店を出た。
外に出ると、相変わらず強い日差しが降り注いでいる。
「さて、バルズアナ島に行こうかしらね。ここからだと、まだ2時間くらいの船旅になるわ」
シャロンは、満足そうな表情でそう呟き、サシャ達と共に再び魔導船に乗り込んだ。
シャロンが運転席に座り、リュウは相変わらずシャロンの隣の席に、サシャとアリアは後方の席に座る。
そして、シャロンの手慣れた操縦で、魔導船は桟橋を離れ、水面を勢いよく波を裂いて走り出した。
風が強くなり、潮の香りが一層濃く感じられる。
魔導船は、どこまでも続く青い海の上を疾走する。
時折、水面から魚が跳ねるのが見えたり、遠くに白い帆を張った大型船が見えたりした。
シャロンは、魔導船を操縦しながら、サシャ達に色々な話をしてくれた。
海兵隊での任務のこと、出会った海賊のこと、マクレン海の面白い場所のことなど、話は尽きない。
「それで、その海賊が調子に乗って、私に逆らったもんだから…頭に来て、船から海に蹴り落としてやったわ」
シャロンは、自身の武勇伝を語る際、悪びれる様子もなく、楽しそうに笑いながら話した。
「結局、その海賊は捕まえられたのですか?」
サシャは、シャロンのあまりにも豪快な話に少し驚きながらも、尋ねた。
「ええ、私の同僚が慌てて海から救い出して、ちゃんと捕まえてくれたわ。ま、私としては、そのまま銀王鮫にでも食べられてしまえと思ったけどね」
シャロンは、ニコニコとした笑顔で、恐ろしいことを当然のように呟いた。
「…(…やはり、恐ろしいな、この女)」
リュウは、シャロンの話を聞いて、内心でゾッとした。
こうして魔導船は、どこまでも続く青い海をひたすら進んだ。
やがて、太陽が西の空に傾き始め、辺りが夕日の茜色に包まれた頃、前方に島の影が見えた。
「見えたわ。あれがバルズアナ島よ」
シャロンが、指さす方向に、水平線上にうっすらと島の影が見えた。
魔導船が島に近づくにつれて、その姿は徐々にはっきりと見えてきた。
バルズアナ島は、パリオネ島のような白い砂浜や賑やかなリゾートはなく、茶色っぽい岩肌で覆われた島だった。
島の斜面には、ビー玉か団子のような、茶色い球体型の家が、階段状にいくつも密集して並んでおり、サシャ達の目を引いた。
そして、島の中央には、遠目からでもその大きさが分かる、キラキラと光る巨大な水路が見えていた。
「ほえぇ…変わった形の家だよぉ」
アリアは、球体型の家を見て、不思議そうな表情をする。
「あれはオルカ族の伝統的な建築様式よ。この島は、マクレン諸島の中でもオルカ族が多く住む島の一つなの」
シャロンの口から「オルカ族」という言葉が出た。
「そういえば、アイアンホースさんも、オルカ族がどうこうって言っていたような…」
サシャは、ハギスの街でアイアンホースが言っていた言葉を思い出した。
『マクレン諸島にいる種族だ。ま、簡単に言えば人間と鯱の半魚人ってところだな。頭がいい奴らだぞ?言葉も通じるし、中には高度な魔法を使う奴もいる』
「オルカ族ってどんな種族なの?」
アリアがシャロンに尋ねる。
「そうね…一言で言うと「賢く力強い」種族ね。頭も切れるし、魔法に長けている者もいる。見た目は鯱と人間のハーフって感じね」
シャロンが、オルカ族について簡潔に説明した。
そして、手慣れた操縦で、バルズアナ島の船着き場に魔導船を滑り込ませ、ピタリと船を止める。
「はい。到着よ。ちょうど日が暮れる頃ね。今日は遅いし、宝探しは明日からにしましょ」
シャロンが、周囲を見渡しながらそう呟く。
「そうですね…夜に行動するのは危険だし、今日のところは宿を探した方が良さそうですね」
サシャは、シャロンの提案に同意するように頷いた。
「ずっと座っていたから、なんだか体が固まっちゃったよぉ」
アリアは、長時間同じ姿勢でいたためか、魔導船を降りながら大きく背伸びをした。
「…(この女もついてくる気か。魔具探しが終わるまで離れるつもりはないのか…)」
リュウは、シャロンが当然のように同行しようとしている気配を感じ取り、内心でそう呟いた。
何とかして彼女と別れたいという気持ちが募り、口を開く。
「し、シャロンさん…その…一つお尋ねしたいことが…」
リュウは、意を決したように、もじもじした様子でシャロンに話しかけた。
彼は手をそわそわさせ、シャロンの顔をまともに見られないでいる。
「何かしら?もしかして、デートのお誘いかしら?」
シャロンは、リュウの様子を見て、甘えたような声色でリュウをからかう。
「でえと?」
アリアは、聞き慣れない言葉に首をかしげる。
「お主は本当に何も知らぬのぉ…デートというのは、仲の良い男女が共に時間を過ごし、楽しむことじゃ。例えば、美味しいものを食べたり、景色の良い場所に行ったり、旅をしたり…色々な形があるのじゃ」
魔導念波増幅機から、精神世界にいるトルティヤが、呆れたような表情を浮かべながら、教え諭すようにアリアに話した。
「そうなんだ…!じゃあ、アリアとリュウと僕が旅しているのもデートなの?」
サシャは、トルティヤの説明を聞いて、純粋な疑問を口にした。
「…それは違うのぉ。あくまで仲の良い「男女」の組み合わせじゃ。ま、とにかく小僧は、あの女に気に入られたようじゃのぉ」
トルティヤは、ニヤニヤした表情で、リュウがシャロンにからかわれている様子を眺めながら呟いた。
「い、いや…そうじゃなくて…!海兵基地に、戻らなくても大丈夫なのかなと…仕事は…」
リュウは、顔を真っ赤にしながら、もじもじした様子で本題を切り出した。
「あらあら。優しいのね。私のことを心配してくれてるのかしら?」
シャロンは、リュウの言葉を聞いて、さらに面白そうな笑みを深めた。
「…あ、いえ…その…」
リュウは、言葉に詰まった。
「けど、安心して。1日や2日くらい、基地に戻らなくても何とかなるわ。宝探しが終わるまで、一緒にいられるわよ?」
シャロンは、ニコニコしながら、リュウの希望を打ち砕くようにそう告げた。
「…」
その言葉を聞いた瞬間、リュウの顔から一気に血の気が引き、表情が一瞬で凍り付いた。
硬直した表情からは、絶望の色が感じられた。
「…行こうか、リュウ。シャロンさんは、多分宝を見つけるまで離れてくれないと思うよ」
サシャは、完全に固まってしまったリュウの肩に、優しく手を置き、促すように軽く叩くと、魔導船を降りた。
「あ…あぁ…」
リュウは、サシャの声に、茫然とした様子で小さく返事をした。
足元がおぼつかず、肩を落としている。
リュウはサシャの後について、ゆっくりと魔導船を降りた。
そして、サシャ達はバルズアナ島に降り立つ。
桟橋に足を踏み入れた瞬間、乾いた木材の感触と、潮の香りが鼻をつき、遠くから、金属を叩く音や人々の話し声がかすかに聞こえてくる。
「あ!あれがオルカ族かな?」
アリアが、桟橋から続く道沿いにある倉庫から荷物を運ぶ一人の男に視線を向けた。
そこには、分厚い筋肉に覆われた太い腕で、自分よりも大きな巨大な木箱を軽々と運んでいる男がいた。
普通の人間と異なる点は、頭頂部から背中にかけて伸びる立派な黒色の背びれと、力強い黒色の尾びれがあることだ。
そして、足の部分は水かきになっており、両腕は肩から先が黒く染まり、そこにシャチのような白い斑点が見えた。
彼は重い荷物を運びながらも、水かきのある足でしっかりと地面を踏みしめ、背びれと尾びれをバランスよく使い、安定した力強い動きで歩いていた。
「そうよ。あれがオルカ族ね。顔だけみれば普通の人間だけど、生態や身体能力は全く別物よ」
シャロンは、そんなオルカ族の男性をちらりと見ながら、道を歩きつつサシャ達に教えてくれた。
「確かに顔だけみれば普通の人間と遜色ないですもんね…体つきは全然違いますが…」
サシャは、オルカ族の男性の筋肉質な体を見ながら、納得したように頷いた。
「オルカ族は皆、基本的に温厚だけど、一度怒らせたら本当に怖いわよ。特に陸上での力だけなら、もしかしたらオーガ族に並ぶか、それ以上かもしれないわ」
シャロンが、オルカ族の隠された力について呟く。
「オーガ族?」
サシャは、聞き慣れない種族名に首をかしげた。
「聞いたことがあるな。ドラゴニアよりも巨大な体格をもつ種族だと聞く。ただ、直接見たことはないな…」
リュウは、顎に手を当てながら呟いた。
「そりゃそうじゃ。オーガ族の寿命は非常に長いからのぉ。その分、個体数も極端に少ないのじゃ。この世界でもエフィメラ族と並ぶか、それ以上の激レア種族と言われておるのじゃぞ」
精神世界から、トルティヤがリュウとサシャの疑問に答えるように付け加えた。
サシャとリュウはその話に感心し、納得するように頷いた。
この世界には、まだ自分たちの知らない種族がたくさんいることを改めて実感した。
そして、サシャ達はバルズアナ島の街へと入る。
足元の道路は丁寧に石畳で整備され、道の両端には、潮風に晒されて色褪せた茶色や黄土色の球体型の建物が、びっしりと肩を寄せ合うようにずらりと並んでいた。
街中には、背びれのあるオルカ族が散歩していたり、威勢の良い声で商人が魚を歩き売りしていたり、水夫らしき男が大きな荷物を抱えて道を歩いていたりと、活気に満ちていた。
「びっしりと球体の家があるね…本当に独特の形だ」
サシャは、島の外からも見た球体型の家に再び目を奪われた。
近くで見ると、土や粘土を固めて作られているのがよく分かる。
「この家は、土や粘土を材料にして、マクレン族に古くから伝わる特殊な技法を加えて作られているわ。だから、強い雨風にもびくともしない頑丈さを持っているのよ。それに…この家は水に浮かぶように作られているわ」
シャロンが、サラッと驚くべき事実を呟いた。
「浮かぶの!?」
アリアは、シャロンの言葉に目を丸くした。
「そうよ。マクレン海域は、海流の関係で昔から津波が多い場所でね。この球体型の家は、その津波に対応するための、この島のオルカ族の知恵なの。いざという時は、家ごと水に浮かんで避難する仕組みになっているらしいわ」
「へぇ…大陸では考えられないようなことだね。すごい技術だ…」
サシャは、オルカ族の知恵と技術に感心したように呟いた。
こうしてシャロンを先頭に、サシャ達はバルズアナ島の街を進む。
緩やかな坂道を登ると、街の中央を貫く、巨大な水路のある場所に辿り着いた。
「水が…上に流れているだと?」
リュウは、水路の様子が普通の河川と異なっていることにすぐに気が付いた。
水路の上には木造のゴンドラが動いており、荷物を積んだ商人や、買い物終わりらしき主婦のオルカ族などが乗っていた。
だが、明らかに水路に流れる水は、物理法則に背き、白い波をたてて、上に向かって勢いよく流れていた。
「わ!水が上に向かって流れているよ!」
アリアも、その不思議な光景と技術に目を丸くし、興奮した声を上げた。
「これは、一体どうなっているんですか…?何かの魔法ですか?」
サシャは、目の前で起きている現象が理解できず、シャロンに尋ねた。
「これは、マクレン族に古くから伝わる海嘯という自然現象を応用した技術よ。詳しくは私も知らないけど、このバルズアナ島のオルカ族の技術の結晶だと言われているの」
シャロンは、この巨大な水路が、マクレン族の驚異的な技術力によって支えられていることを説明した。
「海嘯?」
サシャは、聞きなれない言葉に首をかしげる。
「簡単に言うと、満潮時の海の波が、河川を遡って逆流する現象のことじゃな」
精神世界からトルティヤが、サシャへ補足するように説明した。
「自然現象を応用するとは…マクレン族の技術力は本当にすごいな」
リュウは、トルティヤとシャロンの説明を聞き、マクレン族の技術に感心している様子だった。
「さ、このゴンドラに乗りましょう。宿はこの街の一番上にあるのよ」
シャロンは、ちょうどこちらに向かってくるゴンドラに視線を向けた。
そして、サシャ達はゴンドラへ乗り込み、木造の座席に腰掛けた。
ゴトゴトと滑車ががレールを転がるような音をたてて、ゴンドラはゆっくりと上昇していく。
下から聞こえていた街の喧騒や、水路のごうごうという音が徐々に遠ざかり、代わりに風の音や、上空を飛ぶ鳥の声が聞こえてくるようになった。
ゴンドラからは、バルズアナ島の全景や、夕焼けに染まり、きらきらと煌めく港湾、そして遠くまで続く海を一望できた。
「うわぁ!すごく綺麗な景色だよ!」
アリアが、眼下に広がる景色に興奮し、はしゃぐように呟いた。
「夕日が水面に反射して海が綺麗だね…」
サシャは、夕日に染まる海を眺め、感動したように呟いた。
こうして、ゴンドラはゆっくりと上昇を続け、一番上の終点に到着する。
サシャ達はゴンドラから降りた。
「さて、今夜の宿はすごそこよ」
シャロンの先導で、サシャ達はゴンドラ乗り場から宿に向かう。
「ここよ」
少し歩くと一軒の建物の前でシャロンが立ち止まる。
宿は、周囲の球体型の建物とは異なり、黄土色のレンガで作られた重厚で立派な建物だった。
立派な中庭には、手入れされた庭木や、静かな池、苔むした石像が置かれ、南国らしいヤシの木も生えていた。
外壁には緑の蔦がからみつき、長い年月を経てきた年代を感じさせる外観だった。
「他の建物と形が全然違うんですね…」
サシャは、宿の予想外の外見と、その重厚さに驚きを隠せない。
「ここは昔、バルズアナ島が小さな王国だった頃、王宮として使われていた建物なのよ」
シャロンが宿を見つめて呟く。
「へぇ!だから大きくて立派なんだね!」
アリアが、歴史ある建物だと聞いて、納得したように目を輝かせて呟いた。
「さ、中に入りましょ?」
シャロンとサシャ達は宿の中へと入っていく。
扉を開けると、中から美味しそうな料理の匂いと、賑やかな話し声が聞こえてきた。
「いらっしゃいませ!!」
宿の1階はレストランになっているようで、店内に足を踏み入れたサシャ達に、料理を運んでいたオルカ族の若い女性店員が、明るい笑顔で元気に出迎えてくれた。
レストラン内には、何人かの冒険者の姿や、オルカ族の人々が食事をしていた。
彼らは、テーブルを囲み、楽しそうに会話をしながら、お酒や、米の上に新鮮な魚の刺身が美しく盛り付けられた料理を美味しそうに口に運んでいた。店内は、食器の触れ合う音や、人々の話し声で活気に満ちていた。
「らっしゃいませ。ご宿泊ですか?」
受付に来ると、カウンターの中で新聞を読んでいた。
頬に一本の傷がある恰幅の良いオルカ族の男性店員が、新聞を丁寧に畳み、顔を上げて対応してくれた。
「ええ、部屋を1つお願いできるかしら?」
シャロンが、男性店員に尋ねる。
「はいよ。うちは先払い制だ。一部屋につき1人2000ゴールドになる」
男性店員は、料金を告げた。
「シャロンさん、これ僕たちのぶん…」
サシャは、自分の腰のポーチから銅貨を6枚を取り出し、シャロンに渡そうとした。
しかし、シャロンはサシャの手を見て、首を横に振った。
「いいのよ、坊や。ここはお姉さんに任せておきなさい」
そう呟くと、シャロンは自分の懐から金貨を取り出し、男性店員に金貨を1枚手渡した。
「確かに。こちらがお釣りだ」
男性店員は、受け取った金貨を確認すると、シャロンに銅貨を2枚と、部屋の鍵を渡した。
「ありがとう。あと、領収書をくれるかしら?」
シャロンは、金貨と鍵を受け取ると、当たり前のように領収書を要求した。
「…はいよ」
店員は、一瞬怪訝な表情を見せたが、すぐに表情を戻し、一枚の羊皮紙にペンで書き込み、シャロンに手渡した。
「あの…シャロンさん…いいんですか…?」
サシャは、シャロンの大胆な行動を見て、心配そうに呟いた。
「いいのよ。これも任務の一環なんだから経費で落とせるわ。三人の分は「任務に協力してくれた冒険者の宿泊費」としとくわ」
シャロンは、ニコニコしながら、サシャの心配を打ち消すように呟いた。
「経費?」
その言葉に、アリアは純粋な疑問を抱き、首をかしげる。
「ふふふ…まぁ細かいことは気にしなくていいのよ。さ、早く部屋に行きましょう」
シャロンは、アリアの質問には直接答えず、妖艶な笑みを浮かべ、口元に指を当て、秘密めかした仕草で受け流した。
そして、サシャ達はシャロンに促され、部屋へと向かった。




