第62章:バイキング!
「暖かいや…」
サシャは大きな岩に寄りかかり、すっかり温泉の中でくつろいでいた。
お湯は絶妙にポカポカしており、体の奥から日頃の疲れがじんわりと解けていくようだった。目を閉じ、心地よい湯の感触を味わう。
「スパって暖かいんだね…」
精神世界のトルティヤに話しかけようと振り向くと、そこにはトルティヤがニヤニヤとした笑みでサシャの肩に手を置いていた。
「ほれ、交代じゃ。十分楽しんだじゃろ」
トルティヤは、スパを堪能したいらしく、うずうずしている様子だ。
「…はい」
サシャは少し肩を落とし、残念そうに短く返事をすると、トルティヤと入れ替わった。
「悪くないな…落ち着く」
リュウは温泉の中にある金属製のロングチェアに深く腰掛け、足を伸ばしてくつろいでいた。
「おじさん!そのオレンジ色の果物とマクレンソーダが欲しい!」
アリアは、温泉から上がり、スパの一角にある藁葺き屋根の露店へと駆け寄っていた。
露店のカウンターには、色とりどりの南国フルーツが並べられており、皮を剥かれてカットされた色とりどりの果物が、美しいガラスの皿に置かれて陳列されている。
店員の男は、南国らしい赤色の派手な柄のシャツを着て、明るい笑顔でアリアを迎えた。
アリアはその中から、オレンジ色の皮をした果物と、瓶に入ったソーダを指さして注文した。
「はいよ!ポヤポヤとマクレンソーダだね!」
露店の店員は、手際よくオレンジ色の皮をしたポヤポヤという果物を切り分け、葉でできた小さく可愛らしい皿に乗せる。
そして、瓶に入ったマクレンソーダをアリアに手渡した。
「ありがとう!」
アリアは、嬉しそうにポヤポヤとマクレンソーダを受け取った。
「小娘、また何か食べようとしておるな」
アリアの行動を温泉の中からじっと眺めていたトルティヤが、少し呆れたような声で呟いた。
「あ、トルティヤだ!」
アリアは、トルティヤの普段のサシャとは異なる髪と瞳の色から、すぐにサシャがトルティヤに入れ替わったと察知した。
「ほほう。ポヤポヤを選ぶとは…なかなか通ではないか」
トルティヤは、ニヤニヤした表情でアリアを見つめながら呟く。
それは、まるで何か面白いことでも起こりそうだと期待しているようだ。
「何か変なの?」
アリアは、トルティヤの含みのある言葉に、少し首をかしげながら尋ねる。
「ま、食べてみるがよい。百聞は一見にしかず、というじゃろ」
トルティヤは、それ以上説明せず、ただ食べるように促した。
「うん…!」
アリアは促されるままに、スパに設置されているパラソル付きのテーブルの前にある椅子に座ると、期待に胸を膨らませた表情で、ポヤポヤを一口食べた。
「んー!甘酸っぱくて美味しいよぉ!」
口の中に広がる甘酸っぱい味に、アリアは嬉しそうに目を細め、頬が落ちそうなほど満足した表情を見せた。
「ふふふ…甘いのぉ」
トルティヤは、アリアの素直な感想を聞いて、不敵な笑みを浮かべる。
次の瞬間だった。
「んんんっーー!!!」
口の中の甘さが一変し、突然の強烈な辛さがアリアを襲った。
アリアの顔から一気に血の気が引き、顔が赤くなる。
「なんか、一気に辛いよぉ!」
アリアは、声にならない悲鳴を上げながら、慌ててマクレンソーダの瓶を手に取り、ゴクゴクと飲み始めた。
「ポヤポヤは特殊な果物でのぉ。最初に甘酸っぱい強烈な刺激が来るのじゃが、その後に非常に強い辛さが襲ってくるのじゃ。だから、驚く者が多く、「通向け」と言われておるのじゃ」
トルティヤは、顔を真っ赤にして慌てているアリアの様子を、面白そうにじっと見つめていた。
トルティヤの目は、いたずらが成功した子供のように輝いていた。
「それを早く言ってよぉ…うう、辛い…」
アリアは、その辛さに大量の汗をかき、涙目になりながらトルティヤに訴えた。
「…何かやってるな。だが、俺は知らん」
その様子をリュウは遠目から静かに見ていた。
アリアが何か騒いでいるのは分かったが、特に深く関わろうとはせず、何も見ないふりをして、再び目を閉じようとした、その時だった。
「そこの坊や」
彼のすぐそばに、ふわりと甘い香りが漂った。
視線を感じ、目を開けると、そこには鮮やかなピンク色のセクシーな湯浴み着を着た女性が立っていた。
彼女の湯浴み着は胸元が大きく開き、太ももが大胆に露出したハーフパンツというデザインで、柔らかそうな肌と相まって、非常に魅力的だった。
女性は、長い指先でリュウの肩を優しくつつきながら、甘くねっとりとした声で話しかけてきた。
「お、俺か?」
突然のことに、リュウは少し顔を赤らめ、戸惑った様子で短く呟いた。
「君以外に誰がいるの?坊や、今、一人?」
女性は、他の客には目もくれず、リュウだけに熱い視線を向けながら、彼の隣の椅子にゆっくりと座った。
その体のしなやかなさと、抜群のプロポーションは、並みの男なら理性を失ってしまいそうなほどだった。
「あ、いや…仲間が…」
リュウは、女性から目を逸らし、少し戸惑いを見せつつも、遠くのテーブルで騒いでいるトルティヤとアリアの方を見つめた。
「けど今は一人じゃない?…ねぇ?」
女性は、リュウの視線を追いながらも、その大きな瞳でリュウをじっと見つめ、囁くように呟いた。
「…(ゴクリ)」
リュウは、彼女の甘い誘惑の言葉と、魅力的な姿に視線を向け、思わず唾を飲み込んだ。
「あら。そんなに見ちゃダメよ?」
女性は、リュウの正直な視線にすぐに気が付き、面白がるような笑みを浮かべた。
「あ、いや…すみません」
リュウは、顔を真っ赤にし、慌てて視線を逸らした。
「ふふふ…可愛いわね。そうだ、この後、お姉さんと二人きりにならない?イイコトしてあげるわよ」
女性は、体を少しだけ前に突き出し、胸元を強調した誘惑的なポーズでリュウに囁きかけた。
その声は、蜜のように甘く、リュウの理性を溶かそうとする。
「…(いや!ダメだ!これは誘惑だ!)」
リュウは、激しい自己嫌悪と共に、内心で強く自分自身に言い聞かせていた。
「ねぇ?どうなの?」
女性は、リュウの反応を待ちきれないといった様子で、彼の顔を覗き込みながら、視線を送る。
「…御免」
リュウは、一度大きく息を吐き、乱れそうになる呼吸を落ち着かせた。
そして、まっすぐ女性の目を見つめ、固い表情で謝罪の言葉を口にした。
そう言うと、彼は椅子から立ち上がり、振り返ることなくトルティヤとアリアのいるテーブルの方へ向かって歩き出した。
「え…えぇ…普通、こういう流れなら、ついていくものじゃないの!?」
残された女性は、リュウの予想外の反応に、ただただ唖然としていた。
口を半開きにし、目を丸くして、立ち去るリュウの背中を信じられないといった表情で見つめている。
「お、小僧も来たのぉ。ほれ、お主も何か飲まんか」
いつの間にか、トルティヤも温泉から上がり、椅子に座ってマクレンソーダを飲んでいた。
「あ、あぁ…そうだな…そうしよう」
リュウは、まだ女性とのやり取りで少し動揺している様子だった。顔色が赤く、元に戻っていない。
「?」
アリアは、リュウの様子を見て、首をかしげた。
「なんなのじゃ…変な奴じゃのぉ」
トルティヤも、リュウの通常とは異なる様子に、少しばかり首をかしげた。
こうして、サシャ達はスパで至福のひと時を過ごした。
時間はあっという間に過ぎ、空が茜色に染まり、やがて漆黒の闇に変わり、無数の星が瞬き始めた。
満点の星空が頭上に広がり、波の音だけが静かに響いている。
そして、サシャ達はロパフィナに着替え、スパを後にする。
「…気持ちよかったよぉ!」
アリアは、全身の疲れが取れたように感じ、両腕を大きく伸ばす。
「あぁ。こういう場所もたまには悪くないな。疲れが取れた気がする」
リュウは、落ち着いた涼しい表情をしながら呟いた。
「次は食事じゃ!ほれ、早くレストランに行くのじゃ!」
トルティヤは、待ちきれないといった様子で、短い足を動かし小走りでレストランに向かう。
館内の時計はちょうど19の刻を示しており、夕食の時間となっていた。
レストランに向かうと、煌びやかな装飾と活気のある話し声で満ちていた。
磨き上げられた床は光を反射し、ランプの明かりがレストラン内を美しく照らしていた。
テーブルクロスは清潔で整然と並べられており、多くの宿泊客が笑顔で食事を楽しんでいた。
空気中には、焼きたての肉の香ばしい匂いや、南国フルーツの甘い香り、様々なスパイスの匂いが混じり合い漂っていた。
「うーん!いい匂いがするよぉ」
アリアは、レストランに漂う食欲をそそる様々な匂いに目を細め、期待に胸を膨らませている。
「どうやらバイキング形式のようじゃのぉ」
トルティヤは、中央に大きく広がる料理台と、そこから好きな皿を選んで持っていく宿泊客の様子を見て、感心したように呟く。
「バイキングとはなんだ?」
リュウは、聞き慣れない言葉に眉をひそめ、トルティヤに尋ねた。
「簡単に言えば、好きな料理を自分で選んで、好きなだけ皿に盛って食べられるシステムじゃな。このホテルでは、宿泊費に食事が含まれておるから、追加料金を気にせず楽しめる、ということじゃ」
トルティヤが、リュウとアリアに分かりやすく説明した。
「好きなものを好きなだけ食べられるんだ!」
アリアは、その言葉に目を輝かせ、これから目の前に広がるであろう料理の数々を想像し、胸を躍らせている。
「なるほどな…苦手なものを食べなくて済むのはいいことだな」
リュウは、納得したように小さく頷いた。
「そういうことじゃ」
そして、サシャ達はレストランの受付に向かう。
受付の係員は、丁寧な立ち居振る舞いで宿泊客を迎えていた。
「いらっしゃいませ。ご宿泊のお客様でしょうか?」
清潔な制服を着た女性係員が、柔らかい笑顔でサシャ達に出迎える。
「504号室じゃ」
トルティヤは、フロントでもらった部屋の鍵を係員に見せた。
「はい、確かに拝見いたしました。それでは54番のテーブルへどうぞ。お食事をゆっくりお楽しみください」
係員は、部屋番号を確認すると、一礼して席へと案内した。
「うむ…」
サシャ達は、机に置かれた番号札を見つけ、54番の札が置いてあるテーブルへと向かった。
既に、周囲のテーブルでは何組かの宿泊客が、山盛りの料理が乗った皿を前に、楽しそうに食事をしていた。
「このサラダ、野菜がみずみずしいわ!」
「うまい!うまい!この魚は絶品だ!」
「とろけるような脂身がたまらないな…」
食欲をそそる話し声や、料理を味わう音が響いている。
そして、サシャ達は自分たちの席に着く。
すると同時に、身だしなみを整えたウェイターが席にやってきた。
「お客様、お飲み物はいかがいたしましょうか?」
「ワシはマクレンサイダーじゃ!」
トルティヤは、迷わず答えた。
「あ、僕もそれ!」
アリアも、トルティヤと同じものを注文した。
「…魏膳茶を頼む」
リュウは、落ち着いた声で、お茶を注文した。
「かしこまりました。ただいまお持ちいたします」
ウェイターは、注文を丁寧に復唱すると、一礼して静かに去って行った。
「さて…」
ウェイターの姿が見えなくなったのを確認し、トルティヤは一つ深呼吸を置く。
「たくさん食べるのじゃ!!!」
トルティヤが号令をかけるようにそう言うと、リュウとアリアも期待に満ちた表情で頷いた。
そして、各 々が立ち上がり、料理を取りにそれぞれの興味を引くコーナーへ向かった。
アリアは、まず肉料理のコーナーへ向かった。
そこには、火魔法で豪快に焼かれた鉄板の上に巨大な肉塊が置かれていた。
肉は、まるで宝石のように赤身が輝き、トロトロに溶けた脂がじゅわっと音を立てながら滴り落ちていた。
肉塊のそばでは、屈強なシェフが長いナイフを使い、豪快に肉を削いで皿に盛り付けている。
「おいしそうなお肉だよぉ…どれにしようかな…」
アリアは、目を輝かせながら、どの肉を取るか楽しそうに悩んでいた。
リュウは、魚料理のコーナーへ向かった。
目の前には氷の上に美しく盛り付けられた、お頭付きの巨大な魚のお造りがあった。
お造りは、身が透き通っており、新鮮さが一目で分かるものや、美しいオレンジ色の脂が乗ったものなどが種類豊富に置かれていた。
他にも、拳ほどの大きさがある大きな貝柱や、芸術品のように繊細な飾り切りが施された巨大なイカの姿造りなどが並べられていた。
「…美味しそうな魚だ。これだけ種類があるとは…」
リュウは、感心した様子で、静かに品定めをしていた。
トルティヤは、まず野菜コーナーへ向かった。
手にした皿には、緑色のみずみずしい葉野菜や、真っ赤に熟した果実、太陽のような黄色の小さな根野菜など、色とりどりの新鮮な野菜が山盛りに盛られていく。
その上には、濃厚な茶色のドレッシングがたっぷりとかけられていた。
「(生物はたくさん食べるとすぐに満腹になってしまう。じゃが、先に野菜を食べることで、野菜に含まれる豊富な栄養素が、他の食物からの栄養の吸収を緩やかにしてくれるからのぉ。これぞ、たくさん食べても満腹になりにくい、バイキングの裏ワザというやつじゃ)」
トルティヤは、内心でそう呟きながら、満足そうに野菜を皿に盛っていた。
そして、サシャ達はそれぞれ選んだ料理を持って席に戻る。
テーブルには既に、先ほど注文したマクレンサイダーと魏膳茶が置かれていた。
「あ!リュウの魚もおいしそうだよ!」
アリアの皿には、先ほど選んだ宝石のような赤身の肉や、トロトロの温泉卵、湯気をたてた白い生地に包まれた見た目も可愛らしい饅頭などが、バランス良く置かれていた。
「…なるほど。トルティヤがまず野菜とは意外だな」
リュウの皿には、様々な種類のお造りや、サクサクとした食感の野菜の天ぷら、そして肉と野菜が透明な皮で巻かれた、見た目も美しい巻物などが、綺麗に盛り付けられていた。
そして、リュウはトルティヤの皿を見て、少し驚いたように呟いた。
「ま、ワシは野菜が好きじゃからのぉ」
トルティヤは、リュウの言葉を聞き、ニヤリと得意げな表情を見せた。
「(絶対嘘だ…!)」
精神世界からその様子を見ていたサシャは、トルティヤの言葉に内心でツッコミを入れ、半ば呆れていた。
そして、サシャ達は、目の前に並べられた豪華な料理を、存分に楽しむことにした。
「うん!美味しいよぉ…お肉、柔らかい!」
アリアは、幸せそうな表情をしながら、串から外した肉を頬張る。
口いっぱいに広がる肉汁に、満面の笑みを浮かべている。
「ふむ…鮮度がいいな。臭みも一切ない」
リュウは、透き通った身のお造りを口にしていた。
その表情は真剣そのもので、味をじっくりと吟味しているようだ。
「うん…!新鮮なのじゃ。ドレッシングも悪くない」
トルティヤは、シャキシャキと音を立てながら野菜を食べていた。
そして、皿の上の料理を食べ終わると、サシャ達は再び立ち上がり、食べたいものを取りに料理台へ向かった。
「うわぁ!すごい迫力だよぉ…」
アリアは、デザートコーナーの手前にある、炎が舞うパフォーマンスを行っている米料理のコーナーに目を奪われた。
シェフが大きな鍋を振り、炎を上げて米料理を炒める様子に、アリアは目を丸くしてくぎ付けになっていた。
「…蟹か。これは珍しいな」
リュウは、巨大な蟹の甲羅の上に載っている、湯気を立てる炒め物に目を奪われていた。
そして、トルティヤは…
「ふんふんふーん」
まるで鼻歌でも歌っているかのように上機嫌で、お皿に山のように料理を持ってきていた。
その中身は、先ほどリュウやアリアが食べていた肉料理や魚料理はもちろんのこと、色とりどりのケーキやフルーツ、ゼリーといったデザートまで、ジャンルを問わず様々だった。
「ねぇ…トルティヤ。僕の分は?」
精神世界から、サシャが物欲しそうにトルティヤに尋ねた。
「何を言っておる。お主の分はない!ワシが全部食べるのじゃ!」
トルティヤは、大きな骨付き肉を豪快に頬張りながら、残酷にも言い放つ。
「さすがに頼むよ!こんな豪華なバイキング、二度と来れるか分からないじゃないか!僕も食べたいんだ!」
サシャは、トルティヤの態度に抗議し、必死の声で懇願する。
「…仕方ないのぉ。そんなに言うなら、少しだけ分けてやらぬこともないぞ。ただし、この肉を全部食べてからでよいな」
トルティヤは、少し考え込むような仕草を見せた後、渋々といった様子で条件を出した。
「…!!」
サシャは、トルティヤの気まぐれのおかげで、豪華なバイキングで食事にありつけることに喜びを表した。
「ほれ。これでよかろう」
トルティヤはサシャの肩をポンと叩く。
「ありがとう!」
サシャとトルティヤが入れ替わる。
「ようやく…僕も…いただきます!」
こうして、サシャも食事に加わる。
しばらく経ち、サシャ達は最後の締めにデザートを食べていた。
「うん!甘くて美味しい!このタルト、最高だよ!」
アリアは、色とりどりの果物がふんだんに乗ったタルトを食べている。
その顔は、甘い味に幸せそうに緩んでいる。
「まさか…こんな場所で魏膳の餡子餅に出会えるとはな…懐かしい味だ」
リュウは、ずっしりと餡子が乗った餅を頬張っていた。
「これとか、あれとか、どれも美味しすぎるよ!もうお腹いっぱいだけど、全部食べたい!」
サシャは、中に甘いシロップがとろりと入っている、見た目も可愛いハート形のチョコレートを食べていた。
満腹になりながらも、まだ食べたいという欲求と戦っているようだ。
その時だった。
空に、腹の底に響くような「ドーン!」という音が響いた。
「わぁ!すごい音だよぉ」
アリアは、音のする方に顔を向け、目を丸くする。
「花火か…」
リュウは、空を見上げ、短く呟いた。
「綺麗だね」
レストランの吹き抜けになった天井からは、夜空に大きく開く花火が見えた。
次々と空に打ち上げられる巨大な花火は、赤やピンク、緑色や金色、朱色など、色とりどりの光を放ち、満点の星空を明るく照らしていた。
夜空に咲く大輪の花は、まるで、これまでのサシャ達の旅の成功と、新たな旅の始まりを祝福し、ねぎらっているようにも見えた。
「この先、どういう旅が待っているんだろう…」
サシャは、花火を見上げながら、ふと感慨深げに呟いた。
あの館でトルティヤと出会ったこと、遺跡でリュウと出会ったこと、アイアンホースと共に毛皮強盗を解決したこと、アリアと芽剣蛇を討伐したこと、サージャス共和国での戦い…
振り返ると、どれも懐かしく感じた。
そして、これまでの冒険、そしてこれから始まるであろう未知の旅に思いを馳せた。
「さぁな…だが、魔具を集めるんだろう?俺はついていくだけだ。それが俺にとっての成長になるからな…」
リュウは、静かに空を見つめながら呟いた。
「僕はもっと世界を見たいし、色んなモンスターを知りたいよ!!」
アリアは、花火の光に照らされた顔を輝かせながら、興奮した様子で呟いた。
「ふむ…お主には、ワシの魔具を集めてもらわねば困るからのぉ」
精神世界から、トルティヤが満足そうに呟いた。
「みんな…ありがとう。これからも、よろしく頼むよ」
サシャは、仲間の言葉を聞き、心からの感謝の気持ちを込めて、穏やかな笑みを見せた。
「ふっ…なんか湿っぽいな。折角だから、おかわりでも行くか?」
リュウは、感傷的な雰囲気を変えようとしたのか、いつもの調子に戻り、少し口元を緩めながら席を立ちあがる。
「あっ!僕も行くよ!さっきサシャが食べていたハート型のお菓子が食べたい!」
アリアも、すぐにリュウの意図を察し、嬉しそうに自分の皿を持って立ち上がった。
「そうだね!まだ時間はある…今夜はたくさん食べて、明日からの冒険に備えよう!」
サシャも同意し、三人は再び料理台へと向かった。
「(ふっ…なんだかんだで良いトリオじゃ。なんだか懐かしいのぉ)」
そんなサシャ達の様子をトルティヤは楽しそうに見つめていた。
こうして、サシャ達は、お腹が膨れるまで美味しい料理をたくさん食べ、笑い合い、そしてこれからの旅について、たくさん語り合ったのだった。




