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第61章:楽園

「わぁ…すごいよぉ」

部屋に入った途端、アリアが思わず感嘆の声を漏らす。


「なんと豪華な」

リュウは、周囲を見渡しながら思わず息を呑んだ。


「いつもの宿とはまるで違うな」

サシャは、部屋の隅々まで目を凝らし、その作りの素晴らしさに感心した様子だった。


部屋は、彼らが想像していたよりもずっと広々としていた。

中央には、キングサイズの大きなベッドが三つ、間隔を空けて並べられている。


窓は大きく、部屋の奥の壁一面に広がっており、そこからはどこまでも続く青い海と、白い砂浜、そして遠くに見える島々を一望できた。


壁には、この地に古くから伝わる民族の意匠が施された、色彩豊かな仮面や、先端が鋭く磨かれた槍などが飾られ、異国情緒を醸し出している。

天井には、繊細な装飾が施された美しいランプが吊り下げられ、温かいオレンジ色の光を部屋全体に優しく灯していた。


「こちらでゆっくりとお寛ぎください。それと…」

係員は、入り口近くに備え付けられた、木製の大きなクローゼットの扉を開けた。


「こちらにロパフィナを用意しているので、お好みでご着用ください」

クローゼットの中には、鮮やかな赤色や青色、落ち着いた緑色や茶色、そして明るい黄色や紫色など、様々な色合いのシャツとハーフパンツが、丁寧に畳まれて並べられていた。


「ロパフィナ?」

サシャは、聞き慣れない言葉に首をかしげた。


「マクレン諸島に古くから伝わる普段着のことです。暑い気候に合わせて、涼しく動きやすいように作られています」

係員は、にこやかな笑顔で説明した。


「ご夕食は19の刻から22の刻まで。1階にあるレストランにてルームキーをお見せください。その他の娯楽施設、例えばスパや庭園などの案内については、テーブルの上にある案内図に記載されているのでご覧ください」

係員は、落ち着いたトーンで丁寧に説明した。


「ありがとうございます」

サシャは、深々と頭を下げて係員に礼を言った。


「(この世界の時間は「刻」で刻まれておる。1日が25時間。つまり25の刻まであるのじゃ。そして、今はちょうど昼の時間…15の刻じゃのぉ)」

トルティヤはボソリと独り言を呟く。


「何かございましたら、フロントまで気軽にお尋ねください。それでは、ゆっくりとお寛ぎください」

係員は、最後にそう短い言葉で呟くと、慎ましい態度で静かに部屋を後にした。


「…うわー!!」

係員の姿が見えなくなった途端、アリアは待ちきれないといった様子で勢いよくベッドに飛び込んだ。

ふかふかのマットレスが彼女の小さな体を優しく受け止め、跳ね返る度に楽しそうな笑い声を上げた。


「ふぁぁ…枕がふわふわしてるよぉ。それに、なんだかお花のいい香り…」

アリアは、そのまま白い枕に顔を埋めるようにして頬ずりをした。

彼女の頬は、枕の柔らかさに少し押しつぶされ、子供のような幸せを全身で感じているようだった。


「…とりあえず案内でも見てみるか」

リュウは、そんなアリアの子供のような喜びを横目で見ながら、テーブルの上に置かれた、羊皮紙でできた古風な案内図を手に取った。


「なになに?」

サシャも興味津々といった様子で、リュウの持つ案内図を覗き込んだ。


案内図には、2階と3階が三等スイート、4階と5階が二等スイート、6階と7階が一等スイート。

そして、最上階である8階が特別スイートと、階層ごとに部屋の種類が丁寧に記載されていた。


1階には、ホテルの顔であるフロントと広々としたロビー、様々な料理を提供するレストランや、パリオネ島ならではの土産物を扱う土産物屋、色とりどりの花に囲まれた庭園、そしてこのホテルの目玉であるスパの場所が、詳細なイラストと共に示されていた。


「夕食の時間までまだ余裕があるし、とりあえずスパに行ってみようか!」

ふと時計を見ると、時刻は15の刻を指していた。

まだ外は明るく、スパで旅の疲れを癒すにはちょうど良い時間だと考え、サシャはパライソの目玉であるスパに行くことを提案した。


「そうだな。せっかくこんな良い場所に来たのだから、楽しまねばな」

リュウは、部屋の隅に大切に置いていた刀に短い視線を送り、同意するように頷いた。


「アリアはどう思う…?」

サシャは、ベッドの方に振り向き、楽しみにしているであろうアリアに声をかけようとしたが、そこにはアリアが先ほどまで着ていたポンチョだけが、ベッドの上に脱ぎ捨てられていた。


「ん?どうしたの?」

すると、クローゼットの方からアリアの声が聞こえてきた。


「アリア…って」

サシャは、首をかしげながらアリアの方を振り向いた。

そこには、既にロパフィナに着替え始めているアリアの姿があった。


シャツのボタンを留めようとしている最中で、ピンク色の子供のような肌が少し見えている。

また、ハーフパンツをまだ履いていないらしく、綺麗な太ももが大胆に見えていた。


「あ…いや、なんでもない!」

サシャは、思わず目を逸らし、何も見なかったことにして慌ててテーブルの上の案内図に視線を戻した。


「??」

サシャの予期せぬ反応に、アリアは首をかしげて奇妙そうな表情を浮かべていた。


「どうかしたのか?」

リュウがアリアの方を振り向こうとするが、サシャは慌てて両手でリュウの目を覆った。


「あ、いや…アリアが…ね?着替えてる、から…」

サシャは、必死に短い言葉を繋ぎ合わせた。


「ふむ…よくわからんぞ」

リュウは、サシャの奇妙な行動に困惑している様子だった。


「(男というのは単純じゃのぉ…)」

その皮肉な光景を、トルティヤは精神世界から半ば呆れたような表情で眺めていた。


「どう?似合ってる?」

そして、アリアはロパフィナに着替え終え、ピンク色の子供のような頬を少し赤らめながら、小躍りするようにしてサシャ達の前に現れた。


「うん!とても似合っているよ!」

サシャは、顔を上げ、真紅のになった顔を悟られないように努めながら、ぎこちなく首を縦に振った。


「えへへ」

アリアは、サシャの言葉が嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべた。


「サシャとリュウも早く着替えておいでよ!この服、涼しいし、それにすごく着心地がいいよ!」

アリアは、黄緑色のロパフィナの裾を少しつまみ上げながら、サシャとリュウにも着替えるように勧めた。


「そうだな。郷に入っては郷に従えというしな」

リュウは、アリアの言葉に納得したように頷いた。


「じゃ、着替えて…」

サシャは、着替えようと、クローゼットから黄色のロパフィナを取り出した。

しかし、視線を感じ振り向くと、アリアが純粋な瞳でじっとこちらを見つめていることに気が付いた。


「ん?どうして着替えないの?」

アリアは、自分の行動が奇妙なのかとでも思ったのか、不思議そうな表情をしてサシャに呟いた。


「そ、そうだ!せっかくこんな素敵な部屋に泊まれたんだから、窓から見える海をゆっくりと眺めてみたらどうかな?」

サシャは、ピンク色に染まった顔を悟られないように、強引に話題を変え、窓の方を指さす。


「あー!本当だ!!」

アリアは、サシャの予期せぬ提案に子供のような喜びを隠せない様子だった。

純粋な瞳を輝かせ、無邪気な子供のように窓の方に駆け寄り、広大な海を眺め始めた。


「リュウ…今のうちに!」

サシャは、アリアが海に夢中になっている隙を見て、リュウに耳打ちすると、ピンク色に染まった顔を少し冷ましながら、そそくさと自分のロパフィナに着替え始めた。


「あ、あぁ…」

リュウも、サシャの奇妙な行動に少し戸惑いながらも、明るい紫色のロパフィナを手に取り、短い時間で着替えた。


「わぁ…涼しい…」

アリアは、大きく窓を開け放ち、パノラマのな海から吹いてくる心地よい潮風を全身で浴びていた。


「潮のいい香りがするね」

ロパフィナに着替え終わったサシャ達が、窓辺に立つアリアに声をかけた。


「うん!二人ともすごく似合っているよ!」

アリアは、振り返ってサシャとリュウを注意深く見つめ、純粋な瞳で短い言葉で呟いた。


アリアは、鮮やかな黄緑色、リュウは落ち着いた明るい紫色、そしてサシャは太陽のような黄色を基調としたロパフィナに着替えた。


ロパフィナは、上質なシルクのように滑らかな肌触りをしており、サシャ達が普段着ている服よりもずっと軽く、そして通気性が良く、動きを妨げない動きやすい素材でできていた。


「(まったく…どいつもこいつも面白くないのぉ…ワシならもう少し派手な柄のにするけどのぉ)」

トルティヤは、腕組みをして面白くなさそうな表情を浮かべながら、内心で呟いた。


開けっ放しになったクローゼットの中には、鮮やかなピンク色をベースに、黄色や水色の可愛らしい花柄がプリントされた、派手なデザインのロパフィナがそっと置かれていた。

サシャ達がその存在に気が付かなかったのか、あるいは何か別の意図があって見なかったことにしたのかは、今となっては誰も知る由もない。


「じゃあ、スパに行こうか!」

サシャ達は、ザ・パライソの目玉である、スパへと向かうことにした。


そして、部屋を出てエレベーターで1階に降りる。

エレベーターを降りると、目の前の立札に「スパ入り口→」と記されていた。


「こっちのようだね」

サシャ達は、看板の示す右側の廊下へと足を踏み入れた。


廊下は、大きな窓がいくつも設けられており日当たりのよい構造になっており、南国の眩しい日差しが惜しみなく廊下に差し込み、明るく照らしていた。


壁には、この地域の島々で使われているであろう、独特の模様が色鮮やかな糸で刺繍された民族衣装が、丁寧に額装されて展示されていた。

その間には、冒険者が討伐したであろうモンスターのはく製がいくつか飾られていた。

紫色の鮮やかな羽を持ち、鋭い嘴を持つ鳥型モンスターや、赤と黄色のまだら模様の毛皮をもった熊のような大型モンスターなど、多様な生き物の姿があった。

そして、少し長い廊下を進むと、サシャ達はスパの手前に到着した。


「あそこのようだね」

入口には、以前サージャス共和国で立ち寄ったコバトの湯のように、男性用と女性用に分かれた入口がそれぞれ設けられていた。


「ねぇねぇ。温泉の時も思ったんだけど、なんで男と女で入口が分かれているの?」

アリアは、以前からの些細な疑問をサシャにぶつけた。


「えっと…それはね…」

サシャは、アリアの純粋な疑問にどう答えるべきか迷う。

しかし、そこにトルティヤが割って入る。


「あのな小娘。それが世界の理じゃからだ」

トルティヤは、低い声で端的に言い切った。

その表情には、一切の疑問を許さないような有無を言わせぬ雰囲気がある。


「(いやいや、そんなんで納得するわけがないでしょ…)」

サシャは、トルティヤのあまりにも強引で一方的な言葉に、内心で呆れたようにそう考えていた。


「(なんだろう…力ずくで言い聞かせようとしている感が…)」

リュウは、トルティヤの説明を聞いて、眉をひそめ、少し困惑した表情を見せた。


「そうなんだ!それなら、理なら仕方ないね!」

しかし、アリアはトルティヤの言葉に全く疑念を抱くことなく、爛漫な笑みを満面に浮かべ、素直に呟いた。


「(納得したー!!)」


「(えぇ…)」

アリアの予想外の反応に、サシャとリュウは思わず互いの顔を見合わせ、目を丸くして驚きを隠せない。

トルティヤの強引な言葉で、本当に納得してしまったのだ。


「そうじゃ。世界の理は、守らねば神からの罰がくだるのじゃ」

トルティヤは、アリアが納得したのを見て、さらに畳み掛けるように、堂々と、そして少し誇らしげに言い張った。


「うう…それは怖いよぉ」

アリアは、「神からの罰」という言葉にえらくおびえている様子だった。両手で顔を覆い、小さく体を震わせている。


「じゃから、な?」

トルティヤは、安心させるような、しかしどこか含みのある声で促した。


「うん!オババ様も言ってたもん!世界の理は守れって!」

アリアは、おびえながらも、以前オババ様から言われた言葉を思い出し、納得したように大きく頷いた。


「というわけじゃ…ほれ、グズグズしておらんで、さっさとスパの入口に入るのじゃ」

少し急かすようなトルティヤの一言で、サシャとリュウ、アリアは、それぞれ男女別のスパの入口へと足を踏み入れた。


「…」

サシャとリュウは、男性用のスパ更衣室に入る。


すると、入口のすぐそばに、たくさんの湯浴み着が丁寧に重ねて置かれていた。

湯浴み着の色は黒、紺、茶色といった落ち着いた色や、赤や白、黄といった南国にぴったりなカラーが中心で、柄はシンプルな無地が多かった。

そこには、「お好きなものを着用してお入りください」と書かれた立札が立てかけられていた。


「なるほど…前に入った温泉と同じ仕組みか」

リュウは、その中から一番手前にあった黒色の湯浴み着を手に取った。


「じゃあ僕はこれにしようかな…」

サシャは、少し悩んだ末、鮮やかな赤色の湯浴み着を手に取った。


更衣室の中は、何かの魔法の影響か、じめじめした暑さは一切なく、心地よい涼しさが保たれていた。

部屋のサイドには、座り心地の良さそうなロングチェアがいくつか置かれており、中には耳の長いエルフ族と思われる宿泊客が、足を伸ばしてリラックスした表情でくつろいでいた。


棚にはたくさんの籐で編まれた籠が置かれ、そこにはふかふかとした手触りの良いタオルが山積みにされていた。

そして、奥には、スパの入口らしき、光を受けてきらめくステンドグラスでできた、巨大な開き扉が見える。


「ここで湯浴み着に着替えて、それからスパに入るんだな」

サシャとリュウは、それぞれ手にした湯浴み着を持ち、更衣室の奥へと進んだ。


一方、アリアは…


「うーん…どれにしようかな?」

女性用の湯浴み着は、男性用とは対照的に、色や種類が非常に多く、アリアはどれを着るか楽しそうに悩んでいた。


鮮やかなピンクやオレンジ、水色といった明るい色から、花柄や幾何学模様など、華やかなデザインが豊富に揃っている。


「あ…!」

その時、アリアの視線が、スパに向かおうとしている一人のドラゴニア族の女性の姿に釘付けになった。

そのドラゴニア族の女性は、腰まで届く黄緑色の長い髪を持ち、背中には同じく緑色の大きな翼をたたんでいた。

きめ細やかな絹のような白い肌をしており、湯浴み着越しでも分かる綺麗な形の胸が特徴的だった。


彼女が着ていたのは、鮮やかな黄緑色をした、背中の露出度がかなり高いデザインの湯浴み着だった。

その大胆なデザインと、女性の美しい容姿が合わさり、アリアは一瞬で魅了された。


「うん!あれにしよう!」

アリアは、迷うことなくその女性が着ていたものと全く同じデザインの、黄緑色の湯浴み着を手に取り、女性用の更衣室へと入った。

そして、着ていたロパフィナを素早く脱ぐと、手際よく湯浴み着に着替える。


「これでよしっと!」

アリアは、湯浴み着に着替えると、鏡の前でくるりと一回転した。

黄緑色の湯浴み着は、彼女の明るい髪の色によく似合っており、背中の大きく開いたデザインが彼女の小さな体格をより引き立てていた。


アリアは満足そうに頷くと、スパへの扉を勢いよく開ける。

次の瞬間、ほんのりと暖かな、心地よい風がアリアの頬を優しく掠める。


「わぁ…!」

アリアは、扉を開けた瞬間、その目に飛び込んできた光景に、思わず感嘆の声を上げた。

それは、彼女が想像していたものをはるかに超える、幻想的な空間だった。


広々とした空間の中央には、穏やかな水面が広がる温泉が、まるで地上の楽園のように佇んでいた。

その水は、パリオネ島の周辺の海のように透き通っており、底に敷き詰められた白いタイルの一つ一つまでがはっきりと見えるほどだ。


湯船からは、うっすらと白い湯煙が立ち上り、幻想的な雰囲気を醸し出しており、その縁には、自然の形状を活かしたと思える大きな岩が配され、その間からは、南国らしい緑の葉を茂らせたヤシの木が何本も伸びやかに立っている。


そして、湯船のサイドには、いくつかの上質なロングチェアと小さなテーブルが置かれており、すでに数名の宿泊客が思い思いにリラックスしていた。

健康的に日に焼けた肌の男や、上品な装いの貴族らしき女が、ゆったりとチェアにもたれかかり、目を閉じて微睡んでいたり、隣のテーブルに置かれたグラスから冷たい飲み物を口に運んだりしている。その姿からは、日頃の喧騒を忘れ、心身ともに癒されている様子が伝わってくる。


さらにスパの一角には、おしゃれな藁葺き屋根の露店があり、そこには色とりどりのフルーツが並べられ、グラスには鮮やかな赤や黄色、青といった、見ているだけで楽しくなるようなカラフルなドリンクが用意されていた。


耳に届くのは、穏やかな湯のせせらぎと、遠くで響く鳥の鳴き声だけ。

時間の流れがゆるやかになったかのような、極上の癒しの空間がそこにはあった。


すると、ちょうど男性更衣室の方から、湯浴み着に着替えたサシャとリュウが現れる。


「おーい!」

アリアは、二人の姿を見つけ、満面の笑みで駆け寄った。


「アリア!」

サシャとリュウは、アリアの声に気づき、振り向いた。


「じゃーん!この湯浴み着、かわいいでしょ!」

アリアは、嬉しそうに、手で湯浴み着の裾を少し持ち上げ、くるくると回って見せた。


「うん…!とても似合っているよ」

サシャは、アリアの湯浴み着姿を見て、少し照れながらも素直にそう言った。


「そ、そうだな…」

リュウは、アリアの大胆な湯浴み着姿に、少し顔を赤くしながら、ぎこちなく頷いた。


「(小娘…明らかに路線を間違えておるぞ…)」

精神世界からその様子を眺めていたトルティヤは、半ば呆れたような、しかしどこか面白がるような表情で、内心そう呟いた。


そして、サシャ達は、いよいよスパへ足を踏み入れた。湯船にそっと足を入れる。


「おぉ…この前の温泉よりも少しぬるい?」

サシャは、湯の温度にわずかな違和感を覚えた。

以前サージャス共和国で入ったコバトの湯よりも、明らかに水温が低く感じられたのだ。


「スパとはそういうものじゃ。リラックス効果を高めるために、温度はあまり高くないのが一般的じゃ」

トルティヤが、サシャの疑問に答えるように呟いた。


「だが、これはこれで良いな。長時間入ってものぼせないだろう」

リュウは、湯を両手で掬い上げ、ゆっくりと肩にかけている。その表情は、湯の感触を確かめているようだ。


「ほんのりと暖かい…けど、なんだかひんやりしているような…なんか不思議な感じだよぉ」

アリアは、湯船に体を沈め、気持ちよさそうに目を閉じていた。

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