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第6章:囮作戦

サシャ達はアイアンホースの話を聞いた。


「実はな、俺の古い知り合いがやっている『シルクハット』という毛皮店が、最近、毛皮強盗の被害にあったんだ。俺はそこの店主から懇願されて、犯人を追っている…」

アイアンホースは、今回の依頼について話し始めた。


「それで、手がかりを探しているんだが、情報があまりなくて手詰まりなんだ。そこに、お前らが毛皮強盗の話をしているのを聞いてな。何か知ってるかと思って、つい声をかけてみたんだ」

アイアンホースは、目の前のビールを煽るように飲み干した。

そして、勢い良くグラスをカウンターに置いたと思うと、急に身を乗り出して頭を下げた。


「まぁ、あと…ついでで悪いんだがな…」

アイアンホースは、両手を擦り合わせながら、視線を泳がせた。


「実は、昨日の夜、酔っ払って、うっかり金をどこかに落としてしまってな。酒代を、ちょいと建て替えてくれんか?」

アイアンホースは、申し訳なさそうな表情で、再び二人に頭を下げた。


「はぁ!?」

トルティヤは、その言葉に鋭い視線を向け、眉を吊り上げた。


「ふざけるな!さっき会ったばかりの人に、金銭を要求するとは何事か!サシャ!もう部屋に戻るぞ!こんな酔っぱらいを相手にするだけ無駄じゃ!」

しかし、サシャはトルティヤの言葉を遮るように、手を前に出した。


「まぁまぁ、これも何かの縁だし…これでいい?」

サシャは苦笑いを浮かべながら、懐から銅貨を取り出し、アイアンホースに2枚手渡した。


「ありがてぇ」

アイアンホースは、目を輝かせながら銅貨を受け取った。


「お人好しじゃ。まったく…」

トルティヤは腕を組み、呆れたように小さく呟いた。


「(じゃが、これが良い結果に繋がるかもしれん。少し様子を見てみるかのぉ…)」

トルティヤは、面白がるように口元を歪めて笑った。


「あとな、犯人をつき出したら、依頼主から金貨を50枚ほどもらえる予定なんだ」

アイアンホースは、先程までの困った様子から一転、満面の笑みでそう言った。


「金貨50枚!?ってことは…50万ゴールド!?」

サシャとリュウは、驚きのあまり目を丸くした。

それは、通常の護衛任務の報酬額とは比較にならないほど高額だった。


「(それにしても、金貨50枚って…依頼者は相当な金持ちなんだな)」

サシャとリュウは、顔を見合わせ、内心でそう思った。

だが、トルティヤだけは違った。


「(金貨50枚…普通の傭兵にそこまで報酬を出す者はそうそうおらん…アイアンホース…こやつ…何者じゃ?)」

トルティヤは、アイアンホースが只者ではないことを見抜いていた。


「ほんじゃ、先ほども言ったが、大量の聖獣の毛皮が『シルクハット』から盗まれた」

アイアンホースは、今回の依頼の詳細を説明した。


「そこでだ。人数が集まったことだし、囮作戦をしようと思う」

アイアンホースは、ニヤリと笑いながら、大胆な作戦を提案した。


「簡単に言うと、依頼があった店を数日間だけ借りて、超貴重な毛皮が入荷したと大々的に広告を打つ。すると、犯人はそれを嗅ぎつけて、必ずや現れるはずだ。簡単だろ?」

作戦は恐ろしく単純。シンプルだった。

だが、その大胆さが、逆に犯人を欺く可能性を秘めているようにも思えた。


「そんな作戦、うまくいくのかのぉ?」

トルティヤは腕を組み、懐疑的な目を向けた。

サシャも、本当にそんな単純な作戦で犯人が現れるのか、半信半疑だった。


「(確かに、毛皮強盗が本当に現れるかどうか分からない。それに、もし現れたとしても、確実に捕まえられる保証はない…)」

リュウも同じように思っていた。


しかし、アイアンホースは自信ありげに、豪快に笑った。


「まぁ、何事も挑戦だ。ほんじゃ作戦は明日!起きたら宿の前で集合な!遅刻厳禁!」

アイアンホースは、そう言い残すと、残りのビールを勢い良く飲み干した。


そして、その夜は解散し、明日に備えることになった。


「…ふぅ。こんなものかな?」

トルティヤは、宿の質素な机の上で、丁寧に双剣を磨いていた。


「(あの男…何者だったんだ)」

リュウは、ベッドに横になりながらも、まだアイアンホースに対する疑念を抱いていた。

だが、トルティヤは彼の内に秘められた強大な魔力に、密かに感心していた。


「(最初は胡散臭いおっさんかと思ったが、魔力をみたら途方もない魔力量じゃのぉ。あれほどの魔力を持つ者が、なぜあんなに胡散臭い雰囲気を醸し出せるのか…理解できぬ)」

そして、偶然かトルティヤの心の声が聞こえたのか、サシャがトルティヤに尋ねる。


「ねぇ、トルティヤ。魔力量って人によってそんなに差が出るの?」

サシャは、純粋な疑問をぶつけた。


「そんなことも知らぬとは…お主は本当におめでたい奴じゃ。仕方ない。今日はワシの機嫌が良い。特別に教えてやろう」

トルティヤはそう言いながら、魔力量について話し始めた。


「魔力量は、個人が持っている魔力の量であり、個人差があるのぉ。同じ人間族でも、生まれ持った才能で大きく変わる。それは、生まれ持った才能に左右される部分が大きくて、鍛錬や経験で劇的に増やすことは難しいのじゃ。また、一般的にエルフ族は人間族よりも高い魔力を持つと言われている。ま、一番魔力量を持つのはワシのような堕天使族じゃがな!」

トルティヤは、最後に得意げな表情で付け加えた。


「そして、魔力量が多いと、魔法の威力や持続時間が向上するのはもちろん、大きな魔法を複数回使うこともできる。例えば、同じ魔法を使ったとしても、魔力量が多い方がより強力な魔法を放つことができるし、長時間魔法を維持することもできるのじゃ」

トルティヤにしては珍しく、丁寧に、そして分かりやすく説明してくれた。


「他にも色々な使い道があるが…話すのが長くなるからおしまいじゃ」


「なるほど!ありがとう!」

サシャは、トルティヤの説明に納得したように頷いた。


「ためになったじゃろ?感謝するんじゃな」

トルティヤは、少し照れたようにサシャに呟いた。


「じゃあ、寝ようか…」

サシャとリュウは、それぞれのベッドに入り、眠りについた。

しかし、精神世界でトルティヤは一人、静かに思考を巡らせていた。


「昼間に遭遇した賊…魔力の気配を感じなかった。まるで魔力で操られているような…」

トルティヤは、昼間の襲撃犯たちの異質な動きを思い返し、何かの魔法が関与していると考えた。


翌朝、ハギスの街を太陽が包む。

石畳は朝日に照らされ、キラキラと輝いていた。

そんな中、サシャ達は宿屋の前に集まっていた。


「おはよう!坊主たち!」

アイアンホースは、昨日の酔っぱらい状態が嘘のように、顔色も良く、ハツラツとしていた。


「…朝から元気ですね」

サシャは、まだ眠そうな目を擦りながら、挨拶を返した。


「酒は命のガソリン!たくさん飲んだから燃料満タン!ガハハハハ!」

そう言うとアイアンホースは、豪快に笑い飛ばした。


「人の金で飲んでおいてよく言えるな(にしても、朝からテンションが高いな…)」

リュウは、呆れたようにアイアンホースを見つつ、欠伸をした。


そして、サシャ達とアイアンホースは、店を借りるために依頼先の毛皮店『シルクハット』を訪れた。


「ここだ…」

重厚な木製の扉、磨き上げられた真鍮の装飾、そしてショーケースに飾られた上質な毛皮。

品格のある外観は、まさに高級毛皮店に相応しいものだった。


「(絶対にお門違いだ…)」

このような場所にまず訪れることがないサシャは、その豪華さに圧倒されながらそう思った。

そして、アイアンホースとサシャ達は、意を決して店の中へと入った。


「いらっしゃ…おぉ!旦那!」

店の奥から現れたふくよかな店主は、アイアンホースの顔を見るなり、満面の笑みで駆け寄ってきた。


「よぉ?調子はどうだ?」

アイアンホースが尋ねる。

店の主人は、恰幅の良い中年男性で、顔には商売人の狡猾さと、どこか人懐っこい笑顔が混ざっていた。


「ご機嫌さ!して、今日はなんの用で?もしかして強盗団が捕まったとかか?」

店主の顔は、期待に満ちていた。


「いや、今日は、ちょいと頼みがあってな…」

アイアンホースは、店主に事の経緯を話し始めた。


「何を言ってるんだ旦那!店を空けるなんて、商売あがったりだよ!いくら旦那でもそれは…」

店主は、アイアンホースたちの申し出に露骨に難色を示した。


しかし、アイアンホースは諦めていなかった。

彼は、店主の前に跪き、深々と頭を下げた。


「どうか、頼む!二日間だけでいい。報酬も値引きする。どうだ?」

アイアンホースは、必死な表情で懇願する。

その姿に、店主は大きなため息をついた。


「はぁ…旦那には敵わないよ。分かりましたよ…二日間。二日間だけ貸しますよ。ただし、報酬は金貨40枚にさせてもらいますよ」

店主は、渋々ながらも条件付きで了承した。


「ありがとう!それでいい!恩に着るぜ!」

アイアンホースは、店主に何度も頭を下げた。


「(…マイナス10枚じゃと?)」

トルティヤは、アイアンホースの判断に内心で舌打ちをした。


「これでよしっと!」

その後、サシャ、リュウ、アイアンホースは、店主が用意してくれた貴族らしさが漂う店員っぽい服装に着替えた。

普段着慣れない服に、サシャとリュウはどこか落ち着かない様子だった。


「少し動きにくいな」

リュウは、袖を通したことのない上質な生地の感触に戸惑いながら、腕を回してみた。


「確かに。けど、不思議な気分だな」

サシャも、普段の質素な服とは違う、滑らかな肌触りの服に、少し戸惑いつつも新鮮な感覚を覚えていた。


こうして、サシャ達とアイアンホースは店員になりすまし、店で働き始めた。


「いらっしゃいませ!」

サシャは、持ち前の明るい笑顔で客に話しかけ、商品の説明をした。


「こちらの毛皮はですね、銀雪狼(ぎんせつろう)の毛皮でして、触り心地が最高なんですよ。ぜひ一度羽織ってみてください!」


「ここに埃が…」

リュウは、真面目な表情で店内の隅々まで丁寧に掃除をしたり、商品の毛並みを整えたり、陳列棚を整理したりした。


「お客様、こちらの商品は如何ですか?」

アイアンホースは、流暢な口調で客に話しかけ、巧みな話術で商品を勧めていた。


「このインテリアなら、ハクメイライオンの毛皮なんていかがですか?きっと、お部屋の雰囲気が一層引き立つでしょう」


「マダム、今日の装いにピッタリの桜骶龍(おうていりゅう)の毛皮が入荷しましたよ。いかがですか?きっと、奥様も喜ばれますよ」


広告を打ったおかげか、店を訪れる客層は様々で、遠方から来た交易商人だったり、贅を尽くした貴族だったり、宝石を身につけた金持ちのマダムだったりと様々だった。


そして、働きだして数時間が経ったとき、店を訪れた客同士の会話から、ある噂を耳にした。


「最近、素材や毛皮を狙った強盗団がいるんだと」


「いやね…早く捕まってほしいわ。この辺りでも、被害が出始めているらしいのよ」

そんな不安げな様子の雑談をしている客がいたのだ。


「お客様。その話、詳しく聞かせてくれませんか?」

アイアンホースは、その話に興味を持ち、客に近づいて詳しい話を聞き始めた。


「あぁ…最近、毛皮強盗団が話題になっているだろ?なんでも奴らは毛皮だけじゃなくて、モンスターの鱗や牙、珍しい鉱石といった素材も奪って売りさばいてると聞いたことがある。確か…鬼車(おにぐるま)…って名前だったな」

客の聞くところによると、どうやら「鬼車(おにぐるま)」という強盗団は、毛皮だけでなく、モンスターの素材や鉱物などを専門に狙い、闇市場で高値で売りさばいているらしい。


「なるほど…ありがとうございます。そして、本日のおすすめですが…」

アイアンホースはさり気なく話を聞き出すと再び客へ商品を勧めていた。


そして、その日の営業が終わり、サシャ達は店を閉めた。


「旦那様、本日は誠にありがとうございました」

最後の客が店を出て行くのを見送り、サシャは深々と頭を下げた。

その客の姿が完全に消えた時、アイアンホースが伸びをしながら叫んだ。


「坊主たち、お疲れー!しかし、派手に広告をしたのに今日は何もなかったな」

アイアンホースは、肩を落として拍子抜けした様子だった。


「まぁ、初日ですし。気長に待ちましょう」

リュウはそう言うと、店の入り口に鍵をかけ、戸締まりを始めた。


鬼車(おにぐるま)か…」

アイアンホースは、カウンターに肘をつき、顎に手を当てて小さく呟いた。


確かにハギス近辺で、最近話題になっている強盗団だ。

だが、依頼主から聞いた話とサシャ達から聞いた話にあった襲撃者とは、手口が異なるように思える。

アイアンホースは悩んだ末に、レジの前に置いてあったメモ用紙を手に取り、ペンを走らせた。


「よし…お前ら。ここに行ってこい。そして、そこで会った奴から鬼車(おにぐるま)について何か話を聞いてこい。この紙はそこについてから開けろ。そして、書いている文字を読め」

そう言うとアイアンホースは、折り畳んだ1枚の紙と、サシャの手に金貨を2枚手渡した。


「え?お金あったんですか?」

サシャは、昨夜のアイアンホースの言葉を思い出し、驚きの声を上げた。


「おいおい…」

リュウは、呆れたような冷めた目でアイアンホースを見つめた。


「いやぁ悪い悪い。へそくりがあったのを忘れてた!ま、これだけありゃ足りると思うから…ほれ!行ってこい!」

そう言うと、アイアンホースは二人の背中をぐいっと押し、半ば強引に店の外へと送り出した。


「…ったくマイペースだな」

サシャは、アイアンホースの行動に呆れつつも、紙に書かれた場所へと足を向けた。


「ここかな?」

示された場所は、ハギスの街の郊外にある、蔦が絡まった古びた廃墟跡だった。

そこは人気もなく、ひっそりとしていた。

そして、サシャはそこでアイアンホースから渡された紙を開いた。


「えーっと?なになに?…『鋼の馬は天を駆ける』」

紙には、一言だけ奇妙な言葉が書かれていた。


すると、背後の崩れかけた柱の裏から、ぬるりと人影が現れた。

赤い髪をした、若い風貌の男だった。


「…おや?旦那じゃないのか?」

男は、警戒するように目を細めながら、声をかけてきた。


「あの、アイアンホースって人から…」

サシャは、事の経緯を簡単に説明する。

すると、男は納得したような顔をした。


「あぁ、旦那のお使いだな。情報代として金貨2枚もらうぜ」

男の胡散臭い雰囲気からして、情報屋だとサシャ達はすぐに察した。

サシャは、アイアンホースから預かった金貨を男に手渡した。


「確かに…で、何を知りたいんだ?」

男は金貨を受け取ると、鋭い眼光をこちらに向けた。


「えっと…鬼車(おにぐるま)について…」

サシャは、男の迫力に少し気圧されながら、恐る恐る尋ねた。


「あぁ、鬼車(おにぐるま)についてか…それなら知っている。ハギスの埠頭にある5番倉庫。今夜、そこで奴らの会合がある。行くかどうかは、旦那に聞いてくれ。俺が伝えられるのは以上だ…幸運を祈る」

男は、そう言い残すと、まるで影のように闇に溶けていった。


「本当かな?」

サシャは、赤髪の男がいた方向に、疑いの目を向けた。


「ふむ…ああいう連中は嘘をつく輩もいるからな…微妙なところだ」

リュウは腕を組み、情報屋という存在の不確実さを指摘した。


「けど、他に手がかりがないし、今は信じるしかないかな…」

サシャは、他に頼る手段がない現状を認め、そう呟いた。

そして、二人は店に戻り、アイアンホースに得られた情報を共有した。


「なるほどな…ハギスの埠頭にある5番倉庫…か。本当かどうかは分からないが、行ってみる価値はあるだろう」

アイアンホースは、腕を組みながら、顎髭を撫でるように言った。


「あの…情報屋の言うこと、簡単に信じていいんですか?」

サシャは、アイアンホースに不安げな表情で疑問をぶつけた。


「あぁ。信じていい。あいつは守銭奴だが、情報は確かだ」

アイアンホースは、自信有りげに頷きながら呟いた。


「でだ…俺は万が一に備えて店に残る。お前ら、やれるか?難しいことは言わねぇ。希少生物の毛皮があるかどうかだけ確認できればいい」

アイアンホースは、今後の行動について二人に確認した。


「任せてもらおう」

リュウは、静かに、だが力強く答えた。


「大丈夫!」

サシャは、少し緊張した面持ちで、小さく頷いた。


「お前ら…いい顔だ。じゃあ、任せた」

アイアンホースは、ニヤリと笑った。

その笑顔には、二人への信頼が感じられた。


そして街は夜になる。


ハギスは街灯が灯り、昼間とは異なる夜の様相を見せていた。

幻想的に見える光景も、それは街の中心部の話であって、

郊外に少しでも出ると、灯りはまばらになり、闇が濃くなっていた。


そんな中、サシャとリュウは、情報屋から聞いたハギスの埠頭に到着し、目当ての5番倉庫の近くに身を潜めていた。

倉庫の中からは、情報通り、複数の人間の話し声が聞こえてくる。


「見張りの視線をかいくぐり、倉庫に潜入するぞ」

リュウは、周囲を警戒しながら、サシャに小さく囁いた。


「…」

サシャは、緊張した面持ちで、小さく頷いた。


「ガチャ…」

リュウは、倉庫の裏手に回ると、慎重にドアノブを回し、音を立てないように裏口のドアを開けた。

二人は、息を潜め、物音を立てないように倉庫の中へと侵入した。


「(これはまた…大胆な)」

サシャは、薄暗い倉庫の隅に身を隠し、取引の様子をそっと窺っていた。


倉庫内には、数人の屈強な男たちと、豪華な装いをした、取引先と思われる貴族らしき男がいた。

男たちは、テーブルを囲んで、何やら低い声で話し合っている。

テーブルの上には、金貨の山とモンスターの牙らしき素材が見えた。


「倉庫内を調べよう」

サシャとリュウは、互いに目配せをし、物音を立てないように倉庫内を移動し始めた。

しかし…


「ガランゴロン」

サシャは、薄暗い足元に気づかず、足を滑らせてしまった。

そして、積み重ねられたドラム缶の一つに、思い切りぶつかってしまった。


「(しまった!)」

サシャは慌ててドラム缶を起こそうとしたが、遅かった。

その音に、倉庫の奥から複数の鋭い気配が、一斉に近づいてくる。


「誰かいるぞ!」


「あ!侵入者だ!」

物音に気づいた男たちが、たちまち臨戦態勢を取り、サシャたちの隠れている場所に気が付いてしまった。


中には、魔法を唱え始める者や、武器を構えて襲い掛かってくる者もいた。


「まったく何をしておる…代われ。ワシがやる」

そう言うと、トルティヤはサシャの肩を叩く。


「(また姿が変わった?)」

リュウは、驚いた表情を見せる。


「何者か知らんが…消えとけ!」

男たちは、手のひらから水弾を放ったり、小さな電撃を放ったりして、トルティヤに攻撃を仕掛けてくる。


「なんじゃそりゃ」

しかし、トルティヤは涼しい顔で、魔法を唱える。


「…雷魔法-聖者の鉄槌(せいじゃのてっつい)-!」

巨大な雷の拳が、轟音と共に現れる。


それは、水弾や電撃を弾き飛ばしながら、男たちに直撃する。


「ぐぁぁあ!」

男たちは悲鳴を上げ、まとめて倉庫の外へと吹き飛ばされた。

遠くから、「ザブン、ザブン」という、男たちが海に落ちたと思われる音が聞こえてきた。


「しゅっ…」

リュウも、男たちの放った水弾や電撃を軽々と躱し、刀の峰で、一人ずつ手際よく叩き伏せていく。


「ぐべっ」


「ごべっ」

峰打ちを受けた男たちは、白目を剥いて気絶した。

そうして、あっという間に、倉庫内にいた男たちは全滅した。


「あれ?弱いぞ?」

リュウは、あまりにもあっけない幕切れに、拍子抜けした様子で刀を鞘に収めた。


「弱いのぉ…昼間の襲撃者の方が、まだ手応えがあったわい」

トルティヤも、同じ感想を抱いていた。

今回の相手は、昼間の刺客たちに比べると、明らかに力が劣っていたのだ。


「まぁ…もうよかろう。代わるぞ」

トルティヤはそう言うと、サシャの肩を叩く。


「あぁ…その…ゴメン」

サシャは、自分の失態について、リュウに謝った。


「大丈夫だ…結果的にはこれで倉庫内の探索が楽になった。あいつらが目覚める前に盗品の確認をするぞ」

リュウはそう言うと、サシャと共に倉庫内を探索した。


「あれ?おかしいな…」

ところが、倉庫内を探し回っても、依頼されていた希少生物の毛皮どころか、一般的なモンスターの毛皮は一つも見当たらなかった。

あったのは、どこにでもいるような獣の鱗や翼の一部といった、希少価値が低い素材だけだった。


「…犯人は鬼車(おにぐるま)じゃないのか?」

サシャは、首を傾げ、怪訝な表情を浮かべた。


「ハズレを引かされたかの…」

トルティヤは、精神世界で腕を組み、小さく呟いた。


「仕方ない…一旦アイアンホースのところに…!!?」

その時、リュウは倉庫の二階に、確かに何かの気配を感じ取った。


「…」

見上げると、薄暗い二階の奥へ、着流しを着た男が素早く移動していくのが見えた。

その男の背格好は、どこか見覚えがあるような気がした。


「…まさか…!?」

リュウは、その男の姿を食い入るように見つめた。


「(アイツなのか!?だとしたら…許せない…!)」

リュウの表情が、怒りを含んだ険しいものに変わった。


「サシャ。お前はアイアンホースにこのことを報告してくれ。俺は行くところができた」


「え?」

リュウの急な言葉に戸惑うサシャをよそに、リュウは壁を蹴り、慣れた動きで二階部分へ飛び上がった。


「ちょっと待ってよ!リュウ!」

サシャは慌ててリュウを追いかけようとしたが、二階へ続く倉庫内の階段は、途中で大きく崩れ落ちており、原型を留めていなかった。


「何があったか知らぬが…放っておくのじゃ。そうそう簡単には死なんじゃろ」

トルティヤは、焦るサシャに冷静に言った。


「そんなことできない!放っておけないよ!」

サシャはトルティヤの言葉を聞かず、すぐに倉庫の外へ飛び出した。


「あそこから行けそうだ!」

サシャは、倉庫の外壁に立てかけられた、二階へ繋がる長いハシゴを見つけた。


「リュウ…待ってて!」

サシャは、焦りの色を浮かべながら、長いハシゴを昇り始めた。

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