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第59章:女海賊

「ひぃ…」


「撃ちやがった…」


「きゃぁぁ!!」

船首では、老若男女問わず多くの乗客や船員らが、両手足を太いロープで何重にも巻かれ、まるで繭のように身動きが取れない状態で、床に折り重なるようにして集められていた。

彼らの顔は恐怖で歪み、中にはすすり泣く者や、口に布を詰められ声も出せない者もいた。


そして、その目の前には、右肩から鮮血を滲ませる船長が、苦痛に顔を歪めながら座り込んでいた。


「ぐっ…財宝が欲しいならくれてやる。だから乗客だけは…」

船長は、痛む肩を左手で強く抑えながら、目の前に立つ人物に必死の形相で懇願する。


「くれてやる?あげます。の言い間違いだろう?」

船長と怯える乗客らの前には、屈強な体格の海賊たちが大勢仁王立ちしている。

そして、その海賊たちを率いるように、ひときわ背が高く、鮮やかな桃色の髪を肩口まで伸ばした一人の女が立っていた。


女が着ている服は、長年の風雨に晒されたかのように色褪せ、所々が擦り切れた赤黒いポンチョを無造作に羽織り、その下には磨き込まれた銀色の胸当てを身に着けていた。

腰には使い込まれた様子のカットラスを佩き、そして、右の片手には無骨で細長い鉄製の武器がしっかりと握られていた。


「で、金貨や宝飾品が詰め込まれた貨物はどこにある?」

女は、冷たい光を放つ鉄製の武器の銃口を、船長の額に向けた。

その時だった。


「船長から手を放すんだ!」

屈強な体格の大剣を持った男が、怒りの表情を浮かべながら女に向けて一直線に向かってくる。


「札魔法-雨四光-!」

さらに、遠く離れた場所から、特徴的な烏帽子を深く被った魔導師が、素早く数枚の札を取り出し空中に展開する。

札が淡い光を放ち始めると同時に、そこから勢いのある水流が奔流のように女に向けて放たれた。


「まだ歯向かうやつがいたか」

女は、男が頭上で大きく振りかざした大剣を、まるで重さを感じさせないかのように、握りしめた鉄製の武器で容易く受け止めた。


「ガキン!」

けたたましい金属音が船首に響き渡り、周囲の空気が一瞬震えた。


「なんだと?」

大剣を受け止められた男は、信じられないといった表情で目を見開き、驚愕の言葉を漏らす。


「はっ。大したことないな。でかいのは剣と図体だけかよ」

嘲笑するようにそう言い放つと、次の瞬間、女は左手で腰に差しているカットラスを素早い動作で抜き放った。


「ザシュッ!」

鋭い刃を持つカットラスが、男の分厚い胸板を深々と斬り裂いた。

肉を引き裂く音と共に、鮮血が勢いよく噴き出す。


「ぐあっ…」

予期せぬ痛みに男の顔が歪み、胸からはとめどなく血が流れ出し、体勢が大きくぐらつく。


「そらよ!」

そして、女は握りしめた鉄製の武器を男に向け、間髪入れずに3発の魔力の弾丸を発射した。


「ぐっ…うぉぉ…!」

魔力の弾丸は、男の体に次々と命中し、鈍い音と共に衝撃が走る。

男はそのまま床に、大量の血を流して倒れた。


「まずは一人…あともう一人…」

冷酷な眼差しで倒れた男を見下ろすと、今度は向かってくる水流に対して、女は冷静沈着に魔法を唱え始めた。


「鏡魔法-魔鏡反射マジックリフレクション-」

次の瞬間、女性の目の前に菱形の巨大な鏡が現れた。

そして、その鏡面から、魔導師が放った水流を遥かに凌ぐ、巨大な水流が猛烈な勢いで放たれた。


「ドドドド!!」

轟音と共に放たれた巨大な水流は、魔導師が放つ水流を押し返し、一直線に魔導師へと迫る。


「そんな…!」

信じられないといった表情で、魔導師は迫りくる巨大な水の壁を目の前にする。


「バシャッ!!」

容赦なく巨大な水流が魔導師に直撃した。

衝撃で彼の体は宙に浮き上がり、トレードマークである烏帽子が頭から吹き飛び、空中でくるくると舞う。


「ぐあっ…」

魔導師は、まるでハリボテのように吹き飛ばされ、そのまま船首の壁に激しく叩きつけられ、意識を失ってぐったりと崩れ落ちた。


「嘘だろ…」


「さっきまで海賊たちをバタバタと倒していた冒険者が、こんなにあっさりと…」


「お母さん…怖いよぉ…」

人質となっていた乗客らは、先ほどまで希望の光に見えた冒険者たちが、瞬く間に倒された光景を目の当たりにし、恐怖に顔を歪ませ、身を寄せ合い震えていた。


「さすが姉さん!」


「姉さんの鏡魔法は最強だぜ!」

一方で、人質をぐるりと囲んでいた海賊たちは、自分たちのリーダーである女の圧倒的な強さに歓声を上げ、大喜びしている様子だった。


「くっ…(もはや貨物を渡すしか。乗客の命には代えられん)」

船長は、完全に戦意を喪失したような表情を浮かべる。その時だった。


「待たれよ!!」

船首の2階部分から、凛とした声が響き渡った。


「一体なんだ?」


「誰かいるの?」


「海賊の仲間か?」

その声のした方向へ、乗客や船員、そして海賊たちが一斉に視線を向けた。


「…まだ雑魚がいやがったのか(いや、一人…できるのがいるな)」

背の高い女は、面倒くさそうに、しかし警戒の色を滲ませながらぶっきらぼうに呟いた。


「小僧、小娘、雑魚と人質は頼むのじゃ!」

2階の手すりから身を乗り出したのは、サシャ達だったのだ。


「ふん。任せろ」

リュウが静かに答える。


「うん!」

アリアも しっかりと頷いた。


サシャ達は、躊躇うことなく船首の2階部分から次々と飛び降りた。


「へっ!雑魚が何人来ても無駄だ!」

待ち構えていた数人の海賊たちが、リュウとアリアを取り囲むようにして武器を構える。


「そのセリフ。そっくりそのまま返してやる」

リュウは、背に差した刀を抜くと、海賊たちを睨みつけた。


「悪いことをするなって、オババ様が言ってたよ!」

アリアは、既に矢筒から取り出していた矢を弓に番え、いつでも射てるように臨戦態勢をとっていた。


その頃、トルティヤは、船首で仁王立ちする背の高い女と、静かに向かい合っていた。


「お主が、この海賊団の船長かのぉ」

トルティヤが、警戒の色を滲ませながら静かに女に尋ねる。


「そうだ。ジャッカスをやったのはお前だな?」

海賊船の船長である女は冷たい眼差しでトルティヤを射抜きながら尋ねる。


「ジャッカス?あの変な髪形の男かのぉ?あいつなら今頃、気持ちよく海を漂っておるじゃろう」

トルティヤは、先ほど自分が海に落とした、ドレッドヘアーの男を思い出しながら、涼しい顔で答えた。


「なるほど。お前からは、途方もない魔力が漏れ出ている。ただ者ではないな…」

アンリは、右手に握った鉄製の武器と、左手に構えたカットラスをゆっくりと構える


「その武器…フラッカーズのピストルではないか」

トルティヤは、アンリが右手に持っている無骨な鉄製の武器を指さし、興味深そうに尋ねた。


「あぁ。昔、商船を襲った時に、護衛の奴が持っていた武器をいただいたのさ。悪くない使い心地だ」

アンリは、何の罪悪感も覚えている様子もなく、冷酷な笑みを浮かべながらそう呟いた。


「ふん。一応名前を聞いておいてやろう。賞金首かもしれんからのぉ」

トルティヤは、アンリに名前を尋ねた。


「ふん…よかろう。俺はアンリ…」

そうトルティヤに呟くと、アンリは、握り締めたピストルの銃口をゆっくりとトルティヤの方へ向けた。


「!!」

アンリの行動を察知したトルティヤは、咄嗟に身構えた。


「とりあえず、お近づきの印に、弾丸をどうぞ」

アンリは、躊躇うことなくピストルから3発の魔力の弾丸をトルティヤに向けて放った。


「見えておるわい」

トルティヤは、放たれた魔力の弾丸を、まるで踊るかのように華麗な身のこなしで次々と回避していく。


「(ピストルから放たれる弾丸は魔力が込められている。魔力が飛んでくる方向を予測すれば、回避は容易じゃ)」


ピストル。

ハギスの毛皮強盗事件でアイアンホースが。

勝利者の矛(ウィナーズスピア)を巡る戦いでマリとポージャといった、フラッカーズに所属する傭兵が使用する武器である。

自身の魔力を弾丸として放つ武器であり、使い手の熟練度や保有する魔法の種類によっては、魔法属性を込めた弾丸も放つことができる。

ただし、魔力を直接放つため魔力の消耗が激しいという欠点もある。


「ほう。やるじゃないか。ならば、これはどうだ!」

アンリは、距離を一気に詰めると、素早い動きでトルティヤに接近し、左手に持ったカットラスで横薙ぎの一撃を放った。


「ふん。中々早いのぉ…」

トルティヤは、刃先が僅かに頬を掠めるのを感じながら、ギリギリのところでカットラスによる攻撃を回避する。


「それを待っていた」

だが、回避したほぼ同時、流れるような素早い動作でアンリがピストルをトルティヤに向ける。


「ダーン!ダーン!」

乾いた銃声と共に、ピストルから2発の魔力の弾丸が放たれる。


「ちっ…」

トルティヤは、迫りくる弾丸を辛うじて避けるが、そのうちの1発が左肩を浅く掠めた。


「今のを避けるとはね」

アンリは、感心したように小さく呟きながら、再び鋭い光を帯びたカットラスを振りかざす。


「食らわぬ!」

トルティヤは、迫りくる刃から距離を取るように後方へ素早くバックステップを踏みながら、詠唱を開始する。


「閃光魔法黄金の大雄牛(ゴールデンメガブルズ)

トルティヤが呪文を唱え終えると、眩いばかりの黄金色の光が収束し、巨大な雄牛の形を象ったエネルギー体が現れた。

雄牛は、鼻から荒い息を吐き出し、大地を踏みしめるような轟音と共に、猛然とアンリに向けて突進していく。


「あらら。俺の魔法と相性最悪だ」

アンリは、迫りくる黄金の雄牛を冷静に見据えながら、魔法を唱える。


「鏡魔法-魔鏡反射マジックリフレクション-」

アンリが呪文を唱えると、彼女の目の前に菱形の巨大な鏡がヌッと現れた。

そして、鏡面が妖しく輝き出すと同時に、トルティヤが放った雄牛の倍はある巨大な黄金の雄牛が、鏡の中から咆哮を上げながら出現した。


「鏡魔法じゃと!?」

予想外の事態に、トルティヤは驚愕し、慌てて魔法を解除する。

すると、光でできた雄牛は霧散するように消え去り、同時にアンリの鏡の中から出てきた雄牛も、力を失い消滅した。


「今のを見切るとは、やるじゃないか」

だが、アンリは間髪入れずに次の魔法を放つ。


「鏡魔法-魔鏡分裂(マジカルディビジョン)-」

アンリが呪文を唱えると、菱形の鏡が不気味な光を放ち、鏡の中からアンリと全く同じ姿の分身が3人、煙のように現れた。

そして、アンリとその分身は、それぞれ異なる方向に移動し、トルティヤの四方を完全に囲い込んだ。


「さて、どうする?」

アンリは、余裕綽々とした笑みを浮かべ、トルティヤを見下ろす。


「むぅ…(面倒な)」

トルティヤは、周囲を取り囲む4人のアンリを冷静に見渡す。


「それじゃ」


「一気に」


「終わらせて」


「全てを奪い去るとしよう」

次の瞬間、アンリと3人の分身は、それぞれが構えたピストルから一斉にトルティヤに向けて魔力の弾丸を放った。


「風魔法-風雲月露(ふううんげつろ)-」

トルティヤは、迫りくる無数の弾丸に対し、素早く風魔法を唱える。

すると、トルティヤの周囲に、目に見えない強烈な風のバリアが形成され、雨のように降り注ぐ弾丸を全て弾き返した。


「へぇ…複数魔法使用者(マルチマジカリスト)か。こりゃ捕まえたら高く売れそうだな」

アンリは、風のバリアに阻まれた弾丸を見て、感心したように呟く。


「ワシを売る?面白いことを言う奴じゃ。ワシに勝てるかのぉ」

トルティヤは、全く動じることなく、余裕の表情を崩さない。


「俺にそんなことを言った奴は、全員海に沈んだか降伏した。お前もそうなる!」

アンリがそう言い放つと同時に、本体と3人の分身が一斉に魔法を唱え始めた。


「鏡魔法-魔鏡螺旋光(マジカルスパイラル)-!」

アンリと分身の目の前に、それぞれ手のひらサイズの小さな鏡が現れる。

次の瞬間、それぞれの鏡面から眩いばかりの螺旋状のレーザー光線が放たれた。

四方八方から同時に放たれたレーザーは、回避しようがないほどトルティヤに迫る。


「ふん…鳥なき島の蝙蝠というやつじゃな」

無数のレーザーがトルティヤに迫る。

しかし、トルティヤは眉一つ動かさず、静かに魔法を唱えた。


「無限魔法-万里冥風(ばんりめいふう)-」

次の瞬間、トルティヤの周囲を、底なしの闇のように黒い強烈な風が渦巻きながら包み込んだ。

それは、強固なバリアとなり、四方から襲い来る螺旋状のレーザー光線を全て弾き飛ばした。


「なに!?3つ目の魔法だと!?」

アンリは、信じられないといった表情で大きく目を見開く。

そして、トルティヤを包んでいた黒い風は、まるで意思を持っているかのように刃のようなカマイタチとなり、アンリ本体と3人の分身を襲い始めた。


「くっ!小癪な…!」

アンリ本体は、迫り来る無数のカマイタチを、素早く抜き放ったカットラスで辛うじて防ぐ。

だが、その風圧と目に見えない刃の威力は想像以上で、3人の分身はたちまちのうちに切り裂かれ、霞のように消え去った。


「しまった!」

アンリが分身の方に気を取られる。

その隙を逃さず、トルティヤは既に次の魔法を唱え終えていた。


「しまいじゃ…無限魔法-氷雷虎(ひょうらいこ)-!」

黒い風が渦巻く中から、青白い雷光を全身に纏った巨大な虎が咆哮を上げながら姿を現した。


「ガウウウ!」

雷を纏った青い虎は、アンリ目掛けて一直線に飛びかかり、鋭い牙で彼女の左腕に食らいついた。


「ぐっ…ち、ちくしょう!!」

虎の牙が肉に深く食い込む激痛と同時に、アンリの体には強烈な電撃が走り抜け、全身が痺れて動けなくなる。

そして、次の瞬間には、彼女の全身が瞬く間に凍り付き、氷像と化した。


「ワシの勝ちじゃな」

トルティヤは、肩を軽く押さえながら、小さくため息をついた。


「終わったようだな」

激しい魔法戦が終わったのを感じ取り、リュウが静かに近づいてくる。


「こっちも片付いたよ!」

アリアとリュウは、残っていた数人の海賊を難なく撃破し、ロープで縛られていた人質たちを解放していた。


「よくやったぞ」

トルティヤは、リュウとアリアの働きを認め、静かに呟いた。

そして、トルティヤは、床に倒れている船長の元へと歩み寄る。


「あ、ありがとう…助かったよ」

船長は、解放された安堵感からか、顔にわずかな笑みを浮かべ、感謝の言葉を述べた。


「気にするな。マクレンには海兵隊がいるじゃろ?さっさと救難信号を出すのじゃ」

トルティヤは、船長に冷静に指示を出す。


「き、救難信号を…」

船長は、すぐにそばにいた部下を見つけ、掠れた声で命令する。

すると、部下の一人が手元に魔力を集中させ、空に向かって赤色の信号弾を勢いよく放った。


「して…こいつらは…」

トルティヤは、倒れている大剣を持った冒険者と、烏帽子を被った魔導師の元へ歩み寄った。


「…息はあるのぉ。意識を失っているだけじゃ」

トルティヤは、二人の鼻先に指を近づけ、微かな呼吸があるのを確認すると、冷静に呟いた。


「誰か、回復系の魔法を使える者はおらぬか?」

トルティヤは、解放された乗客や船員たちに向かって声をかけた。


「あ、あの…私、看護師やってます…」

不安そうな表情を浮かべた若いエルフ族の女性が、おずおずと手を挙げた。


「俺も医者をしている…任せてもらおう」

恰幅の良い、貫禄のある中年男性も、自信ありげな表情で名乗りを上げた。


「この二人は無事じゃ。手当てを頼むぞ」

トルティヤは、二人に呟くと、すぐに海賊船の方へ向かおうとしていた。


「トルティヤ?どこに行くの?」

トルティヤの突然の行動に、サシャは疑問の声を上げる。


「決まっておるじゃろう。奴らの船にある宝物を物色しに行くのじゃ」

トルティヤは、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべながら、当然のように答えた。


「え…えぇ…それって、僕たちが海賊みたいじゃ…」

トルティヤの強欲な行動に、サシャは少し引き気味になる。


「海賊を討伐してやったのじゃ。これくらいの役得がないとのぉ」

そう呟くと、トルティヤは軽い身のこなしで連絡船の手すりを飛び越え、海賊船へと乗り移った。


「あ!待ってよぉ!」

アリアも、慌ててトルティヤの後を追う。


「ふん…トルティヤらしい」

リュウは、呆れたような、しかしどこか納得したような表情で、小さく呟きながらトルティヤに続いた。


海賊船の中は、外見の威圧感とは裏腹に、意外にも質素なつくりだった。

低い天井には、使い古されたハンモックが多数ぶら下がり、船内を歩くたびにギシギシと音を立てる。

ロープには、硬くなった干し肉や、潮風に晒された洗濯物などが無造作にぶら下がっており、独特の生活臭が漂っている。

そして、足元には、空になったものや、まだ中身の入っている酒樽がいくつか転がっており、微かにアルコールの匂いが鼻をついた。


「汚いのぉ…」

トルティヤは、周囲を見渡し、顔をしかめながら呟いた。


「まるで、キャラバンのリビングみたいだよ」

アリアは、特に気にする様子もなく、むしろ懐かしむように呟いた。


そして、サシャ達は、奥にある船長室へと足を踏み入れ、部屋の中を隅々まで漁り始めた。


船長室は、一見すると金目のものは一切なく、中央に古びた机と、背もたれの取れた椅子が置かれているだけで、壁にはマクレン諸島の海図が、画鋲で数カ所留められているだけだった。


「なんじゃ。思ったよりもしょぼいのぉ」

トルティヤは、机の引き出しや床下などを念入りに探るが、期待していたような宝らしいものは見当たらなかった。


「空振りか…?」

リュウも、部屋の隅々まで視線を走らせるが、やはり宝らしきものは見当たらない。


「あれれ?これは、なんだろう?」

アリアは、机の奥まった場所から、丸められた一枚の羊皮紙を取り出した。


「なんじゃ?」

トルティヤが、興味深そうにその羊皮紙を覗き込む。羊皮紙には、細かな線でマクレン諸島の海図が描かれており、その中のとある、小さな島と思われる場所に、赤い×印が大きく記されていた。


「おお!これは、宝の地図かもしれんのぉ!」

トルティヤは、一瞬にして目を輝かせ、興奮した声を上げる。


「それって、すごいの?」

アリアは、地図に描かれた×印を不思議そうに見つめながら、首をかしげた。


「うむ。手つかずのお宝が眠っている可能性がある場所じゃな。もしかしたら、(アフォガード)が言っておった魔具かもしれぬな」

トルティヤは、満足そうに大きく頷いた。


「行ってみる価値はあるね。どっちにせよ、次の手掛かりはないし」

サシャは、地図を見ながら呟いた。


「そうじゃな。まずはパリオネ島でリゾートを満喫したら、この地図に記されている島に向かうとしようかのぉ」

こうして、サシャ達の新たな目標が、静かに設定されたのだった。

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