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第52章:救出作戦

「いやぁ、それにしても大漁、大漁。こいつらの血と羽根は色々と使い道があるからな」

赤いソファに座った貴族らしき男は、揺らめく焚き火の炎を見つめながら、優雅に茶を飲んでいた。

周囲には、捕らえられたエフィメラ族が閉じ込められた檻がいくつか置かれており、彼らの悲しげなすすり泣きが微かに聞こえてくる。


「せやけど、こんなに必要なんかい?」

焚き火のパチパチという音に混じって、褐色のポンチョに身を包んだ男性が、ギラギラとした目を檻に向けながら呟いた。

その髪型は後頭部で一本に束ねられ、派手な金色と黒色で染め分けられていた。


「…儲かる。なるほどね」

同じく褐色のポンチョに身を包んだ女性が、静かに焚き火を見つめながら呟いた。

右目の下に印象的な泣きぼくろがあり、その表情はどこか物憂げだった。


「しかし、バルサミコ卿。これだけのエフィメラ族をどうやって運びますの?」

護衛の男性が、不安そうな表情で尋ねてみた。


「夜になったら専門の買取業者が来る。それまでは待機だ」

バルサミコ卿と呼ばれた貴族は、満足げな笑みを浮かべながら、

ゆっくりとティーカップをソファの横にある小さなテーブルに置いた。その時だった。


「その檻の中の人達を返してもらう!」

草むらに身を潜めていたサシャとリュウが、気配を殺して音もなく飛び出してきた。


「なんだ!!?」

突然の出来事に、バルサミコ卿は目を丸くして慌てた表情を見せた。


「敵襲でんな!」

金と黒の髪をした男は、背中に差していた分厚い刀を素早く手に取った。


「はっ!」

リュウは、刀を抜き放ち、間合いを詰めてきた男に向かって鋭い刀を振るった。


「キィィィン!」

鋭い金属音が響き渡り、刀と刀が激しくぶつかり合った。火花が散り、周囲を照らす焚き火の光をちらつかせた。


「なんやねんお宅ら。どこから来おった?」

男は、リュウの刀を受け止めながら、力強い眼差しで尋ねた。


「どこからだと?…ただの通りすがりだ」

リュウは、男の言葉を冷たくあしらい、両腕に力を込めて刀を押し込んだ。


「(この小僧、見た目の割にすごい力や)…はっ!!」

男は、リュウの力を感じ取り、後方へ素早くバックステップをした。


「逃さない…」

リュウは、男に間合いを詰めさせまいと、素早く追撃をかけた。


一方で、サシャは、三日月型の奇妙な武器を構えた女性の護衛と向き合っていた。


「…あなた達もエフィメラ族が目当て?」

女性は、冷静な眼差しでサシャに問いかけた。


「違う。彼らを助けに来た」

サシャは、迷いのない強い口調で呟いた。

そして、腰に差していた双剣を構えた。


「なるほど」

女性は、感情の読めない声でそうとだけ呟くと、腰に差していた独特な形状の武器を取り出した。

それは、鋭い刃を持つ三日月が二つ重なり、中央で柄によって繋がれたような奇妙な武器だった。


「あれは、鴛鴦鉞(えんおうえつ)じゃな」

トルティヤが、サシャの精神世界で呟いた。


鴛鴦鉞(えんおうえつ)?」

サシャは、女性が手にした見たことのない武器に視線を向けた。


黎英(れいえい)に伝わる武器じゃ」

トルティヤが、その武器の出自について説明した。


「悲しいけど…戦いは避けられないのね」

女性は、わずかに憂いを帯びた表情でそう呟くと、地面を力強く踏み込み、一気に距離を詰めてきた。


「僕達だって…!譲れない!」

サシャは、迫り来る女性に向けて、双剣を力強く振り下ろした。


「甘いわね」

女性は、涼やかな表情でそう言い放つと、鴛鴦鉞(えんおうえつ)を両手でクロスさせ、サシャの双剣を受け止めた。

すると、三日月型の刃の形状のためか、サシャの双剣は鴛鴦鉞(えんおうえつ)の上を滑ってしまい、まともに力を伝えることができない。


「うわっ!」

リュウは、刀が滑った衝撃で手を滑らせてしまい、一瞬バランスを崩した。


「そこ」

女性は、その隙を見逃さず、素早く鴛鴦鉞(えんおうえつ)を振りかざした。


「ドシュッ!」

鈍い音と共に、その鋭い刃はサシャの右腕を浅く斬り裂いた。

鮮血が噴き出し、地面を赤く染めていく。


「うっ!」

サシャは、激しい痛みに顔を歪め、苦悶の表情を浮かべた。


「まだ終わらないわよ」

女性は、鴛鴦鉞(えんおうえつ)を構え、独特の低い姿勢を取った。その目は、獲物を狙う獣のように鋭い。


「いかん!避けるのじゃ!」

咄嗟にトルティヤが、サシャの精神世界で叫んだ。


「!!」

棒立ちしていたサシャは、トルティヤの声に反応し、咄嗟に体を横にひねった。

次の瞬間、空気が一瞬歪んだかのような衝撃と共に、

女性の放った拳が、サシャのいた場所を通過した。

その拳は、凄まじい風圧を生み出し、サシャの髪を大きく揺らした。


「あら。今のを避けるとはね…」

女性は、驚いたような表情でサシャを見つめた。


「今のは「ハッキョク」という体術じゃな。さっきの一撃をまともに受けておったら、お主の肉体じゃ間違いなく一発で戦闘不能じゃったぞ」

トルティヤが、腕を組み、冷静な口調でサシャに語りかけた。


「だったら、あの攻撃を受けないように立ち回らなきゃならないってことか…」

サシャは、痛む右腕を抑えながら、再び双剣を構え直した。


「そういうことじゃ。ほれ、ワシの魔力を少し貸してやるゆえ、なんとか頑張るのじゃ」

そう呟くと、トルティヤは精神世界にいるサシャの手を強く握った。


「あの時の…」

サシャは、以前芽剣蛇(がけんじゃ)と戦った時に感じた、体中に魔力がみなぎる感覚を鮮明に思い出した。

そして、その時と同様に、双剣に自身の魔力を流し込むイメージをした。


「氷属性…?」

サシャは、魔力を帯びて青白く輝き始めた双剣を見つめた。

剣身は、触れただけで凍てつきそうなほどの冷気を纏っており、

周囲の空気すら僅かに白く揺らいでいるように見えた。


「これで、アイツの動きを封じてやるのじゃ」

トルティヤは、自信に満ちた表情で呟いた。


「ボサッとしているということは、死にたいという解釈でいいな」

女性は、鴛鴦鉞(えんおうえつ)を再び構え、ゆっくりとこちらに向かってきた。


「そんな訳ないでしょ!」

サシャは、女性を迎え撃つべく、冷気を纏った双剣をしっかりと構えた。


その頃、リュウと護衛の男性は、激しい剣戟を繰り広げていた。

お互いの刀がぶつかる度に、鋭い金属音が周囲に響き渡り、両者共に、すでに数カ所に斬り傷が見受けられた。


「アンタ、やるやないか。名前、聞いてもええか?」

トラゾウは、額に汗を滲ませながらも、

まるで激しい戦いを心底楽しんでいるかのような、明るい表情でリュウに尋ねた。


「…リュウだ」

リュウは、呼吸を整えながら刀を構え、静かに答えた。


「リュウか…ええ名前やな。俺はトラゾウや。気軽にトラって呼んでええで!」

トラゾウは、分厚い刀を振り下ろすと、陽気な口調で自己紹介をした。


「ふん。貴様と馴れ合うつもりはない…!」

リュウは、トラゾウの友好的な態度を冷たく拒絶し、

振り下ろしを、木の葉のように軽やかに避ける。

そして、一気に距離を詰めてトラゾウに向かってダッシュした。


「うお!はえぇな!リュウ、おもろいやんか!」

トラゾウは、リュウの素早い動きに目を丸くしながらそう呟くと、刀を構え直し、魔法を唱え始めた。


「雷魔法-夜夢岸刀(よるむがんと)-!」

トラゾウの言葉と同時に、周囲の空気がビリビリと震え始め、眩いばかりの黄色い雷光が彼の刀身に集束していった。

雷は、まるで生き物のように刀に絡みつき、ギュイィィンという耳をつんざくような音を立てながら、高速で回転し始めた。


「なに?」

その尋常ではない光景に、リュウは警戒の色を強めつつ、雷を纏った刀に臆することなく、刃をトラゾウに振り下ろした。


「ギィィィィン!」

再び激しい金属音が轟き、刀と刀が激突した。

雷の奔流が周囲に飛び散り、焦げ臭い匂いが辺りに漂う。


「リュウ!お前は、ホンマにええ剣士や!」

トラゾウは、刀を持つ腕に一層力を込め、リュウの刀を受け止めた。

その顔には、先程までの陽気さとは裏腹に、真剣な表情が浮かんでいた。


「くっ…」

トラゾウの強大な力に、リュウは徐々に押し込まれていくのを感じた。


「せやけど、今のところは、ワイの方が一歩強かったようやな!」

次の瞬間、トラゾウは、渾身の力を込めてリュウの刀を弾き飛ばした。

その衝撃でリュウの体勢が大きく崩れる。


「しま…」

リュウは、体勢を立て直そうとするも、遅かった。


「これで終了や!!」

トラゾウは、雷を纏った刀を振り上げ、容赦なくリュウに向かって振り下ろした。


「(まだだ)」

リュウは、咄嗟に上半身を大きくのけぞらせ、迫り来る雷の刀を間一髪で回避した。


「ギュイィィン!」

雷を纏った刀が、リュウの鼻先をかすめ、皮一枚のところで空を切っていった。


「なんやて!」

まさかの回避に、トラゾウは驚愕の表情を浮かべた。

彼の右腕は、渾身の一撃を放った体勢のまま、完全に伸び切っていた。

それを、リュウは見逃さなかった。


「…荒覇吐流奥義・静寂あらはばぎりゅうおうぎ・しじま!」

リュウは、体勢を崩したまま、刀の先端に極限まで魔力を集中させた。

そして、カウンターとばかりに、鋭い突きをトラゾウへと放った。


「(これはアカン!)」

トラゾウは、迫り来る刃に危険を察知したが、反応するには遅すぎた。


「ザシュ!」

鈍い音と共に、その一撃は、トラゾウの右腕を肩口近くまで深々と貫いた。


「ぐっ…」

激しい痛みに、トラゾウは持っていた刀を地面に落とし、膝から崩れ落ちた。

そして、リュウの刀の切っ先が、彼の喉元に突きつけられた。


「…俺の勝ちだ」

リュウは、息を切らしながらも、高らかに勝利宣言をした。

それに対して、トラゾウは、ため息をつくと、ゆっくりと左手を上げた。


「まいった。わいの負けじゃ」

トラゾウは、潔く降参の意を示した。


一方で、サシャと女性の護衛は、激しい攻防を繰り広げていた。

冷気を纏った双剣と、独特な形状の鴛鴦鉞(えんおうえつ)がぶつかり合うたびに、鋭い金属音と氷の砕ける音が響き渡る。


「はっ!」

サシャは、女性の隙を突き、冷気を纏わせた双剣を力強く振り下ろした。


「見えているわ」

しかし、女性は、冷静な表情を崩すことなく、器用に身を翻し、サシャの攻撃をいなしていく。


「くっ…(予想よりも、ずっと手強い)」

サシャの繰り出す氷の刃は、今のところ、女性の鋭い動きの前に、全く掠りもしていなかった。

その様子を見たトルティヤは、ため息混じりに呟いた。


「お主の曲芸は、単調すぎるのじゃ。それでは、相手にあっさりと見抜かれてしまうわい」


「じゃあ、どうすれば!?」

サシャは、焦りの色を滲ませながら、トルティヤに問いかけた。


「緩急をつけたりせんかい。まったく、お主は頭が悪すぎるのじゃ」

トルティヤは、呆れたように呟いた。


「緩急…!そうか!」

トルティヤの言葉に、サシャはハッとした。

そして、意識して動きを変え、再び女性に向かって走り出した。


「そのパターン、何度目かしら」

女性は、サシャの動きを冷静に見極め、迎え撃つ体勢を取った。

その表情には、余裕すら感じられた。


「はっ!!」

だが、サシャは、先程までの勢いのある踏み込みから一転、意表を突くように、鋭い突きを放った。


「(ここで突き?)」

女性は、一瞬驚いた表情を見せたものの、難なくその突きを紙一重で回避した。

しかし、その直後、サシャは間髪入れずに、双剣による矢継ぎ早の剣戟を女性に浴びせた。


「(これだ!)」

サシャは、ようやく気がついた。ただ闇雲に双剣を振るうだけでは意味がないのだと。

突きを織り交ぜ、双剣は同時にではなく、片腕ずつ交互に振るう。

そうすることで、攻撃に予測不能な緩急が生まれるのだ。


「くっ…」

女性は、サシャの変幻自在な攻撃に、徐々に押され始めた。


それと同時に、彼女が持つ鴛鴦鉞(えんおうえつ)の刃が、サシャの氷魔法によって、僅かに凍てつき始めていた。


「はぁ!」

サシャは、さらに勢いを増して追い打ちをかけた。


「(仕方ない…もう一発お見舞いしてやるわ)」

女性は、凍りつき始め、扱いづらくなった鴛鴦鉞(えんおうえつ)を躊躇なく地面に捨てると、サシャの攻撃を素早い体捌きで回避し、先程と同様に、独特の低い構えを取った。


「(来る!)」

サシャは、女性のただならぬ気迫を感じ取り、全身に神経を集中させて身構えた。


「ハアァァァッ!!」

女性は、地面を叩きつけるような勢いで、鋭い掌底をサシャに向けて放った。


「くっ!」

サシャは、咄嗟に双剣をクロスさせ、迫り来る拳をガードした。

衝撃が腕にダイレクトに伝わり、骨が軋むような激しい痛みが全身に走った。


一瞬の静寂が辺りを包む。

拳がサシャの双剣の真ん中に触れていた。

それを見た女性は笑みを見せる。


「…もうよかろう」

女性は、サシャの双剣から拳を離すと、静かに両手を挙げ、戦意がないことを示した。

その表情は、先程までの鋭さが嘘のように穏やかだった。


「バルサミコ卿。こいつらは強い。ここは素直に撤収すべきかと」

女性は、ソファに座り込み、未だに状況を理解できていない様子のバルサミコ卿に、冷静な声で進言した。


「こ、こら!最後まで戦わんかい!」

バルサミコ卿は、信じられないといった表情で顔を赤らめ、憤怒の声を上げた。


「大将、無理を言わんといてや」

リュウによってロープでグルグル巻きにされ、地面に転がされていたトラゾウが、苦笑いを浮かべながら呟いた。


「命までは金に変えられない。悪いが、この依頼はキャンセルとさせてもらう」

女性は、バルサミコ卿の言葉を無視し、そう呟くと、地面に転がるトラゾウの方を一瞥(いちべつ)した。


「少年。すまないが、コイツを離してやってくれ」

女性は、リュウに向かってそう指示した。

リュウは、彼女の言葉に一瞬訝しんだものの、トラゾウを拘束していたロープを解く。


「ええい…裏切り者め!ワシをコケにした罪は重い!」

バルサミコ卿は懐から隠し持っていた短剣を取り出し、護衛の女性の方に向かって突進してきた。


「な!!」

突然のバルサミコ卿の行動に、サシャ達は完全に意表を突かれ、動きが止まった。


「ザクッ!」

だが、その凶行は、放たれた一本の矢によって阻止された。

矢は、正確にバルサミコ卿の短剣を持つ右手を射抜いたのだ。


「ぐぅぅぅ…」

バルサミコ卿は、悲鳴を上げ、力なく短剣を地面に落とした。

その手には、小さな矢が深々と突き刺さっていた。


サシャ達は矢が飛んできた方向に視線を向ける。


「アリアだ!」

サシャの視線の先には、今にも再び矢を放とうと弓を構えたアリアがいた。

その隣には、心配そうな表情を浮かべたミラが立っている。


「おーい!大丈夫?」

アリアが、安堵したような明るい声で叫びながら、ミラと共にこちらに走ってくる。

先程の正確な一矢は、アリアの的確な援護だったようだ。


「あぁ、なんとかなった」

リュウは、アリアの姿を見て、安堵の笑みを浮かべた。


「さて…」

サシャは、痛みに顔を歪めているバルサミコ卿の前にゆっくりとしゃがみ込んだ。


「檻の鍵、持っているよね?」

サシャは、静かながらも相手に圧力をかけるような声でバルサミコ卿に尋ねた。


「…はい」

護衛に見捨てられ、周囲をサシャ達に取り囲まれたバルサミコ卿に、抵抗する選択肢は残されていなかった。

彼は、震える手で素直に懐から鍵束を取り出すと、サシャに差し出した。


「アリア、ミラ。みんなを解放してやってくれ」

サシャは、受け取った鍵束をアリアに手渡した。


「うん!任せてよ!」

アリアは、鍵束をしっかりと握りしめると、満面の笑みを浮かべて檻の方へ駆け出した。

ミラもアリアの後を追うように、足早に檻へと向かった。


「しかし、どうしてエフィメラ族をこんな目に…」

リュウは、バルサミコ卿の顔を見下ろしながら、低い声で尋ねた。


「簡単な話だ。羽根は工芸品の素材に、血は医薬品の研究材料として高値で取引きされるからだ」

バルサミコ卿は、恐怖で体を震わせながら、掠れた声で答えた。


「そんな自分勝手な理由で…」

サシャの目は、静かに、しかし確実に怒りの炎を宿していた。


「仕方ないだろ!王国内で権威を保つには金が必要なんだ!金がないと平民に格下げされてしまう…格下げなんてされたら…」

バルサミコ卿は、何か想像もしたくないような恐ろしい事態を思い浮かべている様子だった。


「格下げ?」

サシャは、訝しむように問い返した。


「…文字通り貴族から平民への格下げだよ。私は、もう終わりだ…」

バルサミコ卿は、生気を失ったようにふらふらと立ち上がると、まるで抜け殻のような足取りで里の入口へと歩いていく。


「あ、どこ行くねん!」

トラゾウが、心配そうな表情で引き留めようと声をかけるが、バルサミコ卿はそれに耳を傾けることなく、虚ろな足取りで里を去って行った。


その頃、村の中央では、アリアとミラによって次々と檻の扉が開け放たれ、解放されたエフィメラ族たちが、お互いの無事を確かめ合うように集まっていた。

彼らの姿はいずれも、朝日に照らされた朝露のように清らかで美しく、幻想的な雰囲気を醸し出していた。

彼らは皆、驚くほど若々しい姿をしており、老いた者は一人として見当たらなかった。

そんな中、一人の銀髪の青年が、代表して前に出た。


「ありがとうございます。なんとお礼をしたらいいか…」

青年は、風に銀髪を優しくなびかせながら、深々と頭を下げ、感謝の意を示した。


「気にしないでください!ミラから事情を聞いて、放っておけなかったので…」

サシャは、青年の真摯な感謝の言葉に、少し照れたように微笑みながら呟いた。

その時、先程まで敵対していた護衛の女性が、トラゾウと共に前に出てきた。


「あの貴族からの依頼とはいえ、あなた方にしたことは許されることではないと思う。が、心から謝罪させてほしい」

女性は、トラゾウと共に、エフィメラ族の青年に対し、深々と頭を下げた。

その背中からは、深い反省の念が伝わってきた。

トラゾウもまた、申し訳なさそうな表情で頭を下げている。


「いえ…あなたがたは、私たちを傷つけることなく、ただ檻に閉じ込めただけでした。本当ならば、力ずくで私たちを傷つけることもできたはずなのに…」

青年は、二人の真摯な謝罪を受け止め、穏やかな笑顔でそう呟いた。


「それはほら…な?」

トラゾウは、少しバツが悪そうな困った顔をして、隣に立つ女性に視線を送った。


「本意ではなかったので…」

女性は、顔を赤らめ、恥ずかしそうに小さく呟いた。

その様子に、彼女の優しさや葛藤が垣間見えた。


「(なんだかんだで、いい奴じゃないか)」

リュウは、頭を下げるトラゾウと女性の姿を静かに見つめ、小さく呟いた。

彼らの行動に、敵意はもう感じられなかった。


「そうだ。せっかく助けていただいたのです。私たちから、ささやかですがお礼をさせていただけませんか?」

エフィメラ族の青年は、サシャ達とトラゾウ、そして女性に向き直り、丁寧な口調で尋ねた。

周囲のエフィメラ族たちも、期待と感謝の眼差しを彼らに向けている。


「けど…僕達は、たまたま助けただけで…」

サシャは、申し訳なさそうな表情で遠慮しようとしたが、隣にいたトラゾウが勢いよく割って入った。


「お!ホンマでっか!?そりゃあ、ぜひ、お願いしたいで!!」

トラゾウは、目をキラキラと輝かせ、前のめりになって答えた。


「(いや、お前が言うんかい)」

サシャとリュウは、内心でトラゾウの図々しさに呆れながらも、彼の明るさに少しだけ笑みがこぼれた。


「はい。精一杯、おもてなしさせてもらいます」

青年は、太陽のような明るい笑顔を見せた。

他のエフィメラ族たちも、彼の言葉に賛同するように、嬉しそうな表情を浮かべていた。


こうして、サシャ達は、エフィメラ族の温かい申し出を受け入れ、彼らの里で手厚いもてなしを受けることになった。

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