第48章:それぞれの行方
「誰か!回復魔法を使える者はいないか!」
「負傷者と老人、子供たちを優先的に避難させろ!」
「瓦礫が崩れそうだ!気をつけろ!」
パナンの街は、騒然とした喧騒に包まれていた。
焼け焦げた建物の瓦礫を撤去する人々の懸命な姿、運び出される負傷者を乗せた荷車。
街には、焦げ付いた臭いと、土埃が立ち込めていた。
だが、突如として、街を襲っていた水銀の人形や、溶岩のゴーレムが、まるで幻のように跡形もなく消え去った。
それは、アリアがフェネックを、トルティヤがベンガルを、それぞれ激戦の末に打ち倒したことで、彼らの魔法が解除されたためだった。
そんな中、サシャ達の姿はアフォガードのアジトにあった。
「サシャ、アリア…無事なのか…」
体のあちこちを白い包帯が幾重にも巻かれたリュウが、ソファで横になっている二人の様子を、痛ましそうな表情で見つめていた。
リュウ自身も、先日遭遇したグレイとの激しい戦いで、満身創痍の状態だった。
アリアとサシャはそれぞれ、門へ続く橋の上と、巨大な炎の竜巻が発生していた荒野の近くで、意識を失い倒れているのを、カタラーナの部下たちが発見し、アジトまで運び込んできたのだ。
「二人とも、酷い傷だ!デューク!早く頼む!!」
二人が運び込まれてきた時、先に意識を取り戻し、治療を受けていたリュウは、運び込まれた二人の様子を見て、顔色を変えた。
「サシャ!アリア!」
リュウは、担架に乗せられたままの二人を見て、痛む体を押して、思わず起き上がろうとした。
「あ、ダメよ。傷が開いちゃうわ」
手伝いに来ていた、女冒険者が、慌ててリュウの肩を押さえ制止する。
それでもリュウは、制止を振り切り、足を引きずりながら、ソファに横たえられた二人の方へと近寄った。
「二人は大丈夫なんですか?」
リュウは、水魔法で懸命に二人を治療しているデュークに、焦りを滲ませた声で尋ねた。
「小娘の方は、命に別状はないが、全身に大きなダメージを受けているな……小僧の方は、生きているのが不思議なほどの重傷だ。恐らく、何かしらの強力な回復魔法を使って耐え忍んだのだろう」
デュークは、両手に透明な液体を纏い、アリアとサシャの傷口に丁寧に当てながら、冷静に状況を説明した。
「(どうか、無事でいてくれよ…)」
リュウは、ただ二人を見守ることしかできず、心の中で必死に祈った。
一方で、サシャの意識は、再び精神世界へと漂っていた。
トルティヤが憑依状態を解除したことで、サシャを縛り付けていた封印は解け、自由を取り戻していた。
「すやすや…」
そして、サシャの目の前には、深い眠りに落ちたトルティヤが、穏やかな寝息を立てて横たわっていた。
「ありがとう…トルティヤ。ゆっくり休んで」
サシャは、眠るトルティヤに感謝の気持ちを込め、優しく微笑みかけると、その肩をそっと叩いた。
すると、まるで深い眠りからゆっくりと覚醒していくように、サシャの意識は徐々に現実世界へと引き戻されていく感覚に包まれた。
「はっ…!!」
サシャは、勢いよく瞼を開いた。目の前に広がったのは、見慣れたアジトの天井だった。
「サシャ!」
心配そうに、リュウが駆け寄り、声を上げた。
「リュウ…ここは…?」
サシャの意識は、まだ完全に覚醒しておらず、ぼんやりとしていた。
そして、遅れて全身を、まるで針で刺されるような強い痛みが襲ってきた。
「いたたたた…」
「おいおい。動くな」
その様子を見ていたデュークが、慌ててサシャの肩を押さえ、制止した。
「(トルティヤは、こんなになるまで戦っていたんだ…)」
サシャは、全身を襲う痛みに、改めてトルティヤの凄まじいまでの強さと、彼女が背負っていたものの大きさを感じた。
すると、近くのソファで静かに横になっているアリアの姿が映った。
「アリアは…大丈夫なんですか?」
サシャは、心配そうにデュークに尋ねた。
「骨折が一箇所に、全身の激しい打撲、それに矢による傷もある……だが、命に別状はない」
デュークは、淡々とした口調で呟いた。
その時、アリアが、眠りの中で小さく寝言を呟いた。
「むにゃむにゃ…きれいな…鳥さんがいるよぉ…」
それを見たデュークの口元に、微かな笑みが浮かんだ。
「大丈夫そうだな」
デュークのその言葉を聞いたサシャとリュウの顔にも、安堵の笑顔がこぼれた。
一方、サージャス公国 ガク城のとある一室。
「水晶が…砕けた…」
薄暗い部屋の中には、スイフト、ケープ、そして、ゴボ遺跡で負傷し、傷の治療を終えたクルペオが揃っていた。
三人は、それぞれの左指につけていた指輪を見つめていた。
それは、深淵のような黒い輝きを放つ魔水晶でできた、美しい装飾品だった。
それが、数時間前、何の予兆もなく粉々に砕け散ったのだった。
「リーダーが…まさか…」
スイフトは、信じられないといった表情で、砕けた指輪の破片を見つめていた。
「これは、リーダーの魔力を込めたものだべ。ということは…」
クルペオは、言葉の途中で喉が詰まり、最後まで言い切ることができなかった。
「…死んだ。ってことっすね」
ケープは、感情を押し殺したような低い声で、冷静にそう言い放った。
しかし、その握りしめた拳は、僅かに震えていた。
この指輪はベンガルの魔力を込めた特注品で、野狐部隊の証でもあった。
そして、それが砕けることはベンガルの死を意味していた。
「グレーとフェネックからも、一切連絡がない。恐らくは、彼らも…」
スイフトは、込み上げてくる悔しさを堪えるように、唇を噛み締め、拳を強く握りしめた。
「じゃあ、勝利者の矛の回収任務は、完全に失敗ってことっすね」
ケープは、肩を大きく落とし、落胆の色を隠せずにいた。
その時、重厚な鉄製の扉が、軋む音を立ててゆっくりと開けられた。
そこには、護衛二人を引き連れた、ラムダ公爵が立っていた。
「公爵!」
三人は、ラムダ公爵の姿を認めると、慌てて床に跪こうとした。
「よい。楽にせよ」
ラムダ公爵が、手を軽く上げてそれを制止すると、三人は跪くのをやめ、静かに立ち上がった。
「ベンガルが死んだ。コサックも戦死。グレイとフェネックも行方不明。ま、状況的に戦死したか捕虜になっていると見るべきだろう。そして、勝利者の矛も、恐らく敵の手に渡っただろう」
ラムダ公爵は、重い溜息を深くついた。
「申し訳ありません。なんと、お詫びしたらよいか…」
スイフトは、ラムダ公爵に対し、深く頭を下げた。
ケープとクルペオも、それに続くように頭を下げた。
「全くだ。貴様らには、心底がっかりした。ベンガルが集めた精鋭だからと、期待した私が愚かだったようだ」
ラムダ公爵は、呆れたように小さく呟いた。
「どんな罰でも、甘んじて受けるっす」
ケープが、俯きながら小さく呟いた。
それに対し、ラムダ公爵の背後に控えていた護衛の男が、嘲笑を含んだ声で話しかけた。
「はっ、負け犬共が。だったら、この城の便所掃除でもするか?」
背中に長棍を背負った、短髪黒髪の精悍な顔つきの男が、挑発的な笑みを浮かべながら呟いた。
「弱者は公国軍には不要です。公爵様、この者らは、いかようにいたしましょうか?」
目を閉じ、表情を一切変えない、長髪紫髪の女性が、静かで冷たい口調でラムダ公爵に問いかけた。
「ふむ…」
ラムダ公爵は、腕を組み、少し考え込むような仕草を見せると、やがて口を開いた。
「「栄光の盾」が、つい先程、私の手に渡った。臨時で雇った、とある冒険者達のおかげでな」
ラムダ公爵の口から出たのは、魔具の一つである、「栄光の盾」の名前だった。
伝承によれば、持つ者に強靭な「加護」を与えるとされ、勝利者の矛と共に所持した者は、「戦神」として称えられると言われている。
「故に、私は今、機嫌が良い。そこで、貴様らに、挽回の機会をやろうと思う」
ラムダ公爵は、三人に向かって、鋭い光を宿した目を向けた。
「…!!」
ラムダ公爵の思いがけない言葉に、スイフト、ケープ、クルペオの三人は、驚きと歓喜の入り混じった表情を見せた。
「まずは、スイフト。貴様を、野狐部隊の新たな隊長に任命する」
ラムダ公爵は、スイフトを力強く見据え、隊長への任命を告げた。
「はっ。全身全霊をもって、務めさせていただきます!」
スイフトは、再び深く頭を下げると、忠誠の証と言わんばかりに、力強く胸に手を当てた。
「そして、貴様らに、新たな任務を言い渡す」
ラムダ公爵の言葉に、三人は固唾を呑んで聞き入った。
「我が同盟国である、レスタ王国の王国軍への出向。それが、貴様らの新たな任務だ」
そして、ラムダ公爵の口から、意外な任務の内容が告げられた。
「出向…なんだべ、それは?」
クルペオは、その言葉の意味を理解しかねているような、戸惑った表情を浮かべていた。
「公爵様。恐れながら、その任務の目的と意図を、お教えいただきたく存じます」
スイフトは、ラムダ公爵の真意を測りかね、慎重に問いかけた。
「ふむ。近年、レスタ王国で、体制に対する民衆の暴動が頻発しているのを知っているだろう?」
ラムダ公爵は、事の経緯を説明し始めた。
「確か、レジスタンスが、かなり活発に動いてるとかなんとかって話っすよね」
ケープは、記憶を辿るように、小さく呟いた。
「そうだ。話では、そのレジスタンスが、近々王国軍へ大規模な攻撃を仕掛けるという情報を掴んだ。そこで、レスタ王国の国王から、我々に援軍の要請がきたのだ」
ラムダ公爵は、腕を組み、遠くを見るような眼差しで呟いた。
「それで、オラ達が行くってことだが。なるほどなぁ」
クルペオは、ようやく状況を理解したのか、納得したような表情で頷いた。
「これが、貴様らに与える最後のチャンスだ。公国の威厳に関わる重要な任務だ。失敗は、断じて許されぬ。よいな!」
ラムダ公爵は、威圧感のある声で、三人に強く言い聞かせた。
「はっ…!お任せください。必ずや、良き報告をお持ちいたします!」
スイフトは、ラムダ公爵の強い眼差しを受け止め、力強く宣言した。
その声には、並々ならぬ決意が込められていた。
「では、支度が整い次第、速やかにレスタ王国へ向かえ。以上だ」
ラムダ公爵がそう言い放つと、三人に背を向け、護衛の二人と共に部屋を後にした。
三人は、深々と頭を下げ、その背中を見送った。
そして、廊下をしばらく進んだところで、短髪黒髪の護衛が、ラムダ公爵に問いかけた。
「公爵。よろしいのですか?あんな失態を演じた連中に、重要な任務を託してしまって」
「構わぬ。レスタ王国のソルト王家には、恩を売っておきたいしな」
ラムダ公爵は、冷笑を浮かべながら答えた。その目は、野心の色を強く宿し、鋭く光っていた。
「ですが、やつらは隠密部隊。王国軍を率いることなど、できるのでしょうか?」
紫髪の護衛が、冷静な口調でラムダ公爵に尋ねた。
「王国軍を率いるわけではない。奴らには、王国内で色々と暗躍してもらう…もし、その暗躍で内乱が止まれば、それでよい。止まらねば、私が自ら大軍を率いて出陣し、王国軍に協力する姿勢を大々的にアピールする。どちらにせよ、王国には大きな恩を売れるというわけだ」
「なるほど…いずれにせよ、王国軍にとっても、公爵様にとっても、都合が良いというわけですね」
黒髪の護衛が、納得したように小さく呟いた。
「そうだ。これが成功すればレスタ王国の後ろ盾を得ることもできよう。そして、手元には栄光の盾もある…私が、サージャス公国の頂点に立つ日も、そう遠くはないだろう…」
ラムダ公爵の目は、野心の色を一層強く輝かせた。
そして、この時の彼の決定が、後に大きな火種を生むことになるのを、まだ誰も知らない。
戦いから二日後、グレイとフェネックの姿は、パナンの東門の橋にあった。
あれから二人は拘束され、カタラーナの部下の懸命な治療を受けて回復した。
そして、ある程度の事情聴取を受けたあと、カタラーナから「二度とサージャス共和国に近づかないこと」という、約束のもと、解放された。
ちなみに、解放についてはサシャ達の働きかけもあった。
左指につけていた指輪の魔水晶は砕けており、
二人は拘束中にベンガルの死を知った。
当然、二人はショックを受けたが、
体中が傷ついていることと、厳しい監視もあってか、
やがて全てを諦めたかのように大人しくしていた。
「隊長殿は死んだ…もはや公国に従う理由もない。いずれにせよ、惨敗し一度捕虜の身になった我らに帰る場所はない。フェネック、お前はどうする?」
ところどころが包帯姿のグレイがフェネックに尋ねる。
「んー、行く宛もないし…とりあえず、グレイについていこうかな!」
フェネックが笑顔でそう答える。
フェネックは片腕の義手を失いつつも笑みを絶やさないでいた。
「俺はこれから魏膳でキサラギ家の動向を探る。これは俺、個人の復讐劇だ。それでもいいのか?」
グレイが再度フェネックに確認する。
「それでもいいよ!一人でいるよりマシだよ!」
フェネックは屈託のない笑顔でつぶやく。
「ふっ…それならついてくるといい…」
グレイはそう呟くと、左指の指輪を外す。
そして、それを川に放り投げる。
「…そういうことね」
フェネックも同じく、左指の指輪を外し捨てる。
そして、グレイはパナンを去った。
その後ろをフェネックはスキップしながらついていった。
そして、戦いから三日後、サシャ達の傷はすっかり回復し、トルティヤも既に目を覚ましていた。
サシャ達の姿はパナンの南側にある小高い丘にあった。
そこにはアフォガードの墓が建てられていた。
質素な墓だった。
頑丈な木製で作られており、表面は丁寧に磨かれているものの、装飾らしいものは見当たらない。
中央には、力強い筆跡でアフォガードの名前が刻まれていた。
「…父上は最後までパナンを守るために戦った。その意志を今度は私が引き継ぐ番です」
カタラーナは墓の前に深く跪き、俯いていた。
そして、白い花の花束をそっと墓前に置くと、ゆっくりと顔を上げた。
「…」
サシャ達とカタラーナの部下たちは、静かにその様子を見守っていた。
皆、悲しみを湛えた表情をしていた。
静寂の中、黙祷が続く。
そして、しばらく経った時、カタラーナが静かに口を開いた。
「…父上、パナンと皆は私が守っていきます」
カタラーナは立ち上がり、まっすぐと墓標に向かって頭を下げた。
その表情は、先ほどまでの悲しみから一転し、強い決意に満ちていた。
サシャ達と部下も、彼女に倣って頭を下げた。
「皆さん、ありがとうございます。父上も、きっと浮かばれるでしょう」
カタラーナは、サシャ達の方を向き、感謝の言葉を述べた。
「いいえ、アフォガードさんには、色々と世話になりましたから」
サシャは、少しばかり遠慮するように小さく呟いた。
「ああ、サシャの言う通りだ」
リュウは、深く頷き、同意を示した。
「色々と、助けてくれたもんね!」
アリアは、明るい声で付け加えた。
「…奴らしい生き様じゃったの。金にうるさい奴じゃと思っておったが、少しは見直したわい」
魔導念波増幅機を伝い、トルティヤの声が聞こえた。
その言葉には、皮肉の中に、僅かながらも認めるところがあるような、複雑なニュアンスが感じられた。
「トルティヤさんも…ありがとうございました」
カタラーナは、魔導念波増幅機伝いに静かに礼を言った。
「あ、それから皆さんに、父上から手紙を預かっております」
カタラーナがそう言うと、懐から丁寧に折り畳まれた一枚の手紙を取り出した。
そして、それをサシャに手渡した。
「アフォガードさんからの手紙…」
サシャは、それを両手で受け取ると、慎重に広げ、読み始めた。
『この手紙を読んでいるということは、俺はポックリと死んだということになる。ま、99パーセントそんなことはないと思うが、念のため、書き記しておくとしよう。まずはカタラーナにだ。俺に何かあった時は、パナンを任せる。困ったことがあったら、皆や他の自警団の奴らを頼れ。お前は、俺の誇りだったよ。あっさりと死ぬんじゃねぇぞ。そして、トルティヤと未来ある少年たち。次の行き先に困っているならば、南に進むといい。俺の伝によると、マクレンのとある島で、魔具を持っている老人がいると聞いた。もしかしたら、譲ってもらえるかもな。それと、ドラゴニア王国に寄り道すると良いかもな。魔具があるかどうかは分からんが、カザの街にいる、ラウ老師という人物を訪ねてみると良い。かなりの武芸マニアで、剣術から弓術、魔法までなんでもござれの、とんでもない奴だ。もし、強さを求めるのならば、訪ねてみるといいかもしれないな。俺の知り合いだと言えば、話は通じるはずだ。ま、俺が知っているのはこの程度だ。あとはお前らで頑張れ。それと、トルティヤ。お前を捕まえられなかったことだけが、唯一の心残りだ。こっちに来たら、必ず捕まえてやるから覚悟しとけよ!』
「…なんか、アフォガードさんらしいね」
サシャは、手紙を読み終えると、どこか懐かしそうな、そして少し寂しそうな表情で苦笑いを浮かべた。
「やれやれ…懲りない奴じゃのう…」
トルティヤは、呆れたように大きく息を吐いた。
「ラウ老師か…興味深いな」
リュウは、手紙の内容に心を惹かれたのか、一人ごちるように呟いた。
「南に行くなら、珍しい生き物に出会えるかも!!」
アリアは、次の冒険に胸を躍らせ、目を輝かせた。
「じゃあ、次はマクレンに向かおうか!ついでに、ドラゴニア王国に寄り道していこう!どう?トルティヤ?」
サシャは、アフォガードの手紙に記された目的地を提案し、トルティヤに同意を求めた。
「異論なしじゃ。そうと決まれば、さっさと出発するぞ」
トルティヤは、サシャの方を向き、小さく微笑んだ。
「じゃあ、決まりだね!次はドラゴニア王国とマクレンに向けて出発だ!」
サシャは、元気いっぱいの声で宣言すると、リュウとアリアと共に、南へ続く道を歩き出した。
「皆さん、お気をつけて!もし再びパナンに訪れることがあれば、気軽に立ち寄ってくださいね!」
カタラーナは、部下たちと共に、遠ざかっていくサシャ達の背中に、笑顔で手を振った。
「ありがとうございました!」
サシャ達も、振り返り、カタラーナと部下たちに手を振り返した。
「それにしても、勝利者の矛が手に入ってよかったよ」
サシャは、腰につけた亜空袋をそっと見つめた。激戦の末に手に入れた勝利者の矛は、一つの矛となり、この中に収まっていた。
「ああ。かなり遠回りしたけどな」
リュウは、これまでの苦難の道のりを思い返し、感慨深げに呟いた。
「本当だよ!けど、皆が無事でよかったよ!」
アリアは、満面の笑みを浮かべ、二人に同意を求めた。
その笑顔は、まるで太陽のように明るかった。
「まずは、ドラゴニア王国だね!」
こうしてサシャ達は、アフォガードとの別れを胸に、パナン、そしてサージャス共和国を後にした。
彼らの次の最初の目的地は、竜人が統べる土地、ドラゴニア王国だった。




