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第36章:番人

「…」

先に動いたのは宝の番人だった。

番人は、まるで獲物を狩る捕食者のように、音もなく忍び寄り、三日月状の鎌を構えた。


「音がない…!?」

リュウが、僅かに聞こえる衣擦れの音に気づき、呟いた。


次の瞬間、番人は、稲妻が走るかのように素早く鎌を振り下ろした。

その狙いは、サシャ達の首筋だった。


「危ない!」

サシャ達は、紙一重で鎌の軌道から身を躱した。

その時、アリアは回避と同時に魔法を唱えていた。


「捕まえちゃうもん!!鎖魔法-チェーンバインド-!」

アリアの言葉と同時に、魔法陣から太い鎖が射出された。


鎖は、意志を持つ蛇のように、番人めがけて勢い良く飛んでいく。


「ガシッ」

鎖は、番人の体を絡め取り、雁字搦めにした。


「今だ!!」

リュウとサシャは、好機を逃すことなく、捕らえられた番人に向け走り出した。


「そりゃ!」

リュウは、研ぎ澄まされた刀を、番人の首筋目掛けて振り下ろした。


「これでどうだ!」

サシャは、双剣を交差させ、番人の胴体を薙ぎ払おうとした。

しかし…


「…スッ」

番人は、まるで幻のように、鎖の拘束を抜け出し、姿を消した。


そして、番人を拘束していた鎖だけが、重い音を立てて地面に落ちた。


「えっ!?消えた?」

サシャは、周囲を見渡した。


「恐らくあのマントのせいじゃな。随分と厄介なものを持っておるのぉ」

トルティヤは、番人の消え方を見て、その正体を推察した。


「何か弱点はないの?」

サシャが、トルティヤに尋ねた。


「あのマントはゴースト系のモンスターが羽織っているものじゃ。どこで手に入れたのかは知らんが、ワシの知識通りなら、インターバルがあるはずじゃ。そう何回も使えまい」

トルティヤは、冷静に説明した。


ゴースト系のモンスター。

実体を完全に持たないものと、実体をもつがアイテムを併用することで肉体を透過させることができるタイプの2種類に分けられる。

今、サシャ達が戦っているのは後者に該当するタイプだった。


「ってことは、あのマントをなんとかして、攻撃を畳み掛ければ…!」

サシャは、双剣を構え直した。


「リュウ、アリア!奴の透明化はマントのせいだ!けど、インターバルがある。だから、攻撃をし続けるんだ!」

サシャは、二人に声をかけた。


「うん!だけど、どこにもいないんだよ」

アリアが、周囲をキョロキョロと見回した。


「気配がまるでない…一体どこに」

リュウも、刀を構え、周囲を警戒した。


「どこに行ったんだろう?」

サシャも、周囲を見渡した。

その時、ゆっくりとアリアの背後に、番人が空間を切り裂くかのように現れた。


「アリア!後ろだ!」

サシャが、アリアに叫んだ。


「えっ?」

番人の鎌が、アリアの首筋目掛けて振り下ろされた。

アリアの反応が、一瞬遅れた。


「うわぁ!!」

アリアは、咄嗟にバックステップで横に回避した。

しかし、鎌はアリアの脇腹を捉え、赤い鮮血が飛び散った。


「うっ!」

アリアの顔は、苦痛に歪む。


「いたた…」

アリアは、脇腹を抑えた。

その手は、血で赤く染まっていた。

アリアの表情から、痛みが伝わってきた。


「けど、これくらい…」

しかし、彼女は痛みに耐え、再び弓を構えた。

その瞳には、諦めないという強い意志が宿っていた。


しかし、番人はその隙を見逃さず、追い打ちをかけるかのように鎌を振るおうとした。


「はっ!!」

リュウは、アリアの危機を察知し、いち早く駆け寄った。


「ガキン!!!」

鎌と刀が激しくぶつかり合い、金属音が遺跡内に響き渡る。


「大丈夫か?」

サシャが、アリアのもとに駆け寄った。

その声は、仲間の安否を気遣う優しさに満ちていた。


「うん!平気…だよ!」

アリアは、痛みを堪え、笑顔を見せた。


「(力は大したことないな)」

リュウは、鍔迫り合いの中で、番人の力を推し量っていた。


そして、鍔迫り合いから、そのまま刀に鬼のオーラを纏わせた。

刀身は、オーラを纏い、禍々しい光を放った。


荒覇吐流奥義・剛鬼あらはばぎりゅうおうぎ・ごうき!!」

リュウは、刀身を強引に押し込み、相手の鎌を弾き飛ばした。


鎌は、番人の手を離れ、宙を舞った。


「はぁぁぁっ!!」

リュウは、番人に追撃を仕掛けた。

その動きは、まるで雷霆(らいてい)のようだった。


「ザシュ!!」

番人の右腕に、刀身が深々とめり込む。

そして、そのまま右腕を切断した。


右腕は、ボトっと地面に落ちた。

その断面からは、黒い液体が溢れ出した。


「…」

番人は、痛がる素振りすら見せず、再び霧のように姿を消した。


「やった!」

サシャは、地面に落ちた右腕を見つめ、小さくガッツポーズをした。


「やはりインターバルがあったのぉ」

トルティヤの表情は、確信に満ちていた。


「どこから…」

サシャは、周囲を見渡した。


「今度は油断しない!」

アリアは、周囲の音に耳を澄ませた。


「(殺気!)サシャ!後ろだ!」

リュウが、サシャに叫んだ。


「…!!」

サシャは、咄嗟に後方を振り返った 。

そこには番人が鎌を構え、それを今にも振りかざさんとしていた。


「サシャ!使うのじゃ」

トルティヤは、サシャの肩を叩き、魔力を送り込んだ。

その魔力は、サシャの体を駆け巡り、力を与えた。


「これなら!!」

そして、サシャは、双剣にトルティヤから与えられた魔力を込めた。

双剣は、まるで生きているかのように、赤く輝き、炎を纏い始めた。


「これで…どうだ!!!」

そして、サシャは、炎を纏った双剣を、番人に叩き込んだ。


「…!!」

炎を纏った双剣が、番人の体に深々と突き刺さった。

サシャは、双剣が肉にめり込む感覚を確かに感じた。


「手応え…アリだ!」

サシャは、双剣が番人の体を捉えたことを確信した。

そして、そのまま力を込め、双剣を横に薙ぎ払った。


「ズバッ!!」

その一刀は、番人の体を斬り裂く。

その断面からは、黒い液体が溢れ出した。


「…」

そして、番人の纏っていたボロボロのマントに炎が燃え移り、瞬く間に炎に包まれ、黒煙を上げた。

そして、番人は、力を失い、地面に落下した。


「やったのか?」

リュウは、燃え盛る炎を見つめ、呟いた。


「手応えはあった…けど何か嫌な予感がする」

サシャは、警戒を解かずに呟いた。


「…」

アリアも、脇腹の痛みに耐えながら、弓を構える。その時だった。


「…」

燃え盛るマントの中から、もぞもぞと何かがうごめく。

そして、燃え盛るマントの中から何かが出てくる。


「…これが奴の姿?」

マントが焼け落ち、露わになった番人の姿に、サシャは驚愕した。


その姿は、細身で骨が浮き出ている茶色の怪物で、顔の部分には、目も鼻もなく、そこには、歯頚がむき出しの口と、のっぺりとした皮膚があるだけだった。

左腕は、異様に細長く、その先の爪は、鋭く尖っていた。

そして、リュウが切断した右腕の箇所からは、変な触手が何本も生えており、まるで獲物を求めるように、ウネウネと蠢いていた。

腹部には、先程、サシャが攻撃した傷がついていたが、番人は痛がる素振りは一切見せなかった。


「うえぇ…気持ち悪いよぉ」

アリアの顔は、嫌悪感で歪んでいた。


「化け物め…」

リュウは、再び刀を構えた。


「…」

すると、番人は、左手を掲げた。

すると、番人の頭上に、黄色く輝く魔法陣が現れた。


「…!魔法だ!!俺の近くに…!」

咄嗟に、サシャはリュウとアリアを呼んだ。


「(ふむ…魔法まで使うのか…ここからが本気といったところかのぉ)」

トルティヤの表情は、余裕を保ちつつも、僅かに警戒の色を滲ませていた。


すると、魔法陣が眩い光を放ち始める。

魔法陣の中心から、稲妻が奔り、無数の落雷がサシャ達を襲った。

雷は、まるで空を覆い尽くすように降り注ぎ、轟音と共に遺跡を震わせた。


「っ…!!魔法解除!!」

サシャは、両手を前に突き出した。

すると、サシャの両手に薄い膜が形成され、雷撃を弾き返した。


弾かれた雷は、サシャ達の周囲に次々と落ち、橋を削り、落雷地点は黒く焦げ付いた。


「…雷魔法まで使うなんて」

アリアは、目の前の光景に息を呑んだ。


「サシャの魔法がなければ今頃…」

リュウは、サシャの背中に視線を送った。


やがて、落雷が止み、静寂が訪れた。


「よし!これで!」

サシャは、再び双剣を構えた。

その双剣は、炎を纏い、熱気を帯びていた。


「さっきはよくもやってくれたね!おかえしだよ!」

アリアは、三本の矢を番人に向けて放った。

その矢は、それぞれ異なる軌道を描き、番人を狙った。


「…」

だが、番人は、矢の軌道を予測し、右手の触手で絡め取った。

矢は、触手に絡め取られ、その勢いを失い、地面に落ちた。


「えぇっ!それはズルいよ!」

アリアは、頬を膨らませて抗議した。


「いや、おかげでスキができた!」

サシャは、アリアの言葉を遮り、番人に近づいた。

その剣には、先程よりも激しい炎が纏っていた。


「もう一度…喰らえ!」

サシャは、双剣による渾身の一撃を番人に向けて放った。


「ガキィィィン!」

しかし、番人は、左の爪で防御した。

爪は、まるで鋼鉄のように硬く、双剣の攻撃を受け止めた。


「くっ…!!(なんて力なんだ)」

サシャは、双剣を押し込んだ。

しかし、番人の防御は固く、双剣は一歩も進まなかった。

激しい炎の熱がサシャを襲い、汗が流れ落ちた。


「…」

そして、番人は、左腕を払った。


「うわっ!」

サシャの双剣は、弾き飛ばされ、宙を舞った。


「カランカラン」

幸いにも、双剣は奈落に落ちることなく、橋の上に落下した。

しかし、その衝撃は大きく、サシャの腕は痺れていた。


「…」

そのまま、番人は、右手の触手を鞭のようにしならせ、サシャに向かって振りかざした。


「うっ!」

サシャは、咄嗟に両腕で防御した。

しかし、ぬめぬめとした触手がサシャを捉える。


「ぐうぅぅ!」

サシャは、触手の一撃を受けて吹き飛ばされた。

そして、そのまま橋の欄干にぶつかり、衝撃で息が詰まった。


「ぐわっ…」

体を激しくぶつけ、体中が悲鳴を上げた。

骨が軋み、内臓が揺さぶられるような痛みがサシャを襲った。


「サシャ!!」

リュウは、サシャの身を案じ、叫んだ。


「大丈夫…平気だよ」

サシャは、フラフラしながら立ち上がった。


「(この番人…この姿になってからパワーが増しておるわ)」

トルティヤは、番人の変化にいち早く気がついていた。


「ならばもう一度…」

リュウは、刀にオーラを込めた。

刀身は、鬼のオーラを纏い、禍々しい光を放った。


荒覇吐流奥義・剛鬼あらはばぎりゅうおうぎ・ごうき

リュウは、爆発的なスピードで番人に迫った。


「…」

番人は、触手をリュウに向けて放つ。

触手は、まるで生きた蛇のように、リュウを捉えようとした。


「無駄だ!」

リュウは、飛んできた触手を斬り落とす。


「ボトッ」

触手は、地面に落ちた。

落ちても、触手はウネウネと蠢いていた。


「うぉぉぉ!!」

そして、リュウの鋭い一撃が番人の体を深々と斬り裂いた。


「…」

番人の体が更に斬り裂かれ、黒い血が吹き出した。

しかし、先程と同じく、番人は痛がる素振りを見せなかった。


「くっ、ダメか!」

リュウは、バックステップで距離を取った。

その表情は、僅かに焦りを滲ませていた。


「不死身なのかな?」

サシャは、地面に落ちた双剣を拾いながら呟いた。


「いや、そうでもなさそうじゃ。あれを見るのじゃ」

トルティヤは、番人に向けて指をさした。

その瞳は、番人の傷口を捉えていた。


番人の切り傷の奥から、赤いコアのようなものが光っていた。

その光は、まるで心臓のように、脈打っていた。


「ワシの経験から言えば、この手のモンスターは、あれが弱点じゃろう」

トルティヤは、確信を持って呟いた。

その言葉は、経験に裏打ちされた確信に満ちていた。


「なるほど…ならそこを狙えば…」

サシャは、赤いコアを見つめた。


「リュウ、アリア!傷口の奥にある赤いコアが弱点かもしれない!」

サシャは、リュウとアリアに伝えた。


「赤いコア…なるほど。確かにそこが怪しいな」

リュウは、傷口の奥にあるコアを見つめた。


「うん!そこを狙えばいんいだね!」

アリアの表情は、苦痛に歪んでいたが、目は赤いコアを捉えていた。


「…」

番人が再び左手を掲げると、番人の頭上に、再び魔法陣が広がった。

魔法陣は、先程よりも大きく、複雑な模様を描いていた。


「また、魔法を放つつもりだ!」

リュウが叫んだ。


「また防がなきゃ…いや待てよ?」

サシャは、魔法を警戒した。

しかし、同時に、番人の体がスキだらけであることに気がついた。


「二人とも、頼みが…」

サシャは、リュウとアリアに呟いた。


「なんだ?」

リュウが、サシャの方を振り向いた。


「僕達二人で番人の気を引きつけよう!」

サシャがリュウに提案する。


「そして、アリア…前にタタラ峠で使っていた爆発する矢は使えるか?」

サシャは、アリアに尋ねた。


「うん!1回だけなら!」

アリアは、ポーチから一本の矢を取り出した。

その矢は、先端に黒い筒状の爆薬が仕込まれており、見た目にも危険な雰囲気を漂わせていた。


「僕とリュウが番人の気を引きつけるから、スキをみて奴の赤いコアにそれを放ってくれるかい?」

サシャは、アリアに頼んだ。


「うん!任せて!」

アリアは、自信満々に呟いた。


「よし…リュウ行こう!」


「任せろ」

サシャとリュウは、番人に向かって素早く駆け出した。


「…」

番人は、魔法の標的をサシャとリュウに向ける。


次の瞬間、無数の赤い落雷がサシャとリュウに向けて落ちてきた。

赤い雷は、まるで空を覆い尽くすように降り注ぎ、轟音と共に遺跡を震わせた。


「くっ!」

リュウの横に雷が落ちた。

橋の破片がリュウの頬をかすめ、赤い筋が浮かび上がった。


「はっ!」

サシャは、右手を掲げ、雷を弾き返した。

薄い膜は、まるで鋼鉄の盾のように、雷撃を阻んだ。


その時、番人は、左手を掲げ続け、微動だにしなかった。


「チャンスは一度だけ…だけど、私なら…絶対できる!」

アリアは、弓を構え、深呼吸をし、ゆっくりと息を吐き、集中力を高める。

そして、赤いコアを捉え、狙いを定めていた。


「ここ!!」

アリアは、渾身の力を込め、矢を放った。

その矢は、まるで流星のように、番人めがけて真っ直ぐ飛んでいった。


「ザシュ」

爆薬を仕込んだ矢は、赤いコアに突き刺さった。


「…!」

番人は、苦悶の声を上げ、体を震わせた。

そして、魔法が中断され、魔法陣は、光を失い、消え去る。

同時に落雷も止んだ。


「サシャ、リュウ!離れて!」

アリアは、二人に叫んだ。


「あぁ!!」

二人は、アリアの方へ戻った。

次の瞬間。


「ドカーン!!」

激しい爆発音が周囲に響き渡った。

爆発は、赤いコアを中心に、衝撃波を放出し、周囲の空気を震わせた。

橋の上に、砂塵が舞い上がり、火薬の微かな匂いが漂った。


「…」

サシャ達は、砂塵が晴れると、ゆっくりと目を開けた。


すると、目の前には、上半身を吹き飛ばされた番人が、下半身だけを残して立っていた。

その体は、黒焦げになり、煙を上げており、生命の鼓動を感じられなかった。


「やった…!やったよ!」

サシャは、喜びに満ちた表情を浮かべた。


「アリアのおかげだ」

リュウは、アリアに呟いた。


「いやいや、二人が引きつけてくれたから集中できたんだよ!」

アリアは少し頬を赤らめた。


「これでワシらを邪魔する者はおらぬ。さて、魔具を取りに行こうぞ」

トルティヤは、ニコニコしながら呟いた。


サシャ達は、祭壇へ向かう。

そして、棺の前に立った。


棺は、黒く、重厚な石でできており、古代文字らしきものが刻まれていた。


「この中に勝利者の矛(ウィナーズスピア)が…」

サシャは、息を呑んだ。


そして、重厚な棺の蓋をゆっくりとずらした。

棺の蓋は、重く、ギシギシと音を立てた。


「おぉ!やはりあったのぉ…」

トルティヤは、目を輝かせた。


棺の中には、骸骨となった死体があり、その手には、鉄製で下部に石突がついた柄が握られていた。


「これは…勝利者の矛(ウィナーズスピア)の柄の部分…なのか?」

リュウは、それをまじまじと見つめた。


「なんだか地味だね…」

アリアは想像と違った見た目に首をかしげる。


「ついに…」

サシャは、それを手に取り、亜空袋(ポータルバック)にしまった。


「よし、これで柄の部分はワシらのものじゃ。あとは刃の部分を奴らから奪うだけじゃ!」

トルティヤは、意気揚々と呟いた。


「そうだね…これだけじゃ勝利者の矛(ウィナーズスピア)は完成とはいかないもんね」

サシャが呟いた。


「けど、奴らは強い。どうやって取り返すかだ…」

リュウが考え込んだ。


「…ま、それは後で考えよう!」

サシャがリュウに呟く。


「そうじゃな…。まずは撤退じゃ」

そう呟くと、トルティヤはサシャの肩を叩いた。

すると、サシャとトルティヤが入れ替わる。


「ほれ。ワシの手を握れ」

トルティヤは、リュウとアリアに促した。

二人は頷くとトルティヤの手を握った。


「転送魔法-韋駄天の長靴(いだてんのながぐつ)-」

そう魔法を唱えると、サシャ達の姿は遺跡から消えた。


-それから数十分後-

未開の遺跡に二つの影があった。

その影は、遺跡の奥へと進んでいった。


「おいおい。随分と派手にやってくれたな」

コサックは、下半身だけになった番人の亡骸や焦げた橋を見つめ、ビスケットを頬張りながら呟いた。


「残念ながら…棺は開けられてるっすね」

ケープは、棺を見つめ、感情を失った機械のように呟く。


「視れるか?」

コサックがケープに尋ねる。


「…今やるっす」

すると、ケープは目隠しをずらした。

その瞳孔は、白く、十字型になっていた。


そして、ケープは、棺の前を凝視した。

すると、緑色の粒子が集まり、先程までのサシャ達の行動を再生し始めた。


粒子は、サシャ達の動き、表情、言葉を細部まで再現し、まるでその場にいるかのような臨場感を作り出した。


「先客がいたようっすね。どうやら、転送魔法で逃げたみたいっす」

ケープは、再生された光景を見つめ、冷静に分析した。


「追えるか?」

コサックが尋ねた。


「もちろんっす…!」

ケープは、更に目を見開いた。

その瞳孔は、まるで万華鏡のように 、十字架から、より複雑な模様を描き始めた。


緑の粒子は、サージャス共和国の地図を形成し、まるで生きているかのように、脈打ち始めた。

そして、一点に粒子が集中する。

その場所は、「パナン」を示していた。


「見つけたっす。どうやらパナンに移動したっぽいっす」

そう呟くと、ケープは目隠しを戻した。


「また長旅になるな…ま、回収しないとリーダーに怒られちまうし…行くか」

コサックは、だるそうに呟いた。


「そうっすね。説教はゴメンっす」

ケープは、感情のない声で答えた。


こうして二人は、未開の遺跡を後にし、パナンに向かった。

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