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第35章:未開の遺跡

サシャ達は温泉を発ったあと、更に南に向かっていた。

いつの間にか道は途切れ、周囲はたくさんの木々に囲まれ、鳥や獣の鳴き声が森の中に響いていた。

しかし、その鳴き声も、どこか遠く、時折、不気味な静寂が森を包み込んだ。


苔むした古木が、まるで巨人のようにそびえ立ち、その枝葉は、まるで空を覆い隠すように生い茂っていた。

地面には、ゼンマイのように先が丸まっている白い植物が、不気味なほど群生していた。


そして、大陸の南方に近づいているためか、周囲は風一つなく、じっとりと肌にまとわりつく湿気と、焼け付くような暑さだけが、サシャ達を襲っていた。


「暑いよぉ」

アリアは、首筋を拭った。

その顔は、茹でダコのように赤くなっていた。


「それなら、そのポンチョを脱げばいいんじゃないか?」

サシャが、アリアに提案した。

その声は、少しばかり呆れていた。


「確かに!なんでそれを考えつかなかったんだろう」

アリアは、慌ててポンチョを脱ぐ。

そして、薄い黒色の服、1枚になる。


「うん!少し涼しくなった!」

アリアは、満足して頷いた。


「…それだけ、南に近づいているってことだな」

リュウは、草木をかき分けながら呟いた。


「早いところ遺跡を見つけなきゃだ」

サシャ達は、懸命に周囲を探索した。


しかし、情報は「南にある未開の遺跡」というだけだった。

あまりにも情報が少なく、探索は難航していた。


「といっても、広すぎるよ…」

サシャの表情は、疲労の色を隠せなかった。


「さすがに…このままでは埒があかないのぉ」

トルティヤは、効率的に遺跡を探し出す方法を考えた。


「(あの魔法を使えれば、もしかしたら…)小僧。ワシと代わるのじゃ」

普段よりも真剣な声で、サシャを呼んだ。


「何かいい考えが浮かんだの?」

トルティヤに尋ねた。


「浮かんだから言っておろう」

そう呟くと、サシャの肩を叩いた。

そして、サシャとトルティヤが入れ替わる。


「小僧、小娘。ワシの手の上に手を重ねろ」

トルティヤは、リュウとアリアに命じた。


「あ、あぁ。こうでいいか?」

リュウは、戸惑いながらもトルティヤの手の上に手を重ねた。


「うん!こうかな?」

アリアも、リュウの手の上に手を重ねた。


「お主は目を閉じておれ。ワシのイメージが流れてくるはずじゃ」

トルティヤは、サシャに呟いた。


「わかった!」

サシャは、言われた通り、目を閉じた。

その意識は、内へと向かった。


「それでよい…透視魔法-万視天眼(ばんしてんがん)-」

トルティヤが魔法を唱えると、重ねた手が青白く光りだした。


サシャ達の脳内に、トルティヤが見ている風景がビジョンとなり、一気に頭の中をよぎった。


それは、まるで万華鏡のように、様々な風景が次々と現れては消えていくようだった。


ビジョンは、南、西…あちこちを映し出した。


鬱蒼と生い茂る木々、奇妙な形をした岩、そして、得体の知れない獣の影。

そのどれもが、不気味な雰囲気を醸し出していた。


そして、現在地より少し東を映し出した時だった。

ビジョンが、一瞬、静止した。


森の中に、苔だらけの崩れた石柱が立っていた。

その近くに、苔と土に覆われた、地下へ続く階段が、トルティヤの眼に映し出された。


「…!!…見えた!!!」

トルティヤは、目を開けた。

その瞳は、興奮で輝いていた。


「僕も見えた!あの階段のところだよね?」

アリアは、興奮した様子で言った。


「あぁ、俺も同じものを見た」

リュウも、トルティヤと同じものを見たようだった。


「あれが未開の遺跡…」

その風景を見たサシャの声は、小さく震えていた。


「よし!ここから東にいったところじゃ!…ほれ、さっさと行くぞ!」

トルティヤは、サシャの肩を叩いた。

その表情は、早く遺跡に行きたくてたまらないようだった。


「うわっ!」

サシャは、突然の交代に、少し戸惑っていた。


「最近、よく入れ替わるな…」

サシャの様子を見て、リュウが呟いた。


「まぁ、もう慣れたよ…」

サシャが、苦笑いしながら呟いた。


こうして、サシャ達は東へと進む。

森は、どこまでも木々が生い茂り、太陽の光は、木々の葉に遮られ、薄暗い空間が広がっていた。

足元には、湿った土と苔が広がり、時折、ぬかるみに足を取られた。


周囲は、先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返り、時折、木々の葉が擦れ合う音だけが、静寂を破った。


やがて、サシャ達は、轟音を立てて流れ落ちる滝の前にたどり着いた。

滝は、切り立った崖から白い水のカーテンを広げ、水しぶきが、周囲の空気を涼やかにしていた。


「ちょうどいいや、少し、休憩していこう!」

サシャは、滝の近くの岩に腰を下ろした。


「そうだな。ちょうど喉も乾いたところだ」

リュウも、滝の近くを流れている小川に行くと竹筒に水を汲んだ。


「わぁ!すごい綺麗な水だ!」

アリアは、滝壺に近づき、水面を覗き込んだ。


「それにしても、本当にあそこに遺跡があるのかな?」

サシャは、滝を見ながら呟いた。

その声には、少しの不安が混じっていた。


「透視魔法で見たのだから、間違いないだろう。問題は、中がどうなっているかだ」

リュウは、腕組みをしながら呟いた。


「まぁ、入ってみればわかるじゃろ」

トルティヤは、余裕そうな笑みを浮かべた。


サシャ達は、滝の近くで少し休憩した後、再び東へと歩き始めた。

滝の音は、次第に遠ざかり、再び、森の静けさがサシャ達を包み込んだ。

そして、しばらく歩くと、サシャ達は目印となる崩れた石柱を見つけた。


「ここか!」

サシャは、目の前にある崩れた石柱を見上げた。

その石柱は、苔と蔦に覆われ、まるで森に溶け込んでいるかのようだった。


「この特徴からして間違いないだろう」

リュウが、崩れた石柱をまじまじと見つめた。


「あ!ここに階段があるよ!」

アリアが、石柱の陰に隠れるように存在する階段を見つけた。


「本当だ…本当にここが…!」

サシャは、階段を見下ろした。

階段は、周囲からは分からないほど、土と苔に覆われていた。


サシャは、胸が高鳴るのを感じた。

それは、魔具ハンターとしての本能なのだろう。


「透視魔法を使った時、他に遺跡らしい場所はなかった。もちろん、ワシの魔法の範囲外だったという可能性も否定できん。じゃが、直接確かめるほか、なかろう」

トルティヤが呟いた。


「よし。中に入ってみよう」

サシャ達は、ランタンを片手に、ゆっくりと階段を下り始めようとした。

だが、サシャが何かにぶつかる。


「あいたた!」

サシャがしりもちをつく。


「大丈夫?」

アリアがサシャに駆け寄る。


「何かある…」

サシャが目を凝らし前方を見つめる。

すると、そこには複雑な模様をした透明な結界が張られていた。


「そういえば、(アフォガード)が結界がどうこう言っておったのぉ。高度な結界術じゃが…お主ならなんとかなろう」

トルティヤは精神世界にいるサシャを見つめる。


「あぁ…大丈夫」

サシャは頷くと結界に触れる。


「…魔法解除」

そう呟くと結界にヒビが入る。


「パリーン!!」

結界は音を立てて粉々に砕け散る。


「わぁ…サシャ、そんなことができるんだ!」

アリアはサシャの魔法に感激しているようだった。


「さ、行こう。足元に気を付けて…」

そして、階段を下りるにつれて、周囲はますます暗くなり、ひんやりとした空気が肌を撫でた。


「暗いな…」

リュウは、ランタンの光を頼りに、慎重に周囲を見渡しながら先へ進んだ。


通路は、ひんやりとした空気が淀み、湿った土と苔の匂いが鼻をついた。

壁には、不気味な模様が刻まれ、時折、何かの鳴き声が暗闇から聞こえてきた。


「なんかお化けとか出てきそう!」

アリアの瞳は、暗闇を警戒するように、キョロキョロと動いていた。


「本当に暗いね。ランタンの光がなかったら終わりだ…」

サシャは、手元のランタンの光を見つめた。


その時、サシャは、足元で何か硬いものを踏みつけた。


「なんだろう?」

サシャがランタンで照らされた足元を見る。


「うわっ!」

サシャは、咄嗟に足を上げた。


「…ど、どくろ!?」

アリアが驚く。

そこには、いくつかのドクロが転がっていた。

風化して白くなったドクロは、ランタンの光を鈍く反射していた。


「おそらく、ここに来た冒険者たちの成れの果てだろうな」

リュウは、ドクロを見つめて冷静に分析した。


「とにかく慎重に進もう」

サシャの言葉に、リュウとアリアは頷いた。


サシャ達は、遺跡の通路を更に進んだ。

通路は、迷路のように入り組んでおり、壁には苔が生い茂り、一部の壁はボロボロに崩れ、土がむき出しになっていた。

天井からは、時折、水滴が落ちてきて、冷たい雫が首筋を伝った。


「崩れたりしないかな?」

サシャが、壁の様子を見て呟いた。


「安心せい。(アフォガード)のアジトに転送魔法の印をつけておる。いざとなったらそこまでトンズラじゃ」

トルティヤは、胸を張って言った。

その表情は、自信満々だった。


そして、サシャ達が更に通路を進むと、開けた広間に出た。


「うわぁ…綺麗だ…」

サシャは、その光景に息を呑んだ。

広間には、エメラルドグリーンの鉱石がたくさん点在しており、緑色の光を放っていた。

その光は、まるで宝石のように輝き、広間全体を幻想的な雰囲気に包んでいた。


「あ!…なんだろう、この生き物は?」

アリアが、近くに何かを見つけた。

それは、緑色の毛玉に身を包み、手足が生えた謎の生き物だった。

その生き物は、リスのようにちょこちょこと動き、愛らしい仕草を見せていた。


「かわいい〜!」

アリアは、毛玉の生き物を見つめた。


「キュィー」

しかし、毛玉の生き物は、アリアに気がつくと、手足を器用に動かして壁の割れ目に逃げていった。


「わぁ…逃げちゃったよ」

アリアは、肩を落とした。

その表情は、少し寂しそうだった。


「あそこにも見たことがない生き物が飛んでるな」

リュウが、広間の空を見上げた。

そこには、小型の翼竜らしき生き物が空を飛んでいた。

その翼は、薄緑色に発光しており、その姿は、まるで妖精のようだった。


「すごい…こんな生き物がいたなんて」

アリアは、目をキラキラと輝かせた。


「ワシも初めて見る生き物じゃ。おそらく、あの羽根はバクテリアか何かが付着して発光しておるのじゃろう」

トルティヤの声には、感嘆の色が滲んでいた。


「トルティヤが知らない生き物がいるなんてね…世界は広いや」

サシャが呟く。


そんな風景を眺めつつ、広間の奥へ奥へと進んだ。

その時だった…


「ベチャ」

サシャの目の前に、天井から何かが落ちてきた。

それは、粘液を滴らせ、ぬめぬめとしていた。


「なんだ?」

サシャは、身構えた。

そして、ランタンで落ちてきたものを照らしてみた。

そこには、ワームのような、2メートルくらいの水色でウネウネとした軟体動物がいた。


その体は、ぬめぬめとした粘液で覆われ、不気味な光沢を放っていた。

軟体動物は、サシャ達を威嚇するように、体をくねらせた。


「また見たことのないモンスターだ!」

アリアが、弓を構えた。


「スライム…ではないのお」

トルティヤの表情は、困惑していた。


スライム。

大陸内の洞窟や遺跡に存在するとされている生物。

口からベトベトする粘液を吐いて攻撃してくる。

物理攻撃には、そこそこ強いが魔法には弱いという特徴がある。


しかし、目の前にいるのはそういった雰囲気がなかった。

目の前の軟体動物は、スライムのように不定形ではなく、ワームのような形状をしていた。


「よく分からぬが…斬ってみればよかろう」

リュウが、刀を抜き、モンスターに斬りかかった。


「ズバッ」

モンスターは、一刀のもとに両断された。

しかし、分断されたモンスターは、息絶えることなく2匹に分裂して復活した。


「なにっ!?」

リュウは、バックステップで下がる。

その顔には、驚愕の色が浮かんでいた。


「増えた?」

その生態に、サシャは冷や汗をかいた。


そして、モンスターは、おかえしと言わんばかりに、口から蒼い弾丸を放った。

蒼い弾丸は、サシャ達をめがけて飛んできた。


「危ない!」

サシャ達は、咄嗟に回避した。

蒼い弾丸は、遥か後方の壁に直撃した。

その弾丸が直撃した壁は、白く凍りついていた。


「氷属性か…触れたら危険だ」

サシャが、凍った壁を見て呟いた。


「ねぇ!あれ!」

アリアが、指をさした。

天井を見上げると、そこには、三匹の同じモンスターが張り付いていた。


「ベチャ」

そして、先程の攻撃に反応したのか、同じ三匹のモンスターが天井から落ちてきた。


「厄介なモンスターだ…どうしようか」

サシャとリュウは、顔を見合わせた。


「刀で攻撃するのは駄目だな。それなら…」

リュウは、刀を鞘に納めた。

そして、水魔法を唱えようとする。


だが、その前にアリアが前に出た。

その表情は、真剣そのものだった。


「僕に任せて」

そう呟くと、アリアは弓を構えた。


「えいっ!」

そして、先端に袋がついた矢を放つ。


「べシャッ!」

袋がついた矢は、モンスターの手前で破裂した。

袋に入った液体は、モンスターにかかった。


「グギュウ…」

モンスターは、液体を浴びて、体をくねらせた。


「からの…」

そして、今度は先端に火のついた矢を引き絞る。

その矢は、炎を纏い、赤く輝いていた。


そして、アリアは、その矢をモンスターに向けて放った。


火の矢は、一直線にモンスターに向かって飛んでいき、モンスターの体に突き刺さった。次の瞬間。


「ボワッ!!」

炎が勢い良く燃え広がり、モンスターを包み込んだ。

炎は、モンスターの粘液を燃やし、黒煙を上げた。


「ギュゥゥゥゥ!」

モンスターは、苦悶の声を上げ、体をくねらせた。

炎はそのまま勢いを増し、モンスターを焼き尽くした。

やがてモンスターは、黒焦げになり、崩れ落ちた。


「おぉ!アリアすごいじゃん!」

サシャは、アリアの技に目を輝かせた。


「えへへ。これが僕の新しい必殺技「火炎矢」だよ!」

アリアは、胸を張って言った。


「…技名がシンプルすぎる気がするのは俺だけだろうか」

リュウは、ボソッと呟いた。


「そこはいいの!」

アリアは、ムキになり、リュウに言った。

その頬は、少し赤くなっていた。


「(厄介なモンスターじゃったが…こやつら少しずつ成長しておるのぉ)」

トルティヤは、戦闘の様子を見て、ニコリと微笑んだ。


「とにかく、これで先に進める!」

サシャ達は、モンスターを倒し、再び歩き始めた。

広間を抜け、さらに奥へと進む。


どれだけ奥に進んだのだろうか。

サシャ達は、遺跡が鉱石が煌めく洞窟から、天井に亀裂が入り陽の光が差し込み、石畳が続くエリアへとたどり着いた。

そこは、まるで別の場所に来たかのように、雰囲気が変わっていた。


「さっきとは雰囲気が違うね」

サシャが、辺りを見渡して呟いた。


「あぁ。まるでゴボ遺跡みたいだ」

リュウが、今の遺跡が、先日行ったゴボ遺跡に類似していることに気がついた。


「恐らく同じ古代人の一族が造ったのじゃろう。これは勝利者の矛がありそうな…」

その時、トルティヤが何かに気がついた。


「やはり…魔具の気配じゃ」

トルティヤが低い声で呟いた。


「え?どこ!?」

サシャが、トルティヤに尋ねた。


「どうした?」

リュウが、サシャに尋ねた。


「トルティヤが魔具の魔力を感知したんだ」

トルティヤが、リュウに話す。


「ってことは、魔具が近くにあるんだね!早く行こうよ!」

アリアが、目を輝かせた。


そして、サシャ達は、遺跡を駆け、石畳の通路を、ひたすら奥へと進んだ。


「ここを右じゃ!」

そして、トルティヤの言うとおりに道を進んだ。

通路を曲がり、さらに奥へと進むと、再び広い広間に出た。


「ここかな?」

サシャ達は、広間を見渡した。

部屋の奥には、祭壇と大きな棺があった。

そこへは、一本の巨大な橋がかけられていた。


橋は石造りで、苔が生えていた。

そして、橋の下は、暗く果てしない奈落が続いており、そこから冷たい風が吹き上げていた。


「魔具の気配はあの棺からじゃ!」

トルティヤが、奥の棺を指さした。

棺は、黒く、重厚な石でできているようだった。


「行こう!」

サシャ達は、棺に向かって走り出した。

しかし、その時だった…


「ブォォォン」

橋の下から、何かがサシャ達に近づいてきた。

それは、重く、不気味な音を立てていた。


「何か来る!」

サシャ達は、立ち止まった。

そして、何かがサシャ達を立ちはだかるかのように、橋の上に降り立った。


「これは…宝の番人といったところかのぉ」

トルティヤは、その姿を見て息をのんだ。


「…」

それは、ボロボロになった白いマントを纏い、片手には三日月状の鎌を持っていた。


マントは、風に揺れ、その下にある骨らしきものが、時折、垣間見えた。

その表情は、マントに隠れており、底知れぬ不気味さがあった。

それは、まるで死神や幽霊のように、ふわふわと宙に浮いていた。


「やるしかない!」

サシャは、双剣を構えた。


「今の俺達ならやれるはずだ!」

リュウも、刀を抜いた。


「援護は任せて!」

アリアも、弓を構えた。


こうして、サシャ達は、宝の番人と向かい合う。

その場には、三人の決意と緊張感が張り詰めていた。


一方、サージャス共和国 南部の密林 とある集落にて。


「…知ってることは話しただろう!もう見逃してくれよ!」

ひとりの村人が、尻込みをして命乞いをした。

その顔は、恐怖で青ざめていた。


「だってさ。どうする?ケープちゃん」

右手に金砕棒を持った上半身裸の男が、近くにいた少女に尋ねた。


「共和国の奴らの命なんて知らんっす」

ケープと呼ばれた少女は素っ気なく呟く。

その容姿は白髪で目元は黒い布で覆われていた。

その表情は分からないが、明らかに命に対して無関心なのが伝わってきた。


「そう言うと思った」

男が、金砕棒を振りかざした。

その動きは、躊躇がなかった。


「ひっ…」

金砕棒は、そのまま村人の頭を砕き、辺りに血しぶきが飛び散った。


「で、どこだっけ?」

男は、血まみれになった金砕棒を手に取ると、路上の露店に売られていた果物を手に取り、ケープに尋ねた。


その表情は、何事もなかったかのように、平然としていた。


「ここから、がっつり東。ドラゴニアの国境付近っす。さっき殺した村人が言ってたでしょ?コサックの兄貴ってやっぱアホっすね」

ケープは、男をいじるように呟いた。


「いやぁ、腹が減ると大事なことを忘れちまうんだよ」

コサックと呼ばれた男は、血まみれになったまま果物を頬張った。

その口元には、果汁と血が混ざり合っていた。


「いつものことなので慣れたっす…ま、それ食ったら行きましょ」

二人の周りには、老若男女問わず、多くの骸が転がっていた。

骸は、無惨な姿で倒れており、集落は、まるで地獄絵図のようだった。

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