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第29章:連中

「んだば。さっさと終わらせるべ」

魔導師が号令を出すと、影の兵士たちは、黒い靄を纏い、鋭い剣を振るう。


その動きは、まるで生きている影のようだった。


「とおっ!やっ!」

サシャは双剣に魔力を込め、回転するように振るう。


斬られた影は、黒い煙を上げ、消滅していく。

しかし、その数はあまりにも多く、サシャの体は徐々に傷だらけになっていく。


「くらえ!!」

アリアはスキを見て、魔導師へ弓矢で攻撃する。


「無駄だぁ。復元魔法-キロトノウス-!」

魔導師の横に魔法陣が現れる。


魔法陣は、赤黒い光を放ち、歪んだ空間を作り出す。

そこから、頑丈そうな甲殻をまとった恐竜が現れる。


「ガキンッ!」

矢は、恐竜の甲殻に当たり、火花を散らして弾かれた。


「うー!それはズルだよ!!」

アリアは頬を膨らませ、不満をあらわにした。


その時、アリアの視界に、負傷し、お腹を押さえるリュウと大太刀を構えた男が見えた。


「リュウ!」

アリアは咄嗟に男に向けて矢を放つ。

アリアの放った矢は、風を切る音を立て、男へと向かう。


「邪魔をするな」

男は、矢の軌道を読み、大太刀で弾き飛ばした。

矢はあえなく弾かれ、宙を舞い、地面に突き刺さった。


「すまない。アリア」

そのスキにリュウが後ろに下がる。

リュウは息を乱し、額に汗を浮かべていた。


「大丈夫なの?」

アリアが心配そうな表情をする。


「俺はいい。サシャの方を…」

リュウはサシャの方に視線を向ける。

サシャは一人で影の兵士と戦っていた。


「そりゃ!とぉ!」

サシャの双剣は、何度も影を斬り裂き、その度に黒い煙が立ち上った。


「さで。いづまでもつべか」

魔導師は、サシャの苦しむ姿を見て、嘲笑を浮かべた。


「くっ…」

サシャは傷だらけになっていた。

そして、体に走る痛みに顔を歪めた。


サシャの握る双剣は、震え、今にも落ちそうだった。

その時、トルティヤがサシャに話しかける。


「ええい…これでは埒が明かぬ。まだ魔力が50%くらいしか戻っておらぬが…代われ。ワシがやる」

トルティヤは少し苛ついた口調で呟く。


「けど、トルティヤは魔力が…」

サシャは躊躇い、言葉を詰まらせる。


「お主の貧弱な魔法と曲芸よりはマシじゃ。ほれ。代わるのじゃ」

そう言うと、トルティヤは、サシャの肩を叩き、人格を交代する。


サシャの体から、眩い光が放たれ、髪は銀色に、瞳は赤色に変わった。


「んー?なんが姿が変わったど?」

魔導師は、トルティヤの変化に気づき、首をかしげる。

その瞬間だった。


「ザシュ!」

魔導師の片腕が宙に舞い、鮮血を撒き散らして、地面に落ちた。


「え?…なんだべ?」

魔導師は、自分の腕がないことに気づかず、きょとんとした表情を浮かべた。

そして、それに気がつくと、魔導師の顔は、驚愕と苦痛で歪んだ。


「ぐおぉぉぉ!おでの腕がぁ!腕がぁ!」

魔導師は、傷口を抑え、悲鳴を上げた。


「はえぇ…」

アリアは、目の前で起こったことに、言葉を失った。


「斬魔法-逢魔の鈎爪-」

トルティヤは魔法を唱える。

その声はいつもより冷たく残酷さすら秘めていた。


「ちょ、ちょっど待つだよ!」

魔導師は、トルティヤの殺気に怯え、後ずさった。


「ダメじゃ。ワシに危害を加えた罪は重い 」

トルティヤの右手に、黒い光が集まり、鋭い爪の形となった。

そして、それは魔導師に向かって放たれた。


「ぐっ…!復元魔法-キロトノウス-」

魔導師は、最後の力を振り絞り、恐竜を召喚する。

強固な甲殻を持った恐竜が魔導師の盾となる。


「そんな珍獣如きじゃ、ワシの魔法は止められぬ」

だが、トルティヤの斬撃は、恐竜の甲殻を紙のように切り裂く。

恐竜の体は、切り刻まれ、地面に崩れ落ちた。

そして、爪の形をした斬撃は魔導師へと迫った。


「な、ば、馬鹿な!!」

魔導師は、信じられないといった表情で、斬撃を見つめた。


「ぐはぁ…」

魔導師はそのまま後方に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

魔導師の腹部からは、大量の血が流れ出ていた。


「…ゲハッ」

魔導師は、息も絶え絶えに、地面に倒れ伏した。


「おい!」

大太刀の男は、魔導師の様子に気づき、声を上げた。


「よそ見してていいのか?」

リュウは、男の隙を見逃さず、一気に距離を詰める。


「むぅ!」

男は、リュウの攻撃をかわし、距離を取ろうとする。


「ここだ!」

リュウは刀を横に振るう。

だが、その直後、傷口が痛み出す。


「ちっ…」

リュウは、体に走る痛みに顔を歪めた。


男が気がついたかのように腹部を触る。

手には血がしっとりと付いていた。


「ほう…少しはやるな。褒めてやろう」

男の腹部には、先程リュウが付けた、浅い切り傷が残っていた。


「…ふん。ありがとうよ」

リュウは、息を整え、再び刀を構えた。

その時だった。


「ヒュンヒュンヒュン」

突如。横から銀色の大鎌がリュウを目掛けて飛んでくる。


大鎌は、鋭い風を切る音を立て、リュウへと迫った。


「くっ!」

リュウは、咄嗟に体を捻り、大鎌をかわした。


「ズコーン!」

大鎌は、建物の壁に突き刺さり、爆発したかのような衝撃を与えた。

建物はガラガラと音を立てて崩れ去り、砂埃を巻き上げ、周囲に降り注いだ。


「…なんて攻撃なんだ」

リュウは、目の前の光景に、言葉を失った。

そして、リュウは、大鎌の軌道を辿り、視線を走らせた。


「いない?」

だが、そこには何もいなかった。

リュウの視線の先には、崩れた建物の瓦礫と砂埃だけがあった。


「ふーん、クルペオたん。やばそう。これ。死んじゃうんじゃない?」

すると、いつの間にか、倒れた魔導師の横に両腕が義手になっている少女がいた。

少女は、しゃがみこみ、ひらひらと手を振って、倒れた魔導師の様子を観察していた。


「(むっ!いつの間に!!)水魔法-断罪の礫(だんざいのつぶて)-!」

トルティヤは、少女の出現に気づき、即座に攻撃魔法を放った。

水の塊は、高速で少女へと飛んでいく。


「…!!」

魔法が直撃する。

水の塊によって、少女の肉体は穴だらけとなり、無残な姿となる。


「(やったか?)」

精神世界からサシャは、少女が倒れたのを確認し、安堵した。


だが、少女の肉体は銀色の液体となり溶けていった。


「これは水銀魔法か…」

トルティヤは水銀が流れた方向に視線を向ける。


「大当たり!さっきの攻撃も、君が水魔法を放った相手も…全部私の魔法ってところかな」

建物の入口から少女は、何事もなかったかのように、再び姿を現した。


「てなわけで君たちの相手は…私」

少女は、両手を広げ、挑戦的な態度を示した。


「お主…戦わないじゃなかったのか」

大太刀の男は、少女の態度に、不満を漏らした。


「よかったじゃないか。お仲間が助けにきてくれて」

リュウは刀の柄を強く握る。


「ぬかせ。貴様らごとき拙者一人で十分…」

そして、二人は、再び刃を交え、激しい斬り合いを始めた。


「(小僧はまだまだやれそうじゃの…ならば…)小娘!こいつの魔法は強力じゃ!十分に注意せい!」

トルティヤは、アリアに警告を発した。


「うん!わかった!」

アリアは、トルティヤの言葉に、頷き、弓を構えた。


「じゃあ、一気に片付けてしまおうかな。水銀魔法-銀色細石(ぎんいろさざれ)-」

少女が魔法を唱えると指先から、水銀でできた太い針がトルティヤとアリア目掛けて飛んでくる。


「風魔法-風雲月露(ふううんげつろ)-!」

トルティヤとアリアの周囲に、風の壁が展開された。

針は、風の壁に遮られ、軌道を変え、地面に突き刺さった。


「そんな攻撃が効くわけがなかろう」

トルティヤは、少女の攻撃を、鼻で笑った。

そして、アリアは、弓を引き絞り、少女に狙いを定めていた。

矢の先には爆弾が付いていた。


「お返しだよっ!」

バリアが解除されると同時に、アリアは爆弾付きの矢を少女目掛けて放つ。


爆弾付きの矢が少女に迫る。


「へぇ…」

少女は、余裕の笑みを浮かべ、矢を見つめた。

そして、矢が少女に当たった、次の瞬間。


「チュドーン!!!」

激しい爆風と轟音が響き渡る。

爆発の衝撃で、周囲の砂埃が舞い上がる。


「うわっ!」

アリアは、爆風から身を守るため、腕で顔を覆った。


一方でトルティヤは、微動だにせず、爆風に耐えた。


「やったかな?」

アリアは、砂埃が晴れるのを待ち、ゆっくりと目を開けた。


砂煙が晴れていく。

砂埃が晴れ、視界がクリアになっていった。

だが、そこには少女が義手から巨大な青白いバリアを展開している姿が見えた。


「惜しい惜しい!」

少女はバリアを義手に収納すると、アリアの攻撃を、嘲笑した。


「その程度じゃ私は倒れてはくれないよ?」

少女は、右腕を高く上げ、魔法を唱える。


「水銀魔法-銀色の弓使い(シルバーアーチャー)-」

次の瞬間、少女の右腕から、水銀でできた矢が放たれた。


水銀の矢は、光を反射し、銀色の軌跡を描いた。

それは、本物の矢以上に鋭く、危険なものであることは一目瞭然であった。


矢は、アリアとトルティヤに向かって、一直線に飛んでいく。


「うわっ!危ないよ!」

アリアは、必死に体を捻り、矢をかわす。


「小賢しいのぉ」

トルティヤは、体を翻し、矢をかわした。


水銀の矢は次々と地面に突き刺さっていく。

矢は、地面を抉り、深い傷跡を残した。


「あっ!」

その時、アリアが落ちていた石に躓く。

そして、バランスを崩し、体勢を崩した。


すると、まるで狙いを定めていたかのように、水銀の矢がアリアをめがけて飛ぶ。


「ザシュ!」

水銀の矢は、アリアの右足に突き刺さり、鮮血を撒き散らした。


「あぁぁっ!」

アリアは、激痛に顔を歪め、悲鳴を上げた。

そのまま、地面に倒れ込み、足を抱えて苦しんだ。


「小娘!」

トルティヤは、アリアの悲鳴を聞き、驚愕した。


「アリア!!」

サシャは、アリアの負傷に、動揺を隠せなかった。


「このまま…串刺し!!」

水銀の矢が水のように流れ、一点に集約すると巨大な矢ができた。

そして、少女は狙いを倒れているアリアに向けて巨大な矢を放つ。


「…あっ」

アリアは、目の前に迫る巨大な矢に、恐怖を感じた。

死を覚悟し、目を閉じた。


「糸魔法-信奉者の聖域-!」

トルティヤが魔法を唱える。

すると、アリアの周りを無数の厚い糸が覆い、繭の形となる。

その繭は、巨大な矢を受け止め、弾き飛ばした。


「小娘…少しそこで休んでおれ」

トルティヤが繭の方を見つめ呟く。


「へぇ!君すごいねぇ!いくつ魔法を使える…の!?」

少女は、トルティヤの魔法に感心しつつ、次の攻撃を仕掛ける。


「水銀魔法-星空を翔ける龍(スカイハイドラゴン)-!」

少女は、左腕から水銀を放出し、龍の形を作り出した。


龍は口を大きく開け、咆哮をあげながら、トルティヤへと迫った。


「くだらぬな…」

トルティヤは、少女の攻撃を、軽蔑すると魔法を唱える。


「無限魔法-氷雷虎(ひょうらいこ)-!!」

すると、トルティヤの右手に、氷の結晶が集まり、虎の形となった。


「ガルルル…」

虎が唸り声を上げる。その体は青白い冷気を放ち、雷の閃光を纏っていた。


そして、虎は、水銀の龍に向かって突進し、激しくぶつかり合った。


「アハハハ!面白いね!!」

少女は、高笑いを上げ、戦況を見守った。


「グルルル…」

龍と虎が組み合う。

龍と虎は、互いに牙を剥き出し、激しく争った。

お互い力の差は互角だった。


龍は、水銀の体を揺らし、虎を押し返そうとした。

それに対して、虎は、氷の爪を立て、龍に噛み付こうとした。


「面白い?くだらぬ座興よ」

トルティヤは、少女の態度に、苛立ちを隠さなかった。

すると、トルティヤの魔力が更に増し、虎が更に冷気と電撃を帯びる。


「グルルル…」

虎の体から、冷気と電撃が溢れ出し、周囲の空気を震わせた。


「すごぉい!魔力が更に増えた!なら、私も…応えなきゃだ!」

少女は、龍に力を与え、虎に対抗しようとした。


「ゴルルル…」

龍の腕は、水銀が凝縮し、巨大な塊となった。


「ほぉ。お主中々やるではないか。じゃが…戦った相手が悪かったのぉ」

トルティヤの魔力が更に増す。


虎の爪は、龍の腕に深く突き刺さり、水銀を抉り取った。

そして、龍の腕が徐々に固くなっていく。

龍の腕は、冷気によって凍りつき、動きを封じられた。


「え?ちょっとマジで?」

少女は、龍の異変に気づき、焦り始めた。


龍の体が冷気で少しずつ固まっていく。

そして、尻尾の先まで固まった。


「ズシン」

水銀の龍は冷やされて固体となり、 その重さで地面に音を立てて落ちた。


「ガルルル!」

そのまま冷気と電撃を帯びた虎は少女に向かって突撃する。

虎は、少女に向かって飛びかかり、牙を剥き出した。


「うわぁ!やっば!」

そう呟くと少女は、虎の攻撃を防ぐため、義手からバリアを展開しようとした。


「ガキンッ!」

だが、義手の隙間に一本の矢が刺さる。

それによってバリアが作動しなかった。


「あれれ?」

少女が矢が飛んできた方向に視線を向けると、繭の隙間から顔色が悪くなったアリアが弓を構えていた。


「…おかえし…だよ」

アリアはそう言うと力なく倒れる。


「(でかしたぞ小娘…だが…)」

トルティヤはアリアの行動を賞賛しつつも、苦い表情をする。


「ガルルァ!」

そのまま冷気を帯びた虎は少女に噛み付く。

虎は、少女に噛み付き、冷気を送り込んだ。


「いった…ぁ」

そのまま少女は足元から頭の先まで一気に凍りつく。

少女の体は、みるみるうちに氷に覆われ、動かなくなった。


「ふんっ…余裕じゃな…」

トルティヤは、氷の彫像となった少女を見下ろし、勝利を確信した。


そして、リュウの方を振り向く。

トルティヤは、次の標的である大太刀の男へと視線を移した。


「カン!カン!カン!」

リュウと大太刀の男は激しい剣戟を繰り広げていた。

二人の刀は、火花を散らし、激しくぶつかり合っていた。


だが、リュウの体は血にまみれ、明らかに立っているのがやっとという状況だった。


「どうした?荒覇吐流(あらはばぎりゅう)はそんなものなのか?大したことないな!」

男は腹を薄く斬られてはいるが、余裕そうな口調でリュウを挑発する。


「もうその手には…乗らない!」

リュウは、男の挑発を無視し、集中力を高めた。

そして、刀身に鬼のオーラを纏う。


「受けるが良い!荒覇吐流奥義・剛鬼あらはばぎりゅうおうぎ・ごうき!」

リュウは、渾身の力を込め、刀を振り下ろした。

その一撃は、雷のような轟音を立て、男へと迫った。


「ぐっ…ぬぉぉぉ!!」

男は大太刀で防御する。

二人の刀がぶつかり合い、激しい火花が散った。


「無駄だ!」

リュウは咄嗟に男の脛を蹴り上げる。


「ぐっ…!」

男は、微かな痛みに、一瞬体勢を崩し、刀にかけた力を弱める。


「はぁぁっ!!」

リュウは、その隙を見逃さず、刀に全身の力を込めた。


「ガキィィン!」

リュウの刀は、男の防御を打ち破り、胸を切り裂いた。


「ぐぉぉぉ!」

大太刀の男が胸部から血を吹き出しながら後ろに下がった。


「はぁ…はぁ…ぐっ」

だが、リュウも満身創痍だったためか、地面に膝をつき、肩で息をした。


「くっ…やりおるわ」

男は、傷口を抑え、苦痛に顔を歪めた。


「あとはお主だけじゃな。無限魔法…」

その様子を見ていたトルティヤは、男を仕留めるため、魔法を発動しようとした。その時だった。


「ボオッ!」

巨大な炎の剣をトルティヤが襲う。

炎の剣は、トルティヤに向かって、一直線に飛んできた。


「むっ…!」

トルティヤは、咄嗟に体を捻り、炎の剣をかわした。


炎の剣は、地面に突き刺さり、周囲の砂を焼き焦がした。


「だらしない。これでも野狐部隊のメンバーか?」

すると、古びた建物の奥から声が響く。


「誰じゃ?」

トルティヤが声がした方向に目を向けると奥の通路から人影が現れる。


声の主は、銀色の戦闘服と白のマントを羽織っていた。

そして、男はゆっくりと近づき、トルティヤたちを見下ろした。

その背後には三人の男女がいた。


「こんな子蟻如きに何をもたもたしている。時間は有限なんだぞ?」

白いマントの男は大太刀の男に冷たい視線を向ける。


「ぐっ…面目ない。隊長殿…」

大太刀の男が男に向けて申し訳なさそうに謝罪する。


「全くだ…お前はまだしも…そこの二人は…なんと情けない」

男は、倒れている魔導師と凍っている少女に、呆れた視線を送った。


「…クルペオを助けてやれ」


「承知しました」

男がそう呟くと、水色の髪をした少女が、倒れている魔導師の元へ瞬間移動する。


「やらせぬ!雷魔法-聖者の鉄槌(せいじゃのてっつい)-!」

トルティヤは、部下の行動を阻止しようと、雷の拳を放った。


「水晶魔法-瑠璃色胡桃(るりいろくるみ)-」

すると、瞬間移動で移動してきた少女は、魔法を発動し、防御態勢を整える。


魔導師と男を瑠璃色の水晶が覆う。

瑠璃色の水晶は、二人の体を覆い、光り輝いた。


「キィィィン!」

瑠璃色の水晶は、雷の拳を受け止め、弾き飛ばした。


「ちっ…」

トルティヤは、魔法が通用しなかったことに、苛立ちを隠せなかった。


次の瞬間、炎の剣が複数飛んでくる。


「水魔法-断罪の礫(だんざいのつぶて)-!」

トルティヤは、水魔法を発動し、炎の剣を打ち消した。


炎と水がぶつかり合い、辺りに白い水蒸気が立ち上った。

そのうち一本の剣が先程凍結させた少女に当たる。


炎の剣は、凍った少女に当たる。

そして、氷が徐々に溶けて少女が意識を取り戻した。


「ふぅ…リーダー。助かったよ!」

少女は、助けられたことに安堵の息を漏らした。


「礼はいい。それよりも例のモノは手に入れた。ここにもう用はない」

すると、白いマントの男は、棒を取り出し、トルティヤたちに見せる。

その棒の先端には、小さな矛が取り付けられていた。


「お主!それは!!?」

トルティヤは、それを見て、驚愕した。


「恐らく、お前たちもこれが目当てでここに来たんだろう。そう。勝利者の矛(ウィナーズスピア)だ」

白いマントの男は、矛を掲げ、冷たい笑みを浮かべた。


「あの短いのが!?」

サシャは、矛の小ささに、驚きを隠せなかった。


「だが、これは不完全…柄の部分が揃って勝利者の矛(ウィナーズスピア)は完成する」

白いマントの男は、衝撃の事実を告げる。


「…なんじゃと?(となると、(アフォガード)が言った情報。正確には「二ヶ所の場所に分けられていた」ということになるのか)」

トルティヤは、アフォガードの情報を思い出し、納得した。


「ま、これ以上、与太話を続けるつもりはない…お前たちは先に行け。俺はこいつらを片付けてから行く」

リーダーらしき男が残りの部下に撤退を命じる。


「おいおい。俺の出番はなしかよ…」

金砕棒を持った男はけだるそうに呟く。


「分かったっす」

目隠しをした少女が、魔法を発動し、撤退の準備を始めた。


「雪魔法-時を刻む白馬車-」

すると、雪と雪製の歯車でできた馬車が現れる。

馬車は、白い煙を噴き出し、威圧感のある姿を見せる。


そして、白いマントの男の部下たちは、手際よく馬車に乗り込み、出発の準備を整えた。


「…お前とはいずれケリをつける。覚えておくがよい」

大太刀の男はリュウにそう言い残すと馬車に乗りこむ。


そして、水晶に覆われた赤いローブの魔導師も馬車に運ばれていく。


「べー!だ!」

少女はトルティヤに舌を突き出すと、馬車に乗っていく。

やがて、馬車は、轟音を立て、砂埃を巻き上げ、入口の方へと消えていった。


「ま…!ぐっ…傷が」

リュウは馬車を追いかけようとするが、痛みで再び地面に膝をついた。


「ハァ…ハァ…」

そして、アリアは、繭の中で意識を失いかけ、苦しい呼吸を繰り返していた。


「(小僧は重症。そして、小娘の症状は水銀魔法を受けた際の毒じゃな…長期戦はマズイのぉ)」

トルティヤは、アリアの容態を把握し、焦りを覚えた。


「さて…()るか」

リーダーは、トルティヤに視線を向け、戦闘の準備を始めた。


「(ちくしょう…血が止まらない…もはやアレを使うしかないか)」

リュウは、力を振り絞り、立ち上がった。

だが、リュウの腹部からは、大量の血が流れ出し、地面を赤く染めていた。


「…ワシ相手に勝負を挑むとは。良い度胸じゃのぉ」

トルティヤはリーダーの男を睨みつける。


「安心しろ。全員仲良くあの世へ送ってやる」

リーダーは、冷酷な笑みを浮かべ、魔法を唱える。

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